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  • 2021.6.18 - 9.26
  • 企画展

鉄とたたかう 鉄とあそぶ デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》を中心に

コレクションによる小企画

The Challenges and Joys of Steel: David Smith's Circle Ⅳ and Other Sculpture

from the Museum Collection

デイヴィッド・スミス《サークル IV》1962年 撮影:大谷一郎

  東京国立近代美術館は近年、アメリカの戦後彫刻を代表する作家デイヴィッド・スミス(1906–65)の《サークルⅣ》(1962年)を購入しました。この作品を中心に、戦後彫刻の展開における鉄という新しい素材の重要性について考えてみたいと思います。木や石を彫ったり、粘土をこねてブロンズで型どりしたりする従来の彫刻に対して、スミスは鉄板や鉄骨を溶接して幾何学的な面と線とを組み合わせ、ダイナミックな空間を構成するという手法をとり、彫刻の可能性を大きく広げました。彼の造形思考は、イギリスの彫刻家アンソニー・カロによってさらに展開されていきます。一方、日本でも1950年代の半ば頃から、鉄に取り組む彫刻家が現れ始めました。彼らの鉄に対するアプローチはさまざまです。幾何学的な構成のための最適な素材として扱う者もいれば、時間とともに錆びる表面、あるいは研磨したときにみせる輝きなど、鉄の物質的特性に寄り添いながら、生命を吹き込もうとした者もいます。私たちにとって身近な物質であるはずの鉄が見せる多様な表情をお楽しみください。

  ■出品作品リストはこちら(PDF)

 

リーフレット配布中

「鉄とたたかう 鉄とあそぶ デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》を中心に」(コレクションによる小企画)では、特製リーフレットを作成しました。会場入り口で無料配布しております。ご自由にお持ち下さい。

こちらでは、デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》(1962年)を様々な角度から撮影した写真をご覧いただけます。

 GIF animation 

 

 クローズアップ画像 

※下の画像は、クリックすると拡大されます。

撮影:©sato katsuaki

新しい素材
冨井大裕[美術家/武蔵野美術大学准教授]

会場風景 撮影:大谷一郎
右端の作品が、土谷武《開放 I》1997年。

会場風景 撮影:大谷一郎

※画像をクリックすると拡大してご覧いただけます。

 学生だった時分[1]、鉄は「現代的な表現」の花形素材だった。その頃の私は人体塑像に可能性を感じていて、鉄という素材には殆ど触れず仕舞いなのだが、当時、現代美術と呼称されていた表現に敏感な先輩方は鉄で作品を制作していたし、その頃の『美術手帖』で目立っていた日本の彫刻家といえば土谷武、若林奮、村岡三郎。皆さん鉄を扱っている。いまでは鉄による彫刻作品は珍しくもなく、屋外彫刻などではメジャーになり過ぎたきらいもあるが、私にとっての鉄は「新しい素材」として、いまも目の前にある。本展は、そんな私に改めて鉄と彫刻のこれからの関係を想像させてくれる機会となった。展示空間を徘徊し、佇んだ3時間。
 展示作品は、台座の上にあったり、自立していたりと様々だ。自立している作品の、その接地する部分は立っている姿形とも言えるし、立たせる為の装置とも言える微妙な様相を呈している。人体彫刻では地山と呼ばれる、作品とも台座ともつかない機能がある[2]。それと同じと言えばそうなのだが、果たしてそう言い切れるのか。ドレスやズボンの裾だと言ってみたらどうか。立ち上がっているはずなのに垂れていて、影の様にズルズルと地面に接触する存在。これを、鉄という素材の条件——取り外しが容易であり、わずかな点によっても固定ができる——が彫刻家を導いた様相と言い換えてみよう。下から上に立ち上がる一方向からの自立とは違った彫刻の立ち方がそこにある。
 主張の強い、完結させようと思えばできそうな形同士が、突然くっついて関係してしまう。これは、鉄の彫刻作品全般に抱く印象である。自然につながる形ではない。不意に訪れた事故から不可避的に導かれてしまう行きずりのサスペンス。更に近づいて見てみよう。形の結びに現れる溶接痕とグラインダーの磨き傷、そしてねじ。ここに、工夫が美的態度になる瞬間がある。無関係なものを結びつける為の物理的制約を、作品の視覚的な必然として確信犯的に馴染ませていくしたたかな技量[3]。ツギハギ、ボタン、ステッチといった衣服の作法と機知がここでも重なっていく。
 多くは面による構成であり、薄いものの組み合わせでできている……様に見える。鉄板が薄そうで軽そうなことに起因するのだろう。だが、印象に騙されてはいけない。実際には明らかな厚みと重みがある。作品はこの鉄の印象と現実のズレを、作品の条件として引き受けることから組み立てられている。面的であり、開放的であるが、それ以上に板的である[4]
 単一の素材で制作された作品において、作者にこれだけの出会いと別れを繰り返させる素材を私は知らない。それは鉄が一口に鉄と言われながら、多様な姿と名前を持っているからに他ならない。そして、その姿に私たちはそれぞれの物語、記憶を重ねている[5]。彫刻家の仕事とは、その物語を裏切り、素材をこれまで関係のなかった別の物語に巻き込んでいくことだろう。彫刻は、その結果として私たちの眼前にある姿の呼称に過ぎない。
 鉄という巷でお馴染みの物質——既製品と言っても差し支えはあるまい——の持つ魅力とは、馴染みがありそうで見慣れない、軽そうで重く、硬いが柔らかい、姿形を変えて私たちの生活に近づいている、そのわかりづらさではないだろうか。鉄は、まだまだわかりづらい既製品として私たちの目の前にある。鉄彫刻というイメージを作る側と見る側で決め込まない限り、鉄は芸術の素材としての新しいルールを私たちに差し出す、かもしれない[6]

                  (『現代の眼』636号)

 

[註]

1 1993–99年

2 そのことも含めて作品であろう。

3 土谷武《開放Ⅰ》上下の四角をつなぐ部分とその前方の板の厚みの違いに注目。

4 デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》と若林奮《北方金属》に敷かれている板(サインが刻印されている)の厚み。

5 H形鋼=ビルの建設現場(テレビのサスペンスドラマ。鉄材が落下する一幕)。I形鋼=何となく、線路のレールを思い出す(小さな恋のメロディ、スタンド・バイ・ミー……古いなぁ)。鋼板=工事現場の床面(雨の時など特に)。丸鋼管(パイプ)=TV、映画のケンカシーンで凶器といえばこれ。etc……。

6 本稿では個別の作品に対する記述を意図的に避けた。それは、本展の内容は鉄による彫刻のこれまでの可能性と限界を同時に示しており、その意義を考えた際、各作品に固有の内容を記すことが憚られたからである。本稿で記した彫刻の内容は、出品作がそれぞれに保持しているものと筆者は捉えている。
 また、本稿では色彩についての指摘も意図的に避けた。話せば長くなるのが理由である。一点だけ指摘すると、鉄には塗装や磨き以外に錆や黒皮という皮膜、焼けた際の色など、色彩に多くの選択肢がある。鉄の色彩のイメージは、我々の生活に馴染み、網膜に定着している。彫刻家はこのことも視野に入れて色彩との関わりを模索している、はずだ。


会場:
東京国立近代美術館2階 ギャラリー4
会期:
2021年6月18日(金)~9月26日(日)
開館時間:
10:00-17:00(金・土曜は10:00-21:00)
*入館は閉館30分前まで
【当面の間、金・土曜日の開場時間は 10:00~20:00(*最終入場19:30まで)となります】
休室日:
月曜日[ただし7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館]、8月10日(火)、9月21日(火)
チケット:
会場では当日券を販売しています。
会場の混雑状況によって、当日券ご購入の列にお並びいただいたり、入場をお待ちいただく場合がありますので、オンラインでの事前のご予約・ご購入をお薦めいたします。

新型コロナウイルス感染症予防対策のため、 ご来館日時を予約する日時指定制を導入いたしました。

「MOMATコレクション」のご予約で「鉄とたたかう 鉄とあそぶ デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》を中心に」がご覧いただけます
こちらから来館日時をご予約いただけます。

※上記よりチケットも同時にご購入いただけます。
※観覧無料対象の方(65歳以上、高校生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名、招待券をお持ちの方等)についても、上記より来館日時をご予約いただけます。
※お電話でのご予約はお受けしておりません。
観覧料:
一般 500円 (400円)
大学生 250円 (200円)
5時から割引(金曜・土曜):
一般 300円
大学生 150円
※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
※高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者1名は無料。 入館の際に、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。
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「MOMAT支援サークル」のパートナー企業の皆様は、社員証のご提示でご観覧いただけます。(同伴者1名迄。シルバー会員は本人のみ)

主催:
東京国立近代美術館


 

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