美術文献ガイド1:人物情報の探し方

1.1 人物情報とは

人物情報と一口に言っても、その対象、内容は様々で、それによって調べ方も変わってきます。例えば、調べたい人物は作家なのか、美術評論家なのか、現存者であるか、物故者であるか、その人物とコンタクトをとりたいのか、略歴が知りたいのかなど。
東京国立近代美術館(以下、東近美)のアートライブラリで、或る人物について調べる場合、東近美OPACで人物名をキーワードにして検索してもある程度の収穫はありますが、参考図書を使って調べる方法も有用です。
東近美OPAC、参考図書、いずれに当たるにせよ、調べたい人物の氏名(日本人ならば漢字表記・よみかた、外国人の場合は原綴・アルファベット表記)、活動年代、活動ジャンルを確認しておくと効率よく調査ができます。

1.2 参考図書とは

参考図書とは簡単に言うと、調べものをする時に使うための基本図書です。レファレンス・ブックともいいます。辞典・百科事典・専門事典・人名事典・便覧(ハンドブック)・年表・年鑑・書誌・索引などの種類があります。この中で、資料を集めるのに役立つものが書誌です。
ここでいう書誌(bibliography)とは、図書・雑誌その他資料形態のものを一定の法則に従って記述した文献リストのことです。著者名、書名、件名、分類等、その目的によって編成され、配列されます。文献目録ともいいます。
書誌は必要な文献にどのようなものがあるかを知りたいとき、あるいはそれがどこに所蔵されているか、その所在を確認したいとき、さらに必要な文献を探すときには欠かせない資料です。書誌に収録される文献は一次資料とみなされます。書誌はそれらを加工して編集したものであることから、二次資料ともいいます。二次資料である書誌を収録対象として再編集したものを三次資料といいます。「書誌の書誌」がこれにあたります。

『日本書誌の書誌』は、単行本の書誌類のほか、図書や雑誌の中の書誌類を収録したものです。総裁編、主題編1~2、人物編1に分かれていて、主題編2および人物編1が「芸術 語学 文学」分野です。主題編2以降は、日外アソシエーツから出版されています。

続刊として、主題編3 社会科学編が2006年に刊行されています。

「書誌の書誌」には下記もあります。

資料の網羅性を重視して編纂した全国書誌や全国販売書誌などを一次書誌と呼びます。これに対し、何らかの選定基準を設けたり、主題領域を限定して収録対象となる文献を選択したりして作成した書誌を二次書誌といいます。選択書誌や主題書誌は二次書誌に含まれます。人物書誌も二次書誌です。

人物書誌には一人の人物を対象とする個人書誌と、複数の人物を対象とする集合書誌とがあります。個人書誌、集合書誌に収録される文献はどちらの場合でも、その人物自身が執筆した文献、すなわちその人物の著作と、その人物について書かれた文献、例えば伝記・評伝、人物論や著作研究などが含まれます。

1.3 よみかたを調べる

1.3.1 典拠録(事典をひく前に確認しておくこと)

氏名の表記・読み・生没年などを知るため、あるいは人物を特定するために使います。外国人は、原綴からカナ化する時に同一人物でも複数の表記が発生することがあります。日本人は、漢字の表記やよみかたが違うと同定できないことがあります。氏名の表記に誤りがあると、効率よく探すことができません。
人名典拠録の代表的なものを以下にあげました。Union list of artist namesはGetty財団のホームページから、インターネットで検索することもできます。

1.3.2 よみかた事典類

姓名のよみかたに困った場合に使います。

1.4 ことがらを調べる

1.4.1 百科事典

百科事典は、事物や事件を解説し包括的にまとめた事典です。有名なことがらについては、専門事典よりも百科事典の記事のほうが詳しいことがあります。調べものをする場合、専門事典で調べる前に、まず百科事典にあたってみるとよいでしょう。一回で探していた情報が得られることもありますし、そうでなくても探している人物・ことがらについて、概略を知ることができます。

1.4.3 人名事典

人名事典は人名を見出語として、その伝記的事項を記述し一定の順序に編纂した参考図書をいいます。
人名録(名鑑)は社会生活上、その相手方を知るための名簿を指し、生年月日・出身地・専門分野・現職・所属団体・住所などがわかります。その記録の採録時に、現存する人を対象としています。美術関係の事典は作家中心に編纂されるので、評論家や学芸員について触れていない可能性があります。その場合でも、一般的な人名事典には載っていることがあるので、注意して探す必要があります。美術関係の人名事典には下記の資料があります。

日外アソシエーツから出版されている『美術家人名事典』は、古代から現代まで、分野別に一覧できる人物事典です。画家・版画家を扱ったものと、工芸篇、建築・彫刻篇の3冊から成ります。

『日本人物情報大系 書画編』は江戸時代から昭和までの間に出版された、画家・書家関連の重要な文献を復刻・収集したものです。

下記は写真・映像・版画・漫画など、特定の主題関連の人名事典です。

下記は一般的な人名事典です。

下記は洋書の美術分野の人名事典です。

現在活躍中の美術家について調べるにはSt. James Press社から出ている下記のシリーズが役に立ちます。掲載している以外にも、異なる版があります。

下記はフランスのBenezitが編纂した美術家事典です。作家略歴、主要な作品の所蔵館一覧、文献一覧、主要オークションの記録などが載っており、大変便利な事典です。2006年には英語版が出版されました。紙面の構成はフランス語版と同様です。最新のものはオンライン版となっており、「Oxford Art Online」に含まれています。

下記はThieme/Beckerの通称で知られる、ドイツで刊行された世界最大の美術家事典です。略歴・参考文献などを紹介しています。

下記の事典は、通称をAKLと言い、Thieme/Beckerの全面改訂版として現在も刊行中です。略歴・展覧会歴・参考文献・作品の所蔵館などを紹介しています。巻数が多いため、東近美OPACでは書誌が分かれています。

美術家ではなく、美術史研究者、美術館長等を対象とした人名事典が、Museum Professionals and Academic Historians of Artより、インターネットで提供されています。日本人としては、岡倉天心等が掲載されています。

  • Dictionary of Art Historians (https://arthistorians.info/)

1.4.4 年鑑

a) 日本美術年鑑

『日本美術年鑑』は一年間の業界の動向を知るための基本的なツールです。その年の美術界の動向、主なニュースなどを扱っています。内容は年代によって多少の違いはありますが、「美術界年史」「主要美術展覧会」「美術文献目録」「物故者」を主に扱っています。物故者情報や作家・美術関係者の連絡先が載っているため、人物情報を調査するのにも使うことができます。
現在、東京文化財研究所美術部から発行されている『日本美術年鑑』は、1936年帝国美術院付属美術研究所によって刊行が始まりました。以降毎年刊行されており、前年の1~12月の動向についてまとめられています。組織名の変更や、冊数が多いなどの理由により、東近美OPACでの書誌は分かれています。

また、東京文化財研究所はインターネットでも「『日本美術年鑑』所載物故者記事」を提供しています。『日本美術年鑑』に掲載された全ての物故者記事が網羅されています。

  • 『日本美術年鑑』所載物故者記事 (https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko)

b) その他

『美術界データブック』は、生活の友社から刊行されている年鑑です。作家の経歴や受賞歴、販売価格等を含めた簡単なプロフィールが掲載されています。また、全国の画廊や美術館の情報、鑑定人、評論家など美術界に関わる情報が網羅されています。

下記は、現在休止している年鑑です。出版当時の情報を調べる際に活用できます。

1.5 資料を探す

1.5.1 作品集・著作・伝記などを探す

a) 国内

作品集・著作集・伝記などの文献を探す際には、下記の参考図書が有用です。

下記は20世紀以降の美術動向に関わった作家を年代順に紹介している資料です。作家ごとに略歴と代表作1点がカラー図版で掲載されています。巻末に付された資料編には、「年表」「図版リスト」「人名索引」があり、作家名などからも調べることができます。2019年には英語版も出版されました。

b) 海外

外国人作家については、カタログ・レゾネが充実していますので、活用しましょう。「2.2.1 画集、カタログ・レゾネ、展覧会カタログ」の「b) カタログ・レゾネ」をご参照ください。

1.5.2 索引を使う

索引とは、必要とするものの記載個所を容易に検索できるようにしたものです。人名索引、用語索引、事項索引などがあります。以下の索引類は、求める事項がどの事典類に載っているかを確認するのに有用です。

下記のオンラインデータベースは、国立国会図書館所蔵の和図書・和雑誌から、日本人の人名情報を収録する人名辞典などの資料を選び、書誌や収録内容のキーワードから調べることができるデータベースです。

  • 日本人名情報索引(人文分野)データベース (https://rnavi.ndl.go.jp/jinmei/)

また、各種の年譜・年表類がどの図書に載っているかを調べるには下記の索引が有用です。

1.5.3 展覧会カタログ

展覧会カタログ(図録)には出品作品の図版のほか、作家略歴、展覧会歴、作品解説、参考文献一覧などが掲載されています。人物を調べるのにも役に立ちます。

a) ALC

「美術図書館連絡会」(ALC: The Art Library Consortium)では、美術図書館の蔵書の横断検索ができます。

ALCには、神奈川県立近代美術館、国立工芸館、国立国際美術館、国立新美術館、国立西洋美術館、東京国立近代美術館、東京国立博物館、東京都江戸東京博物館、東京都現代美術館、東京都写真美術館、東京都美術館、横浜美術館、吉野石膏美術振興財団の13館が加盟しています(2022年12月現在)。

b) 展覧会カタログ総覧

下記は2009年に出版されたカタログ総覧です。東近美、横浜美術館、国立西洋美術館、東京都写真美術館、国立新美術館、東京国立博物館、東京都江戸東京博物館の全7館が収集した、1880(明治13)年から2007(平成19)年までの128年間に国内で開催された展覧会のカタログ、図録61,300点を収録し、所蔵先を記載した文献目録です。

展覧会カタログについては、「3. 展覧会情報の探し方」をご参照ください。

1.5.4 雑誌・新聞記事

展覧会の会期中に、雑誌や新聞に作家や作品に関する記事や展覧会批評が載ることがあります。それらの新聞記事を探すには、各新聞社から出ている縮刷版やデータベースを利用するとよいでしょう。

ここでは美術関係の雑誌記事を探すツールの中で人物情報を探すのに役立つものを取り上げます。下記は美術関係の雑誌記事を探すツールです。

雑誌記事の探し方については、「4. 雑誌情報の探し方」をご参照ください。

1.5.5 オーラル・ヒストリー

「日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ」のホームページでは、美術分野に関わりのある人々への口述史料が掲載されています。

日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ (https://www.oralarthistory.org/)

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