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栄木正敏のセラミック・デザイン:リズム&ウェーブ
概要 モノトーンでまとめられたシンプルでモダンなテーブルウェア。大きな取っ手や丸みを帯びた器形には、使う際の安定性のなかにも個性が光ります。セラミック・デザイナーの栄木正敏(1944- )は、プロダクト・デザイナーの多くが設計図の完成をもってデザインの仕事を終えるなかで、製図から原型制作までを一貫して手がけることで際立った存在です。道具のひと削りに微妙な差が生じる陶磁器デザインの石膏原型を自ら行うことで、手わざを通した思考から、使いやすさ、製造工程の合理性、形へのこだわりをダイレクトにプロダクトに反映し、高い質と揺るぎない独自のフォルムを実現しています。 大学卒業後、栄木は、産地に受け継がれる高度な技術と、自らのデザインを融合させたプロダクトの生産を目指して、愛知県瀬戸市に移り住みました。当地で陶磁器の企画・製造・販売会社を設立し、良質の陶磁器デザインの普及に努めます。その活動は、1977年に国井喜太郎産業工芸賞を授与され、いち早く高い評価を受けました。その後もイタリアのファエンツァ国際陶磁展やスペインのバレンシア国際工業デザインコンペティションなどで入賞受賞を重ね、国際的に活躍しています。本展では、テーブルウェアを中心に、地場と生活に立脚した栄木正敏の陶磁器デザインを紹介します。 (※制作年は量産年) 作家紹介 栄木正敏 略歴1944年 千葉県旭市生まれ。1963年 武蔵野美術短期大学デザイン科(工芸デザイン専攻)入学。1966年 武蔵野美術短期大学専攻科修了、名古屋市の大手洋食器メーカー、瀬栄陶器のデザイン部入社[~'69]。1977年 個展「栄木正敏+セラミックジャパン展」(松屋銀座)開催。加飾の健全性を目指す陶磁器製品の企画生産及び販売の総合的推進」が評価され、第5回国井喜太郎産業工芸賞受賞。1986年 「第16回バレンシア国際工業デザインコンペティション」で《COMPACT》が大賞受賞。 1998年 愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科教授に就任[~'09]。2010年 愛知県立芸術大学名誉教授に就任。 カタログ目録情報 イベント情報 アーティスト・トーク栄木正敏(出品作家)日程: 2011年1月29日(土)時間: 15:30-16:30場所: 本館ギャラリー4 (2F)*参加無料(要観覧券)、申込不要 ギャラリートーク諸山正則(当館主任研究員)日程: 2011年1月8日(土)時間: 15:30-16:30場所: 本館ギャラリー4 (2F)*参加無料(要観覧券)、申込不要 開催概要 東京国立近代美術館本館 ギャラリー4(2F) 2011年1月8日(土)~2月13日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日[1月10日(月・祝)は開館]、1月11日(火) 一般 420円(210円) 大学生130円(70円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。※当日に限り、→所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご覧いただけます。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、キャンパスメンバーズ、MOMATパスポートをお持ちの方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料 ※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 【無料観覧日】2月6日(日) 東京国立近代美術館 国際化工株式会社 愛知県立芸術大学
麻生三郎展
概要 絵画の本質を粘り強く探究し続けた画家、麻生三郎(1913-2000)。一見とらえがたい彼の絵画は、時間をかけて見れば見るほど、多くを語りかけてきます。戦前から活動を開始した彼は、戦中は「新人画会」を結成して個の表現を貫き、戦後も一貫して人間存在の核心に迫る表現を切りひらいていきました。常に社会に対する緊張感を保ちながら、現実空間と絵画空間との関係を探究し続けた彼のあゆみは、現代の絵画にも多くの示唆を与えてくれるでしょう。本格的な回顧展としては実に15年ぶりとなる今回の展覧会では、初期から晩年までの油彩、素描、立体あわせて134点を展示し、その今日的意義を探ります。 ここが見どころ 約15年ぶりの本格的な回顧展 1994年から95年にかけて神奈川、茨城、三重を巡回した画家生前の回顧展から約15年ぶりとなる今回の展覧会では、油彩、素描、立体合わせて134点を展示し、その全体像を改めて回顧します。 代表作はもちろん、初公開の作品も 《ひとり》(1951年)、《赤い空》(1956年)といった代表作を網羅するとともに、戦前の裸婦素描や、晩年の立体など、初公開の作品もご紹介します。麻生は晩年、「立体デッサン」と称して彫刻作品を数点手がけていますが、その最後の彫刻は1994-95年の回顧展の際には完成しておらず、その後公開される機会がありませんでした。今回が初めての公開となります。 もうひとつの側面、デッサンの魅力 本展では、油彩作品と並んで素描も重点的にご紹介します。とりわけ1950年代末からの素描では、かたちの内部から空間の拡がりのなかへ、手や眼や身体が自由に展開していくのを認めることができます。ときにはユーモアすら感じさせるその素描には、重厚な油彩とはちがった画家の別の顔が窺えます。 *素描作品の一部は会期中、展示替があります。 展覧会構成 第1章 闇の中で光を見つめる 1934-1953麻生三郎は1913(大正2)年、東京に生まれました。太平洋美術学校に学んだ彼は、当初は前衛絵画に関心を向けましたが、1938(昭和13)年にヨーロッパを旅行して、写実の重要性を再認識することになります。帰国した麻生は、戦争により画家が自由に活動しにくくなると、松本竣介ら友人たちとともに、1943年に「新人画会」を結成して、困難な状況下に3回の展覧会を開きました。苦しい戦時中から、戦後まもない時期にかけて、麻生は繰り返し妻や娘、そして自分自身を描きました。それらの肖像はまるで、深い闇の中に灯る明かりのようにみえます。 第2章 赤い空の下で 1954-1960戦後しばらくして、1950年代半ばになると、麻生は自らの家族という身近な題材から踏み出し、より一般化された人間像を描くようになります。《赤い空》の連作です。社会の現実に対して、鋭敏な感受性を持ちながら制作していた麻生は、個々の人間存在をおびやかそうとする重い都会の空気を肌で感じつつ、それに拮抗しながら存在を主張する人間像を力強く描きました。 第3章 内と外の軋(きし)み 1961-19941960年代に入ると、麻生の描く人体は、次第に周囲の空間ともつれ合い、一目見ただけではその姿を確認しにくくなっていきます。外部からの圧力と、それに抵抗する内からの力を絵画空間で探究していった結果、こうした作品が生み出されました。混沌とした画面をじっと見つめていると、ゆっくりと人の姿が像を結びはじめます。そして画面に生の気配が満ちていることに気づかされるでしょう。 作家紹介 麻生三郎 略歴1913(大正2)年 東京に生まれる。1930(昭和5)年 太平洋美術学校に学ぶ。松本竣介らと出会う。1938(昭和13)年 渡欧。フランス、イタリアを中心に多くの美術作品を見る。1939(昭和14)年 美術文化協会の結成に参加。1943(昭和18)年 新人画会を松本竣介、靉光らと結成する。1945(昭和20)年 空襲で多くの作品を焼失。1947(昭和22)年 自由美術家協会に参加(1964年まで)。1952(昭和27)年 武蔵野美術学校(のち武蔵野美術大学)で教える。1963(昭和38)年 芸術選奨文部大臣賞受賞。1979(昭和54)年 東京都美術館で回顧展。1994-1995(平成6-7)年 神奈川県立近代美術館、茨城県近代美術館、三重県立美術館で回顧展。2000(平成12)年 死去(享年87歳)。 イベント情報 講演会 大谷省吾(当館主任研究員・本展企画者)日程: 2010年11月20日(土)時間: 14:00-15:30 酒井忠康(世田谷美術館館長)日程: 2010年12月4日(土)時間: 14:00-15:30 いずれも当館講堂にて。聴講無料、申込不要、先着150名 ギャラリー・トーク 松本透(当館副館長)日程: 2010年11月26日(金)時間: 18:00-19:00 都築千重子(当館主任研究員)日程: 2010年12月10日(金)時間: 18:00-19:00 いずれも展覧会場にて。参加無料(要観覧券)、申込不要 教職員鑑賞プログラム「麻生三郎展」先生のための鑑賞講座(講演+展覧会観覧)*学校教職員が対象のプログラムです 日程: 2010年11月12日(金)時間:(講演)17:30~18:10/(展覧会観覧)16:00-20:00 要事前申込申込方法などの詳細はこちら カタログ目録情報 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2010年11月9日(火)~12月19日(日)会期中、素描作品の一部を展示替します。前期:11月9日~11月28日後期:11月30日~12月19日 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日 一般 850円(600円) 大学生450円(250円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 本展の観覧料で入館当日に限り、同時開催の「鈴木清写真展 百の階梯、千の来歴」(ギャラリー4、2F)、所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご覧いただけます。 東京国立近代美術館京都国立近代美術館 神奈川県立近代美術館 2011年1月5日(水)~2月20日(日) 京都国立近代美術館 2011年4月29日(金・祝)~6月12日(日) 愛知県美術館
鈴木清写真展:百の階梯、千の来歴
概要 写真集というメディアが、今日、改めて注目されています。綴じられたページをめくることで現われるイメージどうしが、連鎖し、響きあい、そこにひとつの小世界が立ちあがる。そんな写真集独特の可能性を、ひときわユニークな手法で探究しつづけた写真家鈴木清(1943-2000)。その仕事は近年、世界的に注目されています。鈴木清の作品を顧みるうえで「書物」は重要なキーワードです。読書家であり、愛読書から得たインスピレーションをしばしば自らの写真の指針としたということだけでなく、彼自身の写真集が、いずれも「書物」と呼ぶにふさわしいものだったからです。炭鉱という自らの出自に関わる場や、同時代の社会、旅の時間や文学作品などをモティーフに、眼の前の現実と夢や記憶が自在に交錯する、重層的な作品世界が展開された鈴木の写真集は、まさに繰り返し読み込まれるべき「書物」としての奥行きを獲得していました。今回の展覧会では、『流れの歌』(1972)や『天幕の街』(1982)、『夢の走り』(1988)など、8冊の写真集それぞれからの作品を紹介するとともに、写真集のダミーや個展会場の手描き図面など、鈴木独特の手作業を通じた創作のプロセスにも注目しつつ、その作品世界の全体像を探ります。 ここが見どころ 8冊の写真集をめぐって 鈴木清の写真家活動の重要な柱が、自費による出版を重ねた写真集づくりでした。3冊目の『天幕の街』(1982)では造本を当時新進のデザイナーだった鈴木一誌に依頼。それまでの2冊にくらべはるかに複雑な構成を持つこの写真集以降、鈴木の写真集は独特の密度と奥行きを獲得していきます。今回の展覧会では、8冊の写真集それぞれからの作品を紹介するとともに、写真集どうしの連関や、シリーズを越えて共通するモティーフなどにも注目し、鈴木清の作品世界の全体像を探ります。 手の思考―写真集のダミーと展示のためのスケッチ 鈴木清の写真集をめぐって注目されるのは、手作りされたダミーの存在です。一冊の写真集の構成を練るために、コピーや校正刷りを素材に、カッターや糊をつかって作られたダミーは、鈴木にとってのデザインや編集のプロセスが、文字通り手作業によって進められていたことを示しています。個展の会場構成のスケッチにも共通する、綿密な手作業。今回の展覧会では、鈴木清の写真家活動の重要な部分を占める、「手の思考」のプロセスを生き生きと伝える、写真集のダミーや展示構成のためのスケッチにも注目します。 作家紹介 1943年 福島県いわき市生まれ1965年 漫画家を志し上京。1969年 東京綜合写真専門学校卒業。同年から翌年にかけ、『カメラ毎日』に「シリーズ・炭鉱の町」を発表、写真家として出発。以降、看板描きを生業とし、写真家活動を展開。1972年 写真集『流れの歌』刊行。1976年 写真集『ブラーマンの光』刊行。1982年 写真集『天幕の街』刊行、翌年同書および同題の個展により第33回日本写真協会賞新人賞受賞。1985年 東京綜合写真専門学校の講師に就任。1988年 写真集『夢の走り』刊行、翌年第1回写真の会賞受賞。1991年 写真集『愚者の船』刊行(IPC刊、唯一自費出版ではない写真集)1992年 個展「母の溟」により第17回伊奈信男賞受賞。1994年 写真集『修羅の圏』刊行、翌年同書および同題の個展により第14回土門拳賞受賞。1998年 写真集『デュラスの領土』刊行。2000年 3月死去、10月に遺された展覧会プランにより個展「千の来歴」開催。2008年 オランダ、フローニンゲンのノールトリヒトギャラリーで個展「Soul and Soul」が開催される。 カタログ目録情報 カタログ 大好評発売中!異例の文庫本サイズ、ハードカバー、計378ページ、厚み3.5cm。まさに「書物」と呼べるカタログです。1500円 開催中の「鈴木清写真展 百の階梯、千の来歴」カタログが大好評発売中です。ブックデザインは、鈴木清本人とも親交が深く、過去に鈴木の写真集のデザインも手がけた鈴木一誌氏によるもの。カタログとしては異例の文庫本サイズながら、計378 ページ、厚み3.5cm 、ハードカバーという、まさに「書物」と呼べる、重厚かつ魅力的な本となりました。会場でぜひお手にとってみてください。 *郵送でもご購入いただけます。購入方法についてはこちら*青山ブックセンター本店でも購入可能です。 イベント情報 対談倉石信乃(批評家・明治大学准教授)×金村修(写真家) 日程: 2010年11月19日(金)時間: 18:00-19:30場所: 講堂(地下1F)聴講無料 申込不要(先着150名) ギャラリートーク増田玲(本展企画者/当館主任研究員) 日程: 2010年10月31日(日)時間: 15:00-16:00場所: ギャラリー4(2F) 増田玲(本展企画者/当館主任研究員) 日程: 2010年12月11日(土)時間: 15:00-16:00場所: ギャラリー4(2F) いずれも参加無料(要観覧券)、申込不要 関連トークイベント[復刻版]鈴木清写真集『流れの歌』(白水社より10月27日発売予定)刊行に合わせ、青山ブックセンター本店にて記念トークイベントがおこなわれます。 飯沢耕太郎(写真評論家)×鈴木一誌(グラフィックデザイナー)「いまなぜ、鈴木清か?」 日程: 2010年10月31日(日)時間: 18:00-20:00場所: 青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山 要申込 定員:120名 入場料:税込500円 お問い合わせ先青山ブックセンター本店TEL: 03-5485-5511オンライン予約もしくは青山ブックセンター本店店頭にて参加引換券をご購入下さい。※電話予約は行っておりません。 *10月30日~11月29日まで同店に設けられる鈴木清コーナーに、鈴木の作品を数点展示します。ぜひ足を運んでみてください。 開催概要 東京国立近代美術館本館 ギャラリー4(2F) 2010年10月29日(金)~12月19日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日 一般 420円(210円) 大学生130円(70円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 ※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。※キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。 ※本展の観覧料で、当日に限り所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 【無料観覧日】(所蔵作品展「近代日本の美術」、「鈴木清写真展 百の階梯、千の来歴」のみ)11月3日(火) [文化の日]11月7日(日)12月5日(日) 東京国立近代美術館 4人の作家(石川直樹、町田康、小野正嗣、小沼純一)による、鈴木清の作品世界にまつわる書き下ろしエッセイが読める特設ウェブサイトを公開中です。
上村松園展
概要 京都に生まれ育った上村松園は、若くしてその頭角を現し、文部省美術展覧会(通称文展)など各種展覧会を舞台に気品あふれる人物画を次々と生み出しました。その作品には単なる女性美ばかりでなく、画中の人物のさまざまな感情のひだが、市井の人々の営み、歴史や物語、謡曲などの題材にのせて表わされています。松園は近世初期風俗画や浮世絵など人物表現の伝統の厚みを受け止める一方で、対象の内面や精神性の表現が追求された近代という時代と向き合い、自分ならではの人物画を模索したのです。本展覧会では、松園の画業を大きく3期に分け、代表作約100点によって創作の軌跡をたどるとともに、その本質を改めて探ります。 ここが見どころ 松園の傑作、堂々集結。 松園と聞けば思い浮かぶ、あの作品もこの作品も、数々の傑作が本展覧会に出品されます(会期中展示替えを行います)。名品揃いの過去最大級の回顧展です。 美しいだけではない。松園芸術の多面性に迫ります。 凛とした気品あふれるたたずまい。今に生きる私たちも憧れるような「理想の女性像」です。しかし、作品一つ一つを眺めてみると、愛情をもって子供をあやす男性、壮絶な嫉妬の炎を内に秘めた女性など、松園が驚くほどさまざまな人の姿を描いていたことに気づきます。本展覧会では、充実した作品のラインナップにより、松園芸術のもつこうした多面性をじっくりと味わっていただけます。 見せます、明治・大正期の名品たち。 松園芸術の礎は明治、大正時代に築かれました。浮世絵だけでなく当世風俗や歴史から題材を採った明治期、人物の情熱がほとばしるさまを描いた大正期。松園芸術の本質に深く迫るために、本展覧会ではこの時期の作品を多数展示します。その数、出品総数の約4割。久しぶりにお目見えの作品もあり、見ごたえたっぷりです。 展覧会構成 1章 画風の模索、対象へのあたたかな眼差し明治33(1900)年、《花ざかり》を第9回日本絵画協会・第4回日本美術院連合絵画共進会に出品し、銀牌を受けると、若くして松園の名は画壇で広く認められることとなりました。この時期の松園は、鈴木松年、幸野楳嶺、竹内栖鳳とその師を変えていくなかでさまざまな表現を学び、画風を模索しました。作品の題材は江戸風俗をはじめ、歴史上の人物、物語、市井の風俗など幅広いものでした。浮世絵など伝統的な人物表現の名残が見られますが、写生にもとづいた現実味が感じられます。人物のそっとほほえむようなさりげない表情からは、対象をあたたかい眼差しで見つめる松園の態度がうかがえます。 2章 情念の表出、方向性の転換へ明治の末頃より、松園の作品は色彩が明るく華やかになり、登場人物の顔立ちも、柔和で時に妖艶でさえあるものへと変化していきました。また、謡曲など物語性の強い題材を通して、対象となる人物の感情表現が研究されました。またこの頃、松園は今後の制作のあり方を模索していました。感情など対象の内面の表現は、手法は違えども当時の美術において広く追求されたものであったからです。その中に埋もれることなく、いかに独自の路線を打ち出すか。《焰》制作ののち3年ほど大展覧会への出品を見送り、新たな方向性を見定めていきました。 3章 円熟と深化昭和に入り、松園芸術はついに円熟の時を迎えます。背景のモティーフなど余分なものをそぎ落とし、構図を整理して人物を大きく配した画面からは、人物の圧倒的な存在感が伝わってきます。色彩が清澄さをいっそう増すのもこの時期の特徴です。主題、内容ともにこれまでのものが並行して現れますが、それらはさらに深く探究されました。そこには、叙情性あふれる大正期の表現とは異なり、対象の内面が静謐な画面に描き出されています。 3章-1 古典に学び、古典を超える浮世絵などの古画、謡曲をはじめとする古典芸能、古典文学は、修業期から松園のイメージソースとして役割を果たしてきました。古画は単に図像を引用するのではなく、人物の内面表現を追求するうちに、卑俗になりすぎないための手段として用いるようになりました。昭和期には、余分なものがそぎ落とされた中に感情が凝縮される謡曲のありかたが、制作のヒントとなりました。古典の本質をつかんだうえでそれを借り、対象人物の内に秘められた感情をにじませる。これこそが、古典という伝統を乗り越えた先に松園が目指したものなのです。 3章-2 日々のくらし、母と子の情愛明治期とならび昭和期にも、人々の日常のひとこまを描き出した作品が描かれます。しかし明治期とは異なり、松園が幼い頃を過ごしたかつての面影残る京の町と、そこに生きる人々をなつかしむ気持ちが込められています。とりわけ、松園を女手一つで育てあげ、彼女の画業をいつも支えていた母仲子が昭和9年に亡くなってからは、そのような作品が増えていきました。そこには、子供に対する母親の細やかな愛情が、松園の亡き母への思慕の情に重ね合わせて表現されています。 3章-3 静止した時間(とき)、内面への眼差し季節のうつろいを楽しむ女性像は浮世絵などにも多く見られる画題です。しかし松園の作品の中の女性たちは一様に、目の前の景物を通り越して何かを見つめているように見えます。目の前にあるものではない何かをじっと見つめるとき、関心の先はおのずと自身の内面に向かいます。仕舞など芸事に取り組む時もまた、人は自身の内面と向き合うことになります。芸事の瞬間を切りとった作品には、最高の演技を成し遂げるために必要な、内面の強い意志、研ぎ澄まされた精神が表れています。 作家紹介 上村松園 略歴 明治8(1875)年 4月23日、葉茶屋を営む上村太兵衛、仲子の次女として京都市四条御幸町に生まれる。本名津禰(つね。常、常子とも書く)。明治20(1887)年 京都府画学校に入学。並行して鈴木松年塾にも通う。明治23(1890)年 第3回内国勧業博覧会に《四季美人図》出品、イギリスのコンノート公買上となる。明治26(1893)年 松年の許可を得て幸野楳嶺に師事。2年後、楳嶺没するにともない竹内栖鳳に入門。明治33(1900)年 第9回日本絵画協会・第4回日本美術院連合絵画共進会に《花ざかり》を出品、銀牌を受ける。大正5(1916)年 文部省美術展覧会(通称文展)無鑑査となる。昭和16(1941)年 帝国芸術院会員となる。日本画家三谷十糸子とともに中国へ慰問旅行。昭和19(1944)年 帝室技芸員となる。昭和23(1948)年 女性として初めて文化勲章受章。昭和24(1949)年 8月27日、肺癌のため奈良平城の唳禽荘にて没。 イベント情報 講演会上村淳之(日本芸術院会員・日本画家)「上村松園のもとめた世界」 日程: 2010年9月11日(土)時間: 14:00- 要申込(応募者多数の場合は抽選) 受付を終了しました 加藤類子(美術史家)「上村松園と京都」 日程: 2010年9月18日(土)時間: 14:00- 要申込(応募者多数の場合は抽選) 受付を終了しました いずれも、東京国立近代美術館 講堂にて。聴講無料(140名)。 申し込み方法郵便往復はがきの「往信用裏面」に郵便番号・住所・氏名(ふりがな)・電話番号・希望講演名を、「返信用表面」に郵便番号・住所・氏名を明記のうえ、下記までお申し込みください。 締切:8月25日(水)《当日消印有効》 受付を終了しました 申込・問い合わせ先〒106-8611 東京都港区西麻布2-25-18 ユース・プランニング センター内 「上村松園展」広報事務局 「講演会」係 TEL: 03-3409-4266 *1枚の往復はがきでいずれか1回の講演会に、2名までの応募可。2名応募の場合はそれぞれの氏名を明記してください。 カタログ目録情報 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2010年9月7日(火)~10月17日(日)会期中、一部の作品を展示替します。前期:9月7日~9月26日後期:9月28日~10月17日 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日[2010年9月20日、10月11日は開館]、9月21日(火)、10月12日(火) 一般 1300円(1100/900円) 大学生900円(800/600円) 高校生 400円(300/200円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 ※本展の観覧料で、当日に限り「手探りのドローイング」(ギャラリー4、2F)と所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 ※チケット取り扱い(前売/当日):電子チケットぴあ(Pコード:764-229)、ローソンチケット(Lコード:38108)、CNプレイガイド、イープラス、JTB、セブン-イレブンほか主要プレイガイド、東京国立近代美術館(開館日のみ) ※お得な前売券は7月12日(月)から9月6日(月)まで販売。 販売は終了しました ※もっとお得な早割りペアチケット(2名分)は1800円。電子チケットぴあ(Pコード:764-248)、ローソンチケット(Lコード:38108)、イープラスなどで7月12日から8月15日までの期間限定発売。 販売は終了しました 東京国立近代美術館日本経済新聞社 旭硝子NECトヨタ自動車日興コーディアル証券日本興亜損害保険 京都国立近代美術館:2010年11月2日(火)~12月12日(日)
建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション
概要 世代もタイプも異なる7組の日本の建築家たちが、新作インスタレーションを展示します。「建物」をつくるときとは異なる条件の中で彼らが頼るもの。それはきっと、建築家として鍛え上げてきた、論理(ロジック)と技術(テクニック)と感性(エステティック)のバランスがとれた思考方法となるでしょう。このバランス感覚に長けているからこそ、現在、日本の建築は世界的に注目されていると言えます。そして、もしそうしたところに「建築」の特徴があるのだとすれば、建築を考える際に重要なのは、「建築とはなにか」を問うことではなくて、どこにどのような形で建築が現われてきているかを捜すことではないでしょうか。 三種類の多面体でつくられた空間、「空間」が生滅する場、動物にも見える東屋(あずまや)、模型の一日を見せる映像空間、繊細(フラジャイル)な構造体、スケール感覚が不思議な広場など、多種多様なインスタレーションを通して、建築はどこにあるのか、ぜひ捜してみてください。 展覧会のポイント! 7組の建築家による展覧会 新作インスタレーションを展示 作品の写真撮影もOK(条件付) 開催は当館のみ 開館中に会場内でダンスを上演予定 カタログなど印刷物は中島英樹がデザイン 作家紹介 各建築家の略歴や、今回の作品についての企画者によるコメントは、特設サイトでご覧いただけます。⇒WORK IN PROGRESS 伊東豊雄 (1941 - )鈴木了二 (1944 - )内藤廣 (1950 - )アトリエ・ワン (塚本由晴:1965 - /貝島桃代:1969 - )菊地宏 (1972 - )中村竜治 (1972 - )中山英之 (1972 - ) 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2010年4月29日(木)~8月8日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日[2010年5月3日、7月19日は開館]、5月6日(木)、7月20日(火) 一般 850円(600円) 大学生450円(250円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 ※本展の観覧料で、当日に限り「いみありげなしみ」(ギャラリー4、2F)と所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 東京国立近代美術館 East Fiveinter.office | hhstyle.com有限会社落合製作所光学電子株式会社大光電機株式会社田原スチール筑波大学貝島桃代研究室東京工業大学塚本由晴研究室neu furniture works(株)藤野造園北越紀州製紙株式会社間藤構造設計事務所株式会社ユニオン カタログ目録情報 【NEW!】 カタログ入荷しました!!ショップにて好評発売中!!! 豊富なインスタレーション・ヴューの他、下記も収録。1500円 出展建築家へのアンケート「建築と展覧会」/写真「建築家と仕事場」 エッセイ「建築はどこにあるの?」保坂健二朗(当館研究員)/「建築物とインスタレーションの離接運動」南後由和(東京大学大学院情報学環助教) *郵送でもご購入いただけます。購入方法についてはこちら イベント情報 講演会 菊地宏日程: 2010年5月29日(土)時間: 14:00-15:30 中山英之日程: 2010年6月5日(土)時間: 14:00-15:30 アトリエ・ワン日程: 2010年6月12日(土)時間: 14:00-15:30 伊東豊雄日程: 2010年7月3日(土)時間: 14:00-15:30 鈴木了二日程: 2010年7月17日(土)時間: 14:00-15:30 中村竜治日程: 2010年7月24日(土)時間: 14:00-15:30 内藤廣日程: 2010年7月31日(土)時間: 14:00-15:30 ※いずれも講堂(地下1階)にて。聴講無料。申込不要(着席140名、当日朝10:00より整理券を配布します) ダンス・パフォーマンス(内藤廣の作品の中で、ダンス・パフォーマンスを行います)日程: 2010年6月4日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年6月13日(日)15:00-15:15 / 16:00-16:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年6月18日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年7月9日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 梅田宏明 日程: 2010年7月10日(土)15:00-15:15 / 16:00-16:15 梅田宏明 日程: 2010年7月11日(日)15:00-15:15 / 16:00-16:15 梅田宏明 日程: 2010年7月23日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年7月25日(日)15:00-15:15 / 16:00-16:15 じゅんじゅんSCIENCE ※参加無料(要観覧券)、申込不要※入場を制限することがあります 特別ダンス公演 in 赤縞じゅんじゅんSCIENCE、山中透(音楽家) 日程: 2010年7月31日(土)時間: 18:00-20:00場所: 企画展ギャラリー (1F) *この公演のチケットが必要です 演出・振付:じゅんじゅん出演:エノモトユキ、キムミヤ、小山まさし、清水良憲、西舘典子、久井麻世、じゅんじゅん 18:00 開場 *担当学芸員によるガイドツアーあり *開演まで「建築はどこにあるの?」展 観覧可19:00 開演 *通常10分に対して、ロングバージョンのダンスを予定 *生演奏つき(ダムタイプの音楽監督であった山中透氏)19:30 終演19:40 アフタートーク (内藤廣+じゅんじゅん+山中透)20:00 終了 *公演終了後、公演および展覧会についてのアンケートにご協力いただきます。アンケート結果は、当館のウェブサイトで、匿名により公開することがあります。 ■チケット 前売 1000円 売り切れました 当日 1200円 満員御礼にて当日券の予定もありません *自由席になります(立席となる場合もあります) ■チケット取扱 アンクリエイティブ 03-5458-0548(平日11:00-18:00) イープラス(e+) http://eplus.jp/ JCDNダンスリザーブ http://dance.jcdn.org/ 東京国立近代美術館チケット売場 販売を終了しました ■この公演に関するお問合せ アンクリエイティブ 03-5458-0548(平日11:00-18:00) 担当学芸員によるギャラリートーク日程: 2010年5月21日(金)時間: 18:00-19:00保坂健二朗(当館研究員) 日程: 2010年6月19日(土)時間: 14:00-15:00保坂健二朗(当館研究員) ※いずれも会場にて。参加無料(要観覧券)。申込不要
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権鎮圭展
権鎮圭(クォン・ジンギュ、1922~1973)は韓国近代彫刻の先覚者として高く評価されています。 権鎮圭は、1950年代に武蔵野美術大学の前身である武蔵野美術学校で学び、二科展で受賞するなど、日本の彫刻界と非常に関係の深い作家ですが、リアリズムを基調としつつ孤高の精神性をたたえたその作品は、残念ながら、日本ではまだほとんど知られていません。本展は武蔵野美術大学会場と合わせて、日本で初めて権鎮圭の彫刻の全貌を紹介する展覧会となります。 この展覧会は、東京国立近代美術館・武蔵野美術大学美術資料図書館・韓国国立現代美術館が共同で調査研究・企画・立案にあたり実現しました。 東京国立近代美術館(ギャラリー4、2F)と武蔵野美術大学美術資料図書館の2会場で同時開催したのち、韓国国立現代美術館(徳寿宮美術館)に巡回します。 ここが見どころ ■日本時代の作品を含む、権鎮圭のほとんどすべての作品は、今日では韓国の美術館・財団・個人コレクション等に収まっています。今回、新たに日本・韓国で発見された作品もあわせ、その全貌に迫ることが可能となりました。 ■日本では、東京国立近代美術館(ギャラリー4、2F)と武蔵野美術大学美術資料図書館の2会場で同時開催します。 ■東京国立近代美術館では、第38回二科展で特待を受賞した《騎士》(1953年)や、1968年の個展の際に当館に寄贈された《志媛》(1967年 原題『愛子』)、 《春葉尼》(1967年)を中心に、精選した彫刻作品(テラコッタ・レリーフを含む)約30点と水彩・素描などを展示します。 ■武蔵野美術大学美術資料図書館では、約100点の作品により、多様な展開の全貌を紹介します。武蔵野美術大学会場について 開催概要 東京国立近代美術館 ギャラリー4 2009年10月10日(土)~12月6日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日[10月12日(月・祝)、11月23日(月・祝)は開館]、10月13日(火)、11月24日(火) 一般 420円(210円) 大学生130円(70円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 ※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。※キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。 ※本展の観覧料で、当日に限り所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 【無料観覧日】11月1日、12月6日 [第一日曜日]11月3日(火) [文化の日]11月12日(木) [天皇陛下御在位20年慶祝行事] 東京国立近代美術館武蔵野美術大学美術資料図書館韓国国立現代美術館 駐日韓国大使館 韓国文化院 社団法人 權鎭圭紀念事業會 JINRO戸嶋靖昌記念館Gana Art Gallery HITE 文化財団釜山空間画廊i-studio 武蔵野美術大学美術資料図書館:「武蔵野美術大学80周年記念 権鎮圭」2009年10月19日(月)~12月5日(土) 韓国国立現代美術館(徳寿宮美術館):2009年12月22日(火)~2010年2月28日(日)
記録の対位法、記憶のポリフォニー ——「記録をひらく 記憶をつむぐ」展を聴くように観る
もし19世紀ロシアの作曲家ムソルグスキーが、時空を越えて2025年の東京に舞い降り、東京国立近代美術館で開催中の「記録をひらく 記憶をつむぐ」展に足を踏み入れたなら——きっと、目の前の作品群から新たな組曲《展覧会の絵》を編み上げたことだろう。プロムナードの旋律を思い浮かべながら、筆者も9月下旬の澄みわたる午前、美術館の扉を押した。 戦後80年の節目に企画されたこの展覧会は、戦争美術コレクションを軸に、写真や文学を交えて作品やジャンルを響き合わせ、戦争の記憶を多声的に紡ぐ壮大な試みである。7月15日の開幕以来、口コミやSNSで評判が広がった。筆者が訪れた日も、平日とは思えぬ長蛇の列が開館前から伸び、入口のバナー前では、カメラを構える来館者の姿も目立った。 そのバナーを飾るのは、松本竣介の《並木道》(1943年)[図1]。青緑の光に包まれた道を、一人の人物がゆっくりと歩む。旗も銃声もなく、ただ静けさが広がる。戦争の最中に描かれたとは信じがたいほどの穏やかさが、かえって時代の異様さを際立たせる。 図1 松本竣介《並木道》1943年、東京国立近代美術館蔵 この絵は、「絵画は何を伝えたか」と題される第1章の後半に置かれている[図2]。直前には、戦場の叫びが聞こえそうな陸軍省ポスター《撃ちてし止まむ》や、空中戦の緊迫感を描いた御厨(みくりや)純一《ニューギニア沖東方敵機動部隊強襲》が並び、戦意高揚の大合唱が展示空間を満たしている。そんな喧噪のなか、《並木道》はまるで静かな休止符のように浮かび上がる異質な声部であり、その無言の旋律に、筆者は戦争の轟音の合間でかすかに響く、救いの音を聞いた思いがした。圧迫的な戦意の波のなかで、ほんの一瞬、人間性の回復を感じさせる静かな呼吸のような存在が、ここにあったのである。 図2 会場風景|1章 絵画は何を伝えたか|撮影:木奥惠三 そして、満洲観光史を研究する筆者が深く惹きつけられたのは、第2章「アジアへの/からのまなざし」であった。戦前のアジアは、日本人にとって植民地であり、戦場であり、同時に観光地でもあった。その多層的な現実は、展示空間の配置にも表れている。戦場を描いた戦争画のすぐ隣に、同地域の風景画や南満洲鉄道株式会社(満鉄)のガイドブック、満洲観光聯盟の絵はがきが並ぶことで、戦争と観光が交錯し、互いに響き合う二重のリズムを生み出す。観光の軽やかな旋律の背後に、戦争という重い和音がひそむことに気づかされ、観る者はその複雑で微妙なハーモニーに引き込まれるのである。 とりわけ印象的だったのは、画面の大半を秋空の青が染め上げる、梅原龍三郎の《北京秋天》(1942年)である[図3]。この絵を目にした瞬間、筆者はどこか既視の感覚に包まれた。拙著『帝国と観光』の表紙にも用いた、1936年以前に満鉄が制作したポスター《開け行く大陸 鮮満の旅》(画・岡吉枝)も、同じ青空を描いていたのである1。 図3 会場風景|2章 アジアへの/からのまなざし|(右)梅原龍三郎《北京秋天》1942年、東京国立近代美術館蔵|撮影:木奥惠三 では、この「青空」はいったい何を意味するのだろうか。「明朗朝鮮」「明朗満洲」「明朗北支」といった戦前の新聞や雑誌で多用された「明朗」という言葉と呼応するかのように、青空は、旧政権の「暗黒」を払い、日本軍による治安回復や「善政」の光を象徴する政治的隠喩として描かれていたと考えられる。梅原が「何だか音楽をきいているような空」と記したその感覚には、日本軍の凱旋曲を思わせる旋律がかすかに漂い、支配民族としての日本人の心理的・政治的感覚を映すかのように、快適で明朗な空気として心に沁み入っていたのであろう。 ふと筆者の脳裏に、1943年、中国共産党の支配下にあった抗日根拠地(解放区)で生まれた歌曲「解放区的天」の冒頭がよみがえった。のちに1964年初演の大型革命舞台劇『東方紅』にも収録され、広く人口に膾炙(かいしゃ)したこの歌は、「解放区の空は明朗な空……共産党の恩情は語り尽くせない」と歌い上げる。戦火を隔てた敵と味方——日本と中国——の間にあっても、「明朗な空」は両者に共通するモチーフとして立ち現れ、それぞれの政権を讃える象徴的アイコンとして機能していたのである。 あれこれの記憶や連想が交錯する思いを抱きつつ展示室を後にすると、ムソルグスキー《展覧会の絵》の終曲「キエフの大門」の旋律が、胸の奥でふとよぎった。大小さまざまな鐘の音が折り重なりながら鳴り響く——まるで、記録の対位法と記憶のポリフォニーを体現する本展の構造そのもののようである。その響きは、遠くウクライナ——「キエフの大門」の地——で今なお轟く砲声と呼応し、キャンバスの内外に刻まれた記録と記憶の重みを、私たちの胸に深く問いかけ続けている。 註1 高媛『帝国と観光——「満洲」ツーリズムの近代』(岩波書店、2025年)107–108頁参照
アーティスト・トーク 第34回|石川真生
制作拠点とされている沖縄に伺って、写真家の石川真生さんにお会いしてきました。2024年度に当館で収蔵したシリーズ「基地を取り巻く人々」(1989年~)を中心に、撮影時のエピソードや創作にかける意気込みについてお話しいただきました。 収録日:2025年6月9日 インタビュアー|成相肇、小林紗由里(東京国立近代美術館) 撮影|渡辺俊介 監督|宮澤響(COG WORKS) 協力|東京オペラシティアートギャラリー、柿島貴志(POETIC SPACE)、亀海史明(沖縄県立博物館・美術館)、東松泰子(INTERFACE-Shomei Tomatsu Lab) 企画・制作|東京国立近代美術館 https://www.youtube.com/watch?v=PdV8EGRDaa0&list=PLB9Kbit3hipeFr38pLOqF_n6aY9SMcowf
いま、RAUSCHENBERG100を祝すということ
2025年はロバート・ラウシェンバーグの生誕100年ということで、世界各地で記念展示が行われている。開催地はやはりアメリカが多いが、香港のM+も11月から「Robert Rauschenberg and Asia」という展覧会を開く。日本にも縁の深かったこの作家について、今回の関連展示が行われたことは、率直に喜ばしい。ただ、今年は終戦80年でもあり、企画展では戦争記録画の数々が、常設展の別室では「コレクションにみる日韓」や石川真生の〈基地を取り巻く人々〉シリーズが展示され、この節目において意義深い作品が目白押しである。 図1 会場風景|所蔵作品展 MOMATコレクション「ジャンクとポップ」|撮影:柳場大 全体的なトーンからは浮いて見えかねない「ジャンクとポップ」のセクションだが、その構成は、いま「RAUSCHENBERG100」を日本で祝す意味を肯定的に考えさせるものとなっていた[図1]。所蔵品を中心とする展示のため、ラウシェンバーグの作品は段ボール彫刻《ポテト・バッズ》[図2]とリトグラフ《アクシデント》の2点のみである。だが同じ壁面にジャスパー・ジョーンズの《デコイ》や、小島信明の《ボクサー》、中西夏之の《コンパクト・オブジェ 沈む鋏》、菊畑茂久馬の《ルーレット》など、1960年代に既存のオブジェや廃材などを利用して新しい表現を切り開いた作家たちの作品が並び、アメリカのネオダダとのやや緊張感を孕んだ親和性を感じさせる。 図2 ロバート・ラウシェンバーグ《ポテト・バッズ》1971年、東京国立近代美術館蔵 また本展では丁寧な資料展示を通して、ラウシェンバーグの領域横断的な活動がよく分かるようになっていた。まず、段ボール彫刻の近くに置かれたケースには、1964年に彼が初来日した際に草月会館で公開制作した《ゴールド・スタンダード》や、その壇上に持ち込まれた篠原有司男による《コカコーラ・プラン》の「イミテーション」図版などが配され、当時の雰囲気をよく伝えている。もう一つのケースでは彼が1980年代に立ち上げた国際交流プロジェクト、ROCI(Rauschenberg Overseas Culture Interchange)の関連資料や日本での展示写真を見ることができる。 もう一つのハイライトは、1980年代に「ジャンクとポップ」の感性を引き継いだ大竹伸朗や日比野克彦による、いま見てもみずみずしい作品群だろう。大竹が大のラウシェンバーグ好きであることは有名だが、今回の展示では日比野の作品がとりわけ新鮮に映った。それは段ボールという素材がラウシェンバーグと共通するからだけではない。当時ラウシェンバーグの段ボール彫刻は日本ではほとんど紹介されておらず、日比野がそれを参照した可能性は低いと思われる。両者のより本質的な共通項は、どのような素材にも表現の可能性を見出す軽やかな感性や、未知の領域に踏み出すオープンな姿勢ではないかと感じた。 日比野がコニカのテレビコマーシャルで見せるヴィデオ・パフォーマンスでは、ストリートダンスのような彼の動きと、その手から湧き出るようにして描かれる線描とが、当時最新のデジタル技術を用いて組み合わされており、ラウシェンバーグが1960年代に行ったパフォーマンスや、1970年代にE.A.T.(Experiments in Art and Technology)で制作した作品群を思わせる。また日比野も地域コミュニティや生きづらさを抱える人々とのプロジェクトを先駆的に手がけてきたことを考えると、この二人は芸術表現の可能性を背景の異なる他者へと開いて対話を促すという、外に向かうベクトルも共有していると考えられる。 実は、ラウシェンバーグのROCIは、当時本国アメリカでは評判があまり良くなかった。ポスト植民地主義の時代に、アメリカの大物作家が共産主義国や独裁国家にわざわざ出向いてモダンアートの価値を伝える(しかも自分の個展を通して)というコンセプトは、まさに帝国主義的と批判されたのだ。だが私が実際に聴き取りをした中国やキューバの作家たちは、口を揃えて、情報が遮断されていた時代に西側世界の現代美術を見せてくれたラウシェンバーグに感謝していると述べていた。「You cannot avoid liking Rauschenberg」と1。 図3 日比野克彦《RED HIGH HEELS》1982年、東京国立近代美術館蔵 今回の展示で一番心に残ったのは、日比野が1982年に制作したパルコのポスター(原画:《RED HIGH HEELS》[図3])に描かれた犬と、ラウシェンバーグが《ゴールド・スタンダード》に用いた「ビクターの犬」との共鳴だ。赤いハイヒールを履いて、なんとも愛らしい微笑みを浮かべるパルコの犬と、首をかしげて蓄音機から流れてくる亡き主人の声に聴き入っているとされるビクターの犬。彼らは、どちらも他者に向き合うことをごく当たり前のこととして、そこにいるようだ。ここに二人の共通点がもう一つ確認できるとともに、絶望的なことも多く起こる世界の中で、それでも他者とつながろうとすることの大切さをあらためて見る思いがする。「RAUSCHENBERG100」を、いまこそ祝す所以だ。 註 1 キューバの作家、グレクシス・ノヴォアの言葉。2016年3月4日のスカイプ・インタビューより。詳しくは以下の拙稿を参照されたい。Hiroko Ikegami, “‘Art Has No Borders’: Robert Rauschenberg Overseas Interchange,” in Robert Rauschenberg (Tate Modern and Museum of Modern Art, New York, 2017), pp. 340–349.
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個人寄附会員制度(MOMAT DONORS’ CLUB)開始のお知らせ(2025.12.1)
東京国立近代美術館では新しい個人寄附会員制度「MOMAT DONORS’ CLUB(略称:MDC)」を2025年12月1日から開始いたします。 MDCの詳細はこちらからご覧いただけます。
