[HOME] [UP] 年間展覧会スケジュール Click me!

    辰野登恵子  1986−1995



       TOEKO TATSUNO  1986−1995

 もう20年以上も前のことだが、美術史上において絵画という形式はすでに行きづまり、終焉を迎えているという論説がまことしやかに唱えられたことがありました。キャンバスなり紙なりの支持体に顔料をのせただけの絵画に、もはや新たな表現はのぞめないではないか、というのが絵画を時代おくれとする主要な理由でした。時あたかもコンセプチュアル・ア−ト(概念芸術)の隆盛期であり、美術という制度ないし存在の根拠そのものを問いかけるような、概念過多の作品が横行していました。やや大げさな言い方かもしれませんが、その当時、絵画を志すというだけで白い目でみられ、現代の錯綜する状況にたいしてあまりに無自覚との謗(ソシ)りを免れがたかったのです。

 1970年代に絵画ないしは平面作品に取り組むというのは、だから、それだけ勇気のある行動でした。そして、こうした勇気が正当に報われるということもあまりなかったのです。とりわけわが国の現代美術において致命的だったのは、絵画の本質をめぐる真摯な論議がほとんどなく、若い画家たちはただ感覚にまかせて闇雲に描きつづけるしかなかったという点です。むろん、例外がなかったわけではありません。1970年代後半から一貫して「平面」にこだわってきた辰野登恵子の場合は、そうした数少ない例外のひとつといえるでしょう。

 1970年代に描きはじめた、わが国の多くの画家がそうであったように、辰野登恵子もまた、造形的には、表現手段を最小限に抑えたいわゆるミニマル・ア−トの、概念的には、コンセプチュアル・ア−トの洗礼を受けます。この頃の作品には、頭の中にしかない観念の線と、現実の線との差異に基づいた理知的かつ繊細な表現が多くみられます。しかしながら、いかにも非凡なことには、彼女はそうした禁欲的な制作に疑問を感じ、ひとつの境地に達しつつあったそのミニマルな画面を、自らの手で破壊し、いまいちど絵画の根源的な問題に立ちかえることになります。

 「描く」とは何か、その問題とはつまるところこうしたものであり、絶対的な解答といえるものはむろんありません。しかし、「描く」からにはこの問を避けてとおることはできません。いったい何を描くのか、描くことによってなにが明らかになるのか、画面にイメ−ジが定着するとすればそれはどこからやってくるのか・・・・・・。辰野の場合、描くにつれてどうにも去来してやまない幾つかの中心的な形態があるようにおもえ、その一方で、画面の背景むしろ深層は回復しがたいまでに錯綜したものになります。こうして、記憶の国から、あるとき不意にやってくる具体的な形は予想もしない混沌のうちに取りこまれてしまうのです。定まったものと、定まりえないものとの対立的な共存、その緊張感。これこそは辰野の画面の本質ともいうべきものであり、そこでは色と形、光と闇、表面と奥行きのすべてが生きており、おたがい自らの生を賭して張りあっているのです。

 本展覧会は、現代美術の分野においてもっとも本質的な仕事をなしつつある画家のひとり、辰野登恵子の近作および新作、約40点によって構成され、今日における絵画の状況をいまいちど問いかけようとする意図のもとに企画されたものです。


『作品が「立つ」ということは、無から有が現成しているような事態である。平面絵画

は、摩訶不思議な顔料と筆を介しての、無からの創造、「立てる行為」である。内容あ

る有を生むその行為がどれほど至難のワザであるかは、至難が乗り越えられた時、なに

よりも作品が力をもって迫ってくることで証明されてきている。・・・・・・・・・』

                                   辰野登恵子
                 個展カタログ(ギャラリ−米津,1991年3月)より

[TOP]
                         展覧会概要


        展覧会名:辰野登恵子    1986-1995


        会  期:1995年9月15日(金)−10月22日(日)
                  月曜日休館
                  午前10時−午後5時<入場は午後4時30分まで>


        会  場:東京国立近代美術館
                  北の丸公園/地下鉄東西線竹橋駅下車(1b出口)


        主  催:東京国立近代美術館


        観 覧 料:    一般                    400円(200円)
                        高校生/大学生          130円( 70円)
                        小学生/中学生           70円( 40円)
                        *()内は20名以上の団体料金
                        *第1日曜日・第2、第4土曜日は無料

                                                           
        担  当:本江 邦夫,尾崎 正明,大谷  省吾


        写真等の資料請求:普及係    近藤,大谷
                          TEL:03(3214)2561(代表)
                          FAX:03(3213)1340


[TOP]
          辰野登恵子 略歴

1950年 長野県岡谷市に生まれる。
1972年 東京芸術大学美術学部卒業。
1973年 初個展(村松画廊、東京)、以後、個展多数。
1974年 東京芸術大学大学院修了。
1974-75年 東京芸術大学美術学部助手。
1978年 アート・ナウ '78(兵庫県立近代美術館)出品。
1979年 第11回東京国際版画ビエンナーレ(東京国立近代美術館)出品。
1980年 ART TODAY '80 絵画の問題展(西武美術館)出品。
1984年 第4回ハラ・アニュアル(原美術館)出品。
1984年 メタファーとシンボル展(東京国立近代美術館他)出品。
1987年 ファビアン・カールソン・ギャラリー(ロンドン)、アート・ナウ・ギャラリー    (イェーテボリ)で個展。
    第18回現代日本美術展・企画部門:絵画の展望−平面と空間(東京都美術館他)    出品。
    絵画 1977-1987展(国立国際美術館)出品。
1989年 ユーロパリア '89 ジャパン(ゲント市立現代美術館)出品。
1990年 個展(後藤美術館、松戸)。
    ミニマル・アート展(国立国際美術館)出品。
    ジャパン・アート・トゥディ(ストックホルム文化センター他)出品。
1992年 千代田御茶の水ビルに壁画を制作。この300号2点組の作品<UNTITLED 92-10>、    <UNTITLED 92-11>は本展にも出品される。
1994年 戦後日本の前衛美術(横浜美術館、グッゲンハイム美術館ソーホー他)出品。
    第22回サンパウロ・ビエンナーレに遠藤利克、黒田アキとともに出品(コミッシ    ョナー:本江邦夫)。
1995年 日本の現代美術 1985-1995(東京都現代美術館)出品。
    絵画考−器と物差し(水戸芸術館)出品。
    視ることのアレゴリー(セゾン美術館)出品。

[TOP]