展覧会

会期終了 コレクションによる小企画

コレクションを中心とした小企画:泥とジェリー

会期

会場

東京国立近代美術館本館ギャラリー4

岸田劉生 《The Earth》
1915年頃

概要

絵具とは不思議なものです。それはべちゃべちゃしたねばっこいモノでありながら、同時に色となり形となって、キャンバス上に人物や風景といった図柄を作ります。絵具のべちゃべちゃが目につくとき、図柄は私たちの意識から引っ込み、逆に図柄が目立つとき、べちゃべちゃは退きます。そこで、あまりべちゃべちゃが目立たないよう表面をなめらかにならすのが、ふつう私たちの考える絵画のあり方です。では仮に、絵具のべちゃべちゃを極端に際立たせてみたら、一体どんな作品が生まれるでしょう。

人はそもそも、文化や時代の別を越えて、べちゃべちゃしたものをこねまわす喜びに惹かれます。この喜びを、多くの場合触覚を抑え、視覚に専念するよう求める「絵画」という枠の中で扱うとき、どんな可能性が開けるのでしょうか。この小企画展では、MOMATのコレクションより、岸田劉生の重要文化財《道路と土手と塀(切通之写生)》(1915年)をはじめ、31点をご紹介します。

ここが見どころ

岸田劉生といえば、大正時代を代表する洋画家。ちょっと取りつきにくい?いえいえ、そんなことはありません。今回初出品される、長女、麗子(有名な「麗子像」シリーズのモデルです)のために描いた、あまりにも風変わりなイラスト(?)を見れば、そんなイメージも吹き飛ぶはず。一緒にご紹介する短編小説「道悪」も、なんでこうなるの?という衝撃の展開です。どんな風に「風変わり」で「衝撃」なのかは、ぜひ会場で。

また今回は、作家の協力により、岡﨑乾二郎の絵画および彫刻作品も出品されます。劉生との密かなコラボレーションをどうぞお楽しみに。

展覧会構成

1.

24歳の時、「草土社」というグループを結成した大正期の画家、岸田劉生。重要文化財《切通之写生(道路と土手と塀)》(1915年)は、まさに「草」と「土」を描いた劉生の代表作です。前後に制作された素描や版画を見ると、劉生にとって特にやわらかな「土」が、人間が人間以前の状態にあることを示す、危うくも魅惑に満ちた、独特の意味を持つものであったことがわかります。

このコーナーでは、劉生にとって「土」が意味するものを、絵画作品のみならず、劉生が書いた短編小説「道悪」の一節や、長女、麗子のために描いたユーモラスな戯画とともに探ります。「道悪」では、若い画家の前にべちゃべちゃした忌わしいものが次々と立ち現れ、その制作を妨げます。しかし最後に画家は、これら「べちゃべちゃした忌わしいもの」を材料にして、その忌わしさを克服し、美しいものに作り替えることこそが、芸術家の使命であると気づくのです。

岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915年
重要文化財

2.

前衛グループ「具体」に属した画家、白髪一雄の作品を中心にご紹介します。白髪は1954年、天井から吊るした縄につかまり、床に置いたキャンバスの上を滑走しつつ足で描く、という方法を編み出しました。その経緯を白髪は次のように述べます。

「絵具を大量に使って、一ぺんに短時間に描くと非常にフレッシュなものができる…そして[キャンバスを]立てて描くと、絶対に絵具がたれてしまうさかいに、それは結局寝かして描かねばならない。寝かして描くと、大きい画面やとまん中の方に手が届かない。そうすると画面の中に入らなしょうがない」。

ふつうは垂直に壁にかけるキャンバスを水平に床置きしたことで、キャンバスは画家の闘技場に、絵具はその上で画家が全身を使って挑む格闘の相手になったのです。ここにはまた、岸田劉生がヴァン・ゴッホの厚塗りを通して知った描画スピードの問題が顔をのぞかせています。つまり、乾燥を待たず急いで絵具を塗り重ねると、絵具の質感、感情の表出ともに「フレッシュなものができる」、というわけです。

3.

岡﨑乾二郎と中西夏之の作品を中心にご紹介します。

岡﨑乾二郎の画面は、素早い筆の動きを思わせる、いろいろな方向性を持つタッチで埋められています。個々のタッチは色とりどりで、さまざまな透明度を持ち、どこかおいしそうなジェリーを思わせます。しかし、勢いのあるタッチは決して「激情」によって描かれたものではありません。岡﨑の作品の中には、長い熟慮と瞬時の動作、といった複数の時間の経過が孕まれているのです。

中西夏之は、1960年前後、練った砂を画面上に盛り上げる作品を制作しました。まるで左官仕事のようです。また、その上に茶のエナメル塗料で描かれた傷跡のような形には、濃淡の陰影が付けられ、本当に盛り上がっているわけではないのに立体感があるように見えます。つまり、本当に盛り上がっている砂と、陰影付けによって盛り上がっていないのにいるように見える描かれた形とが、二重に層をなしているのです。この問題意識は、見た目はかなり異なる約20年後の絵画作品にそのまま引き継がれています。

会場配布物

イベント情報

キュレーター・トーク

① 岡﨑乾二郎 (出品作家)

日程: 2014年2月21日(金)
時間: 18:00-19:00

② 蔵屋美香 (本展企画者・美術課長)

日程: 2014年3月8日(土)
時間: 15:30-16:30


③ 蔵屋美香 (本展企画者・美術課長)

日程: 2014年3月28日(金)
時間: 18:00-19:00

※いずれも参加無料(要観覧券)/申込不要

開催概要

会場

本館 ギャラリー4 (2F)

会期

2014年1月21日(火)~4月6日(日)

開館時間

10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)
*入館は閉館30分前まで

休館日

月曜日(ただし3月24日、31日は開館)

観覧料

一般 420円(210円)
大学生 130円(70円)

  • 消費税増税に伴い、2014年4月1日(火)以降、所蔵作品展観覧料が次のとおり変更となります。
  • 一般 430円(220円)
  • 大学生 130円(70円)
  • 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。
  • それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
  • ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
  • お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。
  • キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。
  • 本展の観覧料で、当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます
無料観覧日

2月2日(日)、3月2日(日)、4月6日(日)

(所蔵作品展「MOMATコレクション」、「泥とジェリー」展のみ)

主催

東京国立近代美術館

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