開催中の展覧会

  • 2022.5.17- 2022.10.2
  • 所蔵作品展

MOMATコレクション

MOMAT Collection

2022年5月17日-2022年10月2日の所蔵作品展のみどころ

藤川勇造《詩人M》1925年

 MOMATコレクションにようこそ!19世紀末から今日に至る日本の近現代美術の流れを、国際的な関連も含めてご紹介します。
 1952(昭和27)年に開館した当館は、2022年12月1日に開館70周年を迎えます。コレクション展では年度を通して、切り口を変えながら70年間を振り返り、また未来を展望するような企画をおこなっていきます。
 4階の3、4、5室は、ここしばらく力を入れているコレクション展内での特集展示です。「ぽえむの言い分」と題して、詩にまつわる作品を集め、詩と造形の交流や連帯をご覧いただきます。
 70周年にまつわる展示は3階でどうぞ。7、8室では、当館が開館以来、同時代の美術と並走しながら、展覧会と収集をどのように関連づけてきたかをご紹介します。9室でも二人の写真家、セバスチャン・サルガド(7月24日まで)と石内都(7月26日から)を、作品収集の歴史をめぐるエピソードとともにご紹介します。
 また2階11室では、1階で開催される「ゲルハルト・リヒター」展(6月7日から)に関連した展示もご覧いただけますのでお見逃しなく。

出品作品リストは、こちら (PDF)

今会期に展示される重要文化財指定作品

■今会期に展示される重要文化財指定作品は以下の通りです。

  • 原田直次郎《騎龍観音》1890年 寄託作品|1室ハイライト
  • 萬鉄五郎《裸体美人》1912年|1室ハイライト
  • 和田三造《南風》1907年|2室
  • 岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915年|3室
  • 中村彝《エロシェンコ氏の像》1920年|3室

  5点の重要文化財(1点は寄託作品)についての画像と解説は、こちら

展覧会構成

4F

1室 ハイライト
2-5室 1900s-1940s 明治の終わりから昭和のはじめまで

「眺めのよい部屋」

美術館の最上階に位置する休憩スペースには、椅子デザインの名品にかぞえられるベルトイア・チェアを設置しています。明るい窓辺で、ぜひゆったりとおくつろぎください。大きな窓からは、皇居の緑や丸の内のビル群のパノラマ・ビューをお楽しみいただけます。

「情報コーナー」

※MOMATの刊行物や所蔵作品検索システムは、現在ご利用いただけません。

 

1室 ハイライト

三岸好太郎《雲の上を飛ぶ蝶》1934年

 3,000m²に200点以上が並ぶ、所蔵作品展「MOMATコレクション」。その冒頭を飾るのはコレクションの精華をご覧いただく「ハイライト」です。
 2期に分かれる今会期、まずは日本画からご紹介します。前期(7月24日まで)の目玉は、昨年度収蔵されて初のお披露目となる速水御舟の《渓泉二図》(1921年)です。御舟の細密描写の時期のなかでも特に実験性の高い作品です。目を凝らしてじっくりご覧ください。後期(7月26日から)は盛夏の季節にあわせて土田麦僊《島の女》(1912年)と川端龍子《草炎》(1930年)、人気作品の豪華な共演です。
 ケースの外には原田直次郎《騎龍観音》(1890年)、萬鉄五郎《裸体美人》(1912年)、岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》(1915年)の重要文化財3点のほか、収蔵以来、長く美術館の顔となってきたおなじみの作品を出し惜しみなく並べました。館外への貸出も多い作品ばかりで、これだけ揃うチャンスもなかなかありません。開館70周年記念ということで、どうぞ東近美のオールスターをご堪能ください。

2室 近代の自然表現― 光、筆触、色彩

南薫造《六月の日》1912年

 近代の息吹とともに、日本の画家たちは、定番化された名所などをそのまま描くのではなく、自分の眼でよく見、心を掻き立てる風景を切り取り、いかに描くかということを追究し始めます。画家たちは、自分の眼で見て感じた風景を光と陰、色彩の表現に苦心しながら、時に筆触を活かし、時にもの静かな情感とともに表現し、自然やそこに生きる人々をいかに絵画化するかという命題と取り組んだといえましょう。単に外界(風景、自然)の発見というだけでなく、同時に自分自身の心を突き動かすものへ積極的に介入しようとするところに、近代性を見ることができます。構図の取り方や描き方への各人各様の多様な取り組みからは、画家たちが自然に向けたまなざしや表現に込めた熱い思いをうかがい知ることができます。

3室 ぽえむの言い分(1)

藤川勇造《詩人M》1925年

 詩の輝きはどこへ行ってしまったのでしょう!「ポエム」というと、今日では自己陶酔的で無根拠な言葉を揶揄する目的による用法をしばしば目にします。「詩は絵のように、絵は詩のように」とは古代ローマの詩人ホラティウスの『詩論』に基づく格言ですが、その言に従うなら、詩がおとしめられるとき、いずれ美術がおとしめられることも遠くないかもしれません。
 このことを念頭に、今回3つの部屋を使って、当館のコレクションの中から詩にまつわる作品を集めました。この部屋に展示している高村光太郎のように美術作品を手掛ける者が同時に詩人であり、あるいは19世紀フランスのシャルル・ボードレールや日本の瀧口修造のように、詩人が美術評論を著すことは珍しくありませんでした。詩は美術にとって長らく同胞であり、憧れであり、着想源でもありました。ささやかな展示ですが、詩と造形の交流や連帯を振り返る機会となれば幸いです。

4室 ぽえむの言い分(2)

駒井哲郎《詩画集「マルドロオルの歌」より 3.鱶とマルドオル》1951年
© Yoshiko Komai 2022 /JAA2200066

 「銅板詩人」とも呼ばれた駒井哲郎による、詩にちなんだ作品を紹介します。仏文学に傾倒し、夢や幻影といった抒情的な主題を描く駒井は、戦後のデビュー早々に大いに注目を浴びました。エッチングを中心にさまざまな銅版画技法を用い、泡立つように緻密で豊かな諧調を浮かび上がらせる駒井の版画は、当初から音楽や詩歌になぞらえられ、詩人との共作も多く残しています。
 それらの中からこの部屋では、初めての詩画集『マルドロオルの歌』、詩人の安東次男との協同でとりわけ評価の高い2冊『からんどりえ』(仏語でカレンダーの意)と『人それを呼んで反歌という』、そしてサンドペーパーを使って微妙な肌合いを表した『蟻のいる顔』(詩:丸山薫)をご覧いただきます。「銅版画はその技法上の特質から云っても、表現形式から云っても、本質的に時間的、音楽的要素を含んでいる」と駒井は述べています。金属の腐食を巧みにコントロールして生まれた図と、詩人の言葉との「音楽的」な共演をお楽しみください。

5室 ぽえむの言い分(3)

パウル・クレー《花のテラス》1937年

 ある仕組みのもとで色や形をかけ合わせることで、リズムを生み出したり、未知の何かを表したり、まだ誰も気がついていないことを解き明かそうとしたり。音楽のような、数学のような、科学のような、あるいは超自然的な力を託しつつ、美術家たちは視覚的な詩として作品を制作しています。美術と言語表現の性質に違いはあれど、そのような複雑な機能を言い表すには「詩」という言葉が最もふさわしいでしょう。抽象絵画の色と形の呼応は人の情感に対して具体的な力として働きかけ、詩の芸術運動から始まったシュルレアリスムは現実世界に別の解釈を与えようと試みました。作品の題名に付された「詩」と、現在の私たちの理解している「詩」とは、どれほど共通しているでしょうか。
 この部屋では、戦中というきわめて不安定な時代に、人々の精神的な拠り所となったのが詩歌であったことも紹介します。詩は固定観念を解体する一方で、逆に共同体の結束を強めるものでもありました。

3F

6-8室 1940年代-1960年代 昭和のはじめから中ごろまで
9室 写真・映像
10室 日本画
建物を思う部屋(ソル・ルウィット《ウォールドローイング#769》

 

6室 戦争の時代― 修復を終えた戦争記録画を中心に

須田国太郎《歩む鷲》1940年

 1938(昭和13)年の国家総動員法によって、国民すべてが戦争協力を迫られるなかで、美術家も戦争記録画を描くようになりました。戦後、アメリカ連合軍総司令部が現存する戦争画の主要作品153点を接収し、1951(昭和26)年に合衆国に移送します。日本への返還要求の声が実り、ようやく1970(昭和45)年3月にアメリカ政府から日本政府に「無期限貸与」するかたちで、日米両国が作品返還に合意。傷みに応じて修復処置が施されましたが、経年変化などで過去の修復跡の変化なども目立つようになったことから、近年新たに修復し直し、額を新調するなどしています。今会期は修復を終えた戦争画を中心に戦時期の美術を展示します。
 特に色彩豊かですが表現は淡泊、人物より広大な光景での戦闘の記録に近い藤田の初期の戦争画と戦争末期の複雑に人物が絡み合う褐色調の死闘図との違いは、画家の関心の変化も見て取れ、見どころのひとつです。

7室 70周年をふりかえる 同時代の展望と収集(1) 1950–60年代

瑛九《午後(虫の不在)》1958年

 当館は今年の12月に開館70周年を迎えます。これを記念して、コレクションによって美術館の歩みをふりかえる部屋を設けました。当館が1952年の開館以来、同時代の美術とどのように並走し、展覧会と収集をどのように関連づけてきたかをご紹介します。
 佐藤忠良《群馬の人》(1952年)は開館初年度購入作品。1953年の「近代彫塑展」に出品されました。植木茂と山口長男の作品は「十九人の作家」展(1955年)、麻生三郎の作品は「戦後の秀作」展(1959年)、瑛九の作品は「四人の作家」展(1960年)の出品作の中から購入されたものです。それから、安井曽太郎の画業を記念して1957年に始まり、若手画家の登竜門となった安井賞展の受賞作から、今回はその初期の4作品をご紹介します。
 当館はまた、戦後に海外で活躍するようになる作家たちにも早くから目を向けています。菅井汲と嶋田しづの作品は「在外日本作家展:ヨーロッパとアメリカ」(1965年) の出品作です。

8室 70周年をふりかえる 同時代の展望と収集(2) 1960–80年代

高松次郎《No.273(影)》1969年
© The Estate of Jiro Takamatsu, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

辰野登恵子《Work 84-P-1》1984年

 当館は従来の美術の枠組みを逸脱するような作品も、「現代美術の実験」(1961年)、「1970年8月:現代美術の―断面」(1970年)といった展覧会でいちはやく紹介してきました。とはいえそのとき収集しそびれ、後から悔やまれるものも少なくありません。一方、版画の分野では、1957年から79年にかけて全11回開催した「東京国際版画ビエンナーレ」を機に収集した作品が、戦後版画の多様な展開を知る上で重要です。
 1969年に当館が京橋から竹橋に移転し、開館記念展となった「現代世界美術展:東と西の対話」には国内外の新しい表現が紹介されました。荒川修作、斎藤義重、高松次郎、三木富雄、若林奮の作品はそのとき出品されたものです。
 1984年から始まる「現代美術への視点」のシリーズでも、若手作家をリサーチし、展覧会を開いて収集へと結びつける活動が積極的に行われました。今回はその第1回「メタファーとシンボル」展を機に収集した黒田アキ、辰野登恵子、中村功の作品をご紹介します。

9室(前期:2022年5月17日ー7月24日) セバスチャン・サルガド 「ラテン・アメリカ」

セバスチャン・サルガド《「ラテン・アメリカ」より セアラ州ジュアゼイロ・ド・ノルテ、ブラジル》1981年 © Sebastião Salgado

 「奇想天外な物語の国から受け継いだすべての幻想とともに、私はこの魅惑的な大陸の夢を見る―中略―そこは死者が生者の想像力の中で鮮やかに生き、この世かあの世か分からないような、死が日常と分かち難い姉妹であるような、そんな場所なのだ。」(写真集『アザー・アメリカス』序文)
 「労働者たち」や「ジェネシス」など、地球規模での取材にもとづく作品で知られる写真家セバスチャン・サルガドの初期作品であるラテン・アメリカの連作は、軍政を批判したため亡命同然に故国ブラジルを離れ、ヨーロッパに暮らしていたサルガドが、1977年から84年にかけて、南米各地で撮影したものです。
 写真集の序文の言葉どおり、この連作には、サルガドが愛してやまない南米大陸の、厳しい自然の中で力強く生きる人々の存在感と、どこか幻想的で現実離れした印象とが重なる、独特の世界が展開します。失われたもの、遠く離れてしまったものなどに対する甘さと苦さの交錯した思いを表す、ポルトガル語の「サウダージ」という言葉が、これらの写真を形容するにはふさわしいのかもしれません。

9室(後期:2022年7月26日ー10月2日) 石内都「連夜の街」

石内都《「連夜の街」より 常磐町》1978-80年

 石内都の初期作品「連夜の街」の舞台は日本各地の旧赤線地帯の建物です。1958(昭和33)年に施行されたいわゆる「売春防止法」によって赤線地帯は廃止され、70年代末に石内が撮影した頃、かつて娼家だったこれらの建物はアパートなどとして使われていました。
 石内はこの特異な空間のことを「1958年に終了してしまった街」と記しています。それでも建物に残る装飾などには往時の面影がにじみます。とりわけ、その空間の記憶を強く喚起するのは、廊下や階段、手すりなど、人の手や足が直接触れる部分ではないでしょうか。それらは繰り返し踏まれたり触られたりしたことで、磨かれ、黒光りしています。一方で、そうした身体の痕跡を残すことを冷たく拒むタイルという素材にも、写真家は注目しています。タイルは、逆に人の肌に、硬質で冷たい感触を残す素材です。
 こうした触覚にまつわる記憶への関心は、石内の仕事の本質的な部分に関っています。80年代末から、石内は身体の部分をクローズアップした一連の作品にとりくみ始めますが、そうした展開への予感も、ここには現れているのです。

10室(前期:5月17日―7月24日) 薫風の季節/ 没後40年 黒田辰秋

黒田辰秋《螺鈿白蝶縞中次》1974年頃
(展示期間:5月17日―7月24日)

 「風薫る五月」という決まり文句がありますが、文学の世界を振り返ると、薫風が示す季節は必ずしも五月というわけでもないようです。鎌倉時代の歌人藤原良経は、春の桜を詠んでも(「またも来む花に暮らせるふるさとの木の間の月に風かをるなり」)、夏の橘を詠んでも(「かぜかをる軒のたちばな年ふりてしのぶの露を袖にかけつる」)、「風薫る」と表現しました。また正岡子規の俳句「薫風や裸の上に松の影」は、愛媛県の四十島を舞台に、裸の男たちに落ちる影をとらえて、風薫る初夏にふさわしい眩しさです。奥のガラスケースでは、初夏から盛夏にかけての季節を描いた日本画をご覧いただきます。
 また、手前のスペースは、木工芸の分野で最初の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された黒田辰秋の特集です。柳宗悦が提唱した民藝運動に共鳴した黒田は、仲間たちとの交流を通してさまざまな民藝品や過去の作品に目を向け、その研究から天然素材の美しさを存分に生かした独自の作風を確立しました。6月4日で没後40年となる節目にあわせ、新しいコレクションも含め、当館が所蔵する黒田の全作品をご紹介します。

10室(後期:7月26日―2022年10月2日) 筆で描く/あこがれの青

平福百穂《 堅田(かたた)の一休》1929年
(展示期間:2022年7月26日―10月2日)

 今回の10室、奥のガラスケースでは、筆墨を表現の主体とする作品を集めてみました。東洋画に筆墨はつきものだと考えている人も多いと思いますが、近代日本画では、20世紀初頭のいわゆる「朦朧体」で輪郭線を排除する試みが行なわれて以降、筆墨は必ずしも必須の要件ではなくなっていました。そのなかで線描主体の表現を選んだ画家たちには、伝統の復興や継承に努めたという共通点が見出せます。南画、やまと絵の白描、東洋古代の線表現の発見や見直しによって、近代日本画の多様性は支えられていたのです。
 また、手前のスペースには、目にも涼しい青磁と青白磁が並びます。青磁は還元焼成によって素地や釉薬のわずかな鉄分が反応して青色を呈するもので、一方の青白磁は白磁の一種で、彫り模様などのくぼみに釉薬が溜まって青みを帯びたものを指します。中国では時代ごと、地域ごとに名品が生み出され、古くから日本でも人々を魅了してきました。近代以降も多くの陶芸家が、歴史上の優品を乗り越える青の表現に挑戦し続けています。

2F

11室 ゲルハルト・リヒターとドイツ

ゲルハルト・リヒター《抽象絵画(赤)》1994 年 ©Gerhard Richter 2022 (20042022)

 企画展ギャラリーで開催のゲルハルト・リヒター展(6月7日から)にあわせ、当館のコレクションからリヒターの作品と、同時代のドイツの作家による作品をご紹介します。
 リヒターは1932(昭和7)年に東部ドイツのドレスデンに生まれ、ベルリンの壁が作られる直前の61年に西ドイツへ移住、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学びました。ほぼ同世代の画家ゲオルク・バゼリッツも東ドイツに生まれ、57年に西ベルリンに移住と似た経歴です。20世紀有数の激動の地で活動してきたリヒター、バゼリッツは、現在、ドイツの戦後画家としてまず名の挙がる二人でしょう。
 また《シルス・マリア》(寄託作品)をはじめ、写真を制作における重要なメディアとしてきたリヒターということで、写真家の作品もご覧いただきます。ベルント&ヒラ・ベッヒャー(7月24日まで)は、70~80年代にかけて、リヒターと同時期にデュッセルドルフ芸術アカデミーで指導を行っていました。そのベッヒャーの指導を受けたのがアンドレアス・グルスキーやトーマス・ルフ(いずれも7月26日から)です。

12室 1990年代の風景ランドスケープ 都市/美術/テクノロジー

福田美蘭《Copyright 原画》1999年

 1990年代は、現在の生活へつながる文化的基盤が築かれた時代と言われます。特に1995(平成7)年は、阪神・淡路大震災、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こった他、戦後50年、インターネット元年にもあたり、重要な転換点となった年です。歴史的・社会的な大きな出来事と日常生活とがしばしば直結し、変化のめまぐるしいこの時代状況に反応しながら、アーティストたちは自らの表現を模索していきます。
 たとえば80年代末のバブルの余韻のように開発が進み、急速に変容していった都市風景へ、とりわけ写真家たちが鋭敏に目を向けました。また、新たなテクノロジーが普及していく過渡期であったため、デジタル技術の導入や通信技術の向上が、美術やデザインの領域で創作の可能性を広げていったことも見逃せません。
 私たちを取り巻く環境や情報収集の方法も変わったことで、90年代から継続して社会が抱えている問題も、当時と現在では異なる響きをもって感じられます。90年代の出来事や世相との関連から美術やデザインを取り上げ、この時代に固有の表現の一端を探ります。

新しいコレクション

ここでは、MOMATコレクションに展示中の「新しいコレクション」を紹介します。

辻晋堂《詩人(大伴家持試作)》1942年 TSUJI Shindo, Poet (Prototype for Figure of Otomo no Yakamochi), 1942

辻晋堂(1910–81)
《詩人(大伴家持試作)》
1942年
木、墨
196.0×47.0×41.8 cm
令和3年度購入
撮影:大谷一郎 

 辻晋堂しんどうの名は、陶土を用いた彫刻(陶彫)によって歴史に刻まれています。同時代の前衛陶芸集団・走泥社を触発し、親交の深かった彫刻家の堀内正和とともに、その抽象的造形は戦後美術の一潮流を形成しました。すでに当館が収蔵する辻の2点も抽象的な作品ですが、こちらは木彫の人物像。第29回院展(1942年)で第1賞を受賞した記念碑的作品で、辻の後援者であった大阪の肥料問屋・黒田甚三郎旧蔵品をこのたびご寄贈いただきました。
 三十六歌仙の一人として知られる大伴家持は因幡国(現在の鳥取県東部)の国守を務めており、鳥取出身の辻に馴染みがあったのかもしれません。鷹を持たせたのは、家持が特に鷹狩りを好み、鷹を詠んだ歌が知られることを踏まえたものでしょう。万葉集に因む歌人を選んだ背景には時局下の国粋的風潮も関係したに違いありません。前年の1941年、辻は満州開拓移民の像を制作しています。
 それにしても、大伴家持という稀なモチーフ、しかも裸体。「思ひも寄らぬ構想」と評した平櫛田中の言葉1が残されていますが、素手に乗せた鷹(危ない)、たまたま腹部に張り付いたような薄布、縦線で表したほうきのような陰毛など、各々の要素はいかにも奇異です。ただし全体の印象としては、体躯がゆるやかなS字を描く、いわゆるコントラポストの古典的なポーズが安定しています。
 何より特徴的なのは、全体に残る粗いのみ跡と所々に露出した埋め木や継ぎ目でしょう。堀内正和はこう述べています。

「彼は、よく研いだ鑿で精密に仕上げる正統的院展式木彫に飽き足りず、もっとごつごつした手法で、素朴というより粗野な力のあるものを求め[…]埋め木の継ぎ目がよく見えるようにわざと不細工に仕上げている。[…]作品が木で出来ているその木の感じをそのままむき出しにした方が作品として強い、と考えたからである」2

 1940年を前後する時期、辻は原型に依らずに直接木を彫り出す「直彫」を試みます。「寫す彫刻もあつたつていいだらうが、又一方に表はす彫刻といふものがあつていい」3。本作は辻にとって、主観的な表現主義の試作であったのです。
 その「表はす彫刻」の着想の裏には、独創的な木彫で期待されながら1935年に早世した橋本平八からの影響もうかがえます(先に引用した平櫛の評にも「橋本平八の亡き後を受け」とあり、堀内も橋本に強い関心を抱いていました)。貴重な戦中期の彫刻であることも含め、今後の研究が俟たれる作品です。

(美術課主任研究員 成相肇 /『現代の眼』637号)

※ 本作品は、所蔵作品展「MOMATコレクション」6室 にて展示中。

 

1 平櫛田中「辻と私」1949年6月18日
 尾崎信一郎「辻晉堂の仕事—彫刻の彼岸へ」『生誕100年 彫刻家 辻晉堂展』図録(2010年)より引用。

2 堀内正和「モデル・イメージ・無心」『現代彫刻の異才 辻晉堂展』図録、1983年

3 辻晉堂「煩と簡」『辻晉堂陶彫作品集』講談社、1978年

オンライン対話鑑賞
美術鑑賞の新しい方法を試してみませんか?

東京国立近代美術館は、解説ボランティア「ガイドスタッフ」とともに、オンラインによる対話鑑賞プログラムを実施しています。

*現在展示されていない作品を鑑賞する場合があります。

名 称: オンライン対話鑑賞―MOMATガイドスタッフによる所蔵品ガイド
定 員: 1グループ6名程度 (応募多数の場合は抽選制)
参加費: 無料
開催頻度:

不定期(週1~2回)
※募集は月1回程度、プログラム数回分の参加者をまとめて募集します。
※申込み締切後、当選者には、お申込み時のメールアドレスにご連絡いたします。

所要時間: 45分程度
開催方法: zoom(ウェブ会議ツール)を使用
鑑賞する作品: 東京国立近代美術館の所蔵作品1点

詳細・お申込みはこちら

会場:
東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー(4F-2F)
会期:
2022年5月17日(火)-2022年10月2日(日)
開館時間:
10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)
*入館は閉館30分前まで
休室日:
月曜日[2022 年7月18 日、9月19日は開館]、7月18日(火)、9月20日(火)
 →月間カレンダーもご参照ください。 
チケット:
会場では当日券を販売しています。
会場の混雑状況によって、当日券ご購入の列にお並びいただいたり、入場をお待ちいただく場合がありますので、オンラインでの事前のご予約・ご購入をお薦めいたします。

こちらから来館日時をご予約いただけます。
※お電話でのご予約はお受けしておりません。
※障害者手帳をお持ちの方は係員までお声がけください。(予約不要)
※観覧無料対象の方(65歳以上、高校生以下、無料観覧券をお持ちの方等)についても、上記より来館日時をご予約いただけます。

観覧料:
一般 500円 (400円)
大学生 250円 (200円)
※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
5時から割引(金曜・土曜):
一般 300円 
大学生150円
※高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。入館の際に、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。

・作品リスト(PDF)

・プレスリリース

無料観覧日:
5月18日[水、国際博物館の日]
主催:
東京国立近代美術館

所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)のご案内

9室「写真・映像」

9室「写真・映像」*

10室 「日本画」*

「眺めのよい部屋」*

「眺めのよい部屋」*

 「MOMATコレクション」展は、日本画、洋画、版画、水彩・素描、写真など美術の各分野にわたる13,000点(うち重要文化財15点、寄託作品2点を含む)を超える充実した所蔵作品から、会期ごとに約200点をセレクトし、19世紀末から今日に至る日本の近現代美術のながれを海外作品も交えてご紹介する、国内最大規模のコレクション展示です。最近は工芸館で管理する工芸作品も登場させるようになっています。
ギャラリー内は、2012年のリニューアルによって、12の部屋からなるスペースに生まれ変わりました。その1室から12室までを番号順にすすむと、1900年頃から現在に至る美術のながれをたどることができます。そして、そのうちのいくつかは「ハイライト」、「日本画」という特別な部屋、あるいは特集展示のための部屋となって、視点を変えた展示を行っています。
「好きな部屋から見る」、「気になる特集だけ見る」あるいは「じっくり時間の流れを追って見る」など、それぞれの鑑賞プランに合わせてお楽しみください。


展示替えについて

年間数回大きく作品を入れ替えています(会期によっては、さらに日本画を中心とした一部展示替があります)。

このページ内の会場風景はすべて撮影時のものであり、現在の展示と同じとは限りません。
*印:いずれもphoto: 木奥恵三

 

所蔵品ギャラリーについて

 「MOMATコレクション」では12(不定期で13)の展示室と2つの休憩スペースが3つのフロアに展開し、2Fテラス付近や前庭にも屋外彫刻展示を行っています。マップの水色のゾーンが「MOMATコレクション」です。4Fには休憩スペース「眺めのよい部屋」を併設しています。

所蔵作品展「MOMATコレクション」の会場入口は4Fです。1Fエントランスホールからエレベーターもしくは階段をご利用のうえ、4Fまでお上がりください。

作品解説アプリ カタログポケット