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現代の眼 教育普及 オンラインプログラムの取り組み「夏休み!こども美術館オンライン」

藤田百合 (企画課特定研究員)

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図1 ロベール・ドローネー《リズム 螺旋》、1935年、東京国立近代美術館蔵

鑑賞と表現のプログラム

本稿では8月にオンラインで実施した小学生向け鑑賞ワークショップについて報告する。本プログラムは2013年から毎夏に開催していた恒例のプログラムであるが、参加者との対話を主とする鑑賞プログラムであるため、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、2020年から2年連続で開催を見送らざるを得なかった。今年も従来通りの再開は難しい状況にあり、そこで中止を回避する手立てとして、対面プログラムをオンラインに変えた。これまでオンライン会議システムZoomを活用した同時双方向の鑑賞プログラムの実績はあるものの、創作を伴うプログラムをオンラインで実施するのは、当館としても新たな試みであった。

2022年8月20日、21日、同じ内容で1日に2回開催。事前申込制で参加者を募り、59名が参加した。プログラムの大枠は以下の通りである。

プログラムの流れ[全90分]
・あいさつ[2分]
・二作品の対話鑑賞[50分]
・創作[25分]
・創作した作品の発表[10分]
・まとめ[3分]

本プログラムの目的は、参加者に作品鑑賞と表現(創作)の両面から所蔵作品にアプローチしてもらうことである。鑑賞が作ることの動機となり、作る経験が鑑賞の理解や共感に繋がることを大切にしたものである。今回のテーマは「色と形のリズムを楽しもう!」とし、参加者はまずロベール・ドローネー《リズム 螺旋》[図1]を含む二作品を対話しながら鑑賞する。次に《リズム 螺旋》の鑑賞と関連付けて、図2のような、自分なりの色や形で画面を構成するカード仕立ての作品を創作した。オンラインプログラムのため、創作に用いる材料は、事前に参加者の自宅に送付し[図3]、ハサミや糊といった用具類は各家庭で用意してもらった。

図2 創作物の例
図3 送付したキット(創作材料、絵本と作品の紹介冊子)
図4 創作の様子

送付物にこめた想い

参加者がプログラム終了後も鑑賞した作品を思い出すきっかけとなるよう、鑑賞作品を印刷したものと、テーマの色や形、動きといった要素から選んだ絵本を紹介するシートも送付した。紹介した絵本は、当館アートライブラリで閲覧できるものをライブラリ研究員に選定してもらったが、当館に来館しなくても、近隣の図書館所蔵の絵本を通してテーマの継続した学びが続く可能性をシートにこめた。

また、今回は創作物を日常のわずかなスペースに添えられるカード仕立てのものにした。コロナ禍により自宅で過ごす時間が増えていることもあり、身近に置くことができる創作物によってプログラム体験を振り返るきっかけとなることを期待した。プログラムの「発表」では、完成したカードをどこに飾りたいかという問いに対し、自分の机やリビングに飾るといった声だけでなく、プログラム終了後に両親と飾る場所を考えるといった声もあり、そこには、プログラムを介してうまれる親子間のコミュニケーションが示唆されていた。

オンラインプログラムの「はがゆさ」がもたらすもの

オンラインでの実施により、首都圏にとどまらず、これまで遠方のため当館に来館しづらかった人にもプログラムを届けることができたのは成果の一つといえるであろう。また、コロナ禍で美術館に足が遠のいていたからこそ、自宅で鑑賞体験ができたと喜ぶ声もあった。オンラインでの鑑賞は、作品を前にしての鑑賞とは異なり、作品のサイズを捉えにくい。そこで作品が展示されている様子を予め撮影した写真をパソコン越しで共有した。作品が想像以上に大きかったという感想や、美術館で展示されている作品であることが理解できたといった声も聞かれたが、オンラインゆえの「はがゆさ」はある。参加者の事後アンケート結果には、美術館を訪れ、今回鑑賞した作品を実際に見たいといった声が多く寄せられた。美術館訪問の動機付けに繋がっているものは、プログラムでの充足感だけでなく、その「はがゆさ」に由来するものなのかもしれない。

今後のプログラムのあり方

本プログラムは2年休止していたにもかかわらず、再開を待ち望んでいたという声が申し込み時に寄せられ、館の夏の定番プログラムとして根付いていることを確認できた。今夏は中止することなくオンラインで実施できたのは、本プログラムに先駆けて実施した未就学児を対象としたオンラインプログラムにより蓄積したノウハウや、美術館職員のICT経験、さらには本プログラムの「鑑賞」と「発表」のパートを担当したガイドスタッフ(解説ボランティア)による双方向のコミュニケーションを円滑にとるオンライン対話鑑賞の経験があったこととも深く関係している。

本プログラムが、従来の展示室で実施してきた対面プログラムの代替としてではなく、今後もより多くの人に新たな学びの機会の一つとして機能していくのかが課題であろう。


 『現代の眼』637号

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