東京国立近代美術館
The National Museum of Modern Art, Tokyo
Shigeru AOKI and Romanticism in Modern Japanese Art

青木繁と近代日本のロマンティシズム

青木繁にはじまる創造の水脈
  ― 中村彝、村上華岳、村山槐多、関根正二ほか
《海の幸》(1904年) 
石橋財団石橋美術館所蔵 重要文化財
青木 繁《海の幸》(1904年)
石橋財団石橋美術館所蔵 重要文化財

 本展は、明治浪漫主義の旗手と謳われた青木繁の画業を見直す、20年ぶりの青木繁展です。「文明開化」をかかげた明治の日本は近代化を推進しましたが、急激な西洋化は文化の混乱を招きました。しかし、世界のなかに船出したこの島には、世界のさまざまな異文化のかけらが流れ着き、それらが流れ込んだ文化の深みでは、豊かな混沌が渦巻いていました。この混沌を創造の活力として若い想像力を開花させた最初の画家が、青木繁であったと言えるのではないでしょうか。
 本展では、約80点の青木の作品とともに、さまざまな文化が流れ込んだ見えざる水脈に創造の源泉を見い出した、その後の作家たちの作品をあわせて展示します。青木繁の《海の幸》や《わだつみのいろこの宮》をはじめとする重要文化財7点を含む、約140点の作品を通して、美術史上の流派をこえたロマンティックな精神の水脈をさぐります。

<主な出品作家> 青木繁、(よろず)鉄五郎、中村(つね)、村上華岳、村山槐多(かいた)、関根正二ほか

−青木繁の生涯−
 青木繁(1882−1911)は明治32(1899)年、画家を志して福岡・久留米から上京し、小山正太郎の不同舎に入門、翌年、新設間もない東京美術学校西洋画科に入学し、黒田清輝の指導を受けました。しかし、黒田の教室よりは、図書館や博物館に通い、古今東西の書物や文物に想像力を駆り立てられた青木は、外光派の絵画におさまりきらない人類への夢を育んでいきました。明治36(1903)年の白馬会展には、《黄泉比良坂(よもつひらさか)》をはじめとする、神話や古代の世界にインスピレーションを得た画稿類を出品し、画家デビューを白馬会賞の受賞で飾りました。
 翌年美術学校を卒業した青木は、その夏、恋人や友人と遊んだ房州布良(めら)の体験をもとに 制作した《海の幸》で、大海原を背景にくりひろげられる神話的な世界を、古代への憧憬 で謳いあげました。《海の幸》は白馬会に出品されるや、当時の美術界に衝撃を与えたの みならず、蒲原有明ら当時の浪漫派詩人たちに歓呼の声で迎えられました。
 しかしこの時を絶頂期に、現実と向かい合うことができなかった画家は、恋人福田たね と愛息との生活をみずからの手で切り開くこともできず、困窮のうちに輝きを失っていき ました。再起を期して出品した《わだつみのいろこの宮》も明治40(1907)年の東京府勧 業博覧会での評価はふるわず、この年開設された文展にもついに登場することはありませ んでした。父の死によって久留米に呼び戻された青木は、福田たねとも肉親とも縁を絶ち、 郷里を放浪して28歳の若さで波乱の生涯を終えました。

■展覧会の構成

※の作品は展示替があります

第1章 神話的混沌
 《黄泉比良坂》など、『古事記』を題材にした作品で世に出た青木繁ですが、その神話世界の表現には、物語の単なる絵解き以上のものがあります。インドの神話や旧約聖書の世界など、広く人類のさまざまな創世の物語を読みあさった青木は、文明開化がもたらした明治の混乱を、神話的な混沌と読み替え、ひとつの始まりを象徴的に表現したのです。

 ◎青木繁 《黄泉比良坂※》、《日本武尊(やまとたけるのみこと)》、《大穴牟知命(おおなむちのみこと)》、他

第2章 海のフォークロア
青木 繁《わだつみのいろこの宮》(1907年)
石橋財団石橋美術館蔵 重要文化財
青木 繁
《わだつみのいろこの宮》
(1907年)
石橋財団石橋美術館蔵
重要文化財
神話を題材とした作品とともに、《海の幸》や海景など、青木繁が描き出す世界には、表現の源泉としてきわだつ海があります。青木ばかりでなく明治後半の絵画には、海が描かれたものが少なくありません。柳田国男の体験に基づき、はるか南方から海流にのって流れ着いた「椰子の実」をうたった島崎藤村の詩が生まれたのも、この頃のことでした。日本が近代国家としての像を結び始めた時代、異文化との関係を仲立ちする海は、民俗の根源の世界として発見されていきました。

 ◎青木繁  《海景(布良の海)》、《わだつみのいろこの宮》〔重要文化財〕
 ◎中村彝  《海辺の村(白壁の家)》
 ◎今村紫紅 《熱国之巻※》〔重要文化財〕、他

第3章 生命礼賛
明治の文学者や美術家のなかには、キリスト教の洗礼を受けた人が少なくありません。その多くは信仰と芸術のはざまで煩悶したのち、自我の欲求のために信仰を捨てることになりました。しかし、キリスト教体験を通じて絶対的なる他者=神という存在を知ったことは、他者に向かい合う個人を基盤とする自画像の誕生の大きな要因になったといえるでしょう。同時にここでは、その一方で、近代的な個人の成立を困難なものにした、汎神論的な生命観に根ざした自我の表象である、子供と樹木のイメージにも焦点をあてます。
関根正二《信仰の悲しみ》(1918年)
大原美術館蔵
関根正二
《信仰の悲しみ》(1918年)
大原美術館蔵

 ◎青木繁  《自画像》、《海の幸》〔重要文化財〕
 ◎萬鉄五郎 《雲のある自画像》
 ◎岸田劉生 《麗子肖像(麗子五歳之像)》
 ◎関根正二 《信仰の悲しみ》
 ◎中村彝  《エロシェンコ氏の像》〔重要文化財〕、他

第4章 恋愛あるいは永遠の女性
明治のなかばに"love"という概念が「恋愛」と翻訳されると、伝統的な男女の関 係には、大きな変化が生じてきました。青木の作品にはしばしば恋人福田たねが 登場します。青木以後、男女間のさまざまな葛藤をはらみながら、他者としての 女性は、時に永遠の女性として表現されました。一方、女性の側からも明治末年 には『青鞜』による女性解放運動が展開され、男性原理が支配した近代化のなか で、女性という新たな他者の存在が、芸術に別の価値観をもたらすことになりま した。

 ◎青木繁  《女の顔》
 ◎岸田劉生 《画家の妻》
 ◎村上華岳 《裸婦図 ※》、他

第5章 古代の発見
19世紀末から、日本でもインドに目が向けられ、岡倉天心もインドに旅立ちます。 日本では仏教を通じた関係で見られがちでしたが、ヨーロッパでは未知の最古の 文明として脚光を浴びはじめたインドに、青木繁は仏教を越えた古代的な関心を 寄せていました。また、世紀のかわりめの前後には、中央アジアの探検調査が進 み、東西文化の交渉が人類史的に解明されたことから、広大な世界の手触りが古 代への憧憬をかきたてました。

 ◎青木繁  《天平時代》
 ◎菱田春草 《賢首菩薩 ※》 〔重要文化財〕
 ◎萬鉄五郎 《裸体美人》  〔重要文化財〕
 ◎村上華岳 《タゴール像 ※》、他

第6章 望郷あるいは晩帰
国家の体制が整うとともに枠にはまっていく近代に異を唱え、人類的な普遍性を 希求した青木繁でしたが、社会的な個人として未成熟であったがゆえに、晩年に はすべてを失って故郷を放浪することとなりました。その青木の目に映ったもの は、一日の労働を終えて夕べの休息に帰る人々の姿でした。後期印象派の近代絵 画様式が熱狂的に迎えられた時代、一方では、ミレーやゴッホに通じる古い感情 から、つつましい人々の暮らしにまなざしを向けた同時代の作家も少なくありま せん。

 ◎青木繁  《漁夫晩帰》
 ◎和田英作 《渡頭の夕暮》
 ◎川合玉堂 《二日月 ※》、他

※の作品は展示替があります。

■開催概要

会期 2003年3 月25日(火) ― 5月11日(日)
開館時間 午前10時から午後5時まで 金曜日は午後8時まで 
(入場はそれぞれ閉館30分前まで)
休館日 月曜日(ただし4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館、5月6日(火)休館)
主催 東京国立近代美術館/石橋財団石橋美術館/日本経済新聞社
協賛 三井不動産/東レ
会場 東京国立近代美術館 本館1階企画展ギャラリー
観覧料
一般 1200円(800円)
高校・大学生 900円(600円)
小・中学生 無料
*( )内は20名以上の団体料金
*いずれも消費税込み
*前売り:一般1000円/高校・大学生800円
2月24日より3月24日まで販売、25日以降は通常料金
チケットぴあ、ローソンチケット、CNプレイガイド、JR東日本のみどりの窓口・びゅうプラザ、サークルK、サンクス、JTB、イープラスなど主要プレイガイドで発売します。
講演会
4月12日(土) 14:00-15:00 市川政憲(当館副館長)
4月19日(土) 14:00-15:00 植野健造(石橋美術館学芸課長)
4月26日(土) 14:00-15:00 蔵屋美香(当館主任研究官)
当館講堂 いずれも聴講無料 先着150名(申込み不要)
巡回 石橋財団石橋美術館(久留米) 2003年5月20日 - 7月6日
お問合せ先 ハローダイヤル:03 - 5777 - 8600
東京国立近代美術館
The National Museum of Modern Art, Tokyo