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現代の眼 展覧会レビュー 展示をめぐる主体/性の政治 

粟田大輔 (美術批評・芸術表象)

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本展のタイトルに改めて目を向けてみたい。中嶋泉の唱える「アンチ・アクション」とは、戦後日本で男性性と結びつくかたちで受容された「アクション(・ペインティング)」を批判する概念である1。しかし、それはジェンダーコード化されるような表現行為への批判であるため、女性性をもとにグルーピングされるといった枠組みを示すものでもない。そうではなく、字義通り「彼女たち、それぞれの応答と挑戦」とあるように、あくまで個別の美術家として「それぞれの」表現を包摂するものとして提示されている。

英語タイトルには「women artists」ではなく、『視線と差異—フェミニズムで読む美術史』等で知られる美術史家・文化研究者グリゼルダ・ポロックの言うところの「artist-women」という語が示されている。本展カタログの目次には、「artist-women はまず彼女たちを「美術家」として位置づけ、その主体が女性であることを示す語であり、ジェンダーや性的アイデンティティを理由に周縁化されてきた多様な美術家を美術史の中心に据える本展の立場を明示する」と注釈されている2

図1 会場風景|右は田部光子《繁殖する(1)》1958–88年、福岡市美術館蔵|撮影:木奥惠三

こうした点を踏まえポロックに倣えば、本展がなしていることは、従来の美術史に対して女性美術家を「追加」するといったことではなく、紛れもなく「構造への介入」にほかならないだろう3。よって市立・県立・国立の美術館も含め、公の美術館において本展が実施されたことにもその意義がある。事実、調査研究にもとづく個人蔵の発掘等、構造的に排除されてきた作品群を展示会場に召喚するといったキュレーションの営為は、美術史を編纂する美術館制度において、展示をめぐる性の政治=フェミニズム的協働であると言える。

そのうえで「主体」についても問い直す必要があるだろう。本展カタログの論考にも「主体」あるいは「人間」という言葉が散見されるが、苗字・姓ひとつとってみても家父長制や近代的家族規範のマインドが根強い日本において、彼女たちの主体は、西洋かつ男性を前提とした「主体」とは異なり、「主体/性」と二重化されたかのように社会的性差から逃れることのできないものであったはずだ。ゆえに、ポロックの言うように「彼女たちは、ジェンダー化された身体と制度のなかで決断し、制作した「美術家」4ではなかったか。 

同時に「物質」もモダニズムの美学に還元されるようなニュートラルな「物」ではない。そのことを示すひとつが、田部光子の作品であった。アスファルトと切断された竹箒の柄、砕かれた石膏のせめぎ合いによる「繁殖する」シリーズや、襖に埋め込まれたピンポン玉、アイロンの焦げ跡とキスマークによって顕現した《作品》など、田部の作品には、女性であり労働者でもあり主婦業もなしていた複合的な主体/性が、物質=イメージと化して表出している。

図2 会場風景|田部光子《作品》1962年、福岡市美術館蔵|撮影:木奥惠三

本展の出品作家については近年、展示・研究・収集が進んでいるが、美術家が作品=表象を通じて自らの拠って立つ世界を切り拓く可能性を示し、見る側が「その複雑さや、新たな意味生成の可能性を「考え抜く」5(ポロック)ことをなすならば、「その複雑さ」や「意味生成の可能性」を思考するうえで、「彼女たち」が歴史的・社会的に被ってきた主体/性のリアリティを踏まえることは欠くことのできない視座であろう。画面・立体から乱反射するイメージもまた、規範にさらされた主体/性をともなったなかでの枠(フレームの概念)からの解放の追求(自由の希求)ではなかったか。 

本展ではあくまでも作品との出会いを重視するために必要最低限のキャプションに留められていたが、会場に置かれた「別冊アンチ・アクション」には当時の背景についても触れられているので、手にとってみてほしい。一方で「相関図」なるものが展示されていたが、チャートだけを見るとニュートラルな言葉に還元されていたため、「アンチ・アクション」の掲げる批評性を一般化してしまっているような印象も受けた。 

最後に本展では14の出品作家を称して「彼女たち」と名づけているが、こうした呼称が、作家自らによって主体的に唱えられたプロナウン(代名詞)ではないことも念頭に置いておく必要がある。そのうえで、性をめぐって男性/女性という枠組み自体が他なるセクシュアリティを構造的に排除していることを踏まえるならば、本展を機に、さらなる「構造への介入」(不可視化されている主体/性へ呼びかけ)が要請されるだろう。

  1. 中嶋泉『アンチ・アクション—日本戦後絵画と女性画家』ブリュッケ、2019年。同『増補改訂 アンチ・アクション—日本戦後絵画と女性の画家』筑摩書房、2025年。
  2. 豊田市美術館、東京国立近代美術館、兵庫県立美術館編『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』青幻舎、2025年、4頁。
  3. 同上、23頁。ポロックによれば「追加は、男性を基準とし、女性を例外や補足とみなす構造を再生産する」。
  4. 同上、28頁。
  5. 同上、29頁。 

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