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現代の眼 新しいコレクション 冨井大裕《board band board #2》2014年

三輪健仁 (美術課主任研究員)

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冨井大裕(1973 –)/《board band board #2》/2014年/アクリル板、ポリプロピレンバンド/40.0×40.0×42.0cm/令和2年度購入/撮影:大谷一郎

厚さ3cmのアクリル板が14枚積み重なっています。一番上と下をのぞいた12枚の板には、赤+青、黄+緑と2パターンの帯が交互に巻かれています。これは段ボールの梱包などに用いられるポリプロピレンバンド(PPバンド)です。

同一の矩形の積み重ねという手法や形体は、少し戦後美術をかじった人には、1960年代に生じたミニマル・アートと呼ばれる動向を想起させるでしょう。けれど、物質感の希薄な透明素材、バンドの幾分チープな色味、そして見る角度によってアクリル板に挟まれたバンドの一部が消えるトリッキーでイリュージョニスティックなしかけは、小難しい歴史的なしがらみなど、どこ吹く風とでもいうように軽やかでもあります。

冨井大裕は、既製品を使った立体作品でよく知られる作家です。用いる既製品は画鋲、スーパーボール、クリップ、鉛筆、ハンマーなど、実にさまざま。冨井は自身の制作について以下のような説明をしています。

「ものをそのままでありながら異なるものとして立ち上げるためには、どのような構造を選べばよいか。ものが与える条件(サイズ、素材、重さ、形、ものが常識的にまとっているイメージなど)から構造は選択される。選ばれた構造は、自身に最適なものの新しい使用法を見つけ出す。新しい使用法は、そのものとその構造のため以外には採用されない。そして、採用されたその時から、使用法は使用法ではない、ものの新たな条件となる。条件とは不自由であり、可能性である。不自由からしか自由は得ることが出来ない」

(冨井大裕ウェブサイト、ステイトメント「作ることの理由」より)1

どうやら「もの」が持つそもそもの条件と、新たに付与される条件、二つの条件に冨井の関心は向けられているようです。アクリル板にピシッと均一に巻かれたバンドは、この作品の色彩や構造を担う「新たな条件」となっているわけですが、一方で、巻いて使うものという「既存の条件」から外れないことで、梱包資材という用途を見る者にイメージさせ続けます。冨井の手続きによって生じるこの二つの条件の類似と差異、ここに作品の魅力や鑑賞の面白味の一端があるように思われます。

ところで、冨井は2011年以来、日々の生活の中で見出した彫刻的なもの、風景、状況などのスナップをSNSで発信する「今日の彫刻」という試みを継続しています2。ものとものとの取り合わせの妙、偶然のコンポジション、ものに対して為された匿名のアクション、意図せぬユーモアなど、どの写真からも冨井の関心の所在がよく感じられます。カジュアルなプレゼンテーション方法だからと侮ることなかれ。冨井が制作においてどのように「既成の条件」から「新しい条件」への道筋を描いているのか、これらの写真にはその重要なヒントが見え隠れしています。ぜひご覧になってみてください。

  1. http://tomiimotohiro.com/statementj.html
  2. https://twitter.com/mtomii

『現代の眼』636号

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