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緑色の草原に立つ一本の樹。太い幹の上方から枝が分かれて出ているという樹形から思い出されるのはバオバブでしょう。この推測が正しいかどうか確認しようとタイトルを見れば、そこには「the secret tower」とあるだけ。日本語表記でもなぜか英語で書かれていて、しかも、主流のルールでは本来「The Secret Tower」と表記すべきところそうなってはいない。作者の杉戸洋はその理由についてこう語っています。
タイトルを小文字にしている訳は(若い頃の変な屁理屈で)文章の途中をもぎ取っている感覚とタイトルをあまり強調したくないというところです。この頃の絵はなんとなくカーテンをつけたりと並べ順を変えても紙芝居的に内容が繋がったり変わったりするような制作でした。
(2020年9月2日 杉戸洋から筆者宛のEメール)
「secret」を日本語に訳せば「秘密の/機密の/隠れた」など結構多義的です。「tower」は「塔」でしょう。確かに樹幹の上の方には窓が小さく描かれています。つまり、この樹には内部空間があり、そこには(おそらく)人がいる。そして、この樹=塔は相当大きい。
そんな樹=塔に対して、小さな戦闘機が向かっています。攻撃をしようとしているのでしょうが、大きさから判断するに致命的なダメージを樹=塔に与えるのは難しいのは明かです。無謀なことはわかっているけれども、しかしやらなければならない攻撃……相手は、世界の果てにも見える草原の中で、知らず知らずのうちに巨大に育ってしまった樹=塔。
ここまできたとき、再びバオバブのことが思い出されます。主にサバンナ地帯に育つその樹の名前がここ日本でも知られているのは、『星の王子さま』に登場するからです。小さな星をその根で覆ってしまった三本のバオバブの樹。バオバブは、芽が出てきたことに気づいたらすぐに(見えない)根ごとひっこぬかないと、やがて大地を覆い尽くしてしまうのです。サン=テグジュペリの物語の中で、それは繁殖力の強い悪の象徴として登場していました。
杉戸曰く、この絵を描いた当時バオバブのことは知っていて、しかもアフリカのバオバブは離れたところにあるバオバブと「交信」しているという話を読んだことがあったとも言っていました(2020年9月30日 杉戸洋と筆者との電話)。
ただ、大事なのは、ここに描かれている樹がバオバブかどうかを確認することではありません(無粋なのでそこは確認しませんでした)。そうではなく、クリントン政権期の「砂漠の狐作戦」が行われた年に描かれたこの絵が、「今ここ」の文脈において見たときにまた別の解釈を促してくれることであり、それこそがアートの力だと再確認することです。
『現代の眼』635号
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