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現代の眼 オンライン版 資料紹介|清家清「構成原理ノート」
戻る本資料は、建築家である清家清(1918–2005)が東京美術学校(現・東京藝術大学)在学中に受講した構成原理の講義ノートである。この講義は、日本人で初めてバウハウスに在籍した水谷武彦(1898–1969)が担当したもので、彼が2年間バウハウスで学んだ「創造的精神」を伝えるべく開講された[1]。他学科の生徒も聞きに来るほど学生に人気の講義であったが、ノートが取りやすい内容ではなかったようだ[2]。しかし清家のノートは、手書きの図表や写真の切り抜き、色紙と写真を組み合わせたデザイン画などで丁寧にまとめられ、非常に充実した内容となっている。
この講義で清家が残したノートは2冊で、それぞれ第I学期・第II学期の講義内容が記されている。大まかに説明すると、第I学期は構成と色彩について、第II学期は建築とバウハウスについてまとめられている。
清家自身が構成原理の講義や水谷について語っている文章などはほとんど確認できないが、この丁寧なノートからは学生時代の清家が受けた影響の大きさを窺い知ることができる。
講義を担当していた水谷は、1927年4月から1929年4月までの2年間バウハウスに在籍した。そこで受講したカリキュラムは、6カ月間の基礎教育(工作教育・形態教育)、1年間の工場教育、6カ月間の建築科での実習というもので、日本帰国後には大学の講義のほかに雑誌への寄稿や講演会などを通してバウハウスの理念や教育方針、内容について紹介している。これらの内容と合わせて清家の記したノートを参照すると、水谷がバウハウスで受けたカリキュラムの内容がより具体的に浮かび上がってくる。清家のノートは、水谷がバウハウスで何を学んできたのか、そしてその教えをどのような形で学生に伝えようとしたのかを知ることのできる非常に貴重な一次資料であると言えるだろう。
今回紹介したノートについては、今年度中にウェブ上で全ページ公開を目指し現在データの整理を進めている。
註
1 水谷武彦「バウハウスのカリキュラム その生活と体験」『美術手帖』82号、1954年6月、p.56
2 芸術研究振興財団・東京芸術大学百年史刊行委員会編『東京芸術大学百年史 東京美術学校篇』第3巻、1997年、p.463・465
(『現代の眼』639号)
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