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2023年5月23日は、教育普及室の職員とMOMATガイドスタッフ(ボランティア、以下ガイドスタッフ)が、コロナ禍から脱し日常が戻ってきたことを実感した日だ。当館の教育普及の中核といえるプログラム「所蔵品ガイド」1がコロナ禍以前と同様に再開したからである。
コロナ禍の発生からしばらくは美術館の活動自体が休止されたが、そこから通常の教育普及の活動に戻る期間には、感染症の拡大を防ぎつつも、各プログラムを継続するためにオンラインプログラムや動画配信などの新たな方法を採用した2。
2020年10月から「所蔵品ガイド」の代替として、ZOOMを用いた「オンライン対話鑑賞」が開始された。また、「所蔵品ガイド」の展開としてYouTube動画の「ガイドスタッフが選ぶイチオシ作品」のシリーズなどを制作し、当館のウェブサイトで公開した3。2022年11月から対面で再開した「所蔵品ガイド」は、定員5名、週に3日(火・木・土)、各日2回という制限を設けたが、作品の前で、参加者とガイドスタッフがようやく顔を合わせられたという喜びがあっただろう。
本稿では、ガイドスタッフによる「所蔵品ガイド」と英語プログラム「Let’s Talk Art!」における、コロナ禍を経ての運営やプログラム実施方法などの変化について記したい。略年表を文末に付したので、併せてご参照いただきたい。
ガイドスタッフ運営の変化
全ガイドスタッフが出席し、年間3–4回開催される例会は、教育普及室からの伝達や活動に関して協議するための場である。2024年1月の例会で「世話人」の廃止となったのは、ガイドスタッフ運営においてひとつの区切り目といえるかもしれない。
世話人とは、教育普及室と協力してガイドスタッフ活動の運営に携わる人々で、ガイドスタッフのうち数名が数ヶ月ごとに交代で担当した。世話人同士が打ち合わせ、例会の準備や司会、議事録の作成、「所蔵品ガイド」担当日のシフトづくりなどを担った。中でも「所蔵品ガイド」担当日のシフトづくりは、さまざまな要件に配慮し、ガイドスタッフの担当交代などに伴う調整もこまめにおこなう必要がある。加えてガイドスタッフルーム内の図書の貸し出しや整理もあった。世話人が担ってきた仕事を教育普及室の所管としたのは、各人の負荷を減らし、プログラムの準備や実施内容に注力いただくためであった。
英語プログラム「Let’s Talk Art!」の変化
「Let’s Talk Art!」は2017年から準備に着手し、2019年3月から開始した。設計・監修者を外部の専門家に頼み、MOMAT英語ファシリテータ(以下英語ファシリテータ)による鑑賞・異文化交流プログラムとして会話形式で実施された4。このプログラムは有償スタッフ(英語ファシリテータ)5が担当し、事前申込制、月4回、18:30開始、参加費1000円だったが、コロナ禍により2020年2月以降は休止した。その後YouTube動画「Virtual LTA!」の制作・公開や、オンラインプログラムでの活動となった。
2023年春から教育普及室職員が英語ファシリテータの育成を担うことになったので、プログラムの枠組みを検討し、同年11月以降は、対面、無料、申し込み不要とした。その間に館内で協議を重ね、英語ファシリテータを廃し、教育普及室がガイドスタッフ(日本語)にガイドスタッフ(外国語等)を加えた2種類のガイドスタッフ(ボランティア)を育成、運営することになった。外国語等としたのは、英語以外の言語の可能性を含めたからである。現在は元英語ファシリテータのうちの希望者がガイドスタッフ(外国語等)として新たに登録し、「Let’s Talk Art!」を担当している。
つまり、2024年4月より「所蔵品ガイド」に加えて「Let’s Talk Art!」が、ガイドスタッフ(ボランティア)によるプログラムとしてスタートしたのである。
段階的な試行から定着へ
当館には3–4月に「美術館の春まつり」(以下「春まつり」)、7–8月に「MOMATサマーフェス」(以下「サマーフェス」)6という全館イベントがある。この春と夏の期間限定の季節イベントでは、短期間であるため試行が実践しやすいことから、ここでやってみたことのうち、必要なものは定着させる、という流れが生まれた。
2024年の「春まつり」を経て定着したのは、「所蔵品ガイド」の実施時間とガイド担当者/ヘルプの2人制である。14:00開始だった「所蔵品ガイド」は、参加者が20人以上になることもしばしばだった。この人数だと対話鑑賞が成立しにくく、1人で担当する負担も大きい、という悩みから、来館者の多い「春まつり」では開始時間を11:00に移し、ガイド担当者/ヘルプの2人制7でおこなった。11:00の所蔵品ギャラリーは来場者が少ないため、プログラム実施の環境が向上した。ヘルプは参加者の誘導や他の来館者のための動線確保、作品の安全への配慮、プログラムのタイムキープなどを担い、ガイド担当者がプログラム内容に集中できるようになった。
また、2023年11月–翌年3月末の「Let’s Talk Art!」の実施期間中に参加者へのヒヤリングや来館者を対象としたアンケートをおこなった。これらの調査からコロナ禍以前とは異なり、来館者の3割以上を外国人が占め、その多くが旅行者であることがわかった。調査結果をうけて、プログラムの所要時間を長短で実施し、2024年3月の「春まつり」では20分で1作品として、次年度のプログラム設計に反映するための試行をした。その結果、現在の「Let’s Talk Art!」は所要時間30分の解説で、同日2回、無料で実施している。
教育普及のプログラムは、美術館の特徴や沿革、ミッション、現代社会や地域の課題などから具体化される。各プログラムの目的、参加者の特性、採用する方法などについても、アンケートなどのデータなども参照しつつ検討を重ね、改善する。継続的なプログラムであれば、なおさらである。必要なマイナーチェンジは、長くプログラムを継続していく要件である。
註
- 原則として開館日に、定員なし、50分で3点の作品の対話鑑賞をおこなうプログラム。
端山聡子「みんなでみると、見えてくる——教育普及の中核をなす「所蔵品ガイド」」『現代の眼』638号、2024年3月 - 細谷美宇「コロナ禍の教育普及活動(1)——代替プログラムでの新たな試み」『現代の眼』635号、2021年3月
- 細谷美宇「[研究ノート]コロナ禍における解説ボランティア——MOMATガイドスタッフの活動例
『東京国立近代美術館研究紀要』26号、2022年3月 - 大髙幸「英語によるプログラム「Let’s Talk Art!」——会話によるオンライン美術鑑賞プログラムで世界とつながるとは」『現代の眼』637号、2023年3月
- 英語ファシリテータ(有償解説スタッフ)は4,000円/回(研修日も支給、交通費別)。
- 「美術館の春まつり」は2016年、「MOMATサマーフェス」は2017年より現在の形で開始、両方とも所蔵作品展を中心に据えて、館への来館者増とファンづくりを目的とした全館イベントとして実施している。
- 2024年1月23日からは主に教育普及室職員がヘルプを担当、「春まつり」でガイドスタッフの2人制になった。
『現代の眼』639号
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