美術文献ガイド2:作品情報の探し方

2.1 作品情報とは

作品情報とは、ある美術作品に関する、「作品名」「作家名」「制作年代」「大きさ」「技法」「所蔵先」などの様々なデータのことをいいます。ある美術作品について調べる場合、作品名や作家名をキーワードにして検索する場合が一般的でしょう。しかし、作品名や作家名(特に海外の作品・作家の場合)には名称や日本語表記にばらつきがあるため、注意が必要です。データが見つからなくてもあきらめず、キーワードを変えるなどして、丹念に調べたり、確認したりすることが大切です。

2.2 作品の解説や図版を探す

ここでは、参考図書を使った作品解説や図版の探し方を説明します。

主に美術家の名前をキーワードとして、画集や展覧会カタログ、カタログ・レゾネなどを用いた調査方法を提示します。しかし、当館の蔵書検索(OPAC)は東近美アートライブラリでの所蔵資料を検索対象としているため、東近美アートライブラリで所蔵していない資料は当然ながらヒットしません。また、ヒットしたものも、あくまでも「東近美アートライブラリで所蔵しているもの」であって、それが世の中に存在する資料全てではありません。より多くの資料にあたるためには、他館のOPACを調べるか、参考図書を参照する必要があります。

以下、「作品図版・解説を掲載した本として、世の中にどのような本があるのか」を探す場合と「どの本のどこに作品図版や解説が掲載されているか」を探す場合に有用な資料や方法を紹介します。

2.2.1 画集、カタログ・レゾネ、展覧会カタログ

ここでは、画集、カタログ・レゾネ、展覧会カタログを探すツールを紹介します。

a) 画集

作品図版が多く掲載されている画集は単行本として出版されたものや、全集・シリーズの中の1冊として出版されるものがあります(例: 『現代日本美術全集』(集英社)や、『日本の名画』(中央公論社)など)。下記の『画集写真集全情報』では、画集・写真集を探すことができます。作家名や被写体、テーマから書誌事項を調べることができます。

b) カタログ・レゾネ(=作品図録総覧)

カタログ・レゾネ(Catalogue Raisonné)とは、ある作家の全作品のデータと図版を、時代別・主題別などに分類整理した目録のことです。

ある特定の作家の作品について調べる場合、その作家のカタログ・レゾネが刊行されていれば、まずそれに当たってみましょう。カタログ・レゾネは画集とは異なり、図版も白黒が多く、作品解説はほとんどついていません。鑑賞よりも作品のデータを提供することに主眼をおいて編集されているためです。掲載されている作品情報は「大きさ」「制作年代」「技法」「素材」「来歴」などの基本事項が中心です。日本ではあまり定着していないため、日本人作家の完全なカタログ・レゾネは少なく、外国人作家について外国語で著されたものがほとんどです。

ここでは、ある作家についてカタログ・レゾネや画集などが出版されているか否かを確認する際に役立つツールを紹介します。下記は作家名のアルファベット順に、レゾネの書誌事項が掲載されています。

下記の資料には書誌事項だけではなく、レゾネの収録ジャンルも掲載されています。

下記の2冊は、一部レゾネの書影も掲載しています。テーマ(印象派やフォービズムなど)や国でまとめられた画集を探すこともできます。

International Foundation for Art Research (IFAR)が提供している下記のサイトでは、既刊書および出版準備中のカタログ・レゾネの出版状況を調べることができます。

  • 「IFAR Catalogues Raisonnes (IFAR)」(https://ifar.org/cat_rais.php)

最後に、版画分野で活動する作家のレゾネを探すツールを紹介します。国内外の現代版画家100人のカタログレゾネを日本語で解説しています。巻末の作家索引では、作家名(日英表記)から掲載箇所を探すことができます。

Print Council of Americaが提供している下記のサイトでは、版画家について、各作家のカタログ・レゾネを調べることができます。

  • 「Index to Print Catalogues Raisonne (IPCR)」(https://www.printcouncil.org/search/)

c) 展覧会カタログ

作品を探す上で欠かせないのが展覧会カタログです。展覧会は個人名を冠した場合もあれば、あるテーマによる場合もあるため、作家名をキーワードにOPAC等で検索しても、見つからないことがあります。そのような場合は「1. 人物情報を探す」を参考に、その作家の所属団体、活動時期などを調べ、作家名以外のキーワードを用いて検索しなおすことをおすすめします。展覧会カタログを探すツールについては、「3. 展覧会情報を探す」で詳しく解説しています。

2.2.2 美術全集

図版や解説を探す際に美術全集にあたることは重要です。しかし、厖大な全集の中から目的の図版を探すことは容易ではありません。そこで参考図書や美術全集の索引を活用しましょう。索引を用いることで、調べている作品の図版がどの全集のどこに掲載されているのかを調べることができます。

2.2.3 参考図書から探す

ここでは主に全集に掲載されている図版や解説の所在を探すための参考図書を紹介します。これらの参考図書を用いることで、目的の作品図版が掲載されている全集の情報を得ることができます。ただし、全ての全集を東近美アートライブラリで所蔵しているわけではないため、未所蔵の全集については、所蔵館を調べる必要があります。

a) 日本美術の作品

『日本美術作品レファレンス事典』は、絵画篇・彫刻篇・工芸篇・建造物篇・陶磁篇・書跡篇に分かれています。作品名の日本語表記五十音順、英語表記のアルファベット順に、図版を掲載している全集名とその頁、図版番号が記載されています。各巻末の索引で作家名で引くことができます。

各巻の収録範囲と採録美術全集タイトル数は、『絵画篇-近現代』を例にとると、次のとおりです。

例) 『絵画篇-近現代』

  • 収録範囲=明治以降に制作された作品約17,000件、約1,530名の作家(明治期の浮世絵を除く)
  • 採録美術全集=計60タイトル

b) 西洋・東洋美術の絵画作品

収録対象は、東京都立中央図書館所蔵している各種西洋美術全集(51タイトル/種、1950年代から1997年刊行分)です。約3,100人の欧米人画家の絵画作品、約46,000葉の図版の所載を探す索引ツールです。CD-ROM版もあります。作家(姓名日本語表記の五十音順)ごとに作品名が配列されています。日本語表記が不明であっても、巻頭の索引で外国語の綴りから日本語表記を調べることができます。作者不詳の作品についても調べられます。巻末には作品名(日本語・原綴)索引があります。

西洋美術作品にみられるカタカナ表記や翻訳の違いによる作品名のゆれを確認する際は、この資料を参照してください。この辞典は西洋の画題や作品データを調べるものですが、画家別に、日本語での作品名に原題のほか、通称・別称・副題などを付してあるため、検索する際のキーワードとして参考になります。13世紀から20世紀の画家が収録されています。

c) モデルとなった人名から探す

人物画・肖像画などをモデルとなった人名から検索できます。対象作品は日本・東洋・西洋の古代から現代までの人物画・肖像画です。

d) 古代文明の作品

四大文明はじめ、古代ギリシア・ローマ、中南米のインカ・マヤ・アステカ文明、日本の縄文・弥生・古墳時代などの美術作品を対象に、1945年以降に刊行された美術全集に収録された図版を検索することができるレファレンス事典シリーズです。

2.2.4 美術全集の総索引から探す

美術全集の総索引から作品情報を調べる方法を説明します。

『世界美術大全集 : 西洋編』は、西洋美術の紀元前1万年~現代までを主題ごとに構成し、その歴史の流れに沿って代表的な作品を掲載しています。各巻巻末に適宜収載されている地図、歴史年表、主要作家年表、用語解説、参考文献、索引も充実しています。総索引は別冊になっており、全28巻に掲載された図版について、原則的に作家名は大項目(姓名の日本語表記五十音順)、作品名は小項目として配列されています。また、巻頭に各巻に載っている図版の代表的なものを掲載してあるので、全巻を通覧するにも便利です。巻末の、年代と各巻の主題の位置関係を示す「巻立・章立の年表」「資料索引」「著者索引」も大いに役に立ちます。

東洋編も刊行されており、日本を除いた東洋美術の先史時代から20世紀初頭までを取り上げています。全体の構成は西洋編と同様です。

『日本美術全集』は縄文時代から20世紀までの美術史を時代ごとにまとめており、時代の変遷と特色を図版と解説とで紹介しています。各巻末に各時代の年表があります。総索引と資料が別冊になっています。総索引は作品名、作家名の両方があります。また「資料 : 収録論文一覧・カラー収録作品データ」には、各巻の解説文の紹介とカラー図版総覧があります。

『原色 現代日本の美術』は、明治以降の日本美術について分野ごとに紹介しています。別冊の索引は刊行されていませんが、付録月報の一部に「収録作家・作品一覧表」があります。この一覧表は作家の出身地別になっているため、やや探しにくいです。近代以降の作家で、あらかじめ活動分野が分かっている場合は、各巻の巻末にある年表・作家紹介・収録図版目録を見ることをおすすめします。

小学館『日本美術全集』は書籍のデジタル化が進みつつある時代の中で、あえて作品としての鑑賞に堪えうる大型の図版を重視し刊行された美術全集です。縄文からはじまり、最終巻は「1996〜現在 日本美術の現在・未来」で、全20巻刊行まで5年を要し大型の美術全集としては扱う時代が最も広いものとなっています。総索引と月報がついています。

2.3 初出展を探す

当館の蔵書検索(OPAC)で作品を探す場合、初出展(その作品が初めて出品/公開された展覧会)の展覧会名がわかっていれば、まずその展覧会カタログを探してみましょう。個展の場合は、作家名をキーワードにして検索してみましょう。

2.3.1 美術団体に関する資料を探す

初出展が個展ではなく団体展の場合、その団体の展覧会カタログ(以下、団体展カタログ)を探すことになります。団体展カタログを探す場合は、その団体名をキーワードにして検索してみましょう。調査の際は、団体展カタログだけでなく、団体史や団体展記録など、その他の資料も併せて確認するようにしましょう。

2.3.2 団体展カタログ(復刻・集成)

明治初年から第2次世界大戦前までに開催された美術展のカタログを、団体ごとに復刻・集成したシリーズです。各巻のタイトルに収録団体名が付いています。

2.3.3 団体史

団体史にはその団体の「○○年史」や「○○年記念展」などと表記されていることが多いようです。代表的なものとして、『日展史』、『日本美術院百年史』があります。両者は何分冊にも及ぶ大編となっています。

a)『日展史』

明治40(1907)年の第1回文展から、帝展、新文展、日展、新日展、等を経て現在も続いている(財)日展(改組日展)の記録が網羅されています。各回の出品目録や出品作品の図版だけではなく、受賞者、作品評までも調べることができます。

明治40(1907)年の第1回文展から昭和32(1957)年の第13回日展までは、出品作品を分野別表記した『全出品目録』と、作家名による『出品歴索引』がそれぞれ刊行されており、日展以外の美術界の動向を知る重要なツールでもあります。

日展の変遷は、『文展・帝展・新文展・日展出品歴索引 : 明治40年-昭和32年 』に簡単な表がついています。

国立国会図書館が提供している「リサーチ・ナビ」でも「日展」の変遷を簡単に辿ることができます。

  • 「国立国会図書館リサーチ・ナビ 日展(日本美術展覧会) 調べ方案内」(国立国会図書館) (https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-101097.php)

b)『日本美術院百年史』

明治31(1898)年の岡倉天心の時代から現代まで続く日本美術院の展覧会(通称:院展)の図版・目録を中心に、各巻末には作家紹介・年表・物故同人の回顧・回想・展評など、日本美術院に関する様々な情報が網羅されています。別冊は、総目次索引・人名索引・図版索引となっており、作家の姓名五十音順に、何の作品がどこに掲載されているか、図版の種類ごとに調べることができます。

2.3.4 年鑑

『日本美術年鑑』は一年間の美術業界の動向を知るための基本的なツールで、年間の美術界の動向、主なニュースなどを扱っています。詳細は「1.4.4 年鑑」をご参照ください。

内容は年代によって多少の違いはありますが、主要団体の一覧のほか、各団体のプロフィールや展覧会、図録や記事情報などの情報が収録されています。昭和48年版までは、その年に発表された注目すべき作品の図版が、出品展覧会名(団体展名・回次)とともに掲載されています。資料のタイトルに標記されている年度と収録年度には注意が必要です。凡例の確認が大事です。例えば、平成29(2017)年度の年鑑の収録範囲は、2016年1月~12月になります。

下記の東京文化財研究所刊行物リポジトリには、『日本美術年鑑』が掲載されており、PDFで見ることができます。

2.3.5 雑誌

主要団体の展覧会であれば当時の美術雑誌に記事が掲載されている可能性もあるため、その時代の美術雑誌索引や目次を探してみると、一層細かい情報が得られる場合があります。

現在刊行中の『月刊美術』には、主要団体展のレビューが掲載されています。

2.4 作品の所蔵先などを探す

作品の所蔵先に関する情報は、ある作家が複数の同一タイトルによる作品を残していた場合、特定の作品を同定する際に役立つことがあります。例えば、古い絵画や絵巻物などは、その所蔵先(旧/現)や来歴などの違いによって「○○本」などと呼ばれ、他のものと区別されます。ここでは所蔵先を探すための総合目録や所蔵品目録をご紹介します。

a) 国内の所蔵先を探す

多くの美術館・博物館では、自館の所蔵品目録や所蔵名品集を刊行しています。

所蔵品目録や図録は、各館の所蔵作品を一覧するために編集されます。あらかじめ作品の所蔵先がわかっている場合は、まず所蔵品目録を調べてみましょう。

次の資料は東京国立博物館の所蔵品目録の具体例です。

全国美術館会議会員館の所蔵品目録の有無は下記で確認ができます。

  • 『全国美術館会議会員館 収蔵品目録総覧 2014』 (https://www.zenbi.jp/data_list.php?g=93&d=13)

新収蔵品については、美術館・博物館から刊行される年報にも情報が掲載されていることがあります。

以下は、日本国内の所蔵先を探す際の主な目録です。いずれも作品名・作家名・大きさ・技法・所蔵先など基本的な情報のみが記載されています。

「Tokyo Museum Collection」では、東京都立博物館・美術館の収蔵品を検索することができます。

  • 「Tokyo Museum Collection(東京都立博物館・美術館収蔵品検索)」(https://museumcollection.tokyo/)

「SHŪZŌ(全国美術館収蔵品サーチ)」では、日本国内の登録博物館、博物館相当施設等の収蔵品が検索対象となっているため、国立、都立以外の館の収蔵品も検索することができます。

  • 「SHŪZŌ(全国美術館収蔵品サーチ)」(https://artplatform.go.jp/ja/resources/collections)

「MAPPS Gateway」(Museum Archive Platform Projectsの略)は、「I.B.MUSEUM SaaS」(早稲田システム開発株式会社)を利用している博物館各館のコレクション情報を横断検索できるサービスです。

  • 「MAPPS Gateway」(https://gateway.jmapps.ne.jp/)

b) 海外の所蔵先を探す

The World’s Master Paintingsでは、13世紀から20世紀までの西洋絵画の、所蔵館と所蔵作品のタイトルがわかります。西洋絵画の所蔵館を探すには、前出の『西洋絵画作品名辞典』などもあります。

BenezittのDictionary of artistsは美術人名事典ですが、作品を所蔵する美術館のリストや主要なオークション記録なども載っているため、作品情報を探すツールとしても使えます。

『週刊 世界の美術館』は、美術館ごとに代表的な所蔵作品を掲載しており、図版も充実しているため、あらかじめ所蔵館がわかっていれば有用です。100号に「画家別作品総索引」「地域別作品総索引」が掲載されています。

2.5 国宝・重要文化財に関する情報

作品情報として一つの指標となる国宝・重要文化財。ここ数年、明治以後の美術作品が重要文化財に指定される例が多くなっています。

ここでは国宝と重要文化財に指定された作品に関する情報が掲載されている代表的な資料を紹介します。

a) 国指定文化財(~平成10(1998)年度)

下記は国指定の国宝/重要文化財の全図版と基本データが主内容で、解説はありません。『国宝・重要文化財大全 : 別巻』には、所有者や作品名の索引が付されています。

下記は文化財保護法に基づく重要文化財(国宝を含む)である美術工芸品を、平成10(1998)年6月現在で収録した目録で、都道府県別に掲載されています。図版はありません。

b) 国指定文化財(平成10(1998)年~)

雑誌『月刊文化財』には毎年5~7月号、『文化庁月報』は同7~8月号に、その年に国が指定した文化財の一覧が解説と共に掲載されています。

例えば、当館が所蔵している和田三造《南風》(1907年)が重要文化財に指定された記事は、『月刊文化財』657号(2018年6月)に掲載されています。

なお、『月刊文化財』の記事は国立国会図書館の雑誌記事索引で検索することができます。『文化庁月報』は510号(平成23年3月)をもって冊子体の刊行は終了しました。511号(平成23年4月)以降は文化庁ホームページにて公開していましたが、546号(平成26年3月号)をもって廃刊となりました。なお、同庁ホームページから引き続きバックナンバーをご覧いただけます。

c) インターネット

国立博物館の所蔵作品は「ColBase」で検索することができます。また、e国宝では国立博物館4館が所蔵する国宝・重要文化財の画像を解説と共にみることができます。

  • 「ColBase 国立博物館所蔵品統合検索システム」(国立文化財機構) (https://colbase.nich.go.jp/)
  • 「e国宝」(国立文化財機構) (https://www.emuseum.jp/)

文化庁の「文化遺産オンライン」では、一部の文化財を画像、解説つきで見ることができます。また、「国指定文化財等データベース」では文化財保護法に基づき、国が指定・登録・選定した文化財等の情報を、名称、所在地、所有者等で検索することができます。

  • 「文化遺産オンライン」(文化庁) (https://bunka.nii.ac.jp/)
  • 「国指定文化財等データベース」(文化庁) (https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index_pc.asp)

「Japan Search(ジャパンサーチ)」は、書籍や文化財、メディア芸術など、多様な分野のデジタルアーカイブのメタデータをまとめて検索できる「国の分野横断統合ポータル」です。2019年2月より試行版が公開されていましたが、2020年8月より正式版が公開されました。

  • 「Japan Search」(https://jpsearch.go.jp/)
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