・ 東京国立近代美術館では、絵画・彫刻・水彩画・素描・版画・写真など、およそ9,000点の美術作品を所蔵しています。これらのコレクションの中から約250点の作品を選び、明治中期から現代に至る日本の近代美術の流れが概観できるよう、4階から2階の所蔵品ギャラリーで展示しています。
・ 所蔵品展というと、いつも同じ作品が並んでいると思われる方も多いかもしれません。名作といわれる作品は、できるだけいつでもご覧いただけるようにしておきたいのも事実です。けれども一方で、ご覧いただくたびに新しい発見をしていただきたい。そこで当館では、多数の所蔵品をフルに活用して定期的に展示替えを行い、さまざまな切り口から日本の近代美術を、ときに外国の作品も交えながらご覧いただけるように工夫しています。現在の所蔵品ギャラリーの見どころを次にご紹介します。
・ 文展開設前後
「文展」とは文部省美術展覧会の略称で、現在の日展の前身にあたります。1907(明治40)年に開設されたこの展覧会制度は、その後の美術界に大きな影響を与えました。この文展の際に文部省に買い上げられた作品が、当館コレクションのひとつの基礎となっています。洋画では、和田三造<南風>(第1回文展、二等賞)、南薫造<六月の日>(第6回文展、二等賞)などを展示します。また、同時代の日本画として菱田春草<雀に鴉>(1910年)などを展示します。
さらに、護国寺より寄託されている原田直次郎<騎龍観音>(1890年)もあわせて展示しています。明治中期の洋画の記念碑的な大作です。
・ 大正のヒューマニズム
大正時代は芸術家の自由な自己表現が主張されはじめ、岸田劉生、萬鉄五郎、中村彝、高村光太郎、荻原守衛らが個性的な作品をのこしました。中でも岸田劉生の徹底した細密描写による<麗子肖像(麗子五歳之像)>(1918年)はこのセクションの核となる作品です。他に中村彝による、盲目のロシア詩人を描いた<エロシェンコ氏の像>(1920年、重要文化財)、日本画では徳岡神泉の迫真的な<狂女>(1919年頃)、水墨画によって湿潤な空気を表現した横山大観<暮色>(1922年)などをご覧いただけます。
・ 都市のなかの芸術家
関東大震災以後の復興の中で近代都市へと変貌した東京。同時に、抽象美術やシュルレアリスムなど、西洋のさまざまな前衛美術が紹介されました。村山知義<コンストルクチオン>(1925年)、古賀春江の<海>(1929年)は、新しい都市生活を新しいスタイルで表現した典型的な作品です。他に福沢一郎や三岸好太郎らのシュルレアリスム的な作品、さらにドローネーやカンディンスキーなど、日本の画家たちに影響を与えた海外の画家の作品もあわせてご覧いただけます。
また、この時期には多くの画家たちがパリで絵を学びました。藤田嗣治、佐伯祐三らの作品を、ウジェーヌ・アジェによるパリを写した写真とともに紹介します。
・ 特集コーナー アメリカン・シーンの日本人画家
・ 日本画・洋画の成熟
昭和の戦前期には、西洋から前衛美術の影響を受ける一方で、日本の伝統や古典に学び、日本独自の絵画を確立しようとする動きもみられました。洋画では安井曽太郎<金蓉>(1934年)、梅原龍三郎<桜島(青)>(1935年)などに、写実と装飾性をあわせたスタイルを見ることができます。日本画では、安田靫彦が豊臣秀吉を描いた歴史肖像画<伏見の茶亭>(1956年)や、上村松園の季節感あふれる美人画<雪>(1942年)などが展示されます。
・ 版画コーナー:「生」を刻む−木版画の世界
・ 写真コーナー:光の造形1 フォトグラムとソラリゼーション
1937年の日中戦争以降、45年に敗戦を迎えるまでの間、個性に立脚するはずの「近代」芸術家をとりまく時代状況は厳しいものとなりました。一方で多くの画家たちが戦争記録画の制作に動員されました。それらの戦争記録画の多くは戦後アメリカに接収されましたが、1970年に当館に「無期限貸与」のかたちで返還されました。今回は吉岡堅二<マレーの敵軍航空基地爆撃>(1941年)、小磯良平<娘子関を征く>(1941年)、宮本三郎<本間・ウエンライト会見図>(1944年)、中村研一<北九州上空野辺軍曹機の体当りB29二機を撃墜す>(1945年)の4点を展示します。
また、暗い時代を見据えるかのような靉光の<眼のある風景>(1938年)や<自画像>(1944年)、戦後まもない時期の状況を鋭くとらえた岡本太郎<夜明け>(1948)、麻生三郎<赤い空>(1956年)などもこのセクションでご紹介します。
1952年の講和条約以降、急速に復興し高度成長を遂げた日本。それとともに美術においても、西洋のモダニズムの造形思考に学びながら、さまざまなかたちで新しい表現が模索されました。
日本画では重厚な色面表現のなかに心象風景を浮かび上がらせる東山魁夷<たにま>(1953年)、横山操の迫力あふれる<塔>(1957年)などを、また洋画では、宇宙的なひろがりを感じさせる抽象画として瑛九<れいめい>(1957年)、前田常作<人々のいる風景>(1960年)などを展示します。
さらに今回は、一部2階展示場までこのセクションを拡張し、吉原治良ら戦前から活躍する作家の戦後の抽象の展開や、荒川修作、高松次郎のコンセプチュアルな作品などを展示します。
社会変革や意識変革への意志が高まった1960年代末頃から、美術においても、絵とは何か、彫刻とは何かということが根本から問い直されるようになりました。そこでは美術を成り立たせているひとつひとつの要素が再検討されています。物質と物資との関係に着目しながら、人が世界を認識する方法を追求する榎倉康二、河口龍夫などの作品を展示します。
この独立したスペースは、リニューアル工事によって、小規模の企画展や所蔵品によるテーマ展示を行うために設けられました。今後の展開にご期待ください。
1階企画展示室で開催される「ヴォルフガング・ライプ展」に関連して、所蔵品の中から、植物を題材として扱いながら、単にその美しさを再現するのではなく、植物という存在を通してさまざまに造形思考を深化させたものを紹介します。鈴木省三、丸山直文、戸谷成雄、若林奮、斎藤さだむ、太田三郎といった現代の作品に加えて、カール・ブロスフェルトの写真、パウル・クレー、北脇昇の絵画もあわせて展示します。
当館では、日本の近代美術の流れをより充実してお見せするために、毎年、購入や所蔵家の方からの寄贈を通してコレクションの拡充に努めています。平成12年度・13年度に新たに収蔵された作品の中から、今回展示されるものは次の通りです。