平成30年度 インターンシップ生のことば

A 学芸・コレクション Sさん

コレクションインターンの業務は基本的に図面作成、資料調査、資料作成などのデスクワークと見学です。私の場合は勤務初期には図面作成、作品カード記録作成、韓国語翻訳確認などデスクワークを主に行いましたが、後半には作品修復見学、作品貸し出し見学、作品撮影見学など学芸業務だけではなく美術業界の他の関係者の業務を見学しました。特に見学では普段会えない日本画の修復家、油彩画の修復家、他館の学芸員、美術作品運送業者、ギャラリー関係者、コレクター、美術作品専門写真家など美術作品に関わる多様な業界の方とお会いする貴重な機会を頂きました。

しかし、見学がない限り、コレクション側の業務は一日中一人で作業することが多く、直属学芸員以外の学芸員さんとお話する機会が少ないので、是非積極的に直属の学芸員さんだけではなく他の学芸員さんともお話することをお勧めします。修士論文の悩みの相談ももちろん、どのように学芸員になったのか、学芸員としての美術作品を見る観点など、他のところでは聞けない貴重なお話を頂ける唯一の機会がインターンだと思います。皆さん仕事で忙しいですが、とても優しく、いつでもお話聞いてくださるので迷わずお声をかけてみてください。

A 学芸・コレクション Yさん

インターンが始まってすぐ、応募して良かったと思ったことがあります。それは、学部の時には全く想像できなかった、美術館の裏側を見られたことです。大学院に進学する時、私は「学芸員になりたい」という非常に漠然な気持ちしかなかったと思います。しかしインターンの中で、自分が「どういう仕事をしたいのか」「展覧会を企画する学芸員になるのか、教育普及担当か」など将来を具体的にイメージできるようになりました。これだけでも参加して本当に良かったと思っています。

なかでも東近美で勉強になったことは2つです。まず、素晴らしい作品に間近で関わったことです。私は貸出・返却の作品チェックに何度も立ち会わせて頂きました。また図面作成、作品出納記録、作品調査を通じて自ら勉強する機会も多くありました。日本の(海外作品も勿論ですが)近代美術の知見を一気に得られ、大きな財産となりました。2つ目に、学芸員さんとお話が出来たことです。展示の意図を伺ったあとで展示作業にご一緒し、展示室をお客さんが入った状態で再度見るという体験もしました。細かい気づきであっても学びは多く、展示の上手さを肌で感じました。周りで聞こえる学芸員同士の会話を通して、美術館の課題を現場の声として知られた点は非常に良かったです。

今回のインターンは自分の人生の中でとても貴重な経験でした。今回学んだことを胸に、自分なりの美術との関わり方を考えていきたいです。

B 学芸・企画展 Tさん

企画展インターン活動では、主に翻訳、参考文献収集などのデスクワークを中心とした作業と、展覧会の設営や展示、撤収などの作業を行いました。

展覧会が企画された時点から、実現に移していくまでの過程に興味があり応募したため、カタログ作成などの紙面上での作業から、作品説明の記述、そして実際に会場に作品を運び込み、作品の状態チェックや修復作業などを交えながら設営していく様子を間近で見られたこと、そしてその過程に参加できたことは大きな収穫となりました。特に、長期で準備に関わることのできた展覧会「アジアにめざめたら」については、3カ国共同で企画された巡回展だったこともあり、展示作品決めから設営まで、各国の学芸員の方々と意見を交わしながら作られていく過程がとても印象的でした。

また、準備に関わった展覧会に何度も足を運び、集客状況、展示やお客様の様子などを、細かく見ることができたことは、とても勉強になりました。そして何よりも、様々な専門性を駆使して業務に当たられている学芸員の方々とお話しする機会があったことは、大変貴重な経験となりました。担当した展覧会開催までの期間、日々交渉にあたったり、細部にまで気を配ってより良いものを仕上げていく姿勢や、そこから学んだノウハウは、しっかり今後も心に留めておきたいと思います。企画展のインターン活動は、新たな発見や学びに溢れていたのと共に、今後自分が関わっていきたいこと、伸ばしていきたい部分を明確にすることのできた、充実した一年間でした。

C 美術館教育 Mさん

私は、美術館が公共に開かれた施設であるために、教育普及プログラムがどのような役割を果たしているのかを学ぶという目的をもってインターン活動に取り組んできました。教育普及部門では、所蔵品ガイド、学校などの団体向けギャラリートーク、アートカードやセルフガイドの準備などの日常的な業務から、おやこでトークや夏休みこども美術館、美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修などの行事的な業務まで、年間を通じて幅広く関わらせていただきました。

毎日行われる所蔵品ガイドでは、日毎に参加者も鑑賞する作品も変わることで、美術館の中で一期一会の出会いが生まれていることや、参加者が対話によって作品の新たな楽しみ方に気付く様子が印象的でした。そしてそれを可能にしているガイドスタッフの努力や、ガイドスタッフと美術館の関係を間近で見ることができたことは、書籍や論文からは得られない、現場の実態に触れられた貴重な経験でした。さらに、学校向けのギャラリートークでトーカーとして実践する機会をいただいたことで、見学だけでは気付かなかったトーク上の工夫や難しさ、面白さを実感することができました。

ギャラリートークでは対象者に合わせて作品へのアプローチを変化させることを学んだ一方で、教員を始めとした指導者研修では美術館のプログラムをいかに有意義に使うか、美術館のプログラムに対してどのような需要があるのかを学びました。

東近美でのインターン活動を通して、今後もますます多様な需要に合わせて美術館の教育プログラムが発展していくことを感じるとともに、美術館が社会の中で果たす役割が大きくなっていくことへの期待が高まりました。この経験を今後の研究の糧とし、美術と社会を結ぶことに貢献できるよう学び続けたいと思います。

C 美術館教育 Hさん

インターンでは、年間を通じて所蔵品ガイドの見学や教育プログラム・教員研修の補助等を行い、後半からは子どもを対象としたギャラリートークを担当させていただきました。インターンを通して、私が自分なりの答えを見出したいと思っていたことは二つあります。

一つは、集団でトークをする際の、積極的な参加が難しい来館者に対する支援の在り方についてでした。自身でも実際にトークを担当し、参加者一人一人に向き合う気持ちで耳を傾け、発言したくなるような問いかけや共感的な雰囲気づくりに配慮しながら、トーク以外の時間にも積極的にコミュニケーションを図ること等が重要なのではないかと考えました。

もう一つは、トークにおいて作品情報をどの程度提供するのが適切なのかという点でした。作品にまつわる不変の事実はあるかもしれませんが、作品をどのように鑑賞し解釈するかは来館者に委ねられています。トークの組み立てや実践を通して、作品の知識は自由な発想を制限するものではなく、むしろ出し方を工夫すれば参加者の発想を広げ考えを深めることにつながるのだということを実感しました。作者の思いも大切にしながら、参加者が自分の眼と耳と頭を最大限に使って作品を楽しむことができるような鑑賞活動の在り方をこれからも考え続けていきたいです。

一年間、学ぶ機会をいただきありがとうございました。

D 工芸館 Sさん

工芸館でのインターンでは、資料の調査・記録の補助、展示解説の執筆及びその前段階の資料調査、図録の校正、展示撤収作業、教育普及活動の補助、教員研修プログラムの運営補助、広報業務の補助、資料整理等の活動を通じて学芸員の多岐にわたる仕事の一端を経験させていただいた。一般に博物館学において学芸員の業務は資料の収集・整理・保存、調査・研究、教育・普及の三つに大別されるが、上記の活動はこれら全ての分野に及ぶものであり、博物館・美術館における仕事の全体像を朧げながらも掴むことができたように思う。

そうした活動を行う中、展示撤収作業では作品の取り扱いについて一からご指導いただいた。展示解説の執筆にあたっては該当作品の調査から執筆の心構えまでを丁寧に教えていただいた。教育普及活動では来館者との対話を通じて工芸作品の魅力に迫る様子を間近で見学し、先進的な取り組みのノウハウを学ぶことができた。また同活動ではボランティアの方々が工芸に対する強いご関心を持たれながら献身的に努力されていたことが特に印象的だった。これらは学芸員課程で得た理解を深め、実際の現場へと視野を広げる上で大変有意義であった。お世話になった方々には衷心より御礼申し上げたい。

D 工芸館 Mさん

主に美術教育普及活動、保管資料の整理や展覧会準備補助などを経験しました。特に教育普及に関する活動が多く、工芸館独自の「タッチ&トーク」においては多くのことを学びました。「タッチ&トーク」の活動を通して研究員、ガイドスタッフ、インターン生そして参加者の間で互いに情報や思考が共有されており、美術館がまさに教育の場として機能していることを当事者として実感することができました。研究員からの一方通行の教育ではなく、それぞれの立場を超えて教育的なコミュニケーションが生まれていたことがとても印象的でした。

展覧会準備においては、作品調書整理や展示室内の温室度記録の整理などの展覧会開催のためのかなり地道な作業から、研究資料収集補助や文章校正、そして展示作業、レセプション補助に至るまで様々な業務を経験しました。中でも展示作業では、普段はガラス越しにしか見ることができない作品を、手に取り、少しでしたが鑑賞する機会もあり、とても貴重な経験でした。同時に作品の扱い方や、作品を扱う際の身のこなし方などの基本的なことも学ぶことができました。

 一年間を通して、大学の授業では経験できない実践的な研修をさせていただきました。工芸館の中の美術館としての機能や業務に関してはたくさん学ぶことができたのですが、個人的には美術館とアートギャラリーやオークションハウス、作家、コレクターなどとの関係、つまり美術館が外でどのような役割を担っているのかを間近で経験してみたかったです。

一年間ありがとうございました。

D 工芸館 Fさん

短期的な実習ではわからない美術館の仕事を、一年間じっくりと学ぶことができたのは、とても貴重な時間でした。

夏休みの「こども+おとな工芸館」でのタッチ&トークや「キュレーターに挑戦」では、子供たちに作品を自由に感じてみてもらうことの重要性を感じました。鑑賞者同士が、知識だけではなく、どのように感じたか素直な意見を聞きあうことで、作品との距離が縮まり、細かいところまで見ることに繋がっていました。その裏では、ジロジロ眼鏡という作品をよくみてもらうための仕掛けの装置を作ったり、ワークシートを作ったりと、作品をみる前の準備や工夫が徹底されているからだと感じました。おとなもこどもも目を輝かせて話をされている様子をみて、美術館では話せる場、話が聞ける場が重要であると改めて感じました。

また、作家のご遺族から寄贈された資料の整理、記録作業に携われたこともとても勉強になりました。資料の整理はとても地道な作業でしたが、その中で様々な発見があり、学芸員の真髄をみられたように思いました。

調査研究と教育普及という学芸全般を学べる貴重な経験をさせていただいたことに、心から感謝いたします。

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