展覧会
所蔵作品展 MOMATコレクション(2023.3.17—5.14)
会期
会場
東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー4-2階
2023年3月17日-2023年5月14日の所蔵作品展のみどころ
MOMATコレクションにようこそ!
当館コレクション展の特徴を簡単にご紹介しておきましょう。まずはその規模。1952年の開館以来の活動を通じて収集してきた13,000点を超える所蔵作品から、会期ごとに約200点を展示する国内最大級のコレクション展です。そして、それぞれ小さなテーマが立てられた全12室のつながりによって、19世紀末から今日に至る日本の近現代美術の流れをたどることができる国内随一の展示です。
今期の見どころをご紹介します。4階の1~4室では、1階で開催中の「重要文化財の秘密」展にからめ、重要文化財ではない作品によって重要文化財を照らし出す企画を展開しています。また4階5室ではパウル・クレーの新収蔵品をお披露目し、3階10室では毎年恒例の「美術館の春まつり」を開催しています。昨年12月に開館70周年を迎え、次の10年を歩み始めた今期、過去の振り返りと将来の展望とを随所に盛り込んだコレクション展になっています。どうぞゆっくりお楽しみください。
※今会期に展示される重要文化財指定作品はありません。同時期開催の企画展「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」にてご覧いただけます。
展覧会について
展覧会構成
4F
1-5室 1880s-1940s 明治の中ごろから昭和のはじめまで
「眺めのよい部屋」
美術館の最上階に位置する休憩スペースには、椅子デザインの名品にかぞえられるベルトイア・チェアを設置しています。明るい窓辺で、ぜひゆったりとおくつろぎください。大きな窓からは、皇居の緑や丸の内のビル群のパノラマ・ビューをお楽しみいただけます。
「情報コーナー」
開館70周年を記念してMOMATの歴史を振り返る年表と関連資料の展示コーナーへとリニューアルしました。年表には美術館の発展に関わる出来事のほか、コレクションの所蔵品数や入場者数の推移を表したグラフも盛り込んでいます。併せて、所蔵作品検索システムのご利用も再開します。
1室 ハイライト
今回のハイライト、みなさんの目にどのように映るでしょうか。ほとんどを男性作家が占める重要文化財の作品が企画展に出品されているこの機会に、男女の作家を同数にして、当館の名品をご紹介しています。もちろん、作品は性別を前提として見られるものではないですし、点数を揃えただけで、ジェンダー・バランスの不均衡が是正されるわけでもありません。そもそも、ジェンダーを男女だけに分けるのも今やナンセンスです。しかしながら、近代美術の歴史において、男性作家や批評家の比重が圧倒的に大きかったのは事実であり、その中で醸成されてきた価値基準を問い直し、今後の調査研究や作品収集につなげていくための第一歩として、このような試みをしてみました。
開館70周年を迎えた当館は、これまでの収集と調査研究の蓄積を生かしつつ、これからの時代を見据え、長期的な視点のもと、過去の美術に対しても新たなアプローチをしていきたいと思います。
2室 重文作家の秘密
一階で開催中の「重要文化財の秘密」展にちなみ、今回この部屋では、重要文化財に指定された作品を生んだ重要文化財作家(略して重文作家)による他の作品を紹介し、作家や作品の評価の歴史にさらに一歩踏み込んでいただこうと思います。
例えば、重文作品より知名度の高い作品があったりします。平福百穂の《荒磯》は、今日までに刊行された近代日本美術の画集や全集に掲載された回数に照らすと、彼の重文作品《豫譲》(永青文庫蔵、熊本県立美術館寄託、重文展での展示期間は3月17日–4月16日)をはるかにしのぐ人気を誇ります。重文にするかどうかを分けたのは、制作年が9年早い《豫譲》に、芸術的達成度の初発性と画壇への影響力の大きさを認めたからでした。
例えば、重文作品よりも近年注目を集めている作品もあったりします。同じく画集への掲載に照らすと、下村観山の《木の間の秋》は重文の《弱法師》(東京国立博物館蔵、重文展での展示期間4月11日–5月1日)に、1990年代以降の掲載数で差をつけています。これは90年代以降に明治時代後半における琳派ブームに関する研究が進み、実践例としてこの作品が注目されるようになったことが要因のひとつと考えられます。重文作品だけでは分からない重文作家の秘密を探ってみてください。
3室 からだをひねれば
この部屋の中央に展示している荻原守衛《女》は、1910年の第4回文展に出品されて好評を博した、まさにその作品です。作者の絶作であるとともに、日本の近代彫刻を代表する傑作と評され、本作の石膏原型(東京国立博物館蔵)は重要文化財に指定されています(原型が指定されるという彫刻の複数性に関わる問題については、1階で開催中の企画展「重要文化財の秘密」をご覧ください)。
《女》の魅力は何よりも、螺旋を描いて立ち上がる構造表現の見事さにあります。そこで、荻原が敬愛したロダンのほか、身体のひねりによって動勢や生命感などを表した同時代の作品を集めました。ほんのわずかなひねりであっても、作品の持つ空間に動きや流れを生じさせていることがわかります。他の作品と見比べながら、《女》が傑作とされる理由、あるいは、それぞれの作品において採用されているポーズの理由について、頭をひねってみてください。
4室 《熱国之巻》の半年前
「重要文化財の秘密」展に出品されている今村紫紅の《熱国之巻》(東京国立博物館蔵)は、1914(大正3)年9月の展覧会で発表されました。その半年前、紫紅は、はじめてインドの地を踏み、異国の日常に興味をかきたてられていました。
紫紅の旅程は次のようなものだったと推定されています。船は2月26日に神戸港を出発し、門司、香港、シンガポール、ペナン(現・マレーシアのペナン州)、ラングーン(現・ミャンマー連邦共和国のヤンゴン)に寄港し、インドのコルカタに到着。コルカタから先はインド内陸部のガヤー、ブッダガヤにまで足を伸ばします。帰途は中国江南地方を漫遊して、帰国は5月末頃でした。日記も残してないのに旅程がこれだけ分かるのは、この《印度旅行スケッチ帳》の要所要所に地名が書き込まれているからに他なりません。 この作品を楽しむコツは三つあります。一つは、《熱国之巻》のどこにスケッチが利用されたか探すこと。二つめは、インターネットを利用して現地の今の景色と比べること。三つめは、画家の息遣いが生々しく伝わるスケッチを、そのまま楽しむことです。
5室 新収蔵&特別公開|パウル・クレー《黄色の中の思考》
スイス生まれのパウル・クレー(1879-1940)は、日本でもたいへん人気のあるアーティストです。ドイツの造形学校バウハウス(1919-1933)で教師を務めた理論家(ワシリー・カンディンスキー、ヨハネス・イッテンなどはバウハウスの同僚です)、音楽的な表現(クレー自身、相当な腕前のバイオリニストでした)、晩年の天使のドローイング(谷川俊太郎さんの詩で知った方も多いでしょう)など、その多面的な魅力が人々を魅了してきました。
当館では、1987年に第一作目となる《花のテラス》を収蔵して以降、日本の近代美術に与えた影響の大きさから、最も重要な海外作家の一人としてコレクションを充実させてきました。2021年度に新たに収蔵した《黄色の中の思考》は、1970年代末以降、近年まで長く個人の手元にあり、ほとんど人目に触れることのなかった作品です。今回、この《黄色の中の思考》のお披露目として、当館が所蔵するクレー作品全15点と、クレーに関わりの深い作品を集めて紹介します。
3F
6室 戦争をいかに描くか
戦後70年の節目を迎えた2015年、戦争の記憶を継承するための多くの試みが行われたことは記憶に新しいと思います。開館70周年を迎えた当館は、戦後、日本が主権を回復した1952年に開館しました。ここでは、日中戦争から、太平洋戦争を経て、主権回復までの15年あまりを、それぞれの時期に描かれた作品とともにたどります。画家たちは、ときに戦争記録画のように直接的に、ときに風景や動植物、人物に託して間接的に、戦争を描き出しました。一見すると戦争とは無関係な作品であっても、制作された年の時代背景に想いを馳せれば、画家たちが社会に向けた眼差しや彼らの心情が浮かびあがってくるでしょう。否応なく戦争に巻き込まれていった状況のなか、国家と個人、社会と芸術、非常と日常の狭間で矛盾や葛藤を抱えながら、画家たちがいかに戦争の様々な現実に向き合い、絵画に表現したのか、1点1点の前で、じっくり立ち止まってみてください。
7室 プレイバック「抽象と幻想」展(1953–1954)
※好評につき、7室のみで会期を延長いたしました。
戦後日本が主権を回復した1952年の12月1日に、当館は京橋で開館しました。このコーナーでは初期の重要な展覧会である「抽象と幻想 非写実絵画をどう理解するか」展(1953年12月1日~1954年1月20日)に焦点を当てます。
「日本近代美術展 近代絵画の回顧と展望」で開館して以降、当館では近代美術を歴史的に回顧する展示が続いていました。1周年を迎えるにあたって行われた「抽象と幻想」展は、名品を並べるという従来型の展示とは異なり、同時代の作家を、特定のテーマの下で取り上げる新しい試みでした。
批評家の植村鷹千代と瀧口修造を協力委員に迎え、「抽象」と「シュルレアリスム(幻想)」というモダンアートの二大潮流をめぐって構成された展覧会とは、果たしてどのような内容だったのでしょうか。7室では、残された資料や記録を元に制作した再現VRを投影しています。初期の実験的な美術館の実践を追体験してみてください。
8室 マスターズ
東京国立近代美術館は、設立以来70年超の歴史の中で、100人を超えるアーティストの個展を企画してきました。開館翌年の1953年に開催した国吉康雄遺作展にはじまり、昨年の大竹伸朗展に至るまで、近代以降の美術の歴史の形成に足跡を残した国内外の作家を顕彰しています。既に収蔵している作家の個展を開催したり、テーマ展での紹介が個展につながったり、パターンは様々ですが、研究、展覧会の開催、そして収集は常に有機的に結びついています。ここでは、油彩画と彫刻を中心に、当館で個展を開催した国内作家の作品の中から、戦後から80年代までの所蔵品を紹介します。なお、ここに展示した巨匠たちの個展開催年は次の通りです。斎藤義重(1978)、若林奮(1987、1995)、荒川修作(1991)、辰野登恵子(1995)、村岡三郎(1997)、土谷武(1998)、草間彌生(2004)、河口龍夫(2009)、岡本太郎(2011)、イケムラレイコ(2011)、工藤哲巳(2014)、高松次郎(2014-15)、山田正亮(2016)、熊谷守一(2017)。
9室 奈良原一高「ヨーロッパ・静止した時間」
2022年12月に開館70周年を迎えるにあたり、写真コレクションの展示では、昨年5月より、その歴史をふりかえりながら作品を紹介してきました。最終回となる今期は、近年収蔵した作品から、奈良原一高の「ヨーロッパ・静止した時間」を紹介します。
奈良原の才能が注目されたのは、1956年の初個展「人間の土地」でした。初期作では、戦後の日本という、特異な歴史的状況にとりくんだ奈良原は、62年に渡欧、戦後の日本とはまったく異なる、重厚なヨーロッパ文明と対峙することになります。3年近い滞在の成果は、67年に出版された写真集に結実しました。
2005年に病により活動を休止した奈良原は、その時点で主要作の多くについてプリント制作の基準となるセットを手元においていました。その散逸を防ぐため、当館では2008年度より収蔵に着手、約500点に及ぶその作品群は、当館の写真コレクションを代表するものとなっています。なかでも2020年度受贈の本作は、66年に当館で開催された「現代写真の10人」展の出品作でもあり、そこから半世紀を経てコレクションに加わることとなったのです。
10室 春の屏風まつり
例年、恒例の「美術館の春まつり」にあたるこの時期は、コレクション展でも春まつりということで、日本画を中心に桜や花にちなんだ作品を並べています。今年は特別に、桜や花にちなんだ屏風ばかりを、ガラスケースのコーナーに展示してみました。
ところで、屏風を生活空間で使っている人は、近代以降は少数派でしょう。なのに画家たちが好んで屏風に描くのは、(1)画面が大きいから、(2)収納が便利だから、(3)屏風のジグザグの折れに独特の画面効果が望めるから、だと言えます。とくに(3)が面白くて、屏風の屈曲の効果によって奥行きや動きが生まれるのを、うまい画家はちゃんと計算に入れて描きました。そう、屏風はただの平面ではないのです。では実際にどんな奥行きや動きが生まれるのか。それを見て取るには、枝をひろげた樹木は初歩的かつ最適な主題です。今回この部屋では、絵のなかの春にひたると同時に、屏風のかたちの効果や、手前のコーナーでは展示壁の角をはさんで展示した児玉靖枝《ambient light ― sakura》の展示方法の効果をお楽しみいただきたいと思います。
2F
11室・12室 更新されるModern
開館70周年を迎えた当館が、2000年以降の20年あまりで収集した作品をご紹介します。
ここに展示する作品は、大きく二つに分類できそうです。一つ目は、イケムラレイコ、杉戸洋、加藤泉、三輪美津子、千葉正也、青木野枝、岡﨑乾二郎らによる、絵画や彫刻の主題や形式を拡張するような作品です。冨井大裕や髙柳恵里の、日常的なモノや行為の用途や視点をずらすことで、私たちの認識に揺さぶりをかける作品も、ここに含まれるでしょう。二つ目は、近代の歴史や現代社会に対する批評的な視点を持った作品です。生まれ育った地域の過去と現在に向き合うシュシ・スライマンや山城知佳子、病や老いを克明に描き出す木下晋、規範化されたセクシュアリティの在り方を問う鷹野隆大、多様な背景をもつ人々の歌う姿を捉えた兼子裕代らの作品が当てはまるでしょう。19世紀末にはじまる近代美術のコレクションを起点とする当館が、21世紀に入り、現代の作家たちとともに、どのようにそれを更新していくのか、これからの展開にもご注目ください。
開催概要
- 会場
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東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー(4F-2F)
- 会期
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2023年3月17日(金)-2023年5月14日(日)
- 開館時間
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10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)
入館は閉館30分前まで下記日程は開場時間を20:00まで延長いたします。(最終入場19:30)
5月2日(火)~7日(日)、5月9日(火)~14日(日)
※5月8日(月)の開場時間は17:00までとなります。(最終入場16:30)
- 休館日
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月曜日(ただし3月27日、5月1日、8日は開館)
- チケット
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会場では当日券を販売しています。会場の混雑状況によって、当日券ご購入の列にお並びいただいたり、入場をお待ちいただく場合がありますので、オンラインでの事前のご予約・ご購入をお薦めいたします。
- ⇒e-tix から来館日時をご予約いただけます。
- お電話でのご予約はお受けしておりません。
- 障害者手帳をお持ちの方は係員までお声がけください。(予約不要)
- 観覧無料対象の方(65歳以上、高校生以下、無料観覧券をお持ちの方等)についても、上記より来館日時をご予約いただけます。
- 観覧料
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一般 500円 (400円) 大学生 250円 (200円)
- ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
5時から割引(金曜・土曜 :一般 300円 大学生150円)
- 高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。入館の際に、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
- キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。