展覧会

会期終了 所蔵作品展

所蔵作品展「MOMATコレクション」

会期

会場

東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー4-2階

2023年9月20日12月3日の所蔵作品展のみどころ

遠藤麻衣×百瀬文《Love Condition》2020年

MOMATコレクションにようこそ! 
当館コレクション展の特徴をご紹介します。まずはその規模。1952年の開館以来の活動を通じて収集してきた13,000点超の所蔵作品から、会期ごとに約200点を展示する国内最大級のコレクション展です。そして、それぞれ小さなテーマが立てられた全12室のつながりによって、19世紀末から今日に至る日本の近現代美術の流れをたどることができる国内随一の展示です。

今期のみどころの紹介です。3室「大正のタッチ」、4室「掌から空間へ」、10室「墨画飄々」は、企画展「棟方志功展」(10月6日~)に関連した展示。棟方展を見た方も見ていない方もお楽しみいただける内容ですので、ぜひ。また6室の東山魁夷(日本画)、7室の日和崎尊夫(版画)、9室の牛腸茂雄(写真)、10室の田口善国(漆芸)と、小個展形式で作品をご紹介。さらに2階ギャラリー4の女性作家の抽象表現を特集した企画もお見逃しなく。

企画展との連動、重要作家の代表的作品群の展観など、いずれも当館コレクションの厚みのなせる業と自負しています。どうぞお楽しみください。

今会期に展示される重要文化財指定作品

今会期に展示される重要文化財指定作品は以下の通りです。

  • 原田直次郎《騎龍観音》1890年、護国寺蔵、寄託作品|1室
  • 岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915年|2室

重要文化財指定作品の詳細は名品選をご覧ください。

展覧会について

1室 ハイライト

ピエール・ボナール《プロヴァンス風景》1932年

3,000m²に200点以上が並ぶ、所蔵作品展「MOMATコレクション」。その冒頭を飾るのはコレクションの精華をご覧いただく「ハイライト」です。
日本画は人気の高い川端龍子《草炎》(1930年)と安田靫彦《居醒泉(いさめのいずみ)》(1928年)が並びます。長らく寄託されてきた《居醒泉》は、昨年晴れてコレクションに加わり、今回は収蔵後初のお披露目となります。
彫刻は3点を紹介します。明治時代の木彫の名品である米原雲海の《清宵》(1907年)は、衣裳のやわらかな質感表現がみどころです。彩色木彫の平櫛田中《永寿清頌》(1944年)とあわせ、木彫の競演をお楽しみください。
ケースの外には重要文化財の原田直次郎《騎龍観音》(1890年)のほか、美術館の顔となる作品が並びます。今回はとくに西洋絵画を手厚く紹介しています。近年収蔵したピエール・ボナール《プロヴァンス風景》(1932年)や、パウル・クレー《黄色の中の思考》(1937年)を含め、豪華なラインナップです。

2室 新か、旧か?

岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915年、重要文化財

何であれ、ものごとの最初を特定するのは難しい。MOMATの真ん中のMはモダン、つまり近代です。近代美術の始まりとは、いつなのでしょうか? ここに並ぶ作品の約半分は、1907(明治40)年に始まった官設の「文部省美術展覧会(文展)」に出品されたものです。この文展開設を日本の近代美術の始まりとする考え方があります(異論もあります)。
そして近代とは「常に前衛であれ」ということをモットーとする時代です。つまり直近の過去は否定し、乗り越えるべき旧いものになります。設立当初は歓迎された文展ですが、まもなくすると硬直したアカデミズムの牙城として、新しい世代の批判対象になります。残り半分の作品は、そんな文展の在り方とは異なる道を進もうとした作家によるものです。
これらの作品が制作されてから100年ほど経った現在の私たちには、やはり新しいものが旧いものより素晴らしく映るのでしょうか?それとも、新しいものにはない素晴らしさを、旧いものに見出すのでしょうか?

3室 大正のタッチ

藤島武二《アルシチョ》1917年

1階企画展示室で開催する「棟方志功展」に関連して、同時代の西洋に感化を受けた大正時代(1912–1926年)の日本の美術を紹介します。
棟方志功が画家を志すきっかけとなったのが、文芸誌『白樺』に掲載されていたゴッホの《向日葵》の口絵だったというエピソードはよく知られています。ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、マティスなど、20世紀初頭に「ポスト印象派」と呼ばれたフランスの絵画傾向が、海を越えて日本に与えた影響は多大なものでした。
大正時代の美術を端的に言い表そうとするとき、しばしば用いられるのが「内面の表出」というキーワードです。同時代の新たな潮流を美術家たちが受け入れて咀嚼したことで、燃え立つような鮮烈な色彩や、刻み付けるような筆遣いが一斉に広まりました。それは海外の美術のスタイルを模倣したというより、内に秘めた情熱を形にする方法を学んだ結果であったといえるでしょう。
描く対象の色と形を再現することを超え、それ自体が自己主張するようなタッチにご注目ください。

4室 掌(てのひら)から空間へ

棟方志功《雷妃》1952年

企画展「棟方志功展」に関連して、大正から昭和初期の木版画を紹介します。棟方志功が版画の道に進みはじめた1920年代、版画は小型の作品が多く、雑誌や葉書などの形式で流通していました。人々は机上で眺めて楽しむ芸術として、版画に親しんでいたのです。若い版画家たちは作品を持ち寄って版画誌をつくりながら、仲間や愛好家とのネットワークを築きました。一方で、公募展に版画が出品されるようになったのもこの時代です。絵画や彫刻とならぶ「展覧会芸術」として仲間入りを果たした版画は、展示空間のなかで鑑賞されることを想定して、サイズも徐々に大型化していきました。
棟方志功のスケールの大きな力強い版画表現と、個性的なキャラクターは 「唯一無二」の作家として、その印象を強化します。しかし、棟方が大きな影響を受けた萬鉄五郎や川上澄生、版画制作を師事した平塚運ー、交流関係があった恩地孝四郎など、同時代の版画家たちの優れた実践は、棟方の重要な拠り所となっていました。

5室 飛行機、戦争、美術

北脇昇《空港》1937年

日本において初の動力飛行が成功したのは1910年のこと。1920年代には民間航空機の製造が始まり、1931年には初の国営民間航空専用空港「東京飛行場」(後の羽田空港)が開港します。
飛行機の登場は、20世紀の美術に新たな視点や知覚をもたらすことになりました。村井正誠のように航空写真を絵画に援用する例や、航空工学に関心を持つ美術家も現れます。その一方で、飛行機は戦争とも関わりが深く、絵画では劇的なシーンを描き出すための格好のモチーフともなりました。軍用の飛行機の資金集めのために開かれた展覧会に出品された作品も含めれば、関連作品はじつに多岐にわたります。北代省三のモビールは、もともと飛行機(戦闘機)に使うための素材であったジュラルミンを使用しています。
空を飛ぶという夢の技術の象徴として。あるいは、人力をはるかに超えるがゆえに武器にもなり得る機械として。戦争を挟む時期に制作された飛行機に関連する作品をご覧ください。

6室 東山魁夷

東山魁夷《たにま》1953年

東山魁夷は、企画展で紹介している棟方志功の5歳下、文化勲章を受章したのは1969(昭和44)年で棟方より1年早い、そんな同世代の日本画家です。今回この部屋では、東山の1947(昭和22)年の画壇デビューから、その名が広く知られるようになった1960年代初頭までの作品全8点をご紹介します。
1947年の第3回日展で特選を受賞し、実質的なデビュー作となった《残照》は、素直な写実的描写と画面に漂う寂寞の情感によって戦後の日本人の心境に寄り添いました。1950年の《道》(今回不出品)は景気上昇に光明を見出した時代の気分を映し、国内各地に取材した《山かげ》(1957年)、《秋翳》(1958年)などは国内観光ブームと足並みをそろえるものでした。彼の作品への大衆的な人気はこうした作品づくりにも理由を求められますが、その後の人気を後押しした文筆によるセルフイメージづくり、大規模なプロジェクトへの参加、メディアとの協同といった諸戦略は、棟方のそれと一脈通じています。

7室 時空の彼方へ―日和崎尊夫の木口木版画

日和崎尊夫《海渕の薔薇 4》1972年

硬い柘植、椿などを輪切りにした版木に、鋭い刀で彫る木口木版は、精密で繊細な線刻ができ、書籍の挿絵等で活用されたものの、印刷技術の発達に伴い、長らく廃れていました。東京で美術を学んだ日和崎尊夫(たかお)は、1964年に高知県に帰郷し、ほぼ独学でこの技法を習得します。1960年代半ばから木口木版画制作に専念し、この技法を芸術表現として蘇らせました。柔らかさやねばり、感情のぬくもりを感じる椿を版木として好んだ日和崎は、木の表面を紙やすりで磨き上げ、黒インクを塗ると、年輪と対話するがごとく、下絵も描かずにイメージを直接彫り出したと言われています。漆黒の闇に浮かび上がる、無数の微細な白い線と点の織りなす詩的なイメージ。それらはまるで、原初の時代や時空を超えた世界へと見る者をいざなうかのようです。令和3年度にご遺族やご友人から作品をご寄贈いただき、初期から晩年までの画業を通観できるようになりました。日和崎の魅力に満ちた木口木版画の世界をどうぞご堪能ください。

8室 時間 配置 過程

宇佐美圭司《積層 No.1》1974年

この部屋では、時間や音、そして事物の様々な関係性のなかに見出せる秩序をそれぞれのかたちで示す、1970年代前後の作品をご紹介します。
当時の日本では戦後の経済成長がピークをむかえる一方、公害問題やヴェトナム戦争に対する抗議活動とともに学生運動が激化します。既存の体制や知のあり方が疑問視される混沌とした状況のなか、自身を取り巻く世界を把握する手段として、表現活動を試みる作家たちが現れます。日付絵画によって時間の概念を可視化する河原温。事物の相互関係を写真でとらえる榎倉康二。立体造形を通じて空間の成り立ちを提示する田中信太郎。様々な構造について思考するための絵画を展開する宇佐美圭司や菅野聖子。そしてコラージュによって別の世界秩序を立ち上げる野中ユリ。
これらの作家に共通しているのは、時空間の構成要素を生け捕り、その実体を 確かめていくような手つきです。変動の時代において、こうした営みはある種の必然性を伴う行為であったといえるでしょう。

9室  牛腸茂雄 SELF AND OTHERS

牛腸茂雄《SELF AND OTHERS [3]》1977年

自己(Self)と他者(Others)という主題をめぐって、家族や友人などの身近な人々や、街で出会った子供たちなど、全部で60点の人物写真で構成された牛腸(ごちょう)茂雄の代表作「SELF AND OTHERS」。今回はそこから26点を選んで展示しています。
写真に現れる人物の大半は、まっすぐにレンズを見つめています。そのまなざしはこの連作における“他者”との対話の基調音をなしています。「自己と他者」という表題は、精神医学者R. D. レインの著書名から採られていますが、この作品の背景には、作者の精神医学への深い関心がありました。“他者”から投げ返されるまなざしを通じて、牛腸は“自己”を対象化し、自らの精神の深淵をも見つめようとしていたのでしょう。
生まれたばかりの赤ん坊から始まって、多くの子供たちが登場するこの連作には、自己の確立、すなわち人間の内面的な成長という、もう一つの主題を読み取ることもできます。連作の最後におかれた、淡い光に向かって駆け出す子供たちをとらえた写真は、それを象徴しているようです。

10室 生誕100年 田口善国/墨画瓢々(ぼくがひょうひょう)

田口善国《プラズマ文青貝蒔絵六角香炉》1998年

手前のコーナーでは、漆芸家の田口善国(1923-1998)を特集します。松田権六に漆芸を学び、奥村土牛らより日本画の手ほどきを受けた田口は、草花や虫などを愛情深く観察し、斬新な構図と繊細な意匠で作品に表しました。蒔絵や螺細を駆使した表現は、重要無形文化財「蒔絵」保持者(人間国宝)としても高く評価されています。今回は生誕100年の節目にあわせ、田口善国の代表作を中心にゆかりの作家の作品も交えてご紹介します。

奥のコーナーでは、富岡鉄斎(1837-1924)を紹介します。生前・没後を通じて人気の高い鉄斎ですが、特に1950年代に入って同時代の評論家や美術家の話題となり、「日本のセザンヌ」などと称されました。文人画という伝統表現を近代美術として見直す動きは、同時期の棟方志功の木版画への注目の高まりともシンクロしていました。「瓢逸(ひょういつ)」と評される、自在に遊ぶような鉄斎の作品と、それに連なるおおらかな墨の筆遣いが特徴的な作品を合わせてお楽しみください。

11室 想像/創造する「からだ」

遠藤麻衣×百瀬文《Love Condition》2020年

このコーナーでは、2022年度に収蔵した遠藤麻衣×百瀬文の《Love  Condition》を中心に、身体を起点にした表現を紹介します。
身体のすみずみまで、意識を行きわたらせてみてください。頭から指先、足先まで自分自身の身体を実感できたでしょうか?身体は人間のアイデンテイティの拠り所となるものですが、一方で、顔や背中のように肉眼では見られない部位があったり、けがや病気、出産などによって刻々と変化したりする未知の存在でもあります。
アーティストたちは身体の特定の部位に焦点を当て、時には自らの私的な要素を作品に組み込みながら、当たり前に存在しているはずの私たちの身体を相対化し、ジェンダーやアイデンティティ、セクシュアリティにまつわる根源的な問いを投げかけています。こうした視点に出会うことで、日常的な感覚や常識でこり固まった身体が揺さぶられ、解きほぐされていきます。

12室 エゴとエコ

ロバート・スミッソン《ノンサイト(デス・バレーの南、127号線上のリッグスとシルヴァー湖の間で採取された白亜)》1968年

このたび新たに収蔵した風間サチコの《セメント・モリ》は、自然を人間のために利用してきた近代社会の縮図を、コンクリートに見出した作品です。そこには、人間の支配欲やエゴが表出している一方で、セメントの材料である石灰石は、数千万年という、人間の歴史をはるかに凌駕する時間のなかで、有機物の誕生と死減の繰返しによって生成されてきました。ここでは、風間の作品のテーマである人間のエゴと、エコロジー(生態学)的な視点に焦点を当て、当館のコレクションをご紹介します。自然を破壊し、汚染する人間の営為、近代化の過程でときに選しく働き、ときに搾取されてきた労働者たち、自然を切り崩して作られた人工物とそれをも飲み込む自然との拮抗、資本主義の裏で進む環境破壊、自然への深い同化を求める人間、そして人間のスケールでは捉えられない時間的、空間的広がりをもつ自然といったテーマが、これらの作品には見出せます。複雑に絡みあう人間と自然、エゴとエコは、今後どのような共存の道を歩むことになるのでしょうか。

開催概要

会場

東京国立近代美術館本館所蔵品ギャラリー(4F-2F)

会期

2023年9月20日(水)~12月3日(日)

開館時間

10:00–17:00(金曜・土曜は10:00–20:00)

  • 11月27日(月)は臨時開館(10:00-17:00)
  • 入館は閉館30分前まで
休館日

月曜日(ただし10月9日、11月27日は開館)、10月5日(木)、10月10日(火)

観覧料

一般 500円 (400円) 大学生 250円 (200円)

  • ( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。

5時から割引(金曜・土曜 :一般 300円 大学生 150円)

  • 高校生以下および18歳未満、65歳以上、「MOMATパスポート」をお持ちの方、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。入館の際に、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。
  • キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。
  • ※「友の会MOMATサポーターズ」、「賛助会MOMATメンバーズ」会員の方は、会員証のご提示でご観覧いただけます。※「MOMAT支援サークル」のパートナー企業の皆様は、社員証のご提示でご観覧いただけます。(同伴者1名迄。シルバー会員は本人のみ)
無料観覧日

11月3日(文化の日)

主催

東京国立近代美術館

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