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現代の眼 教育普及 コロナ禍の教育普及活動(1)――代替プログラムでの新たな試み

細谷美宇 (企画課特定研究員)

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2020年度、新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの美術館があり方の変容を迫られたことだろう。教育普及活動も感染症拡大防止対策下で大きく影響を受けた。当館においては安全性の観点から、ギャラリートーク・講演会など対面で実施するすべてのプログラムが今なお休止されている1。代替する形でオンライン上での活動は充実し、新たな試みも実施された。本稿では、感染症対策下で中止された2つのプログラムとその代替プログラムについて報告する。


ピーター・ドイグ展 ワークショップコーナー

⇒ピーター・ドイグ作品で物語をつくろう!

ピーター・ドイグ展では、当初、ぬりえとワークシートを誰でも楽しめるワークショップコーナーを設ける予定があった。用具の共有や会話を伴うと想定される点から、感染リスクに配慮し中止とした。ぬりえ用紙は会場出口にて配布し、持ち帰って取り組めるようにした。

代わって実施された企画のうちひとつが、「ピーター・ドイグ作品で物語をつくろう!」である。臨時休館の影響で会期が延長されたこともあり、小学生から高校生に向けて夏休みの時期に実施された。8点の課題作品から1点を選び、絵から想像した物語をメール(テキストまたは作文の画像)で送信する。応募期間は8月4日(火)~8月31日(月)、応募総数は273件、うち1週間ごと当館研究員が選んだ入選作品計49件がホームページ上に掲載され、さらに一部は館内エントランスにも掲示された。

ピーター・ドイグ展はホームページ上で3DVRも公開されていたため、美術館に足を運ばずとも本企画に参加できた。参加者の中には、デジタル画像を見て書いた物語を投稿し、入選して館内に掲示されたことが来館のきっかけとなった者もいた。出品作鑑賞のきっかけを提供するという目的と子ども・ファミリー層を意識したことは同じだが、来館者を対象とするワークショップからオンライン上での企画へと代替されたことで、参加者と展覧会との結び付き方が変化したといえよう。


ガイドスタッフによる所蔵品ガイド

⇒オンライン対話鑑賞/YouTube再生リスト「MOMATガイドスタッフ」

当館で毎日続けてきたガイドスタッフ(解説ボランティア)による対話鑑賞2プログラム「所蔵品ガイド」も、密集して会話しながら鑑賞するため2月より休止となった。代替案の試行や研修を重ね、現在は新たな試みである「オンライン対話鑑賞」と「YouTubeへの動画投稿」が実施されている。

オンライン対話鑑賞は、ウェブ会議ツールZoomを利用した双方向参加型のオンラインイベントで、10月より開始した。定員6名程度、作品1点を45分間で鑑賞する。展示室での鑑賞よりもサイズ感や質感などが掴みづらい一方、高精細画像を用いるため拡大し部分詳細をよく観察できるのが特徴のひとつだ。参加後アンケートでは高満足度評価を得ているが3、参加者募集開始直後に定員が埋まってしまうなど、所蔵品ガイドと比べて参加機会が十分とはいえない。

また、11月より当館YouTubeチャンネルに再生リスト「MOMATガイドスタッフ」を設置した。ガイド参加者の反応などを交えて所蔵品を紹介する動画を投稿している。定員がなくいつでも視聴できるため間口は開かれているが、一方的な配信であり再生数や評価ボタン以外で視聴者の反応を得るのが難しく、フィードバックについては課題が残る。

こうした代替案の検討は、プログラムの目的や本質を見定める機会となった。所蔵品ガイドとその代替プログラムにおいて共通する点は、(1)所蔵品鑑賞の一助となること、(2)ガイドスタッフがその担い手となり蓄積したスキルを活かせること、である。異なる点については表1に比較してまとめた。

所蔵品ガイドオンライン対話鑑賞イチオシ作品紹介動画
環境展示室オンライン(Zoom)オンライン(YouTube)
スタイル双方向・対面双方向一方向(配信)
頻度毎日週に2回程度週に1回
鑑賞作品数3点程度1点1点
時間60分45分5分程度
定員なし
(通常10~30名程度)
6名程度定員ナシ
表1 所蔵品ガイドとの比較

オンライン対話鑑賞では、自宅でリラックスしていたり、職場から接続したりする様子に、時折参加者の生活感が滲み出る。そうした映像に、筆者は画面の無機質さよりもむしろ一種の生々しさを感じることがある。オンラインという手段には、距離などの空間的制約だけでなく、自身の生活圏から接続することで精神的な制約をも乗り越えられる可能性がある。代替案として始まった試みだが、様々な制約から美術館に足を運びづらい人に差し伸べられる手段として展開することを期待したい。

  1. 2021年2月現在。
  2. 解説を聞くだけではなく、作品の観察に基づいて話し合い解釈を深めていく鑑賞方法。当館では2019年からビジネスパーソンや外国人に向けても実施され、今後の展開が期待されていた。
  3. 2月12日現在、アンケート回答102件中、満足度5段階評価で「大変満足」、「満足」が97件。

『現代の眼』635号

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