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現代の眼 新しいコレクション 川俣正《TETRAHOUSE PROJECT PLAN 6》1983年

三輪健仁 (美術課長)

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川俣正(1953–)《TETRAHOUSE PROJECT PLAN 6》/1983年/木、鉛筆、アクリリック・合板/45.0×50.0×3.0 cm/令和元年度購入/撮影:大谷一郎

壁にかかった合板にアクリル絵具で描かれた風景。中央の建物以外は板がほぼむき出しで、空の部分の水色もなんだか素っ気ない塗り方です。制作途中の絵画でしょうか? 少し近づいてみると、割りばしのような細い木が、建物に寄生するように貼り付けられていることに気づきます。ということは合板も含めて、三次元の彫刻でしょうか?

川俣正は1980年代より、既存の建造物に木材などによる仮設構築物をまとわせ、日常空間を変容させる仕事を続けてきたアーティストです。このように壁にかけられたレリーフ状の制作物を、作家は「マケット(模型、雛型)」と呼びます。本マケットは、1983年に川俣が北海道で取り組んだ「テトラハウス・プロジェクト」に関わるものです。プロジェクトでは、札幌市中央区にある実際の住宅を借り受けてインスタレーションが制作されました。ということは、このマケットは、インスタレーションのための「模型」ということになるでしょうか?

この問いは、川俣の作品の範囲はどこからどこまでか、という論点につながっていきます。札幌でのインスタレーションは、公開が終わると貫板が撤去され、再び元の住宅へと戻りました。建物でのインスタレーションが作品の外延ということなら、現在、作品そのものは残っていないことになります。そしてマケットは、作品周辺に残され、作品を(おそらくは不完全に)指し示す代理表象ということになります。建築における実際の建築物と模型の関係のように。けれど、そういった残りものが作品ではない、とはどうやら簡単には言えなさそうです。「テトラハウス・プロジェクト」においては、家主や周辺住民との交渉、資材調達、制作、ドローイング展、写真やビデオによるドキュメント展、シンポジウム、記録印刷物の発行などが展開され、実に多くの人が関わりました。「人と人、人と出来事の出会いの熱い状況がまわりを巻き込みながら波動のように盛りあげられ、つくりあげられた。いわば、(川俣を体験した)これら40日間の総和が、札幌でのプロジェクトだった」1というわけです。

「模型」は、現実を観念化し、観念を現実化する、中間的な存在なのである。そこには、曰く言いがたい曖昧さがつきまとっている。現実を可能な限り再現しようとすると同時に現実を否定する2

(40日間の総和の一部である)このマケットが持つ「中間的」で、「曖昧」な特性は、物というより出来事としてあるような作品を事後的にどうとらえることが可能か、という難しくも創造的な問題に近づくための入口になるような気がします。

  1. 「編集後記」『TETRA-HOUSE 326 PROJECT』No.2、テトラハウス出版局、1984年
  2. 多木浩二「思考としての模型」『視線とテクスト』青土社、2013年、p.217

『現代の眼』637号

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