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現代の眼 教育普及 コロナ禍の教育普及活動(2)――ICTを活用したスクールプログラムの新展開

一條彰子 (企画課主任研究員)

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東京国立近代美術館のスクールプログラムの基盤となっているのは、ギャラリーでの対話鑑賞1である。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、中止になってから1年が経とうとしている。一方で、ICTを活用することにより、これまでとは違ったアプローチが可能になりつつあるので報告する。


学校へ提供できる3つの方法

コロナ禍等で来館できない場合、あるいは来館の前後に授業を行う際に、当館が学校へ提供できる素材と方法は次の3つである。

① 国立美術館アートカード2

国立美術館5施設が所蔵する作品65点を、ハガキ大のカードにした鑑賞教材。「誰でも、いつでも、どこでも」簡単に使えて汎用性がある。2008年制作、貸出可能。

② 鑑賞素材BOX3

主に小学校から高等学校までの授業で活用されることを想定したデジタル鑑賞教材。アートカード作品を、高精細画像で電子黒板へ投影したり、タブレット端末へ配信したり、ワークシートを作成したりすることができる。授業準備にあたっては、「図工・美術のキーワード」や「他教科へのひろがりキーワード」を使って作品を選ぶことができる。2020年3月公開。

③ Zoomなどによる授業協力

別稿(コロナ禍の教育普及活動(1)――代替プログラムでの新たな試み/細谷美宇)で紹介した「オンライン対話鑑賞」での経験を基に、2020年12月より開始した、ウェブ会議ツールZoomを使った双方向型の遠隔授業。

授業目的や通信環境などを教員と相談の上、これら3つの方法を組み合わせてスクールプログラムの実施となる。実践例を以下に挙げる。


実践例

ICT教育に力を入れる千代田区立九段小学校では、大高美和教諭が5年生77人に「なりきり!作品調査団」という授業を行った。まずアートカードで「音・声かるたゲーム」をした後、「鑑賞素材BOX」から作品1枚を選び、グループで話し合う。その際、1人1台端末で高画質の画像を自在に拡大しながら観察したり、端末から共通のファイルにコメントを書き込んでいく[図1]。最後に当館と教室をZoomでつないでグループごとに発表を行い、学芸員がコメントしつつ作品情報を伝えた。児童の様子からは、自分の考えを発表できたことや、それを学芸員に認めてもらったことから、達成感や自信につながる喜びを感じていたことが見て取れた。

図1 千代田区導入の学習活動ソフトウェアSKYMENU Classの機能、
「みんなの作品」への付箋書き込みによる話し合い(九段小学校)

都心より船で26時間以上かかる離島にある小笠原村立母島中学校では、全中学生10人に対して大黒洋平主任教諭が3回の鑑賞授業を行った。アートカードを使った「伝言鑑賞ゲーム」で所蔵作品に興味をもたせ、「鑑賞素材BOX」とワークシートで2枚の海の作品を比較鑑賞した後、当館と教室をZoomでつないで筆者が遠隔ギャラリートーク[図2]を行った。美術館に行ったことのない中学生が、美術館を身近に感じる機会となった。全校教諭の協力のもとで本授業が行われたこともあり、今後、社会科や保健体育科、数学科等へ展開する予定もある。

図2 当館と母島中学校をZoomでつないだ遠隔ギャラリートーク

知的障害をもつ高校生が学ぶ筑波大学附属大塚特別支援学校高等部とは、北村洋次郎教諭の指導のもと、高1から高3まで23人の3教室と当館をZoomでつないで遠隔授業を行った。「鑑賞素材BOX」の作品から、学年ごとに「お気に入りの1枚」を選び、筆者と対話鑑賞する。ほぼすべての生徒が、自分なりの表現で積極的に意見を述べ、またワークシートに記述してくれたのが印象的であった。

コロナ禍対策のためGIGAスクール構想(1人1台タブレット端末の配布による個別最適学習)が前倒しされたこともあり、美術館・学校ともにICT活用が進んだ2020年。筆者はこれまでも、これからの美術館のスクールプログラムには次の視点が必要であると述べてきた。コレクションの活用/対話鑑賞など探究的な学び/学習指導要領の反映/美術という教科を超えた学び/オンライン活用であるが、オンライン活用が実用化されることによって、他も促進されると思われる。先日開催された「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修15周年シンポジウム」4でも討議されたように、コロナ禍が収束した後も、「ICTによるバーチャルな活動」と「美術館で作品に触れるリアルな体験」の両輪によるハイブリッドな学びが、全国的に展開されていくことになるだろう。

  1. 観察や鑑賞者同士の対話によって解釈を深めていく美術鑑賞方法。探求的な鑑賞。東京国立近代美術館では、スクールプログラムとして、解説ボランティア1名と児童生徒10人前後によるグループでの対話鑑賞を行っている。
  2. http://www.artmuseums.go.jp/kensyu/art_card.html
  3. https://box.artmuseums.go.jp/ 平成28–30年度 科学研究費助成事業研究基盤研究(B)「美術館の所蔵作品を活用した探求的な鑑賞教育プログラムの開発」(代表:一條彰子)。
  4. http://www.artmuseums.go.jp/study/index.html 2021年2月14日、オンラインによる開催。

『現代の眼』635号

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