展覧会

開催中 企画展

コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ

会期

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会場

東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー

「昭和100年」、「戦後80年」という節目の年となる今年、美術を手がかりとして、1930年代から1970年代の時代と文化を振り返る展覧会を開催します。絵画や写真や映画といった視覚的な表現が果たした「記録」という役割と、それらを事後に振り返りながら再構成されていく「記憶」の働きに注目しながら、過去を現在と未来につなげていく継承の方法を、美術館という記憶装置において考察するものです。

しばしば美術は「時代を映し出す鏡」と言われます。その視覚的なイメージには、作家の感性を介して、制作時の世相や文化が刻印されています。それだけではありません。美術は時代を超えて生き続けることにより、後の世代によって新たに意味づけられるものでもあります。つまり美術が映し出すのは、作品が生み出された過去の一点から現在に至る時間の流れの中での、人々の美意識や社会と歴史を見つめる眼差しの変化なのです。

今、戦争体験を持たない世代が、どのように過去に向き合うことができるかが問われています。それは他でもない、現在を生きる私たちの実践にかかっているといえるでしょう。戦争記録画を含む当館のコレクションを中心に他機関からの借用を加えた計280点の作品・資料で構成される本展覧会を通して、美術に蓄えられた記録をもとに新たな戦争の記憶を紡ぎだすことを試みます。美術館がこのような記憶を編む協働の場になることができれば幸いです。

松本竣介《並木道》1943年 東京国立近代美術館

章立て・主な展示作品

本展は以下の8章構成で、1930年代~1970年代の美術を資料を交えながら展示します。

1章 絵画は何を伝えたか             

満州事変、日中戦争、太平洋戦争と続いた1930年代以降、新聞、雑誌という旧来のメディアに加え、ラジオ、映画などの新興メディアが急速に発展・浸透していったメディア環境の中で、絵画が果たした社会的な役割を整理します。

2章 アジアへの/からのまなざし

日本の圏域が拡大するにつれ、東北アジアのみならず、東南アジアの自然や風俗・文化を伝える絵画、写真、映画が多数制作されました。絵画に描かれたアジアと、描かれなかったアジアの両面に注目しつつ、日本人と現地の人々の視線のやり取りが含む政治的な力学についても想像を巡らせます。

3章 戦場のスペクタクル

日中戦争から太平洋戦争にかけて、陸海軍は作戦記録画の制作を画家に依頼し、その成果は各種戦争美術展で発表されるようになりました。戦況を伝えるために、写真や映画ではなく、絵画を活用した理由はどこにあったのかを、戦闘場面のスペクタクル化という観点から考察します。

4章 神話の生成

戦時下の美術は、文学、音楽、映画など、他の芸術ジャンルと連動しながら時局を反映したイメージを提供しました。本章では当時のメディア空間に注目することで、大衆に深く浸透し、社会を動かした「物語」が生成するプロセスを検証します。

5章 日常生活の中の戦争

本章では、前線/銃後、公/私、男/女、大人/子どもの境界が曖昧になる総力戦において日常生活がどのように変化していったかを、視覚的メディアを手がかりに読み解きます。とりわけ「銃後」を支えた女性の暮らしと労働に注目することで、戦争と日常が背中合わせにあったリアリティーを追体験します。

6章 身体の記憶

過酷な敗戦体験を経た1950年代には、戦時中には描かれることのなかった傷つき、変形し、断片化された身体像が、戦後の現実と戦争体験を重ね合わせる媒体として多数生み出されました。これらの身体のイメージにより、過去の戦争の記憶が呼び起されたのです。

7章 よみがえる過去との対話

1960年代後半から1970年代にかけて、戦争体験の風化が叫ばれる一方で、テレビを通して報道されたベトナム戦争の映像が契機となって、日本人は過去の戦争を想起するようになります。この時期に展開された戦争の記憶を掘り起こす活動が、過去に向き合う意識の変化をもたらしました。

8章 記録をひらく

「戦争記録画」は、戦後米軍に接収されたのち長らく米国で保管されていましたが、交渉の末1970年に「無期限貸与」という形で日本に「返還」されました。本章では、敗戦体験と戦後のブランクを経て、戻って来た戦争記録画が読み替えられていく経緯を検証するとともに、未来に向けた活用の方法を問いかけます。

靉光《自画像》1944年 東京国立近代美術館
北川民次《ランチェロの唄》1938年 東京国立近代美術館 
(絵葉書)岡田三郎助《民族協和》 個人蔵
和田三造《興亜曼荼羅》1940年 東京国立近代美術館
中村研一《コタ・バル》1942年 東京国立近代美術館(無期限貸与)
井上長三郎《ヴェトナム》1965年 東京国立近代美術館 

展示風景

撮影:木奥惠三

開催概要

会場

東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー

会期

2025年7月15日(火)~10月26日(日)

休館日

月曜日(ただし7月21日、8月11日、9月15日、10月13日は開館)、7月22日、8月12日、9月16日、10月14日

開館時間

10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)

  • 入館は閉館の30分前まで
観覧料

一般  1,500円(1,300円)
大学生 800円(600円)

チケット

観覧券は美術館窓口(当日券のみ)と公式チケットサイト(e-tix)で販売いたします。

主催

東京国立近代美術館

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