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現代の眼 教育普及 スクールプログラムの充実に向けて—特別支援学校を迎えて

細谷美宇 (企画課研究員)

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友人と語り合いながら鑑賞する生徒(東京都立港特別支援学校 職能開発科)

 東京国立近代美術館では、幼稚園から大学、生涯学習団体まで、来館する団体に申込制のスクールプログラム1を実施している。団体の規模や滞在時間、来館目的に合わせて、主に職員によるガイダンスまたはガイドスタッフ(ボランティア)によるギャラリートークを行う。令和5年度は50団体1,964人を迎える予定だ2。今年度は特別支援学校・学級へのプログラムの充実を目的に、都内の特別支援学校3校の協力を得て、ヒアリングや学校訪問を実施の上、来館いただいた。本稿ではこの取り組みについて報告する。

 事前に教員向けに行ったヒアリングでは、来館時に期待する体験として、公共施設への訪問経験、美術館の空間や実作品を前にする体験、美術科(鑑賞分野)の学習の充実などが挙げられた。また、来館時に検討すべき点としては移動手段の確保、展示物への接触や集団からはぐれること、混雑への懸念などが挙げられた。東京都美術館の「スペシャル・マンデー」3、国立新美術館の「かようびじゅつかん」4など、休館日に学校団体向けの特別開館・鑑賞プログラムを実施している美術館もある。休館日のプログラムでは、混雑を避け、利用団体のみのリラックスした環境で観覧できる一方、他の来館者がいなかったり、閉鎖中の場所があったりと、公共施設への訪問という視点では経験できない部分もある。今回、当館に協力をいただいた3校はすべて知的障害特別支援学校で、高等部の生徒が来館した。うち2校では卒業後に就労する生徒がほとんどとなる職能開発科5が来館することとなったため、今後の美術館利用につなげられるよう、開館日にプログラムを行った。当館では来館時期・時間帯によっては開館日でも比較的落ち着いた展示室で実施できたことも理由の一つだ。

 来館前にはプログラムを担当するスタッフが学校を訪問し、事前学習で活用できるツールとしてソーシャルストーリー6を配布した。当日は3~8人程度のグループで、教育普及スタッフと所蔵作品展を巡った。ヒアリング・学校訪問を通して知った生徒の様子や特徴から、写真やイラストなどビジュアル資料の活用、生徒自身が活動の見通しをもてる進行、グループ活動での心理的安全性の確保(アイスブレイクの時間を取る)、展示室に慣れる時間などに留意することとした。生徒たちは、天井が高い展示室の空間を味わったり、繊細な筆致に本当に人の手で描いたものなのかと驚いたり、気になる作品や表現の意図について友達と話し合ったりと、各自の経験や関心に基づいた美術館体験をしていた。セルフガイド7を用いた学校もあるが、印刷物と展示作品を見比べながら問いかけを読んで書き込む必要があり、生徒によって取り組みやすさが異なっていた。

 スクールプログラムは団体向けの事業だが、特別支援学校・学級では集団としてだけでなく一人一人の体験として捉え、必要な支援を見極める努力が欠かせない。それぞれの知的能力やコミュニケーションのペース、体力、習慣などについて注意深く配慮する必要がある。普段の生徒の様子をよく知る教員との連携が果たす役割は大きく、事前・事後学習との接続を含めた情報交換や協力体制の構築が肝要だろう。当館では今後も継続的に特別支援学校・学級へのプログラムを実施する予定だ。さまざまな特徴や経験を持つ児童生徒それぞれに最適な支援や美術館体験について知見を深め、特別支援学校への対応に限らず、美術館全体でのアクセシビリティの向上につなげられるよう努めたい。

  1. 東京国立近代美術館「スクールプログラム」
  2. 令和6年2月末時点での、令和5年4月から令和6年3月末までのスクールプログラム受付団体数(オンラインで対応した団体は除く)と参加者数(引率者を含む)。
  3. 東京都美術館「スペシャル・マンデー」
  4. 国立新美術館「かようびじゅつかん」
  5. 知的障害の軽度から中度の生徒を対象とした、生徒の企業就労を目指す職業教育を主とする専門学科。
  6. 国立アートリサーチセンター・東京国立近代美術館編『Social Story はじめて美術館にいきます。』国立アートリサーチセンター、2023年
  7. MOMATコレクションこどもセルフガイド。小中学生向けの書き込み式鑑賞ワークシート。

『現代の眼』639号

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