開催中の展覧会

  • 2022.9.16 - 12.4
  • 所蔵作品展

ジャンルレス工芸展

Genreless kōgei

展覧会について

稲垣稔次郎 《木綿地型絵染壁掛 虎》
(部分) 1960年
国立工芸館所蔵

作品リスト 参考図書リスト

近年、新しい文脈で工芸が評価されています。近代に入り西洋美術の概念が導入され、絵画や彫刻と異なるとみなされた表現が工芸と命名され分離されてから、その分野の作家たちは工芸について自問自答しながら新しい表現を目指して制作を続けてきました。
並行して評論家も工芸の在り方について研究を重ねてきましたが、交通網やインターネットの普及により、これまでの美術や工芸の概念が揺らぎ始めています。実際、最近では美術や工芸といったジャンルにこだわらずに、工芸素材と技術を用いて自身の表現を追求するという姿勢の作家が増えてきました。そして時を同じくして、専門外の評論家が注目し紹介することで、工芸作品の露出が高まっていきました。
本展は、国立工芸館が所蔵する国内外の優れた工芸・デザイン作品を中心に、あえて工芸と括らずに新しい視点でご紹介する展覧会です。器からオブジェまで形状はさまざまですが、鑑賞者はジャンルを気にすることなく、工芸素材とそれを活かす卓越した技術を用いた幅広い表現に触れることができるでしょう。

展覧会のポイント

▶デザイン、現代アート、工芸といったジャンルを超えた作品を紹介。
 先入観をなくして作品と対峙することで、思いがけない一面に出会えるかもしれません。

▶素材に対する深い理解のもと卓越した技術で、大正から令和にかけて制作された当館所蔵の名品による展示構成。

▶現代アートの分野でも評価の高い青木千絵、池田晃将、見附正康、牟田陽日など10名の作家の新作や近作も展示。

 

 

展示構成

平松保城
《スカルプチャー・ウエイト》
1973年
国立工芸館所蔵

デザイン

デザイナーの仕事は視覚領域や空間などの意匠計画や図案などを設計することですが、その発想力をもとにアート作品を制作することもあります。例えばジュエリーデザインを多く手がけた平松保城の《スカルプチャー・ウエイト》はロジウムメッキ独特の硬い質感を生かしながら計算された緻密な作品で、洒落たデザインのウエイトとしても使用可能な、手のひらサイズの愛らしい作品です。

青木千絵
《BODY19-1 孤独の身体》
2019年
写真:今村裕司 提供:艸居

現代アート

漆彫刻家・青木千絵の乾漆作品は、何度も漆を塗り磨くという工程を繰り返すことで、黒漆の美しさを極限まで引き出し、なまめかしく艶をもった人体となっています。この漆は女性の皮膚を想起させる一方、内へ引きこまれそうな魔力も持っています。
青木は潜在意識と対峙することを制作の根底に置いていますが、漆という素材への深い理解がなければ、この艶を出すことはできないのです。

開催概要

会場:
国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)
会期:
2022年9月16日(金)- 2022年12月4日(日)
開館時間:
午前9時30分-午後5時30分
※入館時間は閉館30分前まで
休館日:
月曜日(ただし9月19日、10月10日は開館)、
9月20日、10月11日
チケット:

会場では当日券を販売しています。
会場の混雑状況によって、当日券ご購入の列にお並びいただいたり、入場をお待ちいただく場合がありますので、オンラインでの事前のご予約・ご購入をお薦めいたします。

こちらから来館日時をご予約いただけます。

※お電話でのご予約はお受けしておりません。

※10名以上での来館をご希望の場合は、事前にお問い合わせください。(050-5541-8600/ハローダイヤル)

観覧料:
一般  300円(250円)
大学生 150円( 70円)
※( )内は20名以上の団体料金および割引料金
※いずれも消費税込
※オンラインによる事前予約もあり
〇無料対象:高校生以下および18歳未満、65歳以上、MOMATパスポート・学パスをお持ちの方、友の会・賛助会員の方、MOMAT支援サークルパートナー企業(同伴者1名まで、シルバーパートナーは本人のみ)、キャンパスメンバーズ、障害者手帳をお持ちの方と付添者(1名)
〇割引対象:石川県立美術館・金沢21世紀美術館・石川県立歴史博物館・石川県立伝統産業工芸館(いしかわ生活工芸ミュージアム)・金沢市立中村記念美術館・金沢ふるさと偉人館の主催展覧会入場券半券、ならびにSAMURAIパスポート (一般のみ)、第69回日本伝統工芸展金沢展の入場券半券(10月28日-11月6日に限る)、金沢マラソン2022参加ナンバーカードまたはセキュリティバンド(参加ランナーおよびその同伴者1名まで、10月28日~10月30日に限る)を窓口で提示した方。
無料観覧日:
10月16日(日)[いしかわ文化の日]、
11月3日(木・祝)[文化の日]
※入館できる人数には制限がありますので、オンラインでの事前予約(無料)をお薦めいたします。
主催:
国立工芸館

プレスリリース >>


展覧会関連イベント

【トークイベント 】
①「工芸ってなに?」※終了しました
日 時:9月17日(土) 午後1時30分~午後3時
場 所:国立工芸館 2階多目的室
登壇者:青木千絵氏(漆彫刻家)、牟田陽日氏(陶芸家)
聞き手:岩井美恵子(国立工芸館工芸課長、本展企画者)
定 員:40名(要予約・先着順)
参加費:無料
主 催:国立工芸館
◎詳細、ご予約はこちら : Peatix(外部サイト)

②「工芸作品を作ること」※申込受付終了しました
日 時:11月5日(土) 午後1時30分~午後3時
場 所:国立工芸館 2階多目的室
登壇者:池田晃将氏(漆芸家)、見附正康氏(陶芸家)
聞き手:岩井美恵子
定 員:40名(要予約・先着順)
参加費:無料
主 催:兼六園周辺文化の森等活性化推進実行委員会
◎詳細はこちら(外部サイト)

開館記念日特別公開

「ガラスの向こうの気になる「アレ」」
国立工芸館の開館記念日、10月25日に
エントランス正面の中庭(通常は立ち入り禁止)を開放します。金子潤の作品を間近で鑑賞しませんか。記念撮影もOK!

日 時:10月25日(火)
    午前9時30分~午後5時30分
場 所:中庭(エントランス正面)
*雨天中止
*事前申込不要

 

 

*国内外の状況により記載内容に変更が生じる場合があります。

多様化する工芸の現在地 青木千絵[金沢美術工芸大学工芸科准教授]

 “工芸とは何か” そのような問いに対し、工芸の現在地が俯瞰できる「ジャンルレス工芸展」が国立工芸館で開催された。本展では、国立工芸館が所蔵する工芸・デザイン作品を中心に、敢えて工芸と括らずに新たな視点で紹介することを目的としている。まず会場を訪れると「デザイン」と「現代アート」という従来の工芸からは少し離れた印象を持つエリアに区分されていることに驚かされる。しかし同時に、共感に近い感覚も覚える。最近では、私自身も含め、美術や工芸といったジャンルに拘らずに工芸素材や技術に向き合う作家が増えてきているからだ。
 まず、「デザイン」部門である展示室1に入ると、富本憲吉の《色絵金銀彩羊歯文八角飾箱》に出会う。単純形態を連続させることで、新しい図柄を生み出すという富本独自の意匠は、未だに新鮮で洗練された印象を抱かせる。2階に上がった“芽の部屋”では令和に活躍する作家である見附正康、新里明士、池田晃将、澤谷由子らの緻密な意匠が鑑賞できる。池田晃将の《電光無量無辺大棗》[図1]では、現代の情報化社会を背景に映画「マトリックス」を彷彿させる意匠が印象的だが、その基盤には精密な螺鈿技巧が存在する。また、澤谷由子の《露絲紡》では、レース編みを彷彿させる西洋的な雰囲気を纏った意匠が見られるが、そこにはイッチン技法[1]を追求した先にのみ表現できる唯一無二の世界観が広がっている。漆の神様と呼ばれる松田権六が「技術と材料を生かす根本はデザインなんです」[2]と語っているように、やはりデザインが面白くなければ魅力ある作品は生まれないのだと実感する。これらの作品を見ると、従来の工芸では思いも寄らなかった表現対象とも言える独自の世界観が、技巧を尽くした確かな工芸手法の上で表現されていることに気付かされる。こうした意外性が現代に通用する魅惑的な美を備えた作品へと昇華させていくのだろう。
 次の「現代アート」部門では現代陶芸のパイオニアとも言える八木一夫の《黒陶 環》や社会性を取り入れた幅広い表現を行う三島喜美代の《Work-86-B》など、まさに現代アートと言われる作品の数々が並ぶ。坪井明日香の《パラジウムの木の実》[図2]では、女性の乳房が積み上げられた中心に1房のぶどうが添えられており、女性が排他的に扱われていた制作当時、アバンギャルドな作品であったことは想像に容易い。メタリックな質感でありながらも陶芸作品であるという点にも見所がある。また、牟田陽日の《ケモノ色絵壺》では、九谷焼独特の色彩を活かし、華やかな花々に囲まれた中に構える白い山犬が臨場感たっぷりに描かれており、その求心力に惹き込まれる。いずれの作品も各々の表現したい世界が明確にあり、工芸の素材や技術を1つのツールとして捉えながら、自らの表現を探求しているように窺えた。
 本展を通して、“工芸とは何か”という、おそらく工芸に携わる多くの現代作家が一度は考えるであろう問いに対し、工芸を基盤にしながらも現代アートやデザインに果敢に拡がっていく工芸の現在の有様を俯瞰することで、改めて工芸の現在を考えさせられた。元来、歴史や伝統を重んじる工芸には「古臭く技巧的で職人的」[3]と思われる側面があったかもしれない。しかし、私を含めた現代作家は、先達が切り拓いてきた道があるからこそ自由に表現でき、そしてそれが評価される時代に今、生きているのだと実感する。今後、益々拡がるであろう工芸の可能性に期待が膨む。

図1 池田晃将《電光無量無辺大棗》2022年 撮影:野村知也

図2 坪井明日香《パラジウムの木の実》1973年 国立工芸館蔵 撮影:アローアートワークス©2005

「現代アート」展示会場風景 撮影:野村知也

[註]
 1 筒状の泥漿を作品に盛り付ける装飾技法であり、陶磁技法の一種。
 2 NHKアーカイブス「あの人に会いたい 松田権六」より引用。
 3 岩井美恵子「時代の芸術—ジャンルレスな時代の工芸とデザイン—」、『ジャンルレス工芸展』(図録)、国立工芸館、2022年、p.4