展覧会
わたしいまめまいしたわ:現代美術にみる自己と他者
会期
会場
東京国立近代美術館本館企画展ギャラリー
展覧会について
ときどき、自分というものの存在が、きわめてあやふやで頼りなく感じられることはありませんか? その不安のようなものは、どこからやってくるのでしょう。 「わたし」というものが最初から存在するのではなくて、「他者」 ― 社会に生きるほかの人々 ― との関係の中でできあがっていくものだとするならば、今日わたしたちが感じる、めまいにも似た存在の不安は、ただのアイデンティティの問題にとどまらないはずです。
「他者」とのコミュニケーションのあり方や、わたしたちをとりまく現実を認識するあり方の変化にも目を向けてみましょう。 価値観が多様化し、それがインターネットなどの高度情報技術によって増幅されることで、「わたし」と「他者」との関係は幾重にも複雑なものとなり、そのために「わたし」という存在は、定めがたいものになってきたのかもしれません。
しかし、このような混沌とした状況は、わたしたちが改めて「わたし」のあり方を考え直すチャンスでもあります。 そのためには、ものを見ること、認識すること、そこから紡ぎあげた思考を他者に伝えること、そういったひとつひとつの行為を、繰り返し吟味する作業が不可欠です。 そして、これらはまさに今日の美術における重要なテーマとして、多くのアーティストによって探究されてきました。
今回の展覧会では、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館のコレクションを中心として、現代において「わたし」の根拠を問い、「わたし」を取りまく世界を認識し、「他者」との新たな関係を切り拓こうとする作品を集めて、それらを複数の視点からご紹介します。
主な出品作家(順不同、図版掲載作家は省略):
梅原龍三郎、中村彝、岸田劉生、藤田嗣治、谷中安規(たになか やすのり)、麻生三郎、椎原治、靉光、北脇昇、ウォーカー・エヴァンズ、植田正治、浜口陽三、河原温、宮島達男、村上友晴、岡崎乾二郎、ブリジット・ライリー、日高理恵子、フランシス・ベーコン、須田一政、ポール・ストランド、高嶺格(たかみね ただす)、郭徳俊(かく とくしゅん)
ここが見どころ
さまざまな「わたし」と「他者」の関係を前にして、あなた(観客)もめまいを起こすかも!?
5人のキュレーターが各セクションを担当。そのため、いつもとちょっと違う展覧会になるはず?
当館だけでなく、国立美術館のコレクションの中からよりすぐった現代美術をご紹介します!
- カタログ、チラシ、ポスターなどの印刷物はもちろんのこと、会場内のグラフィックデザインもあの服部一成氏がデザイン!
- 1500㎡に95点を展示(牛腸茂雄の60点組など写真や版画のシリーズものは1点と計上)
- 2003年当館での個展でも話題をよんだ牛腸茂雄の《SELF AND OTHERS》。全60点を展示!
- ビル・ヴィオラ、キムスージャ、高嶺格の代表的な映像作品を展示!
展覧会構成
わたしはひとりではない
「本当の自分を探したい」。多くの人がこんな風に言います。しかし本当の自分、たったひとつの揺らぎない自分というものは、果たしてあるのでしょうか。家族といる自分、友人といる自分、ひとりの時の自分。誰もが状況に応じていくつもの自分を使いわけています。そうした複数の自分の束こそが、「本当の自分」の正体なのではないでしょうか。イントロダクションとなるこの章では、大正から昭和にかけて制作されたたくさんの自画像とともに、変装によって自分のイメージを無数に分裂させる注目の若手写真家、澤田知子の作品などをご紹介します。
アイデンティティの根拠
「わたし」が「わたし」であることの確実さ、つまりわたしのアイデンティティ(自己同一性)は、いかにして確保されるのでしょう。このセクションでは、文字や記号を用いて、自己同一性の根拠を探る作品に始まり、複数の対象間に「同一性」を感じ取ること、複数の対象間に「差異」を見出すこと、そういった認識のメカニズムを解き明かすような作品(河原温、高松次郎、村上友晴、岡崎乾二郎、宮島達男)をご紹介します。
暗い部屋(カメラ・オブスクーラ)と「わたし」
暗い部屋に一点のピンホールを穿つことで外界の倒立像が壁面に投影されるカメラ・オブスクーラ(「暗い部屋」の意)の原理と、その延長線上に成立した写真という装置。これらは世界と「わたし」との間に距離を作り出し、世界を離れたところから見つめ、思考する「自己」を切り出します。「暗い部屋」とは、「わたし」の内面に通ずる秘めやかな空間なのです。ここでは、アパートの自室それ自体を「カメラ・オブスクーラ」とすることで外の世界の写真を撮影した伝説の作品、山中信夫の《ピンホール・ルーム》を紹介します。
揺らぐ身体
通常わたしたちは、視るという行為を、絶対的かつ知的な行為と考えることで、日々を送っています。しかしその前提は、ちょっとしたことで打ち崩されてしまいます。ここでは、草間彌生、ブリジット・ライリー、日高理恵子、金明淑(キム ミョンスク)の大きな絵画が4点、展示されます。それらは一見シンプルな作品ですが、前にすると、くらくらして、「視る」という行為が本来どれだけ身体的であるか、実感されるのです。
スフィンクスの問いかけ
「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か」というスフィンクスの謎かけはあまりにも有名です。ここでは、絵画(フランシス・ベーコン)と彫刻(舟越桂)で表されたスフィンクスによって、その問いかけの意味を、考えていただきます。謎かけの答えは、オイディプスによって「人間」と明らかになったわけですが、しかしその英雄自身は、スフィンクスと出会う前に父を殺し、後には母と交わった悲劇の人物(男性)でもあったことを忘れてはなりません。
冥界との対話
「わたし」の生成にとって、人間に組み込まれた不可避の「死」というプログラムは決定的な役割を果たします。しかし、その「死」は直視することを躊躇させるような深い闇としてあるために、社会は、「死」を「生」の充実に転化する装置として「物語」や「宗教」を必要としてきたのでしょう。死は、個人の生を際立たせると同時に、それを個人というレベルを越えた集合的な記憶や感情と結びつけるのです。ここではビル・ヴィオラのヴィデオ・インスタレーション《追憶の五重奏》や、須田一政の写真「風姿花伝」(シリーズ、出品は一部)が展示されます。
SELF AND OTHERS
1983年に36歳で早世した写真家、牛腸茂雄の残した連作《SELF AND OTHERS》全60点をまとめて展示します。写された人々の多くは、こちらをまっすぐに見つめています。そのまなざしの集合体にとらえられたとき、わたしたちは「他者」との距離に思いを巡らさずにはいられないでしょう。
「社会と向き合うわたし」を見つめるわたし
自画像から始まったこの展覧会は、再び作者自身の姿を表した作品群で終わります。しかしこのセクションで展示される作品は、いずれもただの自画像ではありません。他者と向き合い、関わろうとする自分の姿を、もうひとりの自分が冷静に見つめ、対象化し、ときにユーモアを交えて表しているかのようです。
イベント情報
ギャラリー・トーク
担当キュレーター5人によるリレー式ギャラリー・トーク
- 日程
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2008年2月8日(金)
- 時間
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18:00-19:30
- 場所
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企画展ギャラリー
- 担当
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蔵屋美香(当館主任研究員)
三輪健仁(当館研究員)
鈴木勝雄(当館主任研究員)
保坂健二朗(当館研究員)
大谷省吾(当館主任研究員)
*以上は大まかな順序になります
参加無料(要観覧券)、申込不要
「写真と<わたし>」
- 日程
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2008年2月22日(金)
- 時間
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18:00-19:00
- 場所
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企画展ギャラリー
- 担当
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竹内万里子(当館客員研究員、写真批評家)
参加無料(要観覧券)、申込不要
カタログ情報
B4の大きなカタログは、服部一成氏によるもの!
「わたしいまめまいしたわ 現代美術にみる自己と他者」展のカタログのデザインは、チラシやポスターと同じく服部一成(はっとりかずなり)氏によるものです。
服部氏の仕事は多岐にわたります。「キユーピーハーフ」(1997-)、「キリン淡麗グリーンラベル」(2002-05)、「オンワード 組曲」(2000-01)などの広告キャンペーンのアートディレクション 。『流行通信』誌リニューアル(2002-04)のアートディレクションとロゴデザイン。そのほか、パッケージデザイン、ブックデザイン、CDジャケットデザインなどなど。
美術展では、森美術館の「ビル・ヴィオラ展」(2006)や川村記念美術館の「ハンス・アルプ展」(2005)や横浜美術館「中平卓馬展」(2003)などのグラフィックデザインが知られており、当館でも「ドイツ写真の現在 ― かわりゆく「現実」と向かいあうために」展(2005)を手がけていただきました。
今回は、出品作品が多数あることなどから全点掲載とはなっていませんが、B4という大きな版型をいかして、図版が迫力あるものとなっていたり、作品同士を対比しやすくなっていたりするだけでなく、服部氏ならではのグラフィックがページが表1・表4以外にも施されていて、見ごたえのあるカタログとなっています。
- 版型・頁数
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B4版 縦36.4×横25.7cm/52p(表1~表4を含む)
- 目次
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pp.6-13 わたしはひとりではない (蔵屋美香)
pp.14-19 アイデンティティの根拠 (三輪健仁)
pp.20-21 暗い部屋(カメラ・オブスクーラ)と「わたし」 (鈴木勝雄)
pp.22-25 揺らぐ身体 (保坂健二朗)
pp.27-29 スフィンクスの問いかけ (保坂健二朗)
pp.30-33 冥界との対話 (鈴木勝雄)
pp.34-39 SELF AND OTHERS (蔵屋美香)
pp.40-45 「社会と向き合うわたし」を見つめるわたし (大谷省吾)
pp.46-47 作品リスト - 定価
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本体1200円(税込)
開催概要
- 会場
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東京国立近代美術館 企画展ギャラリー
- 会期
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2008年1月18日(金)~3月9日(日)
- 開館時間
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10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
入館は閉館30分前まで - 休室日
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月曜日 *2008年2月11日は開館し、翌12日は休館
- 観覧料
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一般420円(210円) 大学生130円(70円) 高校生70円(40円)
中学生以下、65歳以上、キャンパスメンバーズ、MOMATパスポートをお持ちの方、障害者手帳等をお持ちの方と付添者1名は無料。
それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。*( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
*本展の観覧料で、当日に限り、所蔵作品展「近代日本の美術」と「特集 国吉康雄」もご覧いただけます。 - 無料観覧日
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2008年2月3日(日)、3月2日(日)
- 主催
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東京国立近代美術館
- 巡回
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本展は当館のみでの開催となります