65 岸田劉生(きしだ りゅうせい) 1891-1929 《麗子肖像(麗子五歳之像)》 1918年/油彩・キャンバス/45.3×38cm 東京国立近代美術館 Ryusei KISHIDA 1891-1929 Reiko, Five Years Old 1918/oil on canvas/45.3×38cm The National Museum of Modern Art, Tokyo 岸田劉生は娘麗子の像をくり返し描いている。そしてそのたびに新たな美を発見していった。これは油絵による最初の麗子像であり、画家自身この作品によって、形に即した美から、対象の全体から来る無形の、内なる美へと開眼したことを語っている。それによれば、デューラーの色刷(いろずり)複製に触発されて始めたものの、デューラーの作品に感じた深さが得られず一旦は放棄、意を立て直して、足かけ3カ月、正味20日間ほどを要した作品である。その制作ぶりについて、「心を静かに出来るだけ深いものにふれる様に、注意を深め、心を静める様にしました。……どうしても主観だけの事より出来ません。しかしその主観はかくする(隠す)事によって少しずつではあるが深くして行く事が出来るという事は知りました」とふり返る劉生の写実の特徴は、自分を無にして対象を引き寄せることにあった。その受容態度の徹底ぶりについて劉生は、感化と言うよりは「模倣」だと言う。それは自分を表現するためにデューラーのある部分をとりいれるのではなく、それになりきって描くことで、自分の知らない世界の新たな現れに、かれ自身が驚きたいのである。その驚きにこそ美を見出し、そこに劉生の近代的な表現への訣別(けつべつ)があった。 (M.I.)