展覧会

会期終了 所蔵作品展

近代日本工芸の巨匠展 : 常設展 : 所蔵作品による

会期

会場

東京国立近代美術館工芸館

概要

東京国立近代美術館工芸館では夏の特別企画として、所蔵作品による「近代日 本工芸の巨匠」展を開催します。この展覧会は明治時代から現代にいたるまで の、それぞれの時代に活躍した著名な工芸家を取り上げ、当館の所蔵品のなか から名品を選んで展示し、歴史的な展開を見ていただこうというものです。陶 磁器、友禅、型染、蒔絵、金工、ガラス、竹工などさまざまな分野の工芸作品 が展示されます。

巨匠の名品でたどる近代日本工芸の流れ

今回の企画趣旨は、なによりも近代工芸の歴史を巨匠とその名品によってた どることにありましたので、展示作品の選択にあたっては、あらかじめ特定 のテーマを設けたり、美術にたいする特定の考え方を下敷きにはしませんで した。

しかし、そうして選択された作品でしたが、時代順に配列してみたとき、 結果的にいくつかの傾向が時代ごとに浮かび上がってきました。それらを、 前期と後期に分けてご紹介します。

工芸館の所蔵作品はかぎられており、それによって近代工芸の多様な側面 をすべて捉えることはとてもできませんが、今回の展示によって浮き上がっ てきたいくつかの傾向が、その一端を指し示すことは間違いありません。

前期:明治から昭和20年代まで

明治時代から昭和20年代までを対象とする前期の展示作品は、明治、大正、 戦前の昭和、昭和20年代の各時期ごとに、それぞれつぎのような傾向を示し ています。

◆ 明治 ―― 技巧と装飾の時代 ◆

工芸館は明治時代の作品をわずかしか所蔵していませんが、それでもそれら を通して二つの傾向が見て取れます。ひとつは19世紀後半に世界各地で開催 された万国博覧会向けの、技巧を強調した作品であり、もうひとつは江戸の 装飾的図案を確かな職人技によって表現した作品です。前者の代表として鈴 木長吉を、後者の例として20代堆朱楊成らを挙げることができるでしょう。

◆ 大正 ―― 図案の改革,工芸運動の萌芽 ◆

大正2年から、産業工芸の振興を目的として農展(農商務省主催図案及応用作 品展覧会)が開催され、板谷波山はじめ多くの工芸家はここに出品しました。 その後次第に、帝展(文展)に工芸部門の開設を求める運動が盛り上がりを 見せます。これと平行して、楠部弥弌らの赤土社、板谷波山らの工芸済々会 など工芸家の団体が相次いで結成され、その一方で、柳宗悦、河井寛次郎、 浜田庄司らが民芸(民衆的工芸)運動を提唱しはじめました。

◆ 戦前の昭和 ―― 個性の開花 ◆

関東大震災後の復興によって東京がコンクリートのビルと、鉄橋の都市に生 まれ変わったこの時期には、フランスのアール・デコや、ドイツのバウハウ ス・デザインが取り入れられました。これを担ったのは、高村豊周、広川松 五郎、山崎覚太郎、磯矢阿伎良らです。一方で、石黒宗麿、荒川豊蔵のよう に和漢の古陶磁を再現したり、木村雨山らの伝統性を重視した制作態度が見 られるようになりました。また、富本憲吉、稲木東千里をはじめ時流から超 越して創作性を追求する作家が現れたのもこの時代です。

◆ 昭和20年代 ―― 戦後の復興と生活工芸 ◆

戦後になって工芸家がまず目を向けだしたのは、日常生活を豊かにするため の生活工芸でした。生活への貢献は工芸の基本要件であるとはいえ、戦前ま では日本の工芸をいかに西洋に紹介するか、反対に、西洋の動向をいかに受 容するかの方が主要な関心事だったのです。会派や分野の違いを超えて、黒 田辰秋、林尚月斎、野口光彦らが身近な生活を制作の基本において活動しました。

後期:昭和30年代から今日の工芸

昭和30年代以降を対象とする後期の展示作品は、おおむね4つの傾向を示して います。それらは、伝統工芸、現代工芸、クラフト、オブジェ作品です。

昭和30年代には、伝統工芸、現代工芸、クラフトが出そろいました。続く 昭和40年代から50年代後半は、これらの傾向が展開、成熟していった時期と 考えることができるでしょう。

◆ 伝統工芸 ―― 伝統的創意の模索 ◆

伝統工芸は、国宝などの有形文化財に対して、工芸技術などの無形文化財を 保存しようとする文化庁の施策に基づいて誕生しました。昭和29年から毎年 開催されてきた日本伝統工芸展への出品作を中心にして、その特色を見るこ とができます。石黒宗麿、富本憲吉、金重陶陽、加藤土師萌、12代今泉今右 衛門、松田権六、増村益城、佐々木象堂、森口華弘、鎌倉芳太郎、氷見晃堂 らが伝統工芸を支えてきました。

◆ 現代工芸 ―― 工芸における芸術表現 ◆

現代工芸は、日展の工芸部や、昭和36年にはじまる日本現代工芸展に所属す る作家たちの作風によって形成された分野でした。技巧よりも作家の個性的 表現に重きをおいた作品が求められました。楠部弥弌、安原喜明、岩田藤七、 藤田喬平、番浦省吾、大西忠夫、高橋節郎、伊砂利彦、宮田宏平、越智健三 生野祥雲斎らが活躍しています。

◆ クラフト ―― 新しい生活様式と工芸 ◆

クラフトは、昭和31年に結成された日本デザイナークラフトマン協会(現在 は、日本クラフトデザイン協会)などによって切り開かれた分野です。木や 布など温かみのある材料にも目を向けた工業製品を生みだした、北欧デザイ ンが受容されました。平松保城、内田邦夫、青峰重倫、大西長利、淡島雅吉 らの作品が、新しい生活様式を予感させました。

◆「オブジェ」以降 ―― 工芸の枠組みを越えて ◆

オブジェ作品は、陶芸の分野では昭和23年に京都で結成された走泥社がリー ドしてきましたが、その後昭和40年代の後半、すなわち1970年代以降に、 既成の会派に所属しない作家たちによって継承されました。実用性の放棄、 現代美術への接近、そして素材の特性を見直そうとする特色が看取されます。 八木一夫、鈴木治、熊倉順吉、柳原睦夫、鯉江良二、益田芳徳、鈴木雅也ら が新鮮な印象を与えました。

連続講座

【近代日本美術の流れ】開催のご案内

東京国立近代美術館では夏の全館常陳に併せて連続講座「近代日本美術の流 れ」を開催致します。明治から今日までの日本の美術の展開をあとづけなが ら、時代ごとの美術動向とそれを生み出した芸術的な理念をクローズアップ することをめざすこの講座では、5回の講演会において毎回、今日的な視点 から、当館の所蔵作品を中心にとり上げ、その歴史的な意味を掘り下げつつ、 あらためて、近代日本の美術全体へのパースペクティヴを提示できれば と 思っております。

スライドで紹介される館蔵品の多くは、本館の全館陳列 「近代日本美術の名作 -人間と風景」、工芸館の「近代日本工芸の巨匠」に出品されますので、各展 示会場で実際にご鑑賞いただくことができます。 講座の概要は東近美のホームページに 掲載してます。こちらも併せてご覧ください。

講座日程

第1回 8月1日(土)

「近代化と明治の美術―技術から美術へ」

第2回 8月8日(土)

「大正期の美術―芸術と生活」

第3回 8月22日(土)

「昭和戦前期の美術―伝統と近代の葛藤」

第4回 8月29日(土)

「1950-60年代の美術―変貌する社会,変貌する芸術」

第5回 9月5日(土)

「1970年代以降の美術―同時代への視点」

時間

各回午後2時~4時 / 開場:午後1時30分

場所・定員等

東京国立近代美術館 講堂/先着200名 聴講無料

イベント情報

ギャラリートーク

8月8日(土)、9月12日(土)

開催概要

会期

1998年7月31日(金)-9月20日(日)
前期:7月31日(金)-8月30日(日)
後期:9月2日(水)-9月20日(日)
【前期と後期で展示替えを行います】
●月曜日休館[9月1日(火)は展示替えのため臨時休館]
●午前10時-午後5時まで(入館は午後4時30分まで)

会場

東京国立近代美術館工芸館

観覧料

一般 420(210)円/高校・大学生130(70)円/小・中学生70(40)円
*( )内は20名以上の団体料金

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