展覧会

会期終了 企画展

臨界をめぐる6つの試論:写真の現在 3

会期

会場

東京国立近代美術館本館ギャラリー4

展覧会について

東京国立近代美術館は、この秋、「写真の現在3」を開催いたします。「距離の不在」(1998年)、「サイト――場所と光景」(2002年)に続く今回のテーマは、「臨界」です。

写真にとって、ことなる領域が接しあう境界面は、つねに重要なテーマとなってきました。公(パブリック)と私 (プライベート)のはざま、都市の中心とその周縁のあいだ、あるいは写真という表現手段それ自体の輪郭……。その境界を越えようとするならば、大きな力が作用して、ものごとの性質はがらっと変わってしまうことでしょう。ですがそのような「臨界」に接してこそ、私たちは、世界の成り立ちの根源へと目を開くことができるのです。
今回この展覧会で紹介するのは、私たちの身の回りに存在しているさまざまなレベルの境界面に立ち、あらたな世界の輪郭を描きだそうとしている6人の写真家たちです。なにかが溶け出し、また別のなにかが像を結ぼうとしている「臨界」をめぐって格闘するかれらの仕事を通じて、きっと、写真の現在が見えてくることでしょう。

出品作家

伊奈英次、小野規 、浅田暢夫、北野謙、鈴木崇、向後兼一

展覧会構成

第1章 写実表現と日本画の問題

1903年-1938年
竹喬は1903年に京都の竹内栖鳳に入門しました。西洋近代絵画の写実表現をとりいれた栖鳳の制作に学びながら、自らも西洋絵画のエッセンスを貪欲にとりこんでゆきました。この時期、竹喬をとらえたのは<写実>でした。それは技法だけの問題ではなく、いかに自然の真実をつかむかという問題でもあったため、竹喬は東洋の南画や、竹喬と同時代の画家たちの作品にも学びながら、画風を変化させてゆきます。
1918年、竹喬は土田麦僊らとともに国画創作協会を立ち上げます。しかし、やがて日本画材で写実を追及することに困難を覚えるようになります。1921年からの約1年のヨーロッパ旅行をはさみ、竹喬は東洋絵画における線の表現を再認識することになり、線描と淡彩による南画風の表現に到達します。

特集展示Ⅰ 竹喬の渡欧

竹喬は国画創作協会の仲間である土田麦僊、野長瀬晩花、そして洋画家の黒田重太郎とともに、1921年にヨーロッパへと出発しました。日本画家がヨーロッパで学びたかったものとは何だったのでしょう。この特集展示では、黒田の「芸術巡礼紀行」連載の挿図のために、竹喬と麦僊が描いたスケッチを紹介します。

第2章 自然と私との素直な対話

1939年-1979年
1939年頃から竹喬の画風には変化が現れます。新しい画風は、色の面によって対象を把握し、かつ日本画の素材を素直に活かそうとするものでした。この時期、竹喬は大和絵の表現を手本とし、線も色も古い大和絵に学ぼうとしたのです。
この転換はその後の竹喬作品の方向性を決定づけました。それ以降、竹喬はおおらかで単純な形と温雅な色彩を特徴とする表現を深めます。そして「風景の中にある香りのようなもの」をとらえようと無心の境地で自然と向き合うことで、ゆるぎない独自の世界を確立してゆきます。

特集展示Ⅱ 奥の細道句抄絵

10点からなる《奥の細道句抄絵》は竹喬晩年の代表作です。竹喬はこの作品で、江戸時代の俳人、松尾芭蕉の『おくのほそ道』をもとに、その句意を絵にしようと試みました。この特集展示では、この連作を制作するために竹喬がおこなったスケッチや下図など10点を、《奥の細道句抄絵》全10点とともに紹介します。

作家紹介

伊奈英次 Eiji INA

1957年生まれ。1984年東京綜合写真専門学校研究科卒業。軍事通信施設などのアンテナをめぐる「ZONE」や、産業廃棄物を撮影した「WASTE」など、意識的・無意識的に「見えなく」されている物事を顕在化させる仕事を重ねてきた。
遍在する監視カメラをとらえた「WATCH」と、工事中の建物を覆うシートや囲いをとらえた「COVER」のふたつの近作では、公共空間に、知らぬ間に微細に張りめぐらされた「見る/見られる」ことをめぐるシステムが姿を現す。

小野 規 Tadashi ONO

1960年生まれ。1991年アルル国立高等写真学校卒業。90年代からパリを拠点に活動、19世紀の先駆的な写真を参照系とした、パリやエジプトの風景をめぐる作品を発表。現在、パリ郊外に在住。
「Fieldwork from Periphery(周縁からのフィールドワーク)」は、「Street 2」「View(with the tower)」「Study of tree」「Study for a garden」の四つのシリーズにより構成される。パリ郊外というローカルな「周縁」から、歴史・移民・自然など、グローバルな問題系をも見通そうとする連作。

浅田暢夫 Nobuo ASADA

1967年生まれ。1998年インターメディウム研究所修了。個展「海のある場所」(The Third Gallery Aya、大阪、2004年)など関西を中心に活動。「フォト・エスパーニャ2006」(スペイン、マドリッド)他、海外での展覧会でも発表している。
故郷福井の同じ海岸で撮り続けられている「海のある場所」のシリーズは、作者自身が泳ぎながら、その都度まったく表情の異なる海の姿をとらえた連作。一種のシステマティックな定点観測でありつつ、水中にある全身が知覚する、きわめて感覚的な記憶を喚起する。

北野 謙 Ken KITANO

1968年生まれ。1991年日本大学生産工学部卒業。1999年から始めた「our face」プロジェクトで注目を集める。同作で第16回写真の会賞を受賞、2005年写真集『our face』を刊行。
さまざまな集団に属する人々のポートレイトを撮影し、それらを正確に重ねあわせて焼き付けられた「our face」。その独特の写真について「ひとりひとりの輪郭は溶けてしまいますが、それぞれの人々が持つ固有な『時間と光』が一枚に結晶しています」と作者は記す。

鈴木 崇 Takashi SUZUKI

1971年生まれ。ボストン・アート・インスティテュート卒業。2001‐2002年、デュッセルドルフ芸術アカデミーで、写真家トーマス・ルフのクラスに在籍。帰国後、個展を中心に日本で本格的に発表活動を始める。
今回の出品作品の題名、「Altus」とは、「内奥の/根本的な/計り知れない」といった意味を持つラテン語。浅いフォーカス、分割された画面を前にして、見る人はそれぞれに空間を知覚する。それは写真と「見ること」の関係の内奥をさぐる試みでもある。

向後兼一 Kenichi KOHGO

1979年生まれ。2001年和光大学人文学部卒業。2003年東京綜合写真専門学校卒業。個展「within 10km of mine」(art & river bank、東京、2004年)より発表活動を始める。「サイト・グラフィックス」展(川崎市市民ミュージアム、2005年)に参加。
「line」は、置換・縮小・拡大など、デジタルな画像操作によって制作されているフィクショナルな光景の連作。画像をはじめとして身近にデジタル・データのあふれる今日、私たちにとってのリアリティを構成するさまざまな情報の素性が、そこには端的に示される。

これまでの「写真の現在」と出品作家

イベント情報

講演会

「パリと写真 共有された歴史」小野 規(写真家、出品作家)

日程

2006年11月3日(金)

時間

18:00-19:30

場所

当館地下1階講堂

聴講無料、申込不要、先着150名

「自作について(仮題)」伊奈英次(写真家、出品作家)

日程

2006年12月1日(金)

時間

18:00-19:30

場所

当館地下1階講堂

聴講無料、申込不要、先着150名

カタログ情報

開催概要

会場

東京国立近代美術館 ギャラリー4(2階)

会期

2006年10月31日(火)~12月24日(日)

開館時間

10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
*入館は閉館30分前まで

休室日

月曜日

観覧料

一般420円(210円)、大学生130円(70円)、高校生70円(40円)
中学生以下、65歳以上、障害者手帳等をお持ちの方及び付添者1名は無料
( )内は20名以上の団体料金。 いずれも消費税込。
*本展の観覧料で、当日に限り、所蔵作品展「近代日本の美術」もご覧いただけます

無料観覧日

11月3日(金・祝)、11月5日(日)、12月3日(日)
*本展と所蔵作品展のみ無料となります(「揺らぐ近代」展は有料です)

巡回情報

本展は当館のみでの開催となります。

主催

東京国立近代美術館

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