開催中の展覧会

  • 2020.11.25 - 2021.2.23
  • 企画展

眠り展:アートと生きること

ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで

Sleeping: Life with Art - From Goya and Rubens to Shiota Chiharu

国立美術館コレクションでみる「眠り」のかたち

ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子供》1612-13 年頃
国立西洋美術館蔵

 

「眠り」は、人々にとって生きていく上で欠かせないだけでなく、芸術家たちの創造を駆り立ててもきました。本展では、国立美術館所蔵の絵画、版画、素描、写真、立体、映像など、幅広いジャンルの作品約120点によって、「眠り」がいかに表現されてきたか、それが私たちに投げかけるものは何かを探ります。

「眠り」をテーマに生み出されたアートは、起きている時とは異なる視点で、私たちの日常の迷いや悩みに対するヒントを与えてくれるでしょう。

 

 

本展のポイント

眠り展メインビジュアル
デザイン:平野篤史(AFFORDANCE)

「陰影礼讃」(2010 年)、「No Museum, No Life? ーこれからの美術館事典」(2015 年)に続く、国立美術館合同展の第3弾。ルーベンス、ゴヤ、ルドン、藤田嗣治、内藤礼、塩田千春など、国立美術館の豊富な所蔵作品の中から厳選した古今東西のアーティスト33人の作品約120 点が一堂に会します。

 

 国立美術館とは 

東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブの6館から成る日本のナショナルミュージアム。国立美術館が所蔵するコレクションは、一人でも多くの方に見ていただきたい国の芸術財産であり、紀元前から現代、絵画、写真、映像、デザインなど多岐にわたり、美術作品の所蔵数は約4万4千点にのぼります。

独立行政法人国立美術館HP

 

 

展示会場を3DVRで無料公開しています

本展の展示会場の雰囲気をおうちでも楽める3DVRを作成いたしました。展示会場の構成と製作に関わった方々のインタビューも収録しています。
すでに会場を訪れた方も、そうでない方も是非お楽しみください。

 

▼リンクはこちら

https://my.matterport.com/show/?m=erb5JxVbkUK

展覧会の構成

フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《『ロス ・カプリーチョス』:理性の眠りは怪物を生む》1799 年
国立西洋美術館蔵





 

 

本展は、18-19 世紀に活躍した巨匠・ゴヤを案内役に、美術における眠りが持つ可能性を、序章、終章を含む7章構成でたどります。ルーベンス、ルドンから、河原温、内藤礼、塩田千春まで、美術史上の名作から現代アートに至るまでを意外な取り合わせでご紹介します。

 

 

 

序章 目を閉じて

眠りは、目を閉じることから始まります。眠ること、目を閉じることは、いかにも無防備で頼りない行為に思えるかもしれません。一方で目を閉じることは、自己の内面と静かに向き合うことを導きます。
出品作家:ペーテル・パウル・ルーベンス、ギュスターヴ・クールベ、オディロン・ルドン、河口龍夫ほか

楢橋朝子《「half awake and half asleep in the water」シリーズより Miyajima, 2004》2004 年
東京国立近代美術館蔵





内藤礼《死者のための枕》 1997 年
国立国際美術館蔵

第1章 夢かうつつか

人は、夢と現実を行き来しながら生きています。そして時には、夢と現実のはざまの「夢かうつつか」はっきりしない状態になることがあります。 眠りは、夢と現実、あるいは非現実と現実をつなぐものであり、それらの連続性の中に存在するのです。
出品作家:マックス・エルンスト、瑛九、楢橋朝子、饒加恩(ジャオ・チアエン)ほか

 

 

第2章 生のかなしみ

永眠という言葉があるように、眠りは死に喩えられます。眠りは生きる上で必要なものでありながら、その裏側には死が存在するのです。本章の表題にある「かなしみ」には、「悲しみ」だけでなく「愛(かな)しみ」という、死と隣り合わせにありながらも懸命に生きようと生をいとしむ前向きな意味合いが含まれます。そんな生のかなしみを思う表現をご紹介します。
出品作家:小林孝亘、内藤礼、塩田千春、荒川修作ほか

 

 

第3章 私はただ眠っているわけではない

単に眠っているだけに見える人物像でも、描かれた当時の時代背景などの文脈を加えたり、現代の状況に重ね合わせることで、異なる意味が引き出されることがあります。
出品作家:阿部合成、香月泰男、北川民次、森村泰昌ほか

 

 

阿部合成《百姓の昼寝》1938 年
東京国立近代美術館蔵






ダヤニータ・シン《ファイル・ルーム》 2011-13 年 京都国立近代美術館蔵 
©DAYANITA SINGH

第4章 目覚めを待つ

眠りの後には目覚めが訪れます。現在眠っているものでも、将来的な目覚めを期待させるのです。芸術家たちの作品の中に見て取ることができる、目覚めにまつわる表現をご紹介します。
出品作家:河口龍夫、ダヤニータ・シン、大辻清司

 

 

第5章 河原温 存在の証しとしての眠り

戦後美術を代表する芸術家の一人である河原温(1932-2014年)の作品を通じて、眠りと目覚め、生と死との関係性について探ります。
出品作家:河原温

 

 

 

終章 もう一度、目を閉じて

アートにおける「眠り」、目を閉じる表現は、実に大きな意味の広がりを持っています。単に眠っている(目を閉じている)ように見える人物像であっても、そこには違う意味合いが感じられるようになるでしょう。目を閉じることは、他者の視線に身を任せることを意味する反面、自らの来し方・行く末を思い、静かに瞑想する機会を与えてくれます。目を閉じる人が描かれた作品を前にした私たちにも、これまでの日常を振り返り、これからをいかに過ごすかを考えるためのヒントがもたらされるはずです。
出品作家:ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、金明淑(キム・ミョンスク)

 

 

展示デザインについて

展示会場のイメージ図(トラフ建築設計事務所)

本展では、展示室の設計デザインをトラフ建築設計事務所が、グラフィックデザインを平野篤史氏(AFFORDANCE)が手がけました。「眠り」というテーマから、展示空間にはカーテンを思わせる布、布のようなグラフィックなどが現れます。また、「夢かうつつか」はっきりしない状態をイメージさせる不安定な感じの文字デザインなど、起きていながらにして「眠り」の世界へいざなう様々な仕掛けが見どころです。
また、もう一つ本展の重要なテーマに「持続可能性」(sustainability)があります。「眠り」は生命を維持するために欠かせないものであり、繰り返されるもの。それとリンクする形で、少しでも環境の保全を目指すべく前会期の企画展「ピーター・ドイグ展」の壁面の多くを再利用しています。

開催概要

会場:
東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:
2020年11月25日(水)~ 2021年2月23日(火・祝)
開館時間:
10:00-17:00 *入館は閉館30分前まで

※当面の間、金曜・土曜の夜間開館は行いません。

休館日:
月曜[2021年1月11日(月)は開館]、12月28日(月)~ 2021年1月1日(金・祝)、2021年1月12日(火)
チケット:
会場では当日券を販売しています。
会場の混雑状況によって、当日券ご購入の列にお並びいただいたり、入場をお待ちいただく場合がありますので、オンラインでの事前のご予約・ご購入をお薦めいたします。

新型コロナウイルス感染症予防対策のため、 ご来館日時を予約する日時指定制を導入いたしました。
こちらから来館日時をご予約いただけます。

※上記よりチケットも同時にご購入いただけます。
※観覧無料対象の方(高校生以下の方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名、キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員の方、招待券をお持ちの方等)についても、上記より来館日時をご予約いただけます。
※お電話でのご予約はお受けしておりません。

観覧料:
一般 1,200(1,000)円
大学生 600 (500) 円
*( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
*高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により無料でご鑑賞いただけます。
*本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)、「コレクションによる小企画 男性彫刻」(2F ギャラリー4)もご覧いただけます。
主催:
独立行政法人国立美術館

美術館へのアクセス:
東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
詳しくはアクセスマップをご参照ください。



プレスリリース


作品リスト

絵画のまどろみ、あるいは理性への抵抗 東海林洋(ポーラ美術館学芸員)

フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス《『ロス・カプリーチョス』:理性の眠りは怪物を生む》1799 年、国立西洋美術館蔵

会場風景 撮影:本多康司

オディロン・ルドン《目を閉じて》1890年、国立西洋美術館蔵

 18世紀から現代までという幅広い時代に制作された作品を「眠り」という視点から再編する本展において、最も重要な点はテーマを「夢」ではなく「睡眠」そのものとしたことにあります。睡眠中や想像上の未来など、意識や現実を離れた幻影のようなイメージを示す「夢」に対して、人間の生理現象である「眠り」とは、行為や状態を指します。この視点は、現実と非現実という両世界を行き交い、時代に対する反発、すなわち近代を生きた作家たちに受け継がれてきた「近代的合理主義への抵抗」を浮かび上がらせてくれます。
 その起点はスペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤが1799年に発表した版画集『ロス・カプリーチョス』の一葉「理性の眠りは怪物を生む」(図1)に置かれています。本展の各章で導き手となっているこの版画集が制作された頃、隣国ではフランス革命が勃発し、宗教制度に立脚した絶対王政に対して、啓蒙主義と合理主義をもとにした人民による新たな時代の幕が上がりました。ピレネー山脈を超えてその息吹を感じ取ったゴヤは、宮廷画家という立場にありながらも先進的な啓蒙思想に感応しました。『ロス・カプリーチョス』は、前近代的な因習や迷信を揶揄し、理性や科学という近代的な合理性が失われることへの警告として制作されています(註1)。しかし、大革命後のフランスの政局はやがて混迷をきたし、皇帝に即位したナポレオンは隣国スペインに派兵し人民に銃口を向けてしまいました。ゴヤはかつて憧れた新時代がイベリア半島にもたらした破滅と殺戮に絶望し、「理性の眠り」という闇の世界に惹かれ、晩年に自邸の壁に描いた連作『黒い絵』や版画集『妄』など、奇想に満ちた暗鬱な作品を残しています。
 スペイン国内の混乱を避けて、ゴヤはフランスに亡命し、1828年にボルドーで最期を迎えました。その12年後にこの地に生を享けた画家がオディロン・ルドンです。奇妙な怪物たちが蠢く彼の幻想的な世界は、少年時代の孤独な環境で培われた想像の産物と考えられてきました。しかし、近年は当時の生物学や気球という近代的な科学文明の産物を触媒として生み出されたことが明らかになっています。ルドンは1880年代に本格的に芸術家としての活動を始めたため、ポスト印象派の画家とみなされることが多いのですが、実は印象派を代表する画家クロード・モネと同じ1840年に生まれています。アカデミスムを批判し、筆触分割という新しい描法によって近代化する都市などを、戸外制作を通して感じた明るい色彩で描いたモネは、1870年代においてはモデルニテを代表する画家でした。視覚性を重んじる印象派に対抗するように、ルドンは《目を閉じて》(図2)に表されるように外の世界への眼差しを閉ざし、暗い色彩で幻想的な主題を描いています。パリでは1880年代には公害や労働問題など近代化の行き過ぎによって繁栄に翳りが生じはじめていました。ルドンが描き出した怪物たちは、華やかな近代生活の裏側にひろがる暗い影のなかに蠢いているのです。
 近代的合理主義を最も直接的に批判した芸術運動は、1924年にアンドレ・ブルトンが発表した宣言を起点とするシュルレアリスムでした。彼は、人類初の大規模な近代戦として未曾有の大量殺戮を引き起こした第一次世界大戦の惨状を目の当たりにし、これに抗うよう反合理主義的な芸術運動に身を投じます。さらに、オートマティスムという手法によって、マックス・エルンストらとともに理性では見出すことのできなかった「超現実」を探求する芸術運動を様々な分野にわたって展開しました。日本では1930年頃から新興美術の新傾向として流行していますが、帝国主義の拡大によって再び世界が大きな戦争へと向かいはじめる1937年以降に、本来の意味でシュルレアリスム的な表現が生まれています。
 こうした合理主義が引き起こす軋轢は今日に至るまであらゆる場所で噴出しています。本展の「眠り」というテーマによって導かれた作品から、我々は夢のように非現実的なユートピアではなく、人間性の疎外に抗ってきたアートの力を見出すことができるでしょう。

 

註1

この版画に刻まれたスペイン語「El sueño de la razón produce monstruos」における「sueño」とは、「眠り」と「夢」という両義性を持つ言葉です。これを「理性の眠り」ではなく、「理性の夢」と解釈するならば、近代的な合理主義がもたらす破壊という怪物を予告していたと深読みすることもできるかもしれません。いずれにせよ、『ロス・カプリーチョス』は、はじめ「夢」(sueño)という題で発表される予定であったこと、そしてこの版画集の表現の豊かさからは、批判的な形であってもゴヤが夢幻の想像力に強く惹かれていたこと示しています。