展覧会
コレクションを中心とした小企画:都市の無意識
会期
会場
東京国立近代美術館本館ギャラリー4
概要
都市と美術は切っても切り離せない関係にあります。都市は表現者を触発する場であり続けるとともに、それ自体美術の重要な主題の一角を占めてきました。と同時に、都市のイメージの形成に視覚芸術が果たした役割も無視できません。両者の不可分な関係を調べてみると、興味深いことに気づきます。表現者たちは、統一的な全体像を描き難い複雑な都市に接近するひとつの方法として、それを面的な広がりとして捉えるのではなく、垂直的な構造をもつ「地層」として認識してきたように思えるのです。秩序や均質化を志向する都市の表向きの表情を一皮剥げば、その下に無数の人々の夢や欲望や感情が、澱として沈んでいるはずだという直感が働いているのでしょう。
この展覧会では、このような都市の深層に到る入口として、最上層の「スカイライン」、下層の「アンダーグラウンド」、そして表層の中の多層性という意味での「パランプセスト」という三つのテーマに注目することにしました。制作された場所も時代も異なる絵画、版画、写真、映像、資料45点を渉猟しながら、わたしたちの想像力を刺激してやまない都市の隠れた構造に迫ります。
展覧会構成
アンダーグラウンド
Underground
都市の地下空間には何が潜んでいるのでしょう。そして、それは地上の世界とどのような関係を結んでいるのでしょうか。都市の無意識的な領域ともいえる地下世界に割り当てられた文化的、社会的な意味を歴史的に辿りつつ、地底に向けられた、あるいは地底から発する想像力の広がりを捉えます。
浜田知明の《カタコンベ》は、ローマやパリといった都市にある地下墓所を描いたものですが、画面左手の細く長い階段によって、そこが異界の入口であることがわかります。このような都市と死者の世界が背中合わせになっている神話的なコスモロジーに対して、奈良原一高が撮影した長崎の軍艦島では、地上の高層マンションと地下の炭鉱が直結し、都市と鉱業という近代社会における階層構造が示唆されます。都心を流れる渋谷川に降り立った畠山直哉の《川の連作》もまた、インフラの技術史を踏まえた都市の深層への探索です。さらに、地下世界と結びつけられてきたレジスタンスの精神を、新宿西口地下広場のフォーク・ゲリラの資料などによって振り返ります。
スカイライン
Skyline
スカイラインとは、都市を遠望したときに現れる建築と空との境界線のこと。個々の建物の外観ではなく複数の建築群の連なりがつくる輪郭です。現代の都市には、城壁に囲まれた中世都市のような明確な輪郭はありません。都市的なるものの氾濫によって、都市の境界は見えにくくなっています。もしかするとスカイラインは可視化できる唯一の境界線なのかもしれません。この都市の上辺をなす鋸の歯のような形象が、そこに住まう人々の欲望や感情をいかに映し出してきたか。20世紀以降の都市の歴史とともに考察してみましょう。
都市のスカイラインといえば、まずニューヨークの景観が浮かびます。天空にそびえる超高層ビルが描く輪郭は、アメリカの経済的な繁栄を象徴する「高さ」の記号として機能してきました。これに対して、2001年9月11日の同時多発テロ以降にオスカール大岩や勝又公仁彦が制作したマンハッタンの風景は、「高さ」の神話が潰えた後の情景とも見ることができ、スカイラインに対する認識の変化を物語ります。
パランプセスト
Palimpsest
過剰なまでに記号が輻輳する都市においては、ある匿名の表現の上から、また新たな匿名の表現が重ね書きされ、予期せぬ意味の連鎖や葛藤状態が生まれます。このような表層的な記号の戯れを「パランプセスト」をキーワードに考察します。パランプセストとは、元の文を消してその上に新たな文を書き重ねた羊皮紙の古代文書から転じて、多層性を意味する言葉です。
ポスターを乱雑に貼り重ねたパリの壁は佐伯祐三を魅了し、パリの路上の壁に刻まれた/描かれた落書きは写真家ブラッサイを惹きつけました。ブラッサイは、社会の周縁に追いやられた者の反抗とカタルシスの場と落書きを捉え、都市に潜在する無数の声をそこに聞き取ります。基層に通じる開口部は記憶装置としての壁に限らず、人々の情動が交差する盛り場にも点在していることでしょう。高梨豊は新宿のゴールデン街に大型カメラを据え、物と記号がひしめく室内を、重層的なテクスチャーとして切り取ります。そこには都市の秩序に抗うような野生の記号が織りなす有機体が息づいています。
会場配布物
イベント
キュレーター・トーク
① 鈴木勝雄 (本展企画者・主任研究員)
日程: 2013年6月22日(土)
時間: 11:00-12:00
② 鈴木勝雄 (本展企画者・主任研究員)
日程: 2013年7月26日(金)
時間: 18:00-19:00
※いずれも参加無料(要観覧券)/申込不要
開催概要
- 会場
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東京国立近代美術館 ギャラリー4
- 会期
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2013年6月4日(火)~8月4日(日)
- 開館時間
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10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
- 入館は閉館30分前まで
- 休館日
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月曜日(ただし7月15日は開館)、7月16日(火)
- 観覧料
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一般 420円(210円)
大学生 130円(70円)- 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。
- それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
- お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。
- キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。
- 本展の観覧料で、当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。
- 無料観覧日
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7月7日(日)、8月4日(日)
- 主催
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東京国立近代美術館