開催中の展覧会

  • 2020.2.11 -6.14 10.25
  • 企画展

北脇昇 一粒の種に宇宙を視る

コレクションによる小企画

Kitawaki Noboru: To See the Universe in a Seed

Primarily from the Museum Collection

北脇昇《周易解理図(乾坤)》1941年


 北脇昇(1901–1951)は1930年代から40年代にかけて京都で活躍した前衛画家です。これまで彼の作品は、シュルレアリスム(超現実主義)の影響の側面から語られることがほとんどでした。例えば《空港》(1937年)において、カエデの種子が同時に飛行機にも見えるような、形の連想によって幻想的なイメージを生み出そうとする手法がそれにあたります。けれども本展では、北脇がそうしたシュルレアリスムの思想や技法を借りながら、本当にやりたかったことは何だったのか、ということに目を向けたいと思います。それは、私たちをとりまくこの世界の背後にある見えない法則を解き明かし、世界観のモデルを示すことでした。 北脇はそうした信念のもと、シュルレアリスムだけでなく、数学をはじめ、ゲーテの自然科学や古代中国の易などを駆使して、独自の図式的な絵画を生み出しました。
 一粒の種子が発芽し、成長をとげ、開花し実を結び、そして新たな種子を生み出すことに、天地の法則すべてが凝縮されていることを見出そうとした彼の、他に類をみない制作の歩みを紹介します。

  ■出品作品リストはこちら

講演会「北脇昇の絵を読み解く」

5月16日(土)15:00-16:30 臨時休館につき中止
講師 大谷省吾(美術課長・本展企画者)
場所 地下1階講堂
入場無料・申込不要(先着140名)

キュレータートーク

5月8日(金)18:00-19:00  臨時休館につき中止
担当研究員 大谷省吾(美術課長・本展企画者)
場所 ギャラリー4
申込不要・参加無料(要観覧料)


会場:
東京国立近代美術館2階 ギャラリー4
会期:
2020年2月11日(火・祝)~6月14日(日)10月25日(日)
開館時間:
10:00-17:00 ※入館は閉館30分前まで
※当面の間、金曜・土曜の夜間開館は行いません
休室日:
月曜日[ただし2月24日、8月10日、9月21日は開館]、2月25日(火)、8月11日(火)、9月23日(水)
※臨時休館期間:2月29日~6月3日
チケット:
【日時指定制の導入について】
新型コロナウイルス感染症予防対策のため、 ご来館日時を予約する日時指定制を導入いたしました。

こちらから来館日時をご予約ください。
※受付開始【6月3日(水)10:00】より
(「MOMATコレクション」のご予約で「北脇昇」がご覧いただけます)
※上記よりチケットも同時にご購入いただけます。
※観覧無料対象の方(65歳以上、高校生以下、障がい者手帳をお持ちの方とその付添者1名、招待券をお持ちの方等)についても、上記より日時のご予約をお願いいたします。
※お電話でのご予約はお受けしておりません。
観覧料:
一般 500円 (400円)
大学生 250円 (200円)
※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
※高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料。
※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。
キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。
「友の会MOMATサポーターズ」「賛助会MOMATメンバーズ」会員の方は、会員証のご提示でご観覧いただけます。

「MOMAT支援サークル」のパートナー企業の皆様は、社員証のご提示でご観覧いただけます。(同伴者1名迄。シルバー会員は本人のみ)

※【大学生・高校生無料期間】 8⽉1⽇(土)〜8⽉30⽇(⽇)は、⼤学⽣・高校生の本展覧会観覧料が無料となります。 *⼊場時に、学⽣証の提⽰が必要となります。
主催:
東京国立近代美術館


 

作品解説アプリ カタログポケット

※都合により6月15日~22日の期間はカタログポケットはお休みです。

北脇昇《綜合と分析》1940年
東京国立近代美術館蔵

宇宙を視るためのレンズ──北脇昇のオブジェに寄せて

副田一穂(愛知県美術館学芸員)

 

 二科会創設者の一人・津田青楓の画塾[1]を経て独立美術協会を主たる発表の場とした北脇昇は、1937年、突如それまでのフォーヴィスム調を捨て、庭木や拾った植物の実などを拡大して茫漠とした背景に描いた作品を発表する。この時から1951年に病没するまでの北脇の画業を、本展は充実したコレクションによって辿る[2]。その仕事は大きく次の3期に分けられよう。かたちの連想を発展させた「幻想的なイメージ」の時期、自然科学や易などを駆使した「図式的な絵画」の時期、そして《クォ・ヴァディス》(1949年)に代表される終戦後の時期だ。

 本展の主眼は、北脇をシュルレアリストたらしめてきた幻想的なイメージの本来の目的を、「世界の背後にある見えない法則を解き明かし、世界観のモデルを示す」[3]ことと捉え、図式的な絵画をその達成とみなす点にある。カントの図式論、ゲーテの植物学や色彩論、中国の易学など多彩な背景を持つ図式的な絵画は一見難解だが、本展の解説は、北脇の思考の具体的な典拠を挙げながら、それらが陰陽等で表された二極の循環による調和を表すことを示し、作品理解の間口を広げている。

 ところで、図式的な絵画を幻想的なイメージの延長線上に置くとすれば、両者はどのような点で連続しているのだろうか。作品に添えられたカエデの種やカクレミノの葉、そして北脇が保管していた木片は、単に本展の興味深い余白という位置にとどまらず、北脇の関心を読み解く重要な鍵となる。小箱に詰め込んだこのような収集物を北脇は「オブジェ」と呼び、レンズを通して拡大したその姿の中に超現実を発見した[4]。そして、レンズの中点を画面の消失点と重ね合わせ、手前に広がる現実の世界と奥に広がる超現実の世界を補い合うものとして接続する実践こそがシュルレアリスムだと、北脇は考えた[5]。この二つの世界は、北脇の言葉で言い換えれば、意識と無意識、相称(対称の意)と非相称、そして巨視美と微視美の世界である。

 超現実も天地の法則も、現実にかたちをとって現れたモノや図形を観察することによってしか、知ることはできない。図式的な絵画に見られる植物の断面図や幾何図形の採用自体は、すでに古賀春江という先駆を持つが、古賀にとってそれが経験可能な現実を離れた純粋な理念の象徴[6]だったとすれば、北脇のそれは、あくまで具体的な事物の観察を通じて立ち現れてくるものであった。その点で、北脇が《綜合と分析》(1940年)でレンズ越しの絵葉書をインクの網点として描いているのは興味深い。レンズの向こう側にあるのは、決して幻想ではない。

 

 

[1] 東京国立近代美術館が所蔵する北脇の津田青楓洋画塾時代の仕事は、練馬区立美術館「生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」展(2020年2月21日〜4月12日)で紹介されている。本展と併せてご覧になることを強く勧める。(編集部:同展は終了しました。)

[2] たとえば「北脇昇展」(1997年、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、愛知県美術館)出品の油彩作品の半数近くを、本展で見ることができる。

[3] 本展リーフレットより引用。

[4] 「超現実性も一種のレンズの力を借りてする観測に俟つて、初めて論議の対象たり得るもの」(北脇昇「超現実性観測室に就て」『第4回新日本洋画協会展目録』1938年)。「みかん箱のような小箱に、小石や、木片や、キラキラ光る貝殻類がゴロゴロ入れてあった。これは何に使うかときくと、かれはオブジェだといい、大きな拡大レンズを持ち出してわたしにのぞかせた。〈人間の可視的世界など、目でみるものにレンズの照明をあてるとこんなにちがってしまう。そこに超現実主義の世界があるんだ〉という意味の説明であった」(木村重夫『現代絵画の四季』近代美術研究会、1964年、164頁)。

[5] 北脇昇「相称と非相称」『美術文化』1号、1939年、7–9頁。

[6] 古賀春江「超現実主義私感」『アトリヱ』7巻1号、1930年、53–58頁。

 

(『現代の眼』635号 )