教育普及室レポート

教育普及室レポート


教育普及担当の研究員や関係者による当館の教育普及事業の報告や紹介です。

「MOMATコレクションこどもセルフガイド」のデジタル化
継続性を意識した鑑賞教材のデザイン―大岡寛典氏に聞く
聞き手:細谷美宇(企画課 特定研究員)

大岡寛典氏

東京国立近代美術館(以下、東近美)は、2021年3月にデジタル鑑賞教材「MOM@T Home こどもセルフガイド」(註1、以下、デジタル版セルフガイド)を公開した。本教材は、東近美で2008年から連続して制作してきたワークシート「MOMATコレクションこどもセルフガイド」(註2、以下、こどもセルフガイド) をデジタル化したWebアプリである。制作は、こどもセルフガイドのデザインを手がけた大岡寛典氏に依頼した。今回は大岡氏に、こどもセルフガイドのデザインとそのデジタル化についてお話をうかがった。

図1_MOMATコレクションこどもセルフガイド(印刷物)

――こどもセルフガイドをはじめて制作したときのお話を聞かせてください。

スクールプログラム・ガイド(註3)や企画展のセルフガイドをやらせていただく中で、コレクション展に対してもセルフガイドを継続的に作っていきたいという話をいただきました。企画展のガイドは内容次第でデザインを変えるけれど、コレクション展対象の場合は、ずっと連なって長く手掛けられる継続性が一番大事だと思って、コストをできるだけ削減しつつ、表はフルカラー、裏は一色刷りに統一しました。

――こどもセルフガイドは作品1点につき1枚のカード状で、会期ごとに出品作に合わせた6枚を組み合わせて使っています。はじめはカードの種類が少なく、毎年少しずつ作り足してきました。最初から徐々に増えることを想定し、継続性を意識してデザインされていたのですね。

展示替ごとにカードも入れ替えるという使い方まで含めてのデザインでした。長いスパンで使われていくことを認識していないと、続けるのが段々と苦しくなったりとか、途中で版型や形式が変わったりとかする。お金をかけてその時だけのものを作っても、ずっと続けられないじゃない? だから逆に引き算でやらないと、って。在庫の管理とかもあるし、予算的にも無理がない形で続くことが一番だと思ったんですよね。デザイン的に奇をてらった、ものすごく斬新なものを作ったわけではないと思っています。

――狙い通りに10年近く順調に作り続け、今では50種類以上のカードを揃えています。カード1枚の中での作りもある程度揃えられていますが、これはどうデザインされたんですか?

試作版(註4)の段階で、表が問いかけで裏が答えという作りでした。子ども向けなので総ルビにして、細かい解説文の部分と、パッと見て一発で分かる子どもが読む部分を分けましょうとか、そういう大まかな作りは原稿を丁寧になぞっていった感じです。読みやすさなどのデザイン的な配慮はした上で、詰め込みすぎずわかりやすい構造になりました。印刷物の段階でデザイン性を上げるために文字を小さくしたりとかしなかったことで、結果としてデジタル化した時に画面が小さくても字が十分読めたんですよね。
同じ形式で作り続けてある程度の蓄積が出来たことが、今回のデジタル化に繋がったと思います。時が経つと当然変えたくもいじりたくもなるけれど、途中で版型変えたりとかしなかったのが良かったんでしょうね。ジャンルや制作年代が偏らないように追加の作品が選ばれたり、技法について追加されたりして、セルフガイドのラインナップとコレクションの網羅性との歩調が合っていったと思います。

図2_デジタル版セルフガイド(利用イメージ)

図3_デジタル版セルフガイドの各ページ

――十年前ぐらい前にも一度、アプリ化・デジタル化のご相談をしたことがありました。当時は開発費がすごくかかると聞いて流れちゃいましたけど。今回はコロナ禍の直前、2019年秋にデジタル化したいとご相談しました。

元々、印刷物もデザイン時はデジタルデータとして扱っていて、入稿時にはPDFにするわけです。それをそのままWebベースで公開するという方法はありました。カードの表裏で一つのPDFにして、それを一覧にしたウェブサイトを作るのはどうだろう、って。
ちょうどその時期、Glide(註5)というWebアプリを使ったプログラムガイドも作っていて、可能性を感じていました。2019年の国際マンガ・アニメ祭Reiwa Toshima(IMART)(註6)のカンファレンスのプログラムですね。紙でも作るけど、アプリもいいんじゃないって話で、登壇者のプロフィールやセッションの予約ができるWebアプリを作りました。汎用性もあるし、制作の過程でデータベースを作って紐づけるから、全体の構造がすごくわかりやすくなるのでいいなと思って。
こどもセルフガイドのデジタル化も、単純にPDFをダウンロードするだけより、今まで作ってきたものをもう一回ちゃんとデータベース化して、今後増えるのにも対応したらどうだろうって考えました。そこで試作版は、ひとつはWebベース、もうひとつはGlideを使ったWebアプリと、2種類提出しました。

――プロトタイプは、Webアプリの方が圧倒的に使いやすかったんです。PDFだとダウンロードするかビューワーを使わざるを得ませんが、アプリだと同じ画面の中で遷移できるところとか。それで、運用面がクリアできるならぜひこちらでとお願いしました。

デザイナーが作る部分と美術館で運用する部分の作業の振り分けも必要です。展示替えのたびに業者に修正を依頼するとか、そういう運用面の煩雑さは避けたいですよね。デジタル版セルフガイドのデータは、Google Workspace(旧Google Suite)のビジネスアカウントを取って、そこに全て格納しています。一つのスプレッドシート上にデータベースを作って連携させていて、それをいじればアプリに即時に反映されます。この作業はデザイナーいらず、つまりノンデザイナーでできるわけです。それって大事かなって思ったんです。
アプリ化によってパッケージとして一つの画面の中で完結するし、ソートなどで見る側の利便性も上がって、いろんな可能性が出てきますよね。タイミング的にもちょうど良かったと思います。皆がスマホを個人で持つ時代になりましたから。10年前の(デバイスの)解像度だったら文字が読めなかったかもしれない。そういった意味でも、実現する環境が整ってきたところだった気がします。

――元々は展示室だけで使うつもりでしたが、コロナ禍の臨時休館を経験して、一般公開版をリリースすることになりました。やはり時代に後押しされていると感じます。

これからデジタルデータを活用したいろんな試みが起こってくると思います。海外の美術館とかの事例を見てもすごいじゃないですか。パブリックドメインなんかの裁量も含めてレベル違いで進んでいると思う。そんな中で国立美術館としてこういった事例が示せたのは大きな一歩じゃないかな。東近美でやる事って波及力があると思うんです。地方の美術館とか、モデルケースが前例としてあるとやりやすいんじゃないかって。チャレンジングな試みをしていることがうまく伝わるといいですよね。
デジタルデータ活用って、予算がある館が派手な3DCG作るとか、3Dのくるくる回るアプリ作るとか、そういう風に思われがちだけれども、デジタル版セルフガイドのような作りなら、一回構造さえ作ってしまえば中身を変えることで他でも使えるようにできるんですね。僕としては、うまく運用できるようになった段階で基本的なフレームを公開してしまおうと思っているんですよ。で、他館でも画像を準備してデータベースを作れば同じものが作れるようになると。最終的な目標はそこの部分なんです。デジタルで一から立ち上げるのもいいけど、今まで積み上げてきた印刷物なんかの資産があるなら、それをベースにノンデザイナーで予算をかけずに簡単に作れる方法があるよって伝えたいですね。各館それぞれの状況に合わせて、共有できる部分は共有して、持っている資源が活用できればベストだと思います。
 Webアプリはオープンソース、オープンデータという流れの中で使われていくものだと思っています。使い続ければ仕様変更とかはあるかもしれませんが、権利的に改悪されるようなことはおそらくはないと思うし。今回のトライアルについても、運用も含めた知見がどんどん公開されてほしいですね。

図4_作品をもっと楽しむセルフガイド(国立工芸館)

話はズレるんだけれども、工芸館が金沢に移った(註7)じゃない? スマホ用の鑑賞ツール(註8)で面白かったのがあるんです。すごく長いPDFで、シンプルな作りだけど、これも一つの発明だよねと思って。真似しようと思えばできるんじゃないかな、これいいなと思って見てたの。
デジタルデバイスを使った鑑賞体験はそれぞれ(の機器)に合わせた形に変わってくんだろうね。色んなアプローチがあっていいと思うんです。例えば展示室内のひとつひとつの作品にQRコードをつけるとか、簡単にできることはまだあるし、皆がおたおたしないでやれることをやっていけるといいですよね。

――最後に、デジタル化に関わらず、美術館の教育普及活動について展望などありましたらお聞かせいただけませんか?

ある層にとっては、美術館や美術の楽しみが、インスタ映えとかバズるとかの写真を撮る行為に集約してるじゃないですか。企画側としてもバズらせることがナンボみたいな、広報ミッションと一緒になっている状況があると思う。一つの楽しみ方としていいとは思うけれども、そっちに行き過ぎだなって思ったりはします。誰しもがカメラを持っているという状況と、もう一歩踏み込んだ鑑賞とかをくっつけられる方法は何かあるはずで、そこから教育普及の違う形も見えてくるんじゃないかな。
東近美で写真が撮れることには意味があるんですよね。国民の財産だからでしょ。美術館はエスタブリッシュな人たちのものじゃなくて、自分たちの共有の財産だから常設展は皆が撮れるんだよっていう、超シンプルな事が残念ながら共有されていないと思うんです。そこから始まることが、普通の人たちの持っている写真を撮りたいって欲求とかと美術館がリンクする一つのポイントになるのかもしれません。
教育普及というジャンルの事は考えれば考えるほど色々な魅力があって面白いです。それに携わるデザインの可能性もまだいっぱいある。今回もセルフガイドをデジタル化したいっていう話からまさかこんな風に広がるとは思わなかったので、きっかけがあればまた色々と実験したいですね。

 

註1 一般公開版:https://momat-home.Glideapp.io/
註2 A5サイズのカード6枚と表紙1枚をリング留めした書き込み式のワークシート。MOMATコレクション展に来場した小中学生に無料配布。カードの組み合わせは出品内容に合わせて会期ごとに変更される。
註3 学校団体での来館を検討する教員向けのパンフレット。
註4 MOMATコレクションこどもセルフガイドの試作版および初版は藤田(当時の旧姓:山口)百合氏(当時企画課研究補佐員)によって執筆された。
註5 Glide Apps。Googleスプレッドシートをデータベースとして利用し、簡単なPWA(プログレッシブWebアプリケーション)を自動的に生成できる。作成されたアプリはダウンロード不要で、標準的なブラウザ上で動作する。
註6 https://culturecity-toshima.com/event/1055/
註7 東京国立近代美術館工芸館は、2020年に石川県金沢市に移転した。現在の正式名称は国立工芸館。
註8 国立工芸館石川移転開館記念展Ⅰ 工の芸術― 素材・わざ・風土「作品をもっと楽しむセルフガイド」。デザイン:UMA / design farm

 

(『現代の眼』636号)

コロナ禍の教育普及活動(1)——代替プログラムでの新たな試み 細谷美宇(企画課 特定研究員)

 2020年度、新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの美術館があり方の変容を迫られたことだろう。教育普及活動も感染症拡大防止対策下で大きく影響を受けた。当館においては安全性の観点から、ギャラリートーク・講演会など対面で実施するすべてのプログラムが今なお休止されている(註1)。代替する形でオンライン上での活動は充実し、新たな試みも実施された。本稿では、感染症対策下で中止された2つのプログラムとその代替プログラムについて報告する。

 ピーター・ドイグ展 ワークショップコーナー
 ⇒ピーター・ドイグ作品で物語をつくろう!

 ピーター・ドイグ展では、当初、ぬりえとワークシートを誰でも楽しめるワークショップコーナーを設ける予定があった。用具の共有や会話を伴うと想定される点から、感染リスクに配慮し中止とした。ぬりえ用紙は会場出口にて配布し、持ち帰って取り組めるようにした。
 代わって実施された企画のうちひとつが、「ピーター・ドイグ作品で物語をつくろう!」である。臨時休館の影響で会期が延長されたこともあり、小学生から高校生に向けて夏休みの時期に実施された。8点の課題作品から1点を選び、絵から想像した物語をメール(テキストまたは作文の画像)で送信する。応募期間は8月4日(火)~8月31日(月)、応募総数は273件、うち1週間ごと当館研究員が選んだ入選作品計49件がホームページ上に掲載され、さらに一部は館内エントランスにも掲示された。
 ピーター・ドイグ展はホームページ上で3DVRも公開されていたため、美術館に足を運ばずとも本企画に参加できた。参加者の中には、デジタル画像を見て書いた物語を投稿し、入選して館内に掲示されたことが来館のきっかけとなった者もいた。出品作鑑賞のきっかけを提供するという目的と子ども・ファミリー層を意識したことは同じだが、来館者を対象とするワークショップからオンライン上での企画へと代替されたことで、参加者と展覧会との結び付き方が変化したといえよう。

 

ガイドスタッフによる所蔵品ガイド
 ⇒オンライン対話鑑賞/YouTube再生リスト「MOMATガイドスタッフ」

 当館で毎日続けてきたガイドスタッフ(解説ボランティア)による対話鑑賞(註2)プログラム「所蔵品ガイド」も、密集して会話しながら鑑賞するため2月より休止となった。代替案の試行や研修を重ね、現在は新たな試みである「オンライン対話鑑賞」と「YouTubeへの動画投稿」が実施されている。
 オンライン対話鑑賞は、ウェブ会議ツールZoomを利用した双方向参加型のオンラインイベントで、10月より開始した。定員6名程度、作品1点を45分間で鑑賞する。展示室での鑑賞よりもサイズ感や質感などが掴みづらい一方、高精細画像を用いるため拡大し部分詳細をよく観察できるのが特徴のひとつだ。参加後アンケートでは高満足度評価を得ているが(註3)、参加者募集開始直後に定員が埋まってしまうなど、所蔵品ガイドと比べて参加機会が十分とはいえない。
 また、11月より当館YouTubeチャンネルに再生リスト「MOMATガイドスタッフ」を設置した。ガイド参加者の反応などを交えて所蔵品を紹介する動画を投稿している。定員がなくいつでも視聴できるため間口は開かれているが、一方的な配信であり再生数や評価ボタン以外で視聴者の反応を得るのが難しく、フィードバックについては課題が残る。
 こうした代替案の検討は、プログラムの目的や本質を見定める機会となった。所蔵品ガイドとその代替プログラムにおいて共通する点は、(1)所蔵品鑑賞の一助となること、(2)ガイドスタッフがその担い手となり蓄積したスキルを活かせること、である。異なる点については図1に比較してまとめた。

 オンライン対話鑑賞では、自宅でリラックスしていたり、職場から接続したりする様子に、時折参加者の生活感が滲み出る。そうした映像に、筆者は画面の無機質さよりもむしろ一種の生々しさを感じることがある。オンラインという手段には、距離などの空間的制約だけでなく、自身の生活圏から接続することで精神的な制約をも乗り越えられる可能性がある。代替案として始まった試みだが、様々な制約から美術館に足を運びづらい人に差し伸べられる手段として展開することを期待したい。

 

註1 2021年2月現在。
註2 解説を聞くだけではなく、作品の観察に基づいて話し合い解釈を深めていく鑑賞方法。当館では2019年からビジネスパーソンや外国人に向けても実施され、今後の展開が期待されていた。
註3 2月12日現在、アンケート回答102件中、満足度5段階評価で「大変満足」、「満足」が97件。

 

(『現代の眼』635号)

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コロナ禍の教育普及活動(2)——ICTを活用したスクールプログラムの新展開 一條彰子(企画課主任研究員)

 東京国立近代美術館のスクールプログラムの基盤となっているのは、ギャラリーでの対話鑑賞(註1)である。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、中止になってから1年が経とうとしている。一方で、ICTを活用することにより、これまでとは違ったアプローチが可能になりつつあるので報告する。

図1 千代田区導入の学習活動ソフトウェアSKYMENU Classの機能、「みんなの作品」への付箋書き込みによる話し合い(九段小学校)

図2 当館と母島中学校をZoomでつないだ遠隔ギャラリートーク

学校へ提供できる3つの方法

 コロナ禍等で来館できない場合、あるいは来館の前後に授業を行う際に、当館が学校へ提供できる素材と方法は次の3つである。

国立美術館アートカード(註2):国立美術館5施設が所蔵する作品65点を、ハガキ大のカードにした鑑賞教材。「誰でも、いつでも、どこでも」簡単に使えて汎用性がある。2008年制作、貸出可能。

鑑賞素材BOX(註3):主に小学校から高等学校までの授業で活用されることを想定したデジタル鑑賞教材。アートカード作品を、高精細画像で電子黒板へ投影したり、タブレット端末へ配信したり、ワークシートを作成したりすることができる。授業準備にあたっては、「図工・美術のキーワード」や「他教科へのひろがりキーワード」を使って作品を選ぶことができる。2020年3月公開。

Zoomなどによる授業協力:別稿(細谷美宇「コロナ禍の教育普及活動(1)——代替プログラムでの新たな試み」)で紹介した「オンライン対話鑑賞」での経験を基に、2020年12月より開始した、ウェブ会議ツールZoomを使った双方向型の遠隔授業。

 授業目的や通信環境などを教員と相談の上、これら3つの方法を組み合わせてスクールプログラムの実施となる。実践例を以下に挙げる。

 

実践例

 ICT教育に力を入れる千代田区立九段小学校では、大高美和教諭が5年生77人に「なりきり!作品調査団」という授業を行った。まずアートカードで「音・声かるたゲーム」をした後、「鑑賞素材BOX」から作品1枚を選び、グループで話し合う。その際、1人1台端末で高画質の画像を自在に拡大しながら観察したり、端末から共通のファイルにコメントを書き込んでいく(図1)。最後に当館と教室をZoomでつないでグループごとに発表を行い、学芸員がコメントしつつ作品情報を伝えた。児童の様子からは、自分の考えを発表できたことや、それを学芸員に認めてもらったことから、達成感や自信につながる喜びを感じていたことが見て取れた。

 都心より船で26時間以上かかる離島にある小笠原村立母島中学校では、全中学生10人に対して大黒洋平主任教諭が3回の鑑賞授業を行った。アートカードを使った「伝言鑑賞ゲーム」で所蔵作品に興味をもたせ、「鑑賞素材BOX」とワークシートで2枚の海の作品を比較鑑賞した後、当館と教室をZoomでつないで筆者が遠隔ギャラリートーク(図2)を行った。美術館に行ったことのない中学生が、美術館を身近に感じる機会となった。全校教諭の協力のもとで本授業が行われたこともあり、今後、社会科や保健体育科、数学科等へ展開する予定もある。

 知的障害をもつ高校生が学ぶ筑波大学附属大塚特別支援学校高等部とは、北村洋次郎教諭の指導のもと、高1から高3まで23人の3教室と当館をZoomでつないで遠隔授業を行った。「鑑賞素材BOX」の作品から、学年ごとに「お気に入りの1枚」を選び、筆者と対話鑑賞する。ほぼすべての生徒が、自分なりの表現で積極的に意見を述べ、またワークシートに記述してくれたのが印象的であった。

 

 コロナ禍対策のためGIGAスクール構想(1人1台タブレット端末の配布による個別最適学習)が前倒しされたこともあり、美術館・学校ともにICT活用が進んだ2020年。筆者はこれまでも、これからの美術館のスクールプログラムには次の視点が必要であると述べてきた。コレクションの活用/対話鑑賞など探究的な学び/学習指導要領の反映/美術という教科を超えた学び/オンライン活用であるが、オンライン活用が実用化されることによって、他も促進されると思われる。先日開催された「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修15周年シンポジウム」(註4)でも討議されたように、コロナ禍が収束した後も、「ICTによるバーチャルな活動」と「美術館で作品に触れるリアルな体験」の両輪によるハイブリッドな学びが、全国的に展開されていくことになるだろう。

 

註1 観察や鑑賞者同士の対話によって解釈を深めていく美術鑑賞方法。探求的な鑑賞。東京国立近代美術館では、スクールプログラムとして、解説ボランティア1名と児童生徒10人前後によるグループでの対話鑑賞を行っている。
註2 http://www.artmuseums.go.jp/kensyu/art_card.html
註3 https://box.artmuseums.go.jp/
平成28–30年度 科学研究費助成事業研究基盤研究(B)「美術館の所蔵作品を活用した探求的な鑑賞教育プログラムの開発」(代表:一條彰子)。
註4 http://www.artmuseums.go.jp/study/index.html
2021年2月14日、オンラインによる開催。

 

 (『現代の眼』635号)

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