平成26年度 インターンシップ生のことば
A 学芸・コレクション Nさん
東京国立近代美術館の学芸(コレクション)のインターンとしての業務は、所蔵作品に関わる作業が主であり、特に所蔵作品展の運営の補助がその中心となる仕事でした。私個人としては、展示替え前の準備や展示替え後の記録、あるいは展示替えの現場の指示出しの補佐として、この一年間で五つの展覧会に関わり、その内の四つの展覧会の展示替えの現場に立ち会いました。
展示替え前の準備では、各種リストの作成の他、展示替えをスムーズに進めるための会場図面の作成やいくつかの作品の収蔵場所の確認作業等に携わり、複数の学芸員によって運営される所蔵作品展の成立までの段取りの一部を学び、展示替え後の記録では、作品台帳への出陳記録の記入や会場図面、キャプション等の情報を整理する作業を通して、美術館における情報管理の一つの方法を学びました。展示替えの現場においては、学芸員だけでなく運送業者や施工業者といった様々な専門分野を持つ方々とコミュニケーションをとりながら作品が設置されていく過程を見学し、その厳密かつ柔軟な作業を拝見しながら、指示出しの補佐を務めました。
所蔵作品展の業務以外にも、作品の修復や貸出、自らの研究領域に関わる作品の会議を見学させて頂く等、様々な経験をさせていただいたのですが、この一年間で学んだこと、そして、学芸員の方々にかけて頂いた言葉は、これからの人生の糧となっていくと思います。本当に有り難うございました。
A 学芸・コレクション(写真) Kさん
今から振り返ると、活動が始まった当初は写真作品や作家についての知識がほとんどないままでした。その様な中で、業務としてプリントスタディの補助をする機会を与えていただき、そのため収蔵作品を間近で鑑賞する機会を多くえることができました。額に入らずに目の前にある作品のオーラに圧倒され、そこから写真の魅力に大いに惹かれていきました。それからは、もっと知識をつけたいと感じて図書室で写真集や本を借りて収蔵されている作品や作家について詳しく調べるようになり、普段通っている大学でも写真に関する本を見つけると、手に取るようになりました。
お二人の学芸員の方の間近で働かせていただけたことも大きな経験になりました。とくに印象に残っているのは、奈良原一高展のギャラリートークに参加したときのことです。ギャラリートークが開催される半年ほど前から展覧会の準備に携わらせていただく中で、「王国」シリーズの写真は繰り返し何度も見ており、作品の背景や作家についても一通り学んだつもりでいました。それにもかかわらず、いざギャラリートークでお話しをきいてみると、私が見落としていた作品のすばらしさに次々と気付かされる思いでした。何度も繰り返しみたと思っていた作品を、新たな視線で鑑賞しなおすことはとても新鮮で興奮する体験だったと記憶しています。
この一年間で、美術は日々の生活をより豊かにしてくれるものだということを実感し、またそれを後世の人々に長く伝えていく必要があることを学びました。この経験を糧に、将来は美術を通して社会に貢献できるようこれからも精進していきます。
B 学芸・企画展 Hさん
企画展インターンでは、年間をとおして展覧会準備や広報、そしてイベントやアンケートの振り返りなど、展覧会にかかわる様々な局面の補助を経験しました。まず、企画展の準備では、作品のデータと図版の整理や、素描の撮影、ポジフィルムの管理をおこなったことで、展覧会の基礎となる作業に、私にとってははじめて、直に接することができました。そして、図録や出版物の校正の仕事をおこないながら、作品の出品依頼から輸送・撤収までのスケジュールと並行して、広報や講演会の準備をしてゆく各段階に触れました。研究員の方々のそばでインターンとして活動することができ、展覧会をつくりあげる過程を間近に見ることができたことは、実務を知るだけでなく、企画展室の皆さんの姿勢や心がけを知り、自分の気を引き締める機会にもなり、本当に貴重な体験になりました。また、もっとも長くかかわることのできた「高松次郎ミステリーズ」展では、会場設営と展示の作業に立ち会い、研究員の方々を中心に、展示に携わる多くの方々の工夫と苦労を感じとることができました。一年をとおして様々な経験をさせていただき、幸いに私自身、美術館の仕事に携わることができました。インターンのあいだに教えていただいたことを活かして、今後も学芸員として日々学んでゆきたいと思います。
C 美術館教育 HSさん
美術館だからこそできる教育普及活動とは何か、ということを考えていきたいと思いインターンへ通い始めてから1年が経ちました。毎日行われる所蔵品ガイドや通年で受け入れる学校向け鑑賞ガイドのほか、イベント的に開催される先生やエデュケーターのための研修会、子どもや親子に向けたプログラム、セルフガイドの配布・開発など、本当に様々な仕事の中に関わらせていただきました。そしてどの仕事も、事前の計画や準備の段階から事後のまとめ、振り返りに至るまで、一連の流れを経験することができました。
部分的にではなく全体の流れに携わり気づいたことは、美術と人、人と人との関わりをつくっていくことは、本当に時間のかかることであるということ、また協力する周りの理解者が必要であるということです。1つのプログラムを実践することも大切ですが、流れの中では、実施前の綿密な計画やリハーサル、実施後の内容研究や、共有、発信、保存の繰り返しが、活動を次へとつなぎ、続けていくための重要な時間であったように思います。そこには本当にたくさんの方たちが関わっていて、そうして少しずつ、確かに、美術教育の理解が広まっていくのだと実感しました。
特に東近美は、人が集まり、また発信もしやすい拠点のような場で、美術と人を結ぶきっかけをつくり続け、また振り返っていくことができるのだと感じました。公的な美術館という場所だからこそ、様々な作品を活用でき、来館者も安心して鑑賞をたのしむことができるのだと思います。
インターン活動を通じてエデュケーターや先生、スタッフの方、お客様など、美術と鑑賞に関わる様々な方たちとお会いし、お話しでき、改めて美術の面白さや鑑賞の喜びを感じさせていただいた1年でした。今後は東近美の経験で得た思いを胸に、自分のフィールドで美術や鑑賞、美術教育の間口を開いていきたいです。
C 美術館教育 HCさん
大学で美術史を学び、人と美術とを仲介したいと望む私は、人と美術との関わりを深めるために美術館がどのようなアウトプットを行っているのかを知りたいと思い、教育普及のインターンを志望しました。
結果学んだのは、美術館と来館者とのコミュニケーションこそが、充実した鑑賞の場を生み出していくのだということです。つまり、単に人が作品に触れる機会を提供するのみならず、常に来館者と同じ目線になって寄り添い、来館者にもオープンになっていただくという双方向性が欠かせないのだと感じました。毎週見学した所蔵品ガイドや、学校向けギャラリートーク、こども美術館やおやこでトークでのアクティビティにおいて、心の中にしまっている考えや想いをガイドスタッフさんとの会話やワークによってひとつひとつ解放されていくにつれ、どんどん作品にのめりこみ、笑顔で帰っていく参加者の様子を拝見するにつけ、それを確信していきました。また学校の美術教育の使命と、美術館の教育普及の実践が密接に連関していることもわかりました。
一方でHSさんと共同制作した「MOMAT for 2」配布における来館者同士のコミュニケーション促進の試みでは、美術館で対話する行為自体が一般的にはほとんど浸透していず、上記の理由から美術館教育における対話鑑賞の効果を絶対視していた自分が、もう一度その存在意義に疑問をさしはさむ契機となりました。
この一年間、来館者の呼吸を一番身近に感じられる教育普及室で活動し学んだことを、これから美術館での鑑賞、作品との向き合い方を考えていく上で生かしてまいります。
E 工芸館・学芸全般 Sさん
私は、学芸員の仕事を間近に体験し、理解を深めることを一つの目標に研修に参加しました。
資格取得に際し、大学で学芸員の基本的な仕事内容については学んでいました。しかしながら、実際に見る学芸員の仕事は、展覧会企画をはじめ、ワークショップのスケジュール作成、ボランティアスタッフに対する対応まで、ありとあらゆる作業が存在していました。その作業の一端を手伝わせていただくことで、大学で講義を聞くだけでは知り得なかった多くのことを自分の体験として学ぶことができました。特に印象に残っているのは、作品の集荷です。一般の家庭にある作品を美術館が保存するために作品をお預かりに伺ったのです。今まで、美術館で展示されている作品は、作家やオークションなどから購入されたものだと思い込んでいたので、一般の家庭に収集されるべき作品があるという事実に大変驚きました。
学芸員の仕事は、展示や教育普及など展覧会に関わるものが目立ちますが、その中でも根本的な使命である収集を経験したことで、学芸員の仕事に対しての理解が、より深まったと感じています。実際に体験することは、見聞きすることよりもはるかに自分の力となることを体感した一年間でした。
E 工芸館・学芸全般 SMさん
工芸館インターンとして行った活動の中で得たことは、美術館の運営は様々な人が関わってはじめて成り立っており、そのような方々をどのようにサポートするのか、ということを学ぶことができた点です。
教育普及のタッチ&トークではボランティアの方々の協力が不可欠でした。ギャラリートークや勉強会があれば積極的に参加し、来館者に対して情報を発信する方法を熱心に考え、対話の中から出てきたユニークな発想を活かして、工芸館の活動を盛り上げてくださっていました。
作品を観察し印象を言い合うガイドのフォローアップ研修では、作品の本質を鋭く捉えた意見が飛び交っていました。ガイドの方々が意見を出しやすく、対話が生まれやすい環境を研修を担当する研究員が整えることで、トークの語調も洗練され、より広い視野を持っていただくことができているように思いました。
もちろん、展覧会そのものがあってこそではありますが、企画を実行するだけではなく、いかに、協力していただく方々の能力を引き出す環境をつくるかも同様に重要であることを実感することができた点にインターンシップとして関わった成果がありました。このような経験は、大学での授業や短期の実習では感じることができなかった点です。
E 工芸館・学芸全般 NCさん
この一年の工芸館でのインターン研修は、事務作業から館内イベントの運営や展示の現場での作業など、多岐に渡るものでした。
普段はデータベースの構築や展覧会に必要な書類作成、ガイドの方の補助などが主な業務でした。時々、団体来館者を対象とする大規模な見学会があり、その運営をサポートすることもありました。
館内でのイベント運営を通じて、工芸館では教育普及関連イベントが非常に充実していると感じました。「タッチ&トーク」という解説プログラムや、子ども向けの鑑賞プログラムやワークショップなど、子どもから大人までが楽しめる内容です。その裏で工芸館の学芸員だけでなく、解説する多くのボランティアの方々が充実した、それぞれが創意工夫し解説を行っていた姿も印象に残っています。
そして、実際に展覧会がつくられる場に立ち会えたことが最も印象深い体験でありました。展示作業では、作品に触れるだけでなく、展示の配置を考える機会もあり、「どうすれば見栄えがよくなるか、作品の良さを引き出せるか」など試行錯誤しつつ作業に臨みました。さらに、展覧会図録の作品撮影の補助をしたこともあり、長丁場でありましたが貴重な経験となりました。
これだけの内容でこの一年の研修について語りきれませんが、工芸館インターンでの経験をすこしでも将来に活かしたいと思います。
E 工芸館・学芸全般 NNさん
インターンとして過ごした1年間は、学芸員業務に対する具体的なイメージを構築する重要な経験となりました。特に、美術館における教育普及活動について深く考える機会となりました。
これまで教育普及活動というと、「もの作り体験」ばかりを考えていましたが、工芸館において定期的に行われている「タッチ&トーク」は「鑑賞」を主軸にした企画であり、参加者は作品に触れ意見交換をする中で、作品への理解を深めるというものでした。この企画に携わる中で、参加者が作品に触れ、ふと感想をつぶやく場面を目にし、「実物」を通じた体験は、人の自主性に訴える力を持つことを知りました。また、作品に触れた参加者がつぶやく「つるつる」・「重い」・「お花畑」などの直感的な言葉を、他の参加者との対話へと繋げ、より深い鑑賞活動へと展開するために、スタッフがタイミングよく言葉を投げかけることの必要と難しさを間近で学びました。
この研修を通し美術館での教育普及活動に携わる中で、その多様性と発展性に気づくことができました。そして、大学の学びとは異なり、学芸員の果たす役割の根幹には人々と美術とを繋ぐ使命があることに改めて気付かされたことは、今後の自分自身にとり貴重な経験となりました。
F フィルムセンター・学芸全般 Yさん
私は大学院にて建築のアーカイブを専門としているが、建築アーカイブはノウハウを未だ持たない状況にある。そのため本インターンでは、既にそのノウハウを蓄積しているフィルムセンターで、その技術を学ぶということを目的として臨んだ。
この点で、情報資料室で行ったポスターおよびパンフレットの資料整理では、紙媒体の資料の保存について学ぶことができた。建築の図面等の資料とは、同じ紙でも大きく性格が異なり、よい比較となった。また、展示場に関する様々な作業は、これら資料をどう公開し、周知してゆくかという点でも勉強になった。
次に映画室での建設記録映像の情報追加作業であるが、この建設映像は、映像として建築をアーカイブする方法として考えられる。そこでこれらを、建築の”映像”としてどう評価できるか、また映像の中の”建築”をどう評価するか、その2点の評価軸の設定を考えた。そしてそれを提案し情報を補足する作業を行ったが、これは大変貴重な経験となった。またNFCDに入力する中で、アーカイブ情報の構造をどう構築するかという点でも刺激を受けた。
何れの体験も、建築アーカイブにとって大いに参考になるものであったが、今後はこの経験を元に、フィルムセンターのアーカイブのあり方、および建設記録映像という”建築アーカイブ”を建築界に紹介することで、建築アーカイブの整備向上や機運を高めつつ、アーカイブ間のネットワークをつなげてゆきたい。