展覧会
フェミニズムと映像表現
会期
会場
東京国立近代美術館2Fギャラリー4
展覧会について
1960年代から1970年代にかけて、テレビの普及やヴィデオ・カメラの登場によってメディア環境が急速に変化すると、作家たちは新しいテクノロジーを自らの表現に取り入れはじめました。同じ頃、世界各地に社会運動が広がり、アメリカでは公民権運動、ベトナム反戦運動などの抗議活動が展開されます。そのなかでフェミニズムも大衆的な運動となり、男性優位の社会構造に疑問を投げかけ、職場や家庭での平等を求める女性が増えました。この状況は、女性アーティストたちが抱いていた問題意識を社会に発信することを促しました。主題や形式の決まっている絵画などに比べると、ヴィデオは比較的自由で未開拓な分野だったため、社会的慣習やマスメディアの一方的な表象に対する抵抗を示すことにも有効でした。この展示では、こうした時代背景を起点とする1970年代から現代までの映像表現を、作品鑑賞の補助線となるいくつかのキーワードを通じて紹介します。
キーワード1:マスメディアとイメージ
1960年代から1970年代には先進国を中心にテレビが急速に普及しました。マスメディアのイメージは、ジェンダー(社会的・文化的に構築された性差)のあり方に大きな影響を及ぼします。マスメディアはしばしば、性役割についてのステレオタイプなイメージを発信してきました。例えば、女性は献身的で従順な「主婦」や「母」として描かれ、また「男らしさ」や「女らしさ」などの描写を通じて異性愛のみが優位に置かれました。
マスメディアの隆盛と並行して登場したヴィデオ・アートは、テレビ番組の映像や形式そのものを直接的に流用して再構成できるヴィデオの特性を活かすことで、マスメディアの恣意的なイメージの裏に隠されている問題に切り込みました。マーサ・ロスラーは、テレビの料理番組をパロディ化して、家庭内労働や家父長制への違和感を示しています。またダラ・バーンバウムは、女性ヒーローの変身シーンを物語から切り離すことで、男性の目を引くアイキャッチとしての女性の役割を浮き彫りにしています。
キーワード2:個人的なこと
ヴィデオ普及以前の主要な映像記録媒体であった8ミリや16ミリのフィルムは、撮影後に現像とプリントが必要なため上映までに時間を要しました。1960年代にヴィデオ・カメラが登場すると、撮影後すぐに上映可能な即時性が注目され、撮った映像をその場で見せるライブ・パフォーマンスや即興的な撮影がさかんに試みられます。生成と完成のタイムラグが極めて少ないヴィデオは、撮りながら考える、あるいは撮ってから考えることを可能にし、身の回りの題材や個人的要素を反映した作品も制作されました。
マーサ・ロスラーが《キッチンの記号論》を発表した当時、アメリカでは女性の料理研究家のテレビ番組が国民的人気を博しており、ロスラーの意見(料理を女性の役割とみなすことへの違和感)は少数派だったかもしれません。しかし本作品は国や時代を超え、現在も共感を集めています。出光真子の《主婦たちの一日》では4人の主婦が起床から就寝までの行動を語っていますが、名前も顔も明かされない彼女たちの言葉は、私的な逸話であることを超え、主婦という存在がおかれた状況を浮き彫りにします。個人の声をダイレクトに伝えるヴィデオは社会に問いを投げかけるメディアでもあるのです。
キーワード3:身体とアイデンティティ
1960年代から1970年代はパフォーマンス・アートの登場など、芸術において身体への関心が高まった時代でした。ヴィデオを使ったアーティストたちも、同様に身体表現を探求しました。リンダ・ベングリスやジョーン・ジョナスは、ヴィデオで撮影した自分自身をモニターに映し出し、実際の身体をその映像と重ね合わせることで、本来の自分とメディアを介したイメージとのズレを強調しました。これにより彼女たちの作品は、メディアにおける「見られる女性身体」のイメージからの逸脱や乖離(かいり)をも示唆するものとなっています。
70年代以降には、無数のイメージに囲まれた生活のなかで身体のリアリティを回復しようとする作品も登場します。塩田千春は、パフォーマンス・アーティストのマリーナ・アブラモヴィッチに学んだのち、自らのアイデンティティを主題とした映像作品《Bathroom》を制作しました。ここでは塩田が有機的な物質でもある泥をかぶるパフォーマンスを通じて、人工的な都市のなかで身体の感覚を改めて取り戻すことが意図されています。
キーワード4:対話
ヴィデオというメディアは、絵画や彫刻、写真にはない、発話という新しい要素を芸術表現にもたらしました。出光真子の《主婦たちの一日》では、4人の主婦たちが家の間取り図やご近所マップを前に、自分たちの1日の行動について語り合います。異なる人間が4人も集まっているにも関わらず、彼女たちの行動範囲やパターンは驚くほど一致しています。遠藤麻衣×百瀬文の《Love Condition》では、2人の作家が粘土をこねながら、「理想の性器」についての対話を繰り広げます。両者のアイデアの差異や一致が、次々と新たな展開を生んでいきます。いずれの作品においても、対話はあらかじめシナリオが決められているわけではない、脱線や混線、笑いの伴う即興的な「おしゃべり」として展開することが特徴です。他方、キムスージャの《針の女》では声を伴う会話はありませんが、都市の雑踏のなか、針のように直立不動で立つ女性と、彼女に気づき眼差しを向ける人々の間には、異質な存在どうしの無言の対話が生まれているのではないでしょうか。
開催概要
- 会場
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東京国立近代美術館2Fギャラリー4
- 会期
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2024年9月3日(火)~12月22日(日)
- 開館時間
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10:00–17:00(金曜・土曜は10:00–20:00)
入館は閉館30分前まで - 休館日
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月曜日(ただし9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館)、9月17日、9月24日、10月15日、11月5日
- 観覧料
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一般 500円(400円) 大学生 250円(200円)
- ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
5時から割引(金曜・土曜) :一般 300円 大学生 150円
- 高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。入館の際に、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
- キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。
- 「友の会MOMATサポーターズ」、「賛助会MOMATメンバーズ」会員の方は、会員証のご提示でご観覧いただけます。
- 「MOMAT支援サークル」のパートナー企業の皆様は、社員証のご提示でご観覧いただけます。(同伴者1名迄。シルバー会員は本人のみ)
- 本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。
- 無料観覧日
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11月3日(文化の日)
- 主催
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東京国立近代美術館
アクセシビリティへの取り組み
どなたさまにもゆっくり作品を鑑賞いただけるよう心がけています。
- 受付でのご案内
- 車椅子、ベビーカーの貸し出し
- 受付での筆談ボード
- 会場内の写真撮影(一部の作品を除く)
- 補助犬同伴可
- 手荷物用コインロッカー
- お身体が不自由な方のための駐車場
- 館内に座って休める場所
- 多目的トイレ
- 救護スペース
- 授乳室