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現代の眼 新しいコレクション デイヴィッド・スミス 《サークル IV 》1962年

保坂健二朗 (美術課主任研究員)

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デイヴィッド・スミス(1906–1965)《サークル IV》/1962年
鉄・彩色/高さ215.9、幅152.5、奥行107.0cm/平成29年度購入
撮影:大谷一郎

彫刻家デイヴィッド・スミスが1962–63年に全部で5点制作した「サークル」シリーズのひとつを、昨年度収蔵いたしました。

スミスはアメリカ合衆国インディアナ州生まれ。いくつかの大学に通う傍ら自動車工場の生産ラインで短期労働をした経験を持ちます。1926年にはニューヨークに移り住みアート・スチューデンツ・リーグで学んでいます。鉄やステンレスを素材としつつ構築性や開放性を特徴とする彼の作品は、20世紀の彫刻を考える上で外すことのできないものとされています。

スミスはシリーズで制作することでも知られているアーティストです(一方で、いわゆる鋳造をしないこともあったりして、彼の作品にはいわゆるエディションという概念は存在しません)。その中でもっともよく知られているのは、磨かれたステンレスを素材とする「キュービ(Cubi)」(1961–65)でしょう。直方体や立方体や円柱を構成要素とするそのシリーズは、純粋性や抽象性を志向するモダニズムの擁護者たち=理論家たちから絶賛されました。

そうした観点からすれば「サークル」は特異点となりますが、実際はそう単純ではありません。60年代のスミスには塗装した鉄板で構成された「ジグ(Zig)」というシリーズもあります(色彩はフラットで、往々にして単色です)。つまりスミス本人にとって色彩や平面を彫刻に取り入れることは、継続して重要な課題であったはずなのです。

「サークル」のシリーズの特徴は、平面形の中でも完結的な形体である円を取り入れていること、そして複数の色彩をひとつの作品の中で用いていることにあるでしょう。中でも本作は、筆触が際立っている点、円形の内側に開口部がない点(I、II、III、Vには、大きさの違いはあれど円形の内側に円形の穴が開けられています)、多方向性が導入され動きをコントロールしようとしているのが明らかである点において、シリーズの中でも傑出しています。

実は本作は、シリーズの中で最初期に制作されたと考えられています。スミスはシリーズにおけるナンバーを実際に制作された順序とは関係なく割り当てることがあり、本シリーズもその例に漏れないというわけです。ちなみにI、II、IIIは現在ワシントン・ナショナル・ギャラリーが、VはJPMorgan Chase Art Collection が所蔵しています。本作はスミス本人の手元に置かれていた後、エステートの所蔵となっていましたが、アジアの美術館ではスミスの実作を見る機会がほとんどないという点などに鑑みて、今回、当館が購入できることになった次第です。


『現代の眼』629号

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