展覧会

会期終了 企画展

吉川霊華展 近代にうまれた線の探究者

会期

会場

東京国立近代美術館本館企画展ギャラリー

概要

吉川霊華(きっかわ れいか、1875-1929)といってもほとんどの人はご存知ないかもしれません。

物語や道釈人物(どうしゃくじんぶつ) を画題としているからといって、敬遠しないでください。霊華の作品の魅力はその線にあります。細く、速度をもってリズミカルに継がれてゆく線が、山となり雲となり、人をかたどったかと思えば、余白に散らされた仮名となる。書も画も一体となったようなその独歩の世界に息をひそめて近づくと、かすかに、たとえようもなく美しい音曲が聞こえてくるはずです。

やまと絵からはじめて広く東洋芸術を研究した霊華。1916 年に鏑木清方(かぶらき きよかた) や平福百穂(ひらふく ひゃくすい) らと結成した金鈴社(きんれいしゃ) という舞台を得て画壇にその名が知られるようになっても、帝展などの大きな展覧会からは距離を置き、孤高の芸術を拓きました。その信念は、「正しき伝統の理想は復古であると同時に未来である」という言葉に現れています。やがて時代が霊華に追いつき、昭和にかけてさまざまに線描美の探究がおこなわれるようになっても、霊華はゆうゆうと孤高を保ち続けました。

展覧会芸術から遠いところに花開いた近代のもうひとつの美の世界。代表的作品ならびに数多くの初公開作品を含む約100 点と、20 代からの38 冊に及ぶスケッチ帳、草稿、資料などを紹介する本展で、近代にうまれた線の探究者を発見してください。

途中、展示替があります。
 前期:6月12日(火)~7月8日(日)
 後期:7月10日(火)~7月29日(日)

ここがみどころ

  • この画家こそ、筆を「使えた」最後の世代の最高峰です。
  • 作品を好んでくれる人々に支えられ、展覧会から離れたところで古典と線描美を探究した、忘れられた巨人を復活させます。
  • 回顧展は1983 年にサントリー美術館で開催されて以来およそ30 年ぶりです。
  • およそ400 点の作品調査を経て選ばれた約100 点、スケッチ帳38 冊、模写、草稿、資料、印章などを出品。みなさんがほとんどご覧になったことのないものばかりです。
  • 幻の代表作《離騒(りそう)》も出ます。
  • 細部をご覧いただくために、展示ケースの奥行を一部浅くしています。もっと細部を味わいたい方は、古美術を見るときのように単眼鏡をお持ちください。

展覧会構成

第1章 模索の時代

初め浮世絵、次いで狩野派の手習いを受けた霊華は、明治30 年頃(1896 ~ 97)、有職故実(ゆうそくこじつ) の研究者である松原佐久(まつばら すけひさ) に師事しました。
霊華は松原の影響から幕末の復古大和絵派の冷泉為恭(れいぜい ためちか) に私淑。一方、松原を通じて交友が広がり、山名貫義(やまな つらよし)からやまと絵の教えを受け、小堀鞆音(こぼり ともと) 等の歴史風俗画会(れきしふうぞくがかい)、国風会(こくふうかい)、大坪正義(おおつぼ まさよし) 等の国風画会(こくふうがかい)、真美会(しんびかい)、鏑木清方等の烏合会(うごうかい) 等に参加しています。
この時期、霊華が描いていたのは、主として歴史風俗画会等でのコスプレ写生で培った正確な人体把握をベースとする歴史風俗画や、為恭研究に発した筆墨による草画でした。画壇での評価よりもむしろ自身の研究につとめ、それ以上に学識を広げることに力を入れた霊華は、すでに30 代にして「文人」の風格をまとっていました。

第2章 金鈴社の時代

大正5年(1916) 4月、日本美術学院を主宰する田口掬汀(たぐち きくてい)の斡旋により金鈴社が結成され、霊華は、結城素明(ゆうき そめい)、平福百穂、鏑木清方、松岡映丘(まつおか えいきゅう)とともにそのメンバーとなりました。このとき霊華はすでに41歳となっていました。
金鈴社は各メンバーが自由に研究することを旨とし、その研究発表の場として展覧会を開きました。
この時期から霊華は、日本や中国の古典文学や伝説にロマン的な題材を探り、確信をもって線描美の探究に取り組みました。
霊華の独歩の研究がめざましく進展し、自由に大作にとりくめたのも、審査や一般の好みにわずらわされない金鈴社という場があってこそでした。そして、わずか7 年弱の金鈴社の時代は、霊華を画壇の雄へとおしあげ、支援者を広げ、その画家としての人生を大きく変えていきました。晩年の霊華に特徴的な、速度をもってリズミカルに継がれてゆく涼やかな細い線は、この時期に完成の域に達してゆきます。

第3章 円熟の時代

金鈴社が解散したとき、霊華は作品を出品しないままにすでに帝展の推薦を受け、審査員にも挙げられました。金鈴社での活躍のほか、その博識と論評が高く評価されてのことであったでしょう。霊華は、一方では大正15 年(1926) の帝展に満を持して白描淡彩画(はくびょうたんさいが) の大作《離騒(りそう)》を発表し、他方では画中に仮名書を添えた、草々とした味わいのある作品を次々と生み出していきました。「正しき伝統の理想は復古であると同時に未来である」と語り、伝統復古と現代の理想を結び付けることを追求した霊華は、ここに至り清冽にして典雅な画境へと入っていったのです。

Ⅰ. 中国の詩と説話

幼少より漢籍に親しんでいた霊華は、金鈴社の時代に引き続き、中国の詩や説話に題材をとった作品を描き続けています。これらの作品は犯しがたい気品と高踏な雰囲気が醸成されています。

Ⅱ. 和歌と古典物語

画中に歌の散らし書きを添えるスタイルを、晩年の霊華は一つの特徴的なレパートリーとしていきました。画中に散らされる仮名は、絵をなす白描の線とまさに同質。ここに至って書と画が文字通り一致する独特の画境が開かれました。

Ⅲ. 仏と祈り

本節で紹介する作品は5 点にとどまりますが、霊華の描いた仏画は生涯を通じて実はかなりの数に及びます。支援者からの依頼が多かったという事情もあるでしょうが、霊華自身が仏教や図像を興味をもって研究し、進んで制作したことにもよります。逡巡のない清冽な線で描かれた仏はいかにも清浄な雰囲気を帯びています。

作家紹介

吉川霊華 略歴

1875年(明治8年) 5月4日 東京湯島に儒学者吉川澹齋(たんさい) の三男として生まれる。名は準。
1883年頃(明治16年頃)  浮世絵系の画家・橋本周延に手習いを受け、延景の号を受ける。
1889年(明治22年)  書家・中根半嶺に書を習い、半谷の号を受ける。
1896-97年頃(明治29-30 年頃)  知人を介して有職故実家の松原佐久に師事し、教えを受ける。松原の影響で幕末の復古大和絵派の冷泉為恭に私淑する。
1897年(明治30年)  第2回日本絵画協会展に《秋郊》を出品する。
1901年(明治34年)  日本美術協会展に《吉野遷幸》を出品する。
1904年(明治37年)  第9回烏合会展に《逍遥》《美人弾琴》を出品する。日本美術協会展に《聖徳太子図》を出品し、3 等賞銅牌を受ける。この間、国風画会、歴史風俗画会、国風会、真美会等の研究会に参加する。
1911年(明治44年)  京都・方廣寺の天井画《神龍》を揮毫する。第5 回文展に《菩提達磨》を出品する。
1915年(大正4年)  美術雑誌『中央美術』の編集同人となる。
1916年(大正5年)  金鈴社を鏑木清方、平福百穂、結城素明、松岡映丘とともに結成する。この間、金鈴社の全7 回の展覧会に出品し、次第に画壇に知られるようになり、依頼画が増える。
1919年(大正8年)  帝展の推薦を受け、この年より毎秋欠かさず正倉院の拝観にでかける。
1921年(大正10年)  比叡山延暦寺に《伝教大師》を揮毫する。
1926年(大正15年)  第7回帝展に《離騒》を出品する。官展出品は15年ぶり。京都俵屋旅館に逗留し、翌年京都に別宅を借りる。
1929年(昭和4年)  3月25日 腸チフスにて死去。54歳。

カタログ情報

イベント情報

講演会
笠嶋忠幸(出光美術館学芸課長代理)

日程:2012年7月7日(土)
時間:14:00-15:30
場所:当館講堂(地下1階)

聴講無料、申込不要、先着150名

*歌仙絵や琳派、仮名書など、霊華が学んだ古典芸術を具体例を挙げて解き明かしていただきます。

ギャラリー・トーク
鶴見香織(当館主任研究員・本展企画者)

日程:2012年6月23日(土)
時間:14:00-15:00

日程:2012年6月30日(土)
時間:14:00-15:00

日程:2012年7月6日(金)
時間:18:00-19:00

いずれも展覧会会場にて、申込不要、参加無料(要観覧券)

吉川霊華展コラボランチ

本展覧会とタイアップしたオリジナルランチメニューが、ホテルグランドパレスに登場。詳しくは下記HPをご覧ください。
吉川霊華展コラボランチメニュー(外部サイトへリンク)
*終了しました

開催概要

会場

東京国立近代美術館 企画展ギャラリー

会期

2012年6月12日(火)~7月29日(日)

開館時間

10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)

  • 入館はそれぞれ閉館の30分前まで
休館日

月曜日(7月16日は開館)、7月17日(火)

観覧料

一般850(600)円
大学生450(250)円

  • ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
  • 高校生以下および18歳未満、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料。
  • それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
  • 入館当日に限り、「写真の現在4 : そのときの光、そのさきの風」(ギャラリー4)、所蔵作品展「近代日本の美術」もご観覧いただけます。
主催

東京国立近代美術館

助成

公益財団法人アサヒビール芸術文化財団
公益財団法人花王芸術・科学財団
公益財団法人三菱UFJ信託地域文化財団

Page Top