松田権六の仕事場 関連資料展示解説

松田権六が実際に制作で使用していた道具や素材類などをはじめとする関連資料を、会期ごとにテーマを設定して展示しています。

撮影:池田紀幸


松田権六と石川ゆかりの作家作品

会期 2024.3.19-6.2

*文中のアラビア数字は、展示ケース内アクリルキューブの数字(展示番号)と対応しています。

左ケース

1段目

松田権六の道具

「昔から名工と呼ばれた人の工具は独自の工夫のあとが残されている。一芸に秀でるほどのものなら、職人でもかならず優れた素質があり、工具の工夫も合理性があり、創作性があり、美的なものであった。」 

―――松田権六『うるしの話』より

箆と刷毛

箆(へら)は、漆の下地作りや塗り、あるいは漆の調合の際などに用いられます。金属、竹、木、鯨といった素材で作られており、素材の硬さやしなり具合によって、用途に合わせて使い分けます。箆の形は、使用目的にあわせて使う人が決め、自作することも間々あります。木箆は、東京では檜、輪島その他の地域では、朴、桂、ニベといった木が使われます。刷毛は、漆の塗込み用、地塗り用、上塗り用と制作工程によってさまざまなものがあります。

1:鯨箆(くじらべら)・・・ヒゲクジラの髭を材料として作られた箆。弾力性に富み、塗り際を美しく仕上げるために欠くことのできない道具。

2:中尊寺金色堂の解体修理の時に出てきた平安時代の刷毛を模してつくられた刷毛。漆刷毛師・泉清吉製。

3:檜の皮で作った箆。刷毛としても使用可能。輪島製。

4:上塗り専用の刷毛・・・漆塗で用いられる刷毛には、人毛、ことに婦人の頭髪がよいとされます。毛が柄の末端まで入っているので、刷毛がすり減ってくると鉛筆を削るように削って最後まで使えるようになっています。塗の作業では、刷毛を口にくわえて他の作業をすることがあり、柄の部分に歯型の跡がうっすらと見えています。

5:地塗り専用の刷毛

6:細く塗るための刷毛

7:小刷毛

8:あしらい毛棒(けぼう)・・・蒔絵粉を扱うための筆の一種。馬やイタチ、リスの毛を使用。蒔絵粉で微妙な濃淡をつけて蒔く時に使われます。蒔絵の表現や粉の分量にあわせて、太さや長さなど違うものを使い分けます。

2段目

蒔絵筆、粉筒等

9:鼈甲製の蒔絵筆用の洗い箆

10:大小の針金で作られた「引掻き」用筆

11:ぶんまわし・・・円を描くための道具。コンパス。鉛筆の代わりに蒔絵筆を差すことができるようになっています。

12:犬牙(けんき)・・・柄の先に犬の牙を取り付けた道具。蒔絵で金や銀の粉を蒔いた後、仕上げ磨きの際、研炭(とぎずみ)が届かない細かい部分を磨くための道具。

13:鯛牙(たいき)・・・柄の先に鯛の牙を取り付けたもの。高蒔絵の際など、指が入らないほど小さくへこんだ部分を磨くための道具。

14:各種蒔絵筆・・・蒔絵筆は、粘り気のある漆液で描くために、絵画用の筆に比べて、毛足が長く(通常2.5cm程度)、コシが弱いので扱いが難しい筆です。鼠や猫などの毛が使われます。

15:粉筒(ふんづつ)・・・蒔絵で金銀粉などを入れて蒔くのに用いる細い筒。蒔絵ならではの道具。先端を斜め45度くらいに切り、そこへ紗のきれを張り、ごく細かい金粉用には絹の薄いものを張ります。竹製(粗く大きな粉用で、竹の節をのぞき外側を削り、できるだけ薄く軽くしたもの)と鳥軸製(微粉用、白鳥や鶴の大羽の軸からつくる)があります。振り方や、器物の面に対し、筒の角度や距離を変えることで、いろいろな表現ができます。ねらった表現に対応できるように、すべて手製であらかじめ何本も用意しておきます。

☞ここに注目!蒔絵筆の構造

蒔絵筆は、筆の穂先が取り外しできる構造になっています。写真(下)は、筆の穂先を段軸から抜いたところ。二重、三重に毛束の根元をゆわえ、引っ張っても差し込んでもよいように、毛を束ねたまま自由自在に毛の長さを調整できるように作られています。毛先を長くして、漆を筆にふくませて長い線を引いたり、毛先を短くして小回りが利くように調整し、小さな丸を描いたりします。通常、頻繁に調整しなくても済むように、筆おろしの際に毛先の長さを決定します。

蒔絵筆の手入れ

蒔絵筆の使用後は、漆が乾かないうちに筆を洗います。種子油などの不乾性油をつけて「洗い箆」という箆で洗います(展示番号9参照)。筆の毛が曲がった状態で保存すると毛身が曲がったままの癖がつき、筆が台無しになってしまうため、つねに毛が直線状態であるように、細心の注意を払って手入れを行います。毛は乾かないように油をふくませて保管し、使うときにアルコール等で油を取り除いて使います。制作前後の道具の手入れも蒔絵には欠かせない作業です。

写真提供:富山大学芸術文化学部附属技藝院(文化財保存・新造形技術研究センター)

3段目

工具類

16:道具の箆や乾固した漆を削るための小刀(塗師刀[ぬしがたな])

17:槍鉋(やりかんな)・・・木を削る道具。桃山時代頃まで、木材を平らにする際に用いられた道具。一見平滑に仕上げられたものでも、実は鑿(のみ)で削り上げた彫刻のような仕上がりになり、「得も言われぬ造形美が宿る」として松田権六も制作に取り入れようとしたものと考えられます。慶長年間(1596~1615年)頃より、定規に刃物をつけた現在の鉋が登場すると、以後木工技術は格段に進歩することになります。

18:彫刻刀や各種の切出小刀

4段目

遺愛の品々

19:フェルト帽

20:腕時計

21:筆記用具

22:眼鏡

中央ケース

1段目

29:角偉三郎《練金文合鹿椀》1992年

2段目

30:松田権六監修《平安棗》(大・小)

31:松田権六監修《自作棗》(小)

32:松田権六所蔵 、赤地友哉塗《雪吹》

3段目

33:赤地友哉《はりぬき朱八角中次》1977年

34:田崎昭一郎《日の出波蒔絵平棗》

4段目

35:小森邦衞《網代縞文重箱》1991年

5段目

粉簞笥(本体は仕事場内で展示中)

粉簞笥の引出

蒔絵の際、粉簞笥の引出(二段目、三段目)は、そのまま取り出し粉の処理をするため手元に引き寄せて使われます。 

23:粉鎮(ふんちん)・・・蒔絵用の金銀粉を入れた粉包みを押さえるために用いる重し

24:粉匙(ふんさじ)・・・蒔絵用の金銀粉をすくうのに用いる小さじ

25:鳥軸製粉筒(展示番号15も参照)

26:爪盤(つめばん)・・・蒔絵を描く際に漆をのせておく小さなパレット。左手の親指につけて使います。

27:あしらい毛棒・・・蒔絵で粉を蒔くときに、粉を掃き寄せるように用いられます。

28:払い毛棒(はらいけぼう)・・・塵を取り除く際に使う筆

右ケース

1段目

36:塩多慶四郎《乾漆盤 華》1983年

2段目

37:塩多慶四郎《乾漆食籠 亀甲》1989年

3段目

38:寺井直次《鶴蒔絵平棗》1997年

39:大場松魚《平文不二和光平棗》

4段目

蒔絵で使われる素材

40:夜光貝

41:貝の真珠層部分を薄くはいだもの

42:アワビ

43:メキシコアワビ

44:卵殻(ウズラ)

45:象牙

46:平文用の各種素材

主な参考文献

『人間国宝 松田権六の世界』展図録(東京国立近代美術館ほかで開催)、2006年

松田権六『うるしの話』岩波文庫、2001年

松田権六『うるしのつや』日本経済新聞社、1981年

『松田権六作品集』朝日新聞社、1979年

松田権六『図案日誌』綜合工房、1977年

『人間国宝シリーズ21 松田権六』講談社、1977年

『蒔絵 松田権六』毎日新聞社、1973年


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