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現代の眼 オンライン版 新しいコレクション 金子潤《無題 13-09-04》

唐澤昌宏 (国立工芸館長)

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金子潤(1942–)《無題 13-09-04》
2013(平成25)年
陶器/高さ305.3、幅141.4、奥行85.8 cm
令和元年度購入
撮影:太田拓実

誌面ではその大きさや質感が想像できないかもしれませんが、高さ3メートルを超える陶による作品です。陶ということは、この作品は窯で焼かれています。それも焼成後にパーツを組み立てることなく一体なのです。

金子潤は愛知県名古屋市に生まれ、1963年に絵画を学ぶためアメリカ・ロサンゼルスに渡りました。たまたま出会った現代陶芸のコレクターに作品を見せてもらったことがきっかけとなりその世界に魅せられ、大学で陶芸の基礎を学びました。当時のアメリカ陶芸は、抽象表現主義の画家やその作品に影響を受けた作品がすでにひとつの歴史をつくっていて、大学の指導者もまた、その潮流に刺激を強く受けていました。素材は土ですが、生み出される作品は、感情が豊かに表現された彫刻的で造形性が強いもので、また、装飾も自由そのものでした。

1983年に金子は、ネブラスカ州オマハの使われなくなったレンガ工場で、陶作品の大きさの限界に挑戦する「オマハ・プロジェクト」を開始します。そして、大規模な工場の大きな窯を使って、高さ1.8メートル、重さ4~5トンもある巨大な作品、〈ダンゴ〉シリーズの制作に成功します。その後、このオマハにスタジオを構えた金子は、ストライプやドット模様に代表される陶作品をはじめ、絵画やガラス作品、オペラの舞台や衣装を手掛けるなど、多彩な活動を展開していきます。

本作品は、そのオマハのスタジオで制作された柔らかな丸みを帯びたフォルムが特徴となる〈ダンゴ〉シリーズのひとつです。アメリカという大国が生み出した象徴的な作品として見ることもできます。なぜなら、日本で大きな陶による作品を制作する場合、作品のサイズはその作品を焼成する窯の大きさに左右されてきました。小さな窯で大きな作品を制作する場合、成形後の乾燥する前に小さなパーツに切り分け、絵付や釉薬を施して焼成し、それらを組み上げる必要があります。しかし〈ダンゴ〉シリーズには、大きな窯で焼成された一体としての強さと迫力があるとともに、一種の憧れのような見方もできるかもしれません。空間の中にすっくと立つ姿にはモニュメントとして確固たる存在感がそなわっています。

いま本作品は、石川県金沢市に移転した東京国立近代美術館工芸館(通称:国立工芸館)のエントランス正面の中庭に展示して、来館者を出迎えています。中庭のダークグレーの色調の中で、青と白のコントラストが輝きを放つ様子を観ることができます。目まぐるしく天候が変わる金沢は、曇天が多く日照時間が少ないことでも知られています。上部の紺色は空の色を映し出し、また胴部のストライプは天からの恵みの雨を思わせます。冬のシーズンには雪の帽子を被った姿も見せてくれました。天気によって、時間によってもその表情が変化する様を、是非、ご覧いただければと思っています。

(『現代の眼』635号)

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