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現代の眼 オンライン版 新しいコレクション ハンス・コパー《ポット》
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《ポット》
1979年
陶器
高さ20.6 幅8.9 奥行8.2cm
2024(令和6)年度購入
撮影:品野塁
卵か繭を彷彿とさせる楕円の曲面体と、台座のような鼓状の中心が
ハンス・コパーはドイツに生まれ、父親がユダヤ人であったためナチスの迫害から逃れて19歳でイギリスに渡るも、戦時中は敵性外国人として苦しい生活を余儀なくされました。1946年に陶芸家ルーシー・リーの工房で陶製ボタン作りの助手となったことで陶芸の道へ進みます。それまでコパーに作陶の経験はありませんでしたが、轆轤の技術を短期間で習得するとその才能を開花させます。
コパーの作品はしばしば「彫刻的」という言葉で評されます。彼の作品の多くは、轆轤で挽いた部品を複数組み合わせる合接という技法で作られています。各部品は円盤や円筒等シンプルな形状ながら、それらを有機的に繋ぎ合わせ新しい造形を生み出すという点では、まさに彫刻のようです。コパーは陶芸家になる前からブランクーシら彫刻家の作品に関心を寄せ、1950年代初頭には一時彫刻に専念したこともありました。しかしそれはわずかな期間で、すぐに陶芸の世界に戻ります。彫刻という自由な造形の探究へと踏み出したにもかかわらずなぜ戻ったのか、その理由はさだかではありません。
コパーの残した数少ない言葉「轆轤は簡潔を課し、限界を示し、弾みと連続性を与えてくれる」1を手がかりに、本作品を見てみましょう。輪郭線は、上部は内から膨張する外向きの力、下部は外から中心へと収縮する内向きの力という、逆方向の緊張感を湛えています。いずれも回転する轆轤だからこそ生み出されたラインです。また、上部と下部を滑らかに合接するのではなく、下部内側に細い円筒を入れることで、ふたつの円筒の間に溝状の開口部が出現します。器である以上口縁を境に必ず生じる「表面と内部」いう構造上の制約を逆手にとり、繋ぎ目にもうひとつ開口を設けることで、単純な形体の組み合わせのなかに複雑で豊潤な空間性を獲得しています。
轆轤の回転による造形と、器として必須の口縁と内部空洞。これは彫刻にはない、陶器のもつ制約(限界)ですが、コパーはあえて制約の内側に留まることでしか到達できない境地を目指したのかもしれません。コパー本人に聞き取りのうえ
コパーは陶器の外面的な限界を探究しているように見える。(中略)彼は彫刻をしているのではない。器を作っているのだ。この過程で彼は自分自身の、そして我々の、器の本質的な『器らしさ』の概念を広げているのだ。2
註
1 1969年ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)「コリングウッド/コパー」展図録の作家自身による挨拶文
2 1967年ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館(ロッテルダム)「ルーシー・リー ハンス・コパー」展図録の序文
(『現代の眼』640号)
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