見る・聞く・読む

教育普及レポート 教育普及 ピーター・ドイグ作品で物語をつくろう!  第2週入選作品(2020)

教育普及室

戻る

『この人はだれ?何をしているの?』『このあとどうなるのかな?』

どこか懐かしくて不思議なピーター・ドイグの作品をみていると、想像がどんどん広がります。
あなたの心に浮かんだストーリーを、短い文章にして応募してみませんか?
「遠くて美術館に行けない…」そんな人でも大丈夫です!

対  象: 小学生・中学生・高校生
応募期間:2020年8月4日(火)~8月31日(月)

第2週 8/11(火)~17(月)

【第2週】は、77通のご応募がありました!ご応募ありがとうございました♪
審査の結果、今回は入選作品12点、そのうち「研究員のイチオシ!」作品3点を選出しました。
今週は特に中学生の作品が多く集まりました。力作ばかりのため、研究員は断腸の思いで選んでいます。

研究員のイチオシ

ピーター・ドイグ《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》2000-02年、油彩・キャンバス、196×296cm、シカゴ美術館

K・Mさん(高校1年生)

空の鞄を背負い歩みを進めると、薄緑の平野の先には大きな青い湖が静かに広がっていた。オーロラを歪めた空に鈍く光る白。門扉を挟む二人の男。飴玉を埋め込んだような白い石壁は大きく曲がり、その先にはまた別の景色が広がっているのだろう。
きっとこの世界について何か知っている筈だろうと近づいてみると、青い服の男が声を掛けてきた。「通行料の石を。」何を言っているんだと言いかける口を一旦閉じて聞き返す。「石?」すると男はまた同じ言葉を繰り返した。「通行料の石を。」ふと鞄に重さを感じて開けてみれば、なんと空だった筈の中身がオレンジ色の石に置き換わっている。試しに青い男に差し出すと、彼は石を壁に埋め込んだ。なるほど、こうしてこの石壁は出来ていたのか。
門扉から一歩足を踏み出すと黄色い男が声を掛けてくる。「いってらっしゃいませ。」藍色の湖は不気味な程に澄んでいる。この世界に別れを告げるにはまだ早そうだ。

研究員からのコメント

作品の水や空の情景描写が秀逸。とくにカラフルな石垣と人物二人の関係を、通行料と門番という役割で読み解く発想力は思わず膝を打ちました。これからの展開を読みたくなる作品。(企画展室 山田)

ピーター・ドイグ《スピアフィッシング》2013年、油彩・麻、288×200cm、作家蔵

篠原灯子さん(小学2年生)

ある日、二人の人げんは、たびに出た。みどりのふねをこいでね。一人がこう言った。
「どこまでこいで行くの?」
もう一人がこたえた。
「どこまでも。さ」
ほそくなったみか月がでている。一人がもう一人に、黄色いレインコートをさし出した。雨がふってきたのだ。一人はレインコートをもらうと、それにくるまってねむったのであった。もう一人は、よるのいきをすいこみ、はきだして、ふねをこぐのをやめて、ねむったのであった。

研究員からのコメント

ドイグさんの作品がいろいろな物語を想像させるように、印象的な会話によってこの人たちは家族なのか友だちなのか、どうして旅に出たのかとイメージが広がります。絵の中の空気感を表すのに「レインコート」を使うのが絶妙です。(企画展室 山田)

鈴木リアーナ萌香さん(中学2年生)

僕はこれから海に行く。でも、空は真っ暗だ。何でこの時間に行くって。魚が寝静まる頃が最高の瞬間だからだ。
外に出る頃には少し明りが入っていた。緑のボートに乗ってさあ、出発だ。そう思った時、後に女の子がいるのが目に入った。何でこんな時間に女の子が。
「どこから来たの?」
返事は返ってこない。本当は無視して行きたかった。でも、
「乗る?」
女の子は無言で乗り込んだ。いよいよ出発だ。女の子は不思議そうにこちらを見ている。会話が無いので一人で来ている感じだ。僕は勢いよく海に飛び込んだ。
海面に顔を出すと、ボートには誰もいなかった。周りを見渡しても誰もいない。いったい女の子はどこに行ったのか、それとも、元々いなかったのか、その答えは誰もわからない。

研究員からのコメント

緑色のボートに乗った女の子の希薄な気配が味わえるお話でした。本当は無視して行きたかったのに乗せてあげる僕は、いい人なのか魔が差したのか。女の子がちゃんと水面に映っているか確認してしまいました。(教育普及室 細谷)

入選作品

ピーター・ドイグ《ブロッター》1993年、油彩・キャンバス、249×199 cm、リバプール国立美術館、ウォーカー・アート・ギャラリー

長谷里紗さん(中学2年生)

「あの日」

「水の上に立ってみたい。」そう思ったことはないだろうか。
僕はあの日、水の上に立ってた。たぶん。
あの時のことはいまいちおぼえていない。冬の日、雪がつもっていた。雪だらけの山道、僕は一人で歩いていた。進んでいくと、池なのか、水溜りなのか、かなり大きな穴の中に水が入っていた。そのすぐ近くには、金色の木が、一本はえていた。まるで、僕たちの世界とは、全くちがう世界のようだった。もちろん水の表面は、こおっていた。その時、僕は、何を思ったのか、水の上に立とうとしていた。いや、立てた。大きな穴の真ん中に立った時、まるで異世界だった。自分のうつった水の表面には、自分と、何らかの全てがうつっているきがした。
あの時の景色は今でも忘れられない。世界には、見えているようで、見えていないことがたくさんあることを知った。
そんな夢を見た。

齋藤愛佳さん(中学2年生)

「僕の中の君」

「たった今、親友がこの世を去った。」そう伝えられた時、僕は真っ先にこの場所へ来た。
ここは、僕と親友だけの秘密の場所だ。僕たちの思い出の場所。春は、日が暮れてもずっと話していた。夏には、一緒に水浸しになったな。秋は背中を合わせて本を読んだ。つい昨日は、雪に寝そべって星を眺めたね。これからもずっと僕の隣にいると思っていた。
どうして君なの。どうして僕ではないの。どうして君が死ななければならなかったの。太陽は僕を慰めるように照っている。でも僕を慰めることができるのは君だけだよ。君はどこにいるの。この湖の中にいるのだろうか。いるのだったら顔を見せてよ。声だけでもいいから。これから先、僕はどう生きたらいいの。君に会いたい、もう一度だけ。
その時、湖に一瞬、微笑んでいる君の姿が見えた。
「君は僕の中にいたんだね。」

ぷりんさん(高校1年生)

一段と冷え込む今日、僕は家を飛び出した。今思えばくだらない理由で飛び出してきたものだ。無我夢中で走って気がついたらここにいた。下は氷張りで無様な僕が映し出される。ここは寒い、家に帰りたい。そう思って辺りを見渡しても枯れかけた木が冷たく僕を見下ろすだけだった。なんで家を飛び出しちゃったんだろう。いつもなら暖かい暖炉の前で母さんのスープをすすっていただろうに。ふいに寂しくて涙が出てきた。もうすぐ夜が来る。ここで一夜過ごすなんて無理だろう。氷の向こうの僕の顔が歪んだ。

ピーター・ドイグ《オーリン MKⅣ Part2》1995~96年、油彩・キャンバス、290×200cm、ヤゲオ財団コレクション、台湾

會澤椛蓮さん(中学2年生)

初雪の降る平野で朝早くから競争が行われていました。それは坂を勢いよく滑り、最後おもいきりジャンプするのです。そのジャンプの高さで皆は競いあったのでした。
そこに一人コートもニット帽もしていない貧乏な男の子が来ました。名も知らない少年に皆は戸惑いやがてひそひそとしゃべりだしました。
周りの目を気にもとめず滑りだした少年はなんと今までの誰よりも高く飛んだのです。これに驚いた皆は少年を囲みこの上ない記録だと褒め称えました。
少年は生まれた時から一人で人とのしゃべり方も分かりませんでした。それでも何か温かみを感じ嬉しい気持ちでいっぱいになったのでした。

平野いろはさん(中学2年生)

僕は世界で戦えるようなスキー選手を夢見て日々練習している。
僕が住んでいる町は雪が少ない。だけど、親友と同じ夢を見て、フォームなど必死になって努力を続けている。本格的なスキー場には年に一度行けるか行けないかぐらいの頻度だ。「おお!」親友が歓声を上げた。僕は生まれて初めての記録を出し、高く宙へ舞った。今までにない感覚。僕は今、この瞬間、自信で満ち溢れた。その後もスキー漬けの日々が続いた。そして、初めての大会。僕は緊張でいっぱいだった。これまでに無いほど高く飛んだ。体がふわっとしたような気がした。僕はいつのまにか3段の表彰台の一番上に立っていた。夢ではないか?僕は咄嗟に頬をつねった。痛い。実感がみるみる湧いてきて笑顔に溢れた。
これから僕が世界と戦うなんて誰も予想もしていなかった。

福永 愛さん(中学3年生)

最近私は怒られてばかりである。理不尽な理由で怒られ謝らされる、それの繰り返しだ。そんなつまらない日々から抜け出したい。しかし何をすれば良いのか。
そんなことを思いながら私は歩き続ける。目的地などない。
そんな時目に入った。そうだ、スキーだ。昔、周りも呆れるほどよくやったものだ。だから、スキーは得意な方でもある。一発、大きく飛んで周りに見せつけてストレスを発散してやる。そう決心した私はもちろん道具などあるはずもないので全てレンタルした。借りる時不思議そうな顔で見られたがスキーをすることに興奮していた私はそんなことに気づくはずもなかった。
思いっきり勢いをつけ飛んだ。ん、なんか感覚が違う。そして異常なまでの視線を感じる。
そう、そこには雪がなかった。

ピーター・ドイグ《赤いボート(想像の少年たち)》2004年、油彩・キャンバス、200×186cm、個人蔵

田辺春音さん(中学2年生)

僕たちは今、手作りの船に乗って向こう側の岸へとすすんでいる。自分たちの手で作った船ということもあって、乗れるのはせいぜい六人ほどだが、沈むことはなく、しっかりと船の役わりをはたしている。
ここは赤道付近に位置する南国で、一年中朝から晩までとてもあつい。でも船に乗って川を渡っている時は不思議なことに、少しだけすずしく感じる。まわりにある水のおかげだろうか。
そしてなぜ、僕たちが船で向こうの岸へ行こうとしているのかというと、食料となる、ヤシの実をとるためだ。僕たちが住んでいるほうにはヤシの木があまり生えていないため、わざわざむこう岸まで渡らないといけない。でも、このヤシの実はとてもおいしい。
僕たちは、毎日、ヤシの実をとるために船で向こうの岸へとわたっているのだ。

ピーター・ドイグ《ピンポン》2006~08年、油彩・キャンバス、240×360cm、ローマン家

関 玲音さん(中学2年生)

「一人の男」

俺は今、日本からはなれたところに暮らしている。日本の東京と比べればビルも無いしコンビニだってない。でも東京とは違うところがある。それは家の近くに、小さな卓球台があるところだ。俺は毎朝起きてからすぐにここに来る。家族は生まれたときからいなくて、友達もいない、誰とも話したこともない。だから俺は、いつも一人で卓球をしているんだ。
そんなある日、いつものように一人で卓球をしていたら、一人の男の人が急にボールを返してきた。俺は驚きながらも相手に返した。俺らは何回も打ち合った。この日は楽しくて時間を忘れて打ち合っていた。
それから次の日も、その次の日もその人とボールを打ち合った。やがてその人とは、人生で初めての「友達」というものになった。俺はこの時、近くに喋れる人がいることが、どんなに幸せなのかと初めて思った。

河田嶺至さん(小学2年生)

僕は昔から漁をして魚を食べてた。僕の船は世界にたったひとつしかないエメラルドグリーンの船だった。ある日僕はかわいらしい女性と会って、やがて僕たちは愛し合うようになった。時が経ち僕たちは婚礼の式をあげた。一ヶ月ほどたった頃、僕は妻と漁をしに行った。そして、魚をたくさんとってたくさん食べた。彼女と結婚して五年間たってその日の朝、妻が唸りだした。その一時間後、救急車が来て病院までとばした。そしてそのまた一時間後、かわいらしい男の子の赤ん坊が生まれた。十三年ほど過ぎた頃だったかな、その息子と初めて漁をしたのは。息子は僕のオレンジ色のウエットスーツを受け継いでくれた。漁の腕前はすごいもんだ。

公開日:

Page Top