平成27年度 インターンシップ生のことば

A 学芸・コレクション Kさん

東京国立近代美術館のインターンシップを通して学んだことは大きく2点あります。

1点目は美術館における学芸業務が、対「美術作品」であることはもちろん、対「人」の業務である、ということです。様々な業務を経験しましたが、展示作業の補助・取材見学・寄贈作品の調査補助といった業務を通じて、多くの職種の方々が、美術館を支えてくださっていました。「美術館(作品)―研究員(学芸員)―観賞者」という単純な関係ではない多様で複雑な人と人、人と美術作品の関係が存在することを学びました。こうした様々な人や作品と関わることができるのも学芸業務の醍醐味の一つでもあるのだと思います。

2点目は、改めて美術作品の持つ魅力を知ることができたということです。展示案を図面にまとめる作業や、出品作品のチェックあるいは寄贈予定作品の調査補助などを通じて、作品・画家について調べたり、作品を見たり、運送業者の方や研究員の方のご指導のもと実際に展示作業に関わる機会を得ました。ガラスケースなどの隔たりなしに、間近で作品と対することになり、画集などの図版では知ることのできない作品の持つ力というものを実感できました。さらに自身の研究に関わる画家の作品の調査補助ができたのは、本当に幸運でした。自分の手で作品に触れ調査したことは今後の研究においても大きな糧になると思います。

東京国立近代美術館での経験を、大いに活かしつつ今後とも勉強を重ねて参ります。1年間ありがとうございました。

A 学芸・コレクション Sさん

インターンでは、主に館の常設展示に関わる仕事に携わりました。展示替えの際に職員の方々が参照する会場図面、実際の展示風景を記録した図面の両方を作成し、さらには展示替え作業に立ち会わせてもらうことで、館の要と言ってよい、コレクション展示がどのように形作られていくのかを学びました。また、作品のコンディションチェックや額装作業、作品カードの整理や新収蔵品の撮影作業を手伝う中で、作品の収集や展示、保管といった美術館の重要な仕事の一部を間近で見ることができたことは、大変貴重な経験となりました。そもそも私がインターンを志望した最大の理由は、学芸員の日常を自分の目で直接確かめたかったことにありましたが、一年間の活動を通じて 、憧れであった学芸員のイメージがより強固になったと思います。プリントスタディの補助もさせていただき、今まで殆ど知識のなかった「写真」に興味を持つきっかけとなりました。写真専門の学芸員の方々の影響で、写真の展覧会を観に行ったり、気になる作家の写真集を手に取ったりするようになりました。 非常に多くのことを学ばせていただき、普段の鑑賞態度も一変しました。学芸員の方々が、美術館はどうあるべきかという話を常々してくださり、美術館の存在意義や展覧会の将来像を考える機会を与えられことが何よりも印象深く、今後一層リアルな課題として取り組んでいきたいと思います。

B 学芸・企画展 Sさん

私は当初より学芸員の職に就きたいと考えており、その具体的な内容を知るために平成27年度のインターンを志願いたしました。その中でも企画課を選んだのは、学芸員の仕事の「花形」である展覧会の企画・実現について、より詳しく学びたいと思ったからです。

学芸員に求められること、重要な能力とは何なのだろうと考えながら、インターンとして活動して気付いたのは次のようなことです。まず、学芸員は必要な業務を早く、正確にこなしていかなければならないということ。学芸員は一つの展覧会開催にあたって、資料整理・会場構成・カタログの執筆および校正・関係各所との打合せ・展示・イベント立ち会いなどを遂行しながら、それ以外の様々な仕事を同時並行しなければなりません。一年間を通じてこの各ステップの仕事を垣間みることができたのは、非常に良い経験となりました。次に、以上のような膨大な量の仕事をしつつも、自身の関心や興味を深める努力をしていかなければならないということです。インターン活動中に個性豊かな東京国立近代美術館の学芸員の方々とお話しさせて頂くなかで、皆様がお忙しい合間を縫って研究をされ、また展覧会等を見に行かれていることがわかりました。美術界でのトレンドを追うだけではなく、じっくりと自身の関心を見極めてかたちにしていくことの重要性に改めて気付かされました。いつも優しく丁寧にご教示頂いた美術館の皆様に、心より御礼申し上げます。

B 学芸・企画展 Mさん

私は学芸員になりたいと考えて修士課程に進んだものの、その内実については殆ど何も知っておらず、ただインターンの機会を得られたのが嬉しく、当初は通用門をくぐる度に緊張していたのを思い出します。特に深く心に残っている事柄は2つあり、1つは学芸員1人がカバーする仕事の広さとその速さです。会場設計、展示の指示、講演会の裏方からカタログの送付まで、自ら手を動かしながら千変万化の指示を出し、瞬く間に展覧会が始まり終わっていく。美術館に流れる静止したようなシンとした時間、あるいは美術研究科に漂う悠長な雰囲気がどこか世間からの隔絶を感じさせるのに対して、社会と美術が濃密に結びついている場を直に感じました。もう1つは安田靫彦展の準備に際して20冊程の美術年鑑を6時間繰り続けて展覧会の歴史を調べたことです。基礎研究の末端に触れただけなのでしょうが、全身を眼にして事実を探し続ける作業は思った以上に難しく根気が必要で、本気で1人の作家を研究する際に必要な態度を少しは身体で知ることが出来た最高に貴重な勉強でした。最後に、忙しい合間に色々なことを教えてくださった学芸員、広報の方々には心から感謝を申し上げたいと思います。

C 美術館教育 Hさん

私は、この一年のインターンを通して、美術館という施設の中で自分以外の「他者」の存在について考えるようになりました。時には美術を楽しむ受け手として、時には自身が美術を伝える話し手として参加し、美術を「鑑賞」した時に誰しもが持つ「感じたこと」「思ったこと」を「他者」に伝えることが、鑑賞体験としてとても大切であることを感じました。

「他者」との対話をその場で発生させることによって、一人では考えられなかった見方、感じ方を共有する瞬間を間近で体験することで、「静かで一人で見るもの」と捉えられがちな美術館で作品を見るという行為が、「他者と話をしながら、楽しく見るもの」という認識に変わっていきました。
「他者との関わり」という点において、インターン活動の中で印象に残っていることは、7月に行った、「夏休みトークラリー」のプログラムです。そこで私は実際に話し手(トーカー)となり、小学生~中学生に対話式のギャラリートークを行いました。事前にトークのプランをしっかり立てて臨んだものの、子どもによって感じたこと、思ったことが違うため、どんどん対話が発展し、最初に作ったプランから離れていくことも何度もありました。しかしそれが「対話」であり、私自身も受け手という「他者」の存在をとても感じる瞬間でもありました。

私にとって、インターン活動の一年は、「他者」と共に楽しむ、新しい「美術鑑賞」の形を、肌で感じた一年間でした。

C 美術館教育 Mさん

美術館への来館に、作品との出会いに加え何か新たな価値を与えたい。そうした思いから主に対話型鑑賞に関心を持ち、この一年間活動してきました。所蔵品ガイドの見学に加え、夏にはこども向けプログラムの企画から実施まで一連のプロセスに関わらせて頂き、活動の最後にはパンフレット型鑑賞ツールの制作、配布を行いました。

私が美術館の教育普及活動に関わらせて頂く中で特に感じたのが、世代や関心など来館者のもつ様々な背景により有意義な美術館での学びの形、またアプローチの仕方は変化するということです。【知的好奇心を満たすために参加される大人の方が多い所蔵品ガイドでは、対話を皮切りにトーカーが参加者の興味関心に合わせて作品情報を提供する形が、高い満足度につながっていると感じました。一方、鑑賞と施設見学を組み合わせた今年の夏のこども美術館では、美術館そのものに慣れ親しんでもらうことがねらいの一つでした。おやこでトークは、未就学児と保護者の美術を介したコミュニケーションが好評を博していました。自主制作のパンフレットは大人向けと対象を定めたものの、配布してみることでターゲットがより明確になりました。】

美術館教育においては、どの来館者にとっても最善となるただ一つの手法というものはありません。東近美はコレクションに恵まれた素晴らしい環境ですが、対象に合わせた館側の働きかけによりその来館体験の価値はさらに高めることができると、様々なプログラムを通じて感じました。また、それらプログラム一つ一つの裏には膨大な準備のプロセスと多くの方の尽力があるということも知りました。

一年間のインターン活動を通し、美術館における教育普及活動の役割の大きさ、可能性を改めて実感しました。美術が社会の中で果たす役割について、今後も考え続けていきたいと思います。

D 図書資料 Nさん

私がインターンシップに応募した理由は、アートライブラリでの業務を実際に体験し、その役割を学びたいと考えたからです。結果としてインターンシップに参加した1年間をふりかえると、アートライブラリの多様な業務を体験する機会を頂き、このような体験を通じてアートライブラリの使命や役割について学ぶことができました。

アートライブラリでは、東京国立近代美術館が所蔵している作品の作家に関する資料をはじめとして、広く美術に関連した資料を取り扱っています。このような資料を収集し、整理や保存をし、求めに応じてアートライブラリの利用者へ提供することが、アートライブラリの主な仕事です。アートライブラリが受け入れた資料は大きく、図書・カタログ・雑誌に区分することができ、それぞれの資料は、資料特性にあわせた整理や保存が行われます。インターンシップでは、図書やカタログを中心として多くの資料に実際に触れ、そして整理や保存のための作業を体験することができました。

1年間のインターンシップを通して多くのことを学びましたが、長い時間をかけて収集・蓄積してきた多大な情報や資料を、必要としている人々に効率的かつ適切に提供するためにはどうすればいいのかを、常に考えながら働いているアートライブラリ職員のみなさんの姿が非常に印象に残っています。貴重な体験をありがとうございました。

E 工芸館・学芸全般 Oさん

一年間の研修を終え、予想以上に多くのことを学ぶことができたと感じています。展覧会の準備では、展示作業を通して多くの作品に触れる機会を得ました。作品の具体的な取り扱い方法についてはもちろんのこと、学芸員の方の作品への接し方、姿勢から、その心構えを学ぶことができたように思います。また、図録制作にも作品の写真撮影および校正の補佐として関わらせていただきました。一つ一つの作品について、位置や色合いを確認しながら撮影を進め、校正では、細かい数字やフォントなど何度もチェックを繰り返しました。いずれもとても根気のいる作業でしたが、完成した時には大きな達成感を得ることができました。さらには、様々な教育普及活動にも参加しました。特に印象に残っているのは、東京都図画工作研究会の先生方と一緒に実施した小学6年生、3年生対象の対話型鑑賞の授業です。6年生の子供たちがどうやったら相手に興味を持ってもらえるか真剣に考えて、オリジナルのガイドを作り上げていく姿に驚かされると同時に、作品に触れた時のきらきらとした表情から、身体性を伴う実体験の重要性を感じました。美術館で働く方々にとどまらず、先生やカメラマンの方など様々なプロの仕事を間近で拝見し、仕事に対する姿勢を学べたことは、今後社会人となって仕事をしていく上で貴重な経験となって生きてくることと思います。

E 工芸館・学芸全般 Sさん

美術館学芸員を目指すにあたり、工芸館でのインターンシップは美術館のあり方や来館者との関係性について考えを深めるとても良い経験となりました。それまでの美術館や博物館での経験を元に教育普及について自分なりに考えていたことがあったものの、工芸館での活動はそこから更に2歩、3歩も先のことでした。

教育普及活動の一環である「タッチ&トーク」は作品の紹介と解説はもちろん、実際に作品に触れることも出来るプログラムで、そのようなことができるプログラムを実施している美術館は日本にはまだまだ少ないものです。更にそれを行っているのがボランティアの方々だということに加え、非常に完成度の高い内容にとても驚いたことを覚えています。作品と人をつなぐ場所としての美術館を、活動を通して再認識することができました。
大学では制作を学びましたが、展示方法や展示中の鑑賞者との関わり方について明確な目的や意味を持たせることができず、それが完成度の低さにもつながっているのが悩みのひとつでしたが、インターン活動をきっかけに一つの答えを出すことも出来ました。美術館は作品を展示すことで様々な可能性をひとから引き出すことが出来る。それをより多くのひとに体験してもらえるように、就職先の美術館でも考え続けていきたいと思います。

F フィルムセンター・学芸全般 Mさん

日本の映画遺産の収集や保存と公開利用に関する実践的な知識を実際の現場で学びたいと国際的な映画保存期間に加盟している東京国立近代美術館フィルムセンターでのインターンを希望し、アーカイブの活動全般を実習をさせていただきました。

フィルム管理を担う、映画室でフィルムセンターのデータベースNFCDに入力する作業では、フィルムセンターの所蔵品の必要な情報を管理し、保存や修復、上映や展示において有益な情報を管理し、参照可能にするための重要な作業を経験させていただきました。また、情報資料室でのスチル写真やプレス資料などのノンフィルムにおいての分類・整理、NFCDへの資料の状態の入力作業を通して、映画のフィルム同様に人の目や手での管区人することが重要であるということを実感いたしました。

そして事業推進室では見せるという作業に関わらせていただき、なかでも今回フィルムセンターで行われた8㎜映画普及50周年記念としての上映会と講演会のイベントでは、展示の準備やイベントの補佐として参加させていただきました。家庭や地域で撮られた小型映画までも個人にとっての歴史的貴重な価値となることの意識をもたせる機会を得る・与える、ということのとても大切な経験となりました。本当にほかにも相模原分館の見学など色々な経験をさせていただきました。ここで学んだいろいろなことを今後是非とも活かしていきたいです。

Page Top