令和3年度 インターンシップ生のことば
A 学芸・コレクション Nさん
私は元々、令和2年度のインターンシップに応募していました。応募書類を改めて見返してみますと、現場の知識を学びたい、と当時の私は書いていたようです。作成日は2020年1月12日。この頃から、少しずつ「コロナ」という単語がニュースに流れ始めていたとはいえ、まだ世間は落ち着いていたと記憶しています。無事インターンシップに採用されたものの、日本国内でも新型コロナウイルス感染が拡大し、令和2年度の活動は中止となりました。
一年後、美術館の方々の尽力により、オンラインと実地活動を織り交ぜてインターンシップが再開されることになりました。毎月のオンライン全体レクチャーでは、各分野の担当者の方々から詳しい業務内容などを伺うことが出来ました。応募分野以外の美術館の活動を知るとても良い機会でしたので、是非来年度以降も継続していただきたい取り組みです。コレクション・インターンの業務は、主に在宅で、国内外の美術館が、自館のコレクションをどのように美術館ホームページ上で公開しているかの実態調査を行ないました。加えて、7月前半には、緊急事態宣言が一時解除され、美術館の収蔵庫を見学させていただくことが出来ました。一年以上この機会を待っていただけに、喜びもひとしおでした。応募当初思い描いていたような活動は困難だったとはいえ、制限のある状況だからこそ、積極的に学ぶ姿勢の重要性により一層気付かされる一年間でした。
A 学芸・コレクション Yさん
もとは修士2年次にインターンに参加するつもりでした。コロナ禍で予定が流れに流れ実際に現場へ足を踏み入れた令和3年10月、私は既に院を修了し報道機関のデザイナーとしてフルタイムで働いていました。シフトを調整しインターンの規定時間をクリアできたのは学芸員さんの配慮によるところが大きいです。
展示替えの見学に始まり、図版の撮影見学、作品貸出の立ち合い確認、来歴の記入など、内容そのものはとても充実したものでした。特に作家の手紙の解読はとても新鮮で、学芸員という仕事に対する視野が広がりました。コロナ禍故の新しい企画もありました。オンライン全体レクチャーという名目で企画展や図書資料などそれぞれの分野の学芸員さんが講義をしてくださったのです。双方向性を意識した進め方が多く、オンライン下の問題意識と切実な真摯さを感じました。
自分の取り組みについては反省点がいくつもあります。レクチャー時の質問タイムに毎回質問することを自分に課さなかったこともその一つです。ただ「静かによく観ること」を認める空気も美術館にはありました。私は異業界の社会人であることに後ろめたさがあり、基本的には観察に徹していました。現職は「観せ方を考える」という点でキュレーションと共通する部分があると考えて選びました。しかし知れば知るほど前提となる歴史や理念の隔たりを意識せざるをえませんでした。それでもこのインターン経験は間違いなく私の宝物です。この経験を具体的にどうしたら社会に還元しうるのかを考え、勉強していこうと思います。
関わってくださった皆様への感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございました。
A 学芸・コレクション Hさん
大学とは違った、美術の現場に触れたくて今回のインターンに参加をしました。
新型コロナウイルスの感染状況から夏まではオンラインの活動が続きましたが、後半は、美術館現地にて、展示替作業や作品の貸し借り、撮影などに関わらせていただきました。一年間という短い時間ながらも、自分の経験として、確かに手応えがあったのは、具体的な作業ひとつひとつの手順ではなく、そこで働く人の考え方や作品への姿勢といった、美術館のマチエールといえるものだったと思います。
単独の作家や企画で全体を構成する企画展に比べ、コレクション展は、広く時代を捉えた横断的な視野や観点で作品を並べる必要があります。そのためには、自館の所蔵品を全て十二分に把握して、展示のテーマごとにその中から作品の組み合わせを探っていく俯瞰的な視座が必要になると感じました。この部分の研鑽が自分には足りていないことが自覚され、これまで自分は興味をもった作品ばかりを観てしまっていたのですが、今後は、どの美術館に行ってもどんなコレクション作品がそこで展示され所蔵されているのか全て覚えて帰るくらいの知識の精度と広さを身につけようと思います。
また学芸員の方や修復家の方と直接お話出来たのも貴重な経験でした。展示や作品の保存について思うところを、実直に皆さまがお話して下さるのは、インターンという立場であったからの経験だと思います。
コレクション展は、よく観ると企画した方の個性や関心も強く映し出されていて、同じ作品であっても別の側面に気づくことができるような丁寧で魅力的な空間だと感じました。一年間ありがとうございました。
A 学芸・コレクション Kさん
今回のインターンでは、主に寄贈予定の作品の資料作成、そして既存の所蔵品に関する調査を行いました。
資料作成については、受け入れ予定である数十点のプリントが収録された写真集の内容等を取りまとめ、データ化する作業を行いました。本作業は緊急事態宣言によりリモートでの活動となりましたが、取りまとめた情報が将来様々な場面で活用されるという、責任のある作業を与えて頂けたことは嬉しかったです。
所蔵品の調査では、1960〜70年代にアメリカの写真教育機関でつくられたポートフォリオを中心とした、ギルバート・コレクションの調査に携わりました。他機関での同作品の所蔵状況について調べたほか、収蔵庫で作品の状態を確認する作業も行いました。調査の際はプリントに負担をかけないよう、作品を動かす回数は少なくすることなど、心がけるべき点も教えて頂きました。
その他の業務を見学させて頂くなかで興味深かったのは、展示替えの時間でした。例えば、ある一連の写真作品を展示したときのこと、学芸員の方ははじめ均等な間隔でプリントを配置しましたが、少し考えたあと、ランダムに余白を空けていきました。すると壁面の圧迫感が減り、作品を見る視界にゆとりが生まれたのです。こうした微細な配置の工夫は、設営の現場でしか見ることができません。このように、学芸員の方の業務における様々な「工夫」を学べたことは、私にとってかけがえのない経験でした。
B 学芸・企画展 Aさん
企画展インターンシップに応募した理由は、展覧会の度に毎回異なる展示空間を創出している東京国立近代美術館で、その運営方法を学びたいという想いからでした。この一年間で学んだことを、次の三点の活動へ集約させて述べたいと思います。
一点目は、企画展覧会の準備です。とりわけ沢山携わった「没後50年 鏑木清方展」では、図録の校正、調書等の作成、施工会議や作品搬入の見学など展覧会準備の序盤から終盤までの業務を体験することができました。そして展覧会とは担当の研究員だけでなく、他館の職員から異業種の人々まで、大勢の手により実現することを改めて認識しました。
二点目は課題についてです。コロナ禍の今年度は、リサーチ課題と企画展覧会の立案にも取り組みました。後者では、展覧会概要や平面図の作成を通じて、展覧会の立て方を実践的に習得できました。講評会では、企画展室の研究員の方々よりテーマや章構成に関する質問、図面の実現可能性など多様なご意見をいただき、大変勉強になりました。
三点目はオンラインレクチャーです。今年度が初めてとなる本活動では、図書資料や美術館教育といった他部門の業務についても理解を深める機会となりました。
紙幅の都合上詳しく述べられませんが、インターンシップは本当に得るものが多くありました。休憩時間にいただいた研究への助言はもちろん、展覧会が最新の研究動向を紹介する場所にもなるのだと知ることができたのは、とても大きな収穫でした。この経験を活かして、今後も研鑽していきたいと思います。お世話になりました研究員の皆様に改めて感謝申し上げます。
B 学芸・企画展 Sさん
今年度のインターンでは、コロナ禍の影響で例年通りの活動が難しい中、企画展にまつわる様々な経験をさせていただきました。
美術館での活動では、展示作業や会議への立ち会い、図録の校正、資料のスキャンなどを通じて、一つの企画展を完成させるためには、様々な業務に対応する能力が必要であることを学びました。特に私は、普段観ている企画展の裏側について知りたいと思い、インターンを志望したので、「没後50年 鏑木清方展」等の展覧会の準備に参加できたことは、貴重な経験となりました。
また、対面での活動が制限されていた時期でも、オンラインでの課題を出していただいたおかげで、企画展に関する学習を継続することができました。その課題では、美術館内での開催を想定した企画展を立案し、趣旨文や作品リスト、会場の図面の制作を行いました。この企画の発表をした際には、企画課の皆さまが真剣に向き合ってくださったことで、学芸員として展示を行うことの意味をよく理解し、来館者の方に寄り添うことが大切であると学びました。
今年度は、担当の学芸員の方々にとっても 新しい試みが多かったことと思いますが、私の学業の状況も踏まえながら、活動の予定を組んでいただいたおかげで、非常に多くの経験をすることができました。今後もインターンを通じて得たことを胸に、自身の目標に向かって努力していきたいと思います。一年間本当にありがとうございました。
C 美術館教育 Hさん
昨年度予定していたインターン活動が新型コロナウイルス感染症の影響により中止となりましたが、今年度に引き継ぐ形で活動させていただきました。引き続きのコロナ禍でしたが、全体レクチャーや教育普及プログラムの補助など、オンラインを中心に活動することができました。
全体レクチャーでは美術館のそれぞれのセクションの役割を通して、理念やミッションを知ることができました。対話鑑賞やおやこでトークでは、作品を直に鑑賞することができない状況の中でも、オンラインの特性をプラスに活かされていたことが印象に残っています。対話鑑賞での例を挙げると、最初に作品の一部を映して、後から全体像を見せるやり方や、屏風の作品を平面の画像で見せるなど、来館したときとは違った視点での楽しみ方が工夫されていました。
そして何より教育普及を考える際は、来館者だけでなく、美術館に来ていない人はどんな人なのか、何がバリアとなっているのかを社会の中で見て、それらを取り除くためにサポートできることは何だろうという視点を持つことからスタートしていました。そこから企画を作り上げるにあたっても、目的や詳細を共有して、意見を出し合いながら進めることで、ディスコミニケーションを生まず、チーム一丸となって作り上げられていることを実感しました。
このような多くの学びの機会をいただけましたこと、心より御礼申し上げます。
C 美術館教育 Cさん
美術館で人との関わり方を実践的に学びたく、本インターンを志望いたしました。
1年間、所蔵品ガイド、教員研修、学校団体見学の下見、未就学児プログラムやガイドスタッフの育成を通じて、美術館の組織編成、紙媒体、事業の管理を垣間見ることができました。また、異なる年齢層の利用者による所蔵品に対する考え方も、より具体的に捉えることができました。
近代から現在まで約100年間があります。すなわち一人の人生の寿命とも解釈できます。その100年間でフェミニズム、世界大戦や抽象芸術の登場など、私たちが持っている価値観を形成する重要な出来事がありました。そのため、近代アートは人間により刺激を与える、精神的に共感できるものだと思います。
子どもが高村光太郎の『手』を見て誰の手と想像するのか、高校生が北脇昇の『クォ‧ヴァディス』を見て迷っている将来を思い浮かべるのか、男子校の生徒が足で描かかれた白髮一雄の『天慧星拚命三郎 (水滸伝豪傑の内) 』を見てどう思ってもらえるのか、外国人が日本の戦争画を見てどう捉えるのかなどを想像し、鑑賞活動による発言も参加者同士によるものは私も感銘を受けました。
鑑賞の裏側にあるのは、学芸員やガイドスタッフが刷新し重ねた企画案や質問の投げ方などでした。さらに、コロナ時代において、オンラインプログラムやコンテンツを提供しました。いずれの業務も簡単と言えず、それらの過程に関わらせていただき幸せだと感じました。
D 図書資料 Oさん
今回のインターン活動では、多くのことを学ぶことができました。実際に業務に用いられるデータベースに触れたり、カウンターでの閲覧業務を間近で見学させていただいたことは、大学の資格授業では経験できない、とても貴重な体験でした。また、他館のHPを巡る調査課題は、理想的な情報発信のあり方について考えさせられる良いきっかけとなりました。
この一年間の研修は、私にとって、今まで漠然としていた美術館司書の業務内容を、明確に捉えなおす経験となりました。長い時間をかけて蓄えられた膨大な知の集積を、収集・整理・保存し、真摯に伝えていく仕事のあり方に学ぶほどに魅力を覚えました。アートライブラリの静謐な空気と、東近美全体におけるその役割をじかに感じることができ、司書になりたいという夢をこれまで以上に確かなものとすることができました。
お忙しい中、又、コロナ禍により不自由な中、いつでもあたたかく、丁寧に教え導いてくださったアートライブラリの方々への感謝の気持ちでいっぱいです。東京国立近代美術館で得た学びは、これからの私の大きな糧となることと思います。一年間、本当にありがとうございました。