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90年代の韓国美術から − 等身大の物語

東京国立近代美術館では1968年に「韓国現代絵画展」を開催しています。 それは、美術の「国際化」という趨勢のなかで韓国の現代絵画の状況を 紹介したものでしたが、それから四半世紀、西欧近代をスタンダードな ものとする世界観への見直しから、民族や地域に固有の文化の多様性を 認めつつ、その共生を図ろうとする時代を迎えています。

この間、70年代には、固有の自然観に基づいた韓国のモノクローム絵画 が、同時代の美術として広く国際的な評価を得ています。しかし80年代 には、そうしたモダニズムを批判して、社会的現実に深くかかわってゆ こうとする「民衆美術」運動が展開されました。そして、90年代の韓国 の美術は拡散的に多様化していると言えましょう。そのなかに、70,80 年代の美術動向をふまえ、それぞれの生活に根ざしつつ、生活への愛着 と思いを自覚的に外部に対しても開いてゆこうとする作家たちがいます。 ここに紹介する14人の作家たちは、「近代的」あるいは「伝統的」といっ た枠組みにとらわれることなく、それぞれの生活のなかで出会う事物と の対話に立ち返っているように思います。

生活への愛着と思い、それを自明のこととせず、外部に対して開いてゆ くかれらの身振り、言葉以前のところから始められる等身大の語り口に は、共生という新たな価値への身をもっての模索を感じとることができ ます。


出品作家のプロフィール

(アルファベット順)
炳 雨 BAE Bien-U(ベー・ビョンウ)
1950年全羅南道の麗水(ヨス)に生まれる。弘益大学校美術大学(ソウ ル)視覚デザイン科修士修了(写真専攻)。1988年ドイツ、ビーレフェ ルト大学写真デザイン科に1年間研究留学。最初グラフィック・デザイ ンを学んでいたが、モホリ・ナジの影響で写真をはじめ、韓国南海岸の 島々を巡り、波、岩、雲などのモチーフを撮る。1988年ドイツ留学の前 後から、韓国人の共同体意識の中にある叡智を追求することを目指しは じめ、「朝鮮半島の背骨である太白山脈の血であり肉である」と自ら語 る松の木をモチーフにした仕事を続ける。ソウル在住。

鄭廣鎬 CHEONG Kwang-Ho(チョン・カンホー)
1959年に生まれる。ソウル大学美術学部卒業。これまで個展を主に活動 を続け、かたわら多くのグループ展に参加している。たとえば葉脈の見 える葉を銅線で、「千字文」の文字部分だけを真鍮で表す、というのが 鄭廣鎬の作品である。それは彫刻なのだが、いわばものの骨格だけを彫 刻化した「非-彫刻的な彫刻」といえるものである。大田(テジョン) 市在住。

諸如蘭 JE Yeo-Ran(チェ・ヨーラン)
1960年ソウルに生まれる。弘益大学美術学部絵画科、同大学院を卒業。 インゴン・ギャラリーでの個展を中心に活動。諸如蘭の絵は、黒を基調 とするモノトーンの画面のなかに、判然とはしないイメージが沈んでい るもので、言葉と理性をこえて、感性のみなもとへとさかのぼりながら、 新たな表現の地平を求めるものである。京畿道の安養(アンニャン)市 在住。

金浩得 KIM Ho-Deuk(キム・ホードック)
1950年慶尚北道の金泉(キンチョン)に生まれる。ソウル大学美術学部、 同大学院を卒業。現在、領南大学美術学部で教える。金浩得は、山・谷・ 花・人などをテーマに、ほとんどミニマリズムに近いところまで筆墨の 世界をつきつめた韓国画の様式の絵を描いている。それは、現われるも の(性)と現わすもの(気)との相互作用を本質とする絵画である。大 邱(テグ)市に在住。

金洪疇 KIM Hong-Joo(キム・ホンジュ)
1945年に生まれる。弘益大学美術学部、同大学院を卒業。かれの絵画に は、何気ない田園風景や植物といった日常的な事物が描かれているが、 そこには常に、わたしたちが持ちがちな固定観念に対する批判的な視角 があり、それは80年代なかば以降、余白を際立たせた鳥瞰図的な風景画、 遠近法を無視したイメージの平面的な羅列、写真やシルクスクリーンの 導入などによって推し進められてきた。平凡な事物を改めて見直させ、 考えさせながら、現実的でもあり非現実的でもある独自の世界を作って いる。大田(テジョン)市在住。

金鍾鶴 KIM Jong-Hak(キム・チォンハク)
1954年ソウルに生まれる。ソウル大学美術学部、同大学院を卒業。1989― 91年パリ国立高等美術学校に学ぶ。かれの絵画の試みは、幾度かの大き な転換を経た後、89年からのパリ滞在を直接の契機として、現在のスタ イルを確立した。パリの街角でよく見られる、ポスターが幾重にも貼り 重ねられて分厚くなったものを支持体として用い、そこに著しく拡大さ れた果物などのイメージを顔料によって描く。ソウル市在住。

金明淑 KIM Myung-Sook(キム・ミョンスク)
1960年忠清南道の瑞川に生まれる。梨花女子大学西洋画科卒業。現 University of Houston Painting Master課程修了。森、人物といった 題材をミクスト・メディアにより描く非常に大きなドローイングを制作 する。重くて鈍い感じのタッチと抑えられた色彩によって、日常的な素 材を、日常ならざる不思議な雰囲気のなかにあらわす。

金守子 KIM, Soo-Ja(キム・スージャ)
1957年慶尚北道の大邱(テグ)に生まれる。弘益大学美術学部絵画科、 同大学院を卒業。1984―85年、パリ国立高等美術学校で石版画を学ぶ。 世界各地で発表活動を展開している。布を素材にして、平面からインス タレーションまで手がける金守子の作品は、色彩と柄をもつ布類からな る造形物であるとともに、彼女自身、母親、そのまた母親へとつながる、 ひとつの「生」の物語である。ソウル市に在住。

李英培 LEE Bae(イー・ベー)
1956年慶尚北道の清道(チョンド)に生まれる。弘益大学西洋画科、同 大学院卒業。ヨーロッパ的な絵画の伝統上で仕事をしながらも、自分に 固有のマチエールを模索する中で、韓国の伝統につきものの煤と同系で ある炭を用いることに行きついた。現在ヨーロッパと韓国の両方で発表 活動を続けている。1990年以来パリに在住。

厳貞淳 OUM Jeong-Soon(ウム・ジョンスン)
1961年生まれ。梨花女子大学美術学部西洋画科卒業。1983―88年ミュン ヘン美術大学および同大学院修了。身辺の物を燃やした灰や食用油といっ た生活に関わる素材を用いることで、自己の生と芸術とのつながりを模 索する一方、ヨーロッパの絵画の伝統を正統なかたちで着実に受け継ぎ 安定感のある様式を作り上げている。ソウル市在住。

朴仁哲 PARK In-Churl(パク・インチョル)
1953年生まれ。ソウル大学美術学部卒業。1983年パリ国立装飾美術学校 卒業。1988年デュッセルドルフ・クンスト・アカデミー卒業。世界各地 を放浪の後、現在は主としてドイツとソウルに住む。壁を鉄板によって おおった部屋に、骨やドライ・フラワー、セメントなどを収めた人物大 の箱をすえ、周囲には木製のオブジェを焼いたものを配するインスタレー ション作品を出品。

禹順玉 U Sun-Ok(ウー・スンノク)
1958年京畿道の仁川(インチョン)市に生まれる。梨花女子大学美術学 部、同大学院卒業。デュッセルドルフ芸術アカデミー卒業。ドイツでは ギュンター・ユッカーの助手を務めた。帰国して、現在は梨花女子大学 美術学部専任講師。禹順玉は、物質性と非物質性を対比させることで 「物質」を全体的に表現しようとしてきた。そして最近は、子宮内部の ような空間のなかに「暖かい壁」を作りだし、観客がそれに触ることで 自分の起源(母の胎内)についての問いかけを始める、そういう作品を 制作している。ソウル市在住。

劉明均 YOU Maeung-Gyun(ユー・ミュンギュン)
1962年慶尚南道の釜山(プサン)に生まれる。釜山大学美術教育科卒業。 日本にきて長く滞在し、多摩美術大学大学院を卒業。劉明均は FRPを主 材料にして人体のような塊の寄り集まりを作りあげ、身体の奥底に古代 から脈々と流れている生命の本質を、形を通して表現しようとしている。 それは、外形ではなく、いわば内側の形、にほかならない。釜山(プサ ン)市に在住。

尹錫男 YUN Suk-Nam(ユン・シォクナム)
1939年満州の奉天に生まれる。父親は映画監督。英文学を学んだ。結婚 して子供を育てる。1983年、渡米してニューヨークのプラット・インス ティテュート・グラフィック・センターやアート・スチューデント・リー グで美術を学んで、帰国。本格的な作家活動に入る。尹錫男は、親、子、 家族の姿を、洗濯板や木に描き、刻んだものを空間のなかに配置するこ とで、血縁や家族のなかにおける女性(母親)のあり方を表現する。そ れは自己への遡航であり、人と人との関係についての問いかけでもある。 ソウル在住。


展覧会概要

タイトル: 90年代の韓国美術から ― 等身大の物語
            An Aspect of Korean Art in the 1990s

会期・会場: 東京国立近代美術館
             平成8年9月25日(水) ― 11月17日(日)
	     [国立国際美術館に巡回(12月5日(木) 
                   ― 平成9年1月26日(日))]
       月曜日休館(ただし、11月4日は開館、11月5日は休館)
             午前10時―午後5時(入館は4時30分まで)
主催:       東京国立近代美術館・国立国際美術館
後援:       駐日韓国大使館
助成:       国際交流基金

観覧料:     一般		790(650)円
             高校生・大学生	450(330)円
             小学生・中学生	330(180)円
* ()内は20名以上の団体料金
* 無料観覧日11月3日(日)

お問い合わせ:NTTハローダイヤル03―3272―8600

担当:       市川政憲・千葉成夫・中林和雄
写真等の資料請求:普及係 内川・大谷(和)
                  Tel 03-3214-3271
                  Fax 03-3213-1340