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建築はどこにあるの? 7つのインスタレーション
概要 世代もタイプも異なる7組の日本の建築家たちが、新作インスタレーションを展示します。「建物」をつくるときとは異なる条件の中で彼らが頼るもの。それはきっと、建築家として鍛え上げてきた、論理(ロジック)と技術(テクニック)と感性(エステティック)のバランスがとれた思考方法となるでしょう。このバランス感覚に長けているからこそ、現在、日本の建築は世界的に注目されていると言えます。そして、もしそうしたところに「建築」の特徴があるのだとすれば、建築を考える際に重要なのは、「建築とはなにか」を問うことではなくて、どこにどのような形で建築が現われてきているかを捜すことではないでしょうか。 三種類の多面体でつくられた空間、「空間」が生滅する場、動物にも見える東屋(あずまや)、模型の一日を見せる映像空間、繊細(フラジャイル)な構造体、スケール感覚が不思議な広場など、多種多様なインスタレーションを通して、建築はどこにあるのか、ぜひ捜してみてください。 展覧会のポイント! 7組の建築家による展覧会 新作インスタレーションを展示 作品の写真撮影もOK(条件付) 開催は当館のみ 開館中に会場内でダンスを上演予定 カタログなど印刷物は中島英樹がデザイン 作家紹介 各建築家の略歴や、今回の作品についての企画者によるコメントは、特設サイトでご覧いただけます。⇒WORK IN PROGRESS 伊東豊雄 (1941 - )鈴木了二 (1944 - )内藤廣 (1950 - )アトリエ・ワン (塚本由晴:1965 - /貝島桃代:1969 - )菊地宏 (1972 - )中村竜治 (1972 - )中山英之 (1972 - ) 開催概要 東京国立近代美術館 企画展ギャラリー 2010年4月29日(木)~8月8日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日[2010年5月3日、7月19日は開館]、5月6日(木)、7月20日(火) 一般 850円(600円) 大学生450円(250円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 ※本展の観覧料で、当日に限り「いみありげなしみ」(ギャラリー4、2F)と所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 東京国立近代美術館 East Fiveinter.office | hhstyle.com有限会社落合製作所光学電子株式会社大光電機株式会社田原スチール筑波大学貝島桃代研究室東京工業大学塚本由晴研究室neu furniture works(株)藤野造園北越紀州製紙株式会社間藤構造設計事務所株式会社ユニオン カタログ目録情報 【NEW!】 カタログ入荷しました!!ショップにて好評発売中!!! 豊富なインスタレーション・ヴューの他、下記も収録。1500円 出展建築家へのアンケート「建築と展覧会」/写真「建築家と仕事場」 エッセイ「建築はどこにあるの?」保坂健二朗(当館研究員)/「建築物とインスタレーションの離接運動」南後由和(東京大学大学院情報学環助教) *郵送でもご購入いただけます。購入方法についてはこちら イベント情報 講演会 菊地宏日程: 2010年5月29日(土)時間: 14:00-15:30 中山英之日程: 2010年6月5日(土)時間: 14:00-15:30 アトリエ・ワン日程: 2010年6月12日(土)時間: 14:00-15:30 伊東豊雄日程: 2010年7月3日(土)時間: 14:00-15:30 鈴木了二日程: 2010年7月17日(土)時間: 14:00-15:30 中村竜治日程: 2010年7月24日(土)時間: 14:00-15:30 内藤廣日程: 2010年7月31日(土)時間: 14:00-15:30 ※いずれも講堂(地下1階)にて。聴講無料。申込不要(着席140名、当日朝10:00より整理券を配布します) ダンス・パフォーマンス(内藤廣の作品の中で、ダンス・パフォーマンスを行います)日程: 2010年6月4日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年6月13日(日)15:00-15:15 / 16:00-16:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年6月18日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年7月9日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 梅田宏明 日程: 2010年7月10日(土)15:00-15:15 / 16:00-16:15 梅田宏明 日程: 2010年7月11日(日)15:00-15:15 / 16:00-16:15 梅田宏明 日程: 2010年7月23日(金)18:00-18:15 / 19:00-19:15 じゅんじゅんSCIENCE 日程: 2010年7月25日(日)15:00-15:15 / 16:00-16:15 じゅんじゅんSCIENCE ※参加無料(要観覧券)、申込不要※入場を制限することがあります 特別ダンス公演 in 赤縞じゅんじゅんSCIENCE、山中透(音楽家) 日程: 2010年7月31日(土)時間: 18:00-20:00場所: 企画展ギャラリー (1F) *この公演のチケットが必要です 演出・振付:じゅんじゅん出演:エノモトユキ、キムミヤ、小山まさし、清水良憲、西舘典子、久井麻世、じゅんじゅん 18:00 開場 *担当学芸員によるガイドツアーあり *開演まで「建築はどこにあるの?」展 観覧可19:00 開演 *通常10分に対して、ロングバージョンのダンスを予定 *生演奏つき(ダムタイプの音楽監督であった山中透氏)19:30 終演19:40 アフタートーク (内藤廣+じゅんじゅん+山中透)20:00 終了 *公演終了後、公演および展覧会についてのアンケートにご協力いただきます。アンケート結果は、当館のウェブサイトで、匿名により公開することがあります。 ■チケット 前売 1000円 売り切れました 当日 1200円 満員御礼にて当日券の予定もありません *自由席になります(立席となる場合もあります) ■チケット取扱 アンクリエイティブ 03-5458-0548(平日11:00-18:00) イープラス(e+) http://eplus.jp/ JCDNダンスリザーブ http://dance.jcdn.org/ 東京国立近代美術館チケット売場 販売を終了しました ■この公演に関するお問合せ アンクリエイティブ 03-5458-0548(平日11:00-18:00) 担当学芸員によるギャラリートーク日程: 2010年5月21日(金)時間: 18:00-19:00保坂健二朗(当館研究員) 日程: 2010年6月19日(土)時間: 14:00-15:00保坂健二朗(当館研究員) ※いずれも会場にて。参加無料(要観覧券)。申込不要
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権鎮圭展
権鎮圭(クォン・ジンギュ、1922~1973)は韓国近代彫刻の先覚者として高く評価されています。 権鎮圭は、1950年代に武蔵野美術大学の前身である武蔵野美術学校で学び、二科展で受賞するなど、日本の彫刻界と非常に関係の深い作家ですが、リアリズムを基調としつつ孤高の精神性をたたえたその作品は、残念ながら、日本ではまだほとんど知られていません。本展は武蔵野美術大学会場と合わせて、日本で初めて権鎮圭の彫刻の全貌を紹介する展覧会となります。 この展覧会は、東京国立近代美術館・武蔵野美術大学美術資料図書館・韓国国立現代美術館が共同で調査研究・企画・立案にあたり実現しました。 東京国立近代美術館(ギャラリー4、2F)と武蔵野美術大学美術資料図書館の2会場で同時開催したのち、韓国国立現代美術館(徳寿宮美術館)に巡回します。 ここが見どころ ■日本時代の作品を含む、権鎮圭のほとんどすべての作品は、今日では韓国の美術館・財団・個人コレクション等に収まっています。今回、新たに日本・韓国で発見された作品もあわせ、その全貌に迫ることが可能となりました。 ■日本では、東京国立近代美術館(ギャラリー4、2F)と武蔵野美術大学美術資料図書館の2会場で同時開催します。 ■東京国立近代美術館では、第38回二科展で特待を受賞した《騎士》(1953年)や、1968年の個展の際に当館に寄贈された《志媛》(1967年 原題『愛子』)、 《春葉尼》(1967年)を中心に、精選した彫刻作品(テラコッタ・レリーフを含む)約30点と水彩・素描などを展示します。 ■武蔵野美術大学美術資料図書館では、約100点の作品により、多様な展開の全貌を紹介します。武蔵野美術大学会場について 開催概要 東京国立近代美術館 ギャラリー4 2009年10月10日(土)~12月6日(日) 10:00-17:00 (金曜日は10:00-20:00)(入館は閉館30分前まで) 月曜日[10月12日(月・祝)、11月23日(月・祝)は開館]、10月13日(火)、11月24日(火) 一般 420円(210円) 大学生130円(70円)※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 高校生以下および18歳未満、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。※それぞれ入館の際、学生証、運転免許証等の年齢の分かるもの、障害者手帳等をご提示ください。 ※お得な観覧券「MOMATパスポート」でご観覧いただけます。※キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は学生証または教職員証の提示でご観覧いただけます。 ※本展の観覧料で、当日に限り所蔵作品展「近代日本の美術」(所蔵品ギャラリー、4-2F)もご観覧いただけます。 【無料観覧日】11月1日、12月6日 [第一日曜日]11月3日(火) [文化の日]11月12日(木) [天皇陛下御在位20年慶祝行事] 東京国立近代美術館武蔵野美術大学美術資料図書館韓国国立現代美術館 駐日韓国大使館 韓国文化院 社団法人 權鎭圭紀念事業會 JINRO戸嶋靖昌記念館Gana Art Gallery HITE 文化財団釜山空間画廊i-studio 武蔵野美術大学美術資料図書館:「武蔵野美術大学80周年記念 権鎮圭」2009年10月19日(月)~12月5日(土) 韓国国立現代美術館(徳寿宮美術館):2009年12月22日(火)~2010年2月28日(日)
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企業・法人
企業・法人向け対話鑑賞プログラム 本プログラムは、参加者それぞれの感覚と思考を組み合わせながら「美術作品の意味・内容を読み解くこと」を目指します。作品に取り上げられたテーマ、色や造形などを手掛かりに、多様な見方を引き出し、対話を重ねます。アーティストが制作した作品を通じて、解のない問いを検討し、普段使わずにいる思考回路を活性化する体験をしてみませんか。社員研修の一環としてはもちろん、新たなプロジェクトのキックオフ企画として、またはオフサイトでのイベントなど、様々な場面でご活用ください。 本プログラムにおける 対話鑑賞 とは 少人数のグループで、1つの作品に20分ほどかける対話鑑賞を3作品程度行います。ファシリテーターの進行のもと、時間をかけてじっくり観察し、見えたもの・感じたことを言葉にすること、他者の発言からも新たな視点や気づきを得ることを積み重ねていきます。必要に応じてファシリテーターが作品の背景などについても紹介します。ファシリテーターと参加者が、対話を通じて気づきや新たな発想を共有し、目の前の作品についてともに探究していきます。本プログラムに参加する前と後では、作品の捉え方が変わることでしょう。 写真:企業・法人向け対話鑑賞プログラムの様子(ピジョン株式会社 2024年3月実施) プログラム実施概要 本プログラムは、所蔵作品展「MOMATコレクション」の開催期間中に、所蔵品ギャラリーを貸し切って実施いたします。プログラムの所要時間や構成は、お申込み頂いた企業・法人様のご希望やプログラムの実施目的等に合わせて一部カスタマイズが可能です。 所要時間約2.5時間プログラム構成例1. イントロダクション2. 対話鑑賞(3作品程度)3. 振り返りレクチャー4. 所蔵作品展「MOMATコレクション」の自由観覧会場東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリーアクセス定員本プログラムでは、グループに分かれて対話鑑賞を実施します(5~6名 / グループ)最少人数:5名※ 最大36名(6名×6グループ)の同時進行が可能料金40万円~(参加者数、実施日程等により変動) 応募申込 2025年度のプログラム実施につきましては、申込期間が終了しました。次回の実施期間・お申込みについては、後日ご案内させていただきます。情報の更新をお待ちください。 参加者の声 Q. (対話鑑賞プログラムで体験したことを)どのような場面で活かせると感じましたか? ブレーンストーミングの時の心理的安全性の確保(40代男性/IT系) 社内コミュニケーション時において「多様性を受け入れる」こと(40代男性/IT系) あらゆる角度から物事を見ること、対話しながら業務を進めていくこと(40代女性/事務・管理系) 同じものを見ても、とらえ方が人それぞれだと実感したので、意見交換の場に活かせるかもと思いました。(50代女性/技術・研究系) 他人の意見を否定せず聞き、その意見から別の発想をすることができるのではないかと思います(40代男性/事務・管理系) 社内のメンバーとの相互理解やチームビルディングに活用できると感じた(30代男性/企画系) 自分はなぜそう感じたのかを論理的思考でみんなに説明しました。この力はビジネスの会議現場で活かせると感じました(20代男性/事務・管理系) 細かい部分の観察力と、それを全体との関係の中で位置づけていくという部分が活かせると思いました(20代男性/内定者) 正解のわからない課題(顧客の困りごと)や施策案を検討する際に活用できそうです(40代男性/IT系) Q. ご意見・ご感想など 参加者の視点がそれぞれ違っていて、とても興味深く参加できました(40代男性/IT系) じっくりひとつの絵画をみる機会がないので楽しかったです(40代女性/事務・管理系) 構えず自由な発想で意見交換出来る雰囲気が良かった。とにかく楽しかった。中々美術館などに足を運ぶ機会がないのでそんな時間がやはり必要(50代男性/営業系) 凡例:コメント(年代性別/職種) お問合せ 本プログラムについてのご質問は、下記お問合わせ先までお願いいたします。東京国立近代美術館 運営管理部 渉外担当(企業・法人向けプログラム受付窓口) Mail: dim@momat.go.jp※「企業・法人向けプログラム」以外のお問合わせにつきましては、お返事・お答えできかねますので、ご了承ください。
記録の対位法、記憶のポリフォニー ——「記録をひらく 記憶をつむぐ」展を聴くように観る
もし19世紀ロシアの作曲家ムソルグスキーが、時空を越えて2025年の東京に舞い降り、東京国立近代美術館で開催中の「記録をひらく 記憶をつむぐ」展に足を踏み入れたなら——きっと、目の前の作品群から新たな組曲《展覧会の絵》を編み上げたことだろう。プロムナードの旋律を思い浮かべながら、筆者も9月下旬の澄みわたる午前、美術館の扉を押した。 戦後80年の節目に企画されたこの展覧会は、戦争美術コレクションを軸に、写真や文学を交えて作品やジャンルを響き合わせ、戦争の記憶を多声的に紡ぐ壮大な試みである。7月15日の開幕以来、口コミやSNSで評判が広がった。筆者が訪れた日も、平日とは思えぬ長蛇の列が開館前から伸び、入口のバナー前では、カメラを構える来館者の姿も目立った。 そのバナーを飾るのは、松本竣介の《並木道》(1943年)[図1]。青緑の光に包まれた道を、一人の人物がゆっくりと歩む。旗も銃声もなく、ただ静けさが広がる。戦争の最中に描かれたとは信じがたいほどの穏やかさが、かえって時代の異様さを際立たせる。 図1 松本竣介《並木道》1943年、東京国立近代美術館蔵 この絵は、「絵画は何を伝えたか」と題される第1章の後半に置かれている[図2]。直前には、戦場の叫びが聞こえそうな陸軍省ポスター《撃ちてし止まむ》や、空中戦の緊迫感を描いた御厨(みくりや)純一《ニューギニア沖東方敵機動部隊強襲》が並び、戦意高揚の大合唱が展示空間を満たしている。そんな喧噪のなか、《並木道》はまるで静かな休止符のように浮かび上がる異質な声部であり、その無言の旋律に、筆者は戦争の轟音の合間でかすかに響く、救いの音を聞いた思いがした。圧迫的な戦意の波のなかで、ほんの一瞬、人間性の回復を感じさせる静かな呼吸のような存在が、ここにあったのである。 図2 会場風景|1章 絵画は何を伝えたか|撮影:木奥惠三 そして、満洲観光史を研究する筆者が深く惹きつけられたのは、第2章「アジアへの/からのまなざし」であった。戦前のアジアは、日本人にとって植民地であり、戦場であり、同時に観光地でもあった。その多層的な現実は、展示空間の配置にも表れている。戦場を描いた戦争画のすぐ隣に、同地域の風景画や南満洲鉄道株式会社(満鉄)のガイドブック、満洲観光聯盟の絵はがきが並ぶことで、戦争と観光が交錯し、互いに響き合う二重のリズムを生み出す。観光の軽やかな旋律の背後に、戦争という重い和音がひそむことに気づかされ、観る者はその複雑で微妙なハーモニーに引き込まれるのである。 とりわけ印象的だったのは、画面の大半を秋空の青が染め上げる、梅原龍三郎の《北京秋天》(1942年)である[図3]。この絵を目にした瞬間、筆者はどこか既視の感覚に包まれた。拙著『帝国と観光』の表紙にも用いた、1936年以前に満鉄が制作したポスター《開け行く大陸 鮮満の旅》(画・岡吉枝)も、同じ青空を描いていたのである1。 図3 会場風景|2章 アジアへの/からのまなざし|(右)梅原龍三郎《北京秋天》1942年、東京国立近代美術館蔵|撮影:木奥惠三 では、この「青空」はいったい何を意味するのだろうか。「明朗朝鮮」「明朗満洲」「明朗北支」といった戦前の新聞や雑誌で多用された「明朗」という言葉と呼応するかのように、青空は、旧政権の「暗黒」を払い、日本軍による治安回復や「善政」の光を象徴する政治的隠喩として描かれていたと考えられる。梅原が「何だか音楽をきいているような空」と記したその感覚には、日本軍の凱旋曲を思わせる旋律がかすかに漂い、支配民族としての日本人の心理的・政治的感覚を映すかのように、快適で明朗な空気として心に沁み入っていたのであろう。 ふと筆者の脳裏に、1943年、中国共産党の支配下にあった抗日根拠地(解放区)で生まれた歌曲「解放区的天」の冒頭がよみがえった。のちに1964年初演の大型革命舞台劇『東方紅』にも収録され、広く人口に膾炙(かいしゃ)したこの歌は、「解放区の空は明朗な空……共産党の恩情は語り尽くせない」と歌い上げる。戦火を隔てた敵と味方——日本と中国——の間にあっても、「明朗な空」は両者に共通するモチーフとして立ち現れ、それぞれの政権を讃える象徴的アイコンとして機能していたのである。 あれこれの記憶や連想が交錯する思いを抱きつつ展示室を後にすると、ムソルグスキー《展覧会の絵》の終曲「キエフの大門」の旋律が、胸の奥でふとよぎった。大小さまざまな鐘の音が折り重なりながら鳴り響く——まるで、記録の対位法と記憶のポリフォニーを体現する本展の構造そのもののようである。その響きは、遠くウクライナ——「キエフの大門」の地——で今なお轟く砲声と呼応し、キャンバスの内外に刻まれた記録と記憶の重みを、私たちの胸に深く問いかけ続けている。 註1 高媛『帝国と観光——「満洲」ツーリズムの近代』(岩波書店、2025年)107–108頁参照
アーティスト・トーク 第34回|石川真生
制作拠点とされている沖縄に伺って、写真家の石川真生さんにお会いしてきました。2024年度に当館で収蔵したシリーズ「基地を取り巻く人々」(1989年~)を中心に、撮影時のエピソードや創作にかける意気込みについてお話しいただきました。 収録日:2025年6月9日 インタビュアー|成相肇、小林紗由里(東京国立近代美術館) 撮影|渡辺俊介 監督|宮澤響(COG WORKS) 協力|東京オペラシティアートギャラリー、柿島貴志(POETIC SPACE)、亀海史明(沖縄県立博物館・美術館)、東松泰子(INTERFACE-Shomei Tomatsu Lab) 企画・制作|東京国立近代美術館 https://www.youtube.com/watch?v=PdV8EGRDaa0&list=PLB9Kbit3hipeFr38pLOqF_n6aY9SMcowf
いま、RAUSCHENBERG100を祝すということ
2025年はロバート・ラウシェンバーグの生誕100年ということで、世界各地で記念展示が行われている。開催地はやはりアメリカが多いが、香港のM+も11月から「Robert Rauschenberg and Asia」という展覧会を開く。日本にも縁の深かったこの作家について、今回の関連展示が行われたことは、率直に喜ばしい。ただ、今年は終戦80年でもあり、企画展では戦争記録画の数々が、常設展の別室では「コレクションにみる日韓」や石川真生の〈基地を取り巻く人々〉シリーズが展示され、この節目において意義深い作品が目白押しである。 図1 会場風景|所蔵作品展 MOMATコレクション「ジャンクとポップ」|撮影:柳場大 全体的なトーンからは浮いて見えかねない「ジャンクとポップ」のセクションだが、その構成は、いま「RAUSCHENBERG100」を日本で祝す意味を肯定的に考えさせるものとなっていた[図1]。所蔵品を中心とする展示のため、ラウシェンバーグの作品は段ボール彫刻《ポテト・バッズ》[図2]とリトグラフ《アクシデント》の2点のみである。だが同じ壁面にジャスパー・ジョーンズの《デコイ》や、小島信明の《ボクサー》、中西夏之の《コンパクト・オブジェ 沈む鋏》、菊畑茂久馬の《ルーレット》など、1960年代に既存のオブジェや廃材などを利用して新しい表現を切り開いた作家たちの作品が並び、アメリカのネオダダとのやや緊張感を孕んだ親和性を感じさせる。 図2 ロバート・ラウシェンバーグ《ポテト・バッズ》1971年、東京国立近代美術館蔵 また本展では丁寧な資料展示を通して、ラウシェンバーグの領域横断的な活動がよく分かるようになっていた。まず、段ボール彫刻の近くに置かれたケースには、1964年に彼が初来日した際に草月会館で公開制作した《ゴールド・スタンダード》や、その壇上に持ち込まれた篠原有司男による《コカコーラ・プラン》の「イミテーション」図版などが配され、当時の雰囲気をよく伝えている。もう一つのケースでは彼が1980年代に立ち上げた国際交流プロジェクト、ROCI(Rauschenberg Overseas Culture Interchange)の関連資料や日本での展示写真を見ることができる。 もう一つのハイライトは、1980年代に「ジャンクとポップ」の感性を引き継いだ大竹伸朗や日比野克彦による、いま見てもみずみずしい作品群だろう。大竹が大のラウシェンバーグ好きであることは有名だが、今回の展示では日比野の作品がとりわけ新鮮に映った。それは段ボールという素材がラウシェンバーグと共通するからだけではない。当時ラウシェンバーグの段ボール彫刻は日本ではほとんど紹介されておらず、日比野がそれを参照した可能性は低いと思われる。両者のより本質的な共通項は、どのような素材にも表現の可能性を見出す軽やかな感性や、未知の領域に踏み出すオープンな姿勢ではないかと感じた。 日比野がコニカのテレビコマーシャルで見せるヴィデオ・パフォーマンスでは、ストリートダンスのような彼の動きと、その手から湧き出るようにして描かれる線描とが、当時最新のデジタル技術を用いて組み合わされており、ラウシェンバーグが1960年代に行ったパフォーマンスや、1970年代にE.A.T.(Experiments in Art and Technology)で制作した作品群を思わせる。また日比野も地域コミュニティや生きづらさを抱える人々とのプロジェクトを先駆的に手がけてきたことを考えると、この二人は芸術表現の可能性を背景の異なる他者へと開いて対話を促すという、外に向かうベクトルも共有していると考えられる。 実は、ラウシェンバーグのROCIは、当時本国アメリカでは評判があまり良くなかった。ポスト植民地主義の時代に、アメリカの大物作家が共産主義国や独裁国家にわざわざ出向いてモダンアートの価値を伝える(しかも自分の個展を通して)というコンセプトは、まさに帝国主義的と批判されたのだ。だが私が実際に聴き取りをした中国やキューバの作家たちは、口を揃えて、情報が遮断されていた時代に西側世界の現代美術を見せてくれたラウシェンバーグに感謝していると述べていた。「You cannot avoid liking Rauschenberg」と1。 図3 日比野克彦《RED HIGH HEELS》1982年、東京国立近代美術館蔵 今回の展示で一番心に残ったのは、日比野が1982年に制作したパルコのポスター(原画:《RED HIGH HEELS》[図3])に描かれた犬と、ラウシェンバーグが《ゴールド・スタンダード》に用いた「ビクターの犬」との共鳴だ。赤いハイヒールを履いて、なんとも愛らしい微笑みを浮かべるパルコの犬と、首をかしげて蓄音機から流れてくる亡き主人の声に聴き入っているとされるビクターの犬。彼らは、どちらも他者に向き合うことをごく当たり前のこととして、そこにいるようだ。ここに二人の共通点がもう一つ確認できるとともに、絶望的なことも多く起こる世界の中で、それでも他者とつながろうとすることの大切さをあらためて見る思いがする。「RAUSCHENBERG100」を、いまこそ祝す所以だ。 註 1 キューバの作家、グレクシス・ノヴォアの言葉。2016年3月4日のスカイプ・インタビューより。詳しくは以下の拙稿を参照されたい。Hiroko Ikegami, “‘Art Has No Borders’: Robert Rauschenberg Overseas Interchange,” in Robert Rauschenberg (Tate Modern and Museum of Modern Art, New York, 2017), pp. 340–349.
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個人寄附会員制度(MOMAT DONORS’ CLUB)開始のお知らせ(2025.12.1)
東京国立近代美術館では新しい個人寄附会員制度「MOMAT DONORS’ CLUB(略称:MDC)」を2025年12月1日から開始いたします。 MDCの詳細はこちらからご覧いただけます。
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お得な年間パスポートMOMAT PASS販売開始のお知らせ(2025.12.1)
東京国立近代美術館(竹橋)および国立工芸館(金沢)は美術館をお得に楽しんでいただける年間パスポート「MOMAT PASS」の販売を2025年12月1日から開始いたします。MOMAT PASSの詳細はこちらからご覧いただけます。
戦争と生きる——「記録をひらく 記憶をつむぐ」展を観て——
歴史を踏まえて戦時の絵画を分析し、戦争の記憶で紡いだ作品を辿る「記録をひらく 記憶をつむぐ」展。終戦80年の節目の年に相応しく、写真史を研究する筆者にとっても見逃せない展覧会だった。 藤田嗣治、向井潤吉、田村孝之介、難波香久三(かくぞう)などの絵画作品は、内閣情報部発行の週刊グラフ誌『写真週報』や、陸軍の委嘱により名取洋之助が制作した英文対外宣伝グラフ誌『SHANGHAI』などに散見される。グラフ誌調査のために『陸軍美術展集』(陸軍美術協会、1944年)などの画集で作品を確認してきたが、実物のサイズは巨大で色彩も多様。次々に展開される戦争画は、常設展で数点ずつ観る時とは比べものにならぬ「時代の気分」を振りまいて、会場に異様な雰囲気を醸し出していた。 図1 会場風景|(左)宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》1942年、東京国立近代美術館蔵(無期限貸与)|撮影:木奥惠三 図2 「二月十五日 シンガポール陥落す」『写真週報』210号、1942年3月4日、個人蔵 歩みを進めると、写真をもとに描かれた作品も展示されていた。宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》(1942年)[図1]は、影山光洋(朝日新聞)や石井幸之助(東京新聞)が撮影した取材写真[図2]と同構図。鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》(1942年)は写真を再構成した印象で、対外宣伝グラフ誌『FRONT』7号(落下傘部隊号、1943年)を想起させた。描かれた「作戦記録画」「戦争記録画」は、勿論単なる記録ではなく、モノクロの写真をカラー化し、内容を明確にする要素や絵としての魅力を加え、見上げるようなサイズによって当時の観衆に威容を見せつける目的もあっただろう。 図3 会場風景|女流美術家奉公隊《大東亜皇国婦女皆働之図》1944年、春夏の部(右):筥崎宮蔵 秋冬の部(左):靖國神社遊就館蔵|撮影:木奥惠三 女流美術家奉公隊による《大東亜戦皇国婦女皆働之図》(1944年)二部作[図3]は、グラフ誌の切貼りを下絵に、農村漁村の生活や赤十字看護婦、工場での勤労奉仕など、女性の銃後生活を描いたコラージュ作品だ。素朴ながら明るい色調で、多人数によって描写された光景で構成された画面が1930年代の万国博覧会出品の写真壁画(フォトモンダージュ)に重なった。そして、男性作家単独による重厚な作品が続く後に女性集団による同図が配置されていることで、当時の女流画家の境遇≒女性の社会的地位や、戦争が激化していた1944年に制作された意味などを考えさせられた。 図4 会場風景|(左)猪熊弦一郎《長江埠の子供達》1941年、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵|撮影:木奥惠三 「アジアへの/からのまなざし」の章で猪熊弦一郎の《長江埠の子供達》(1941年)[図4]を観て、現実には存在しない作品を夢想した。猪熊の描く子どもたちが向ける「他者のまなざし」が、かつて筆者が研究した森堯之(たかゆき)の写真〈朝鮮・1939年〉シリーズにある2カット1に通じると感じたのだ。 森はシュルレアリスムの画家だが、1938年に日本工房カメラマンとなり、対外宣伝グラフ誌『NIPPON』18号(朝鮮特集号、1939年)のために朝鮮を取材した。その写真は多分に演出的ではあるが、朝鮮の伝統文化や、矍鑠(かくしゃく)とした老人、温和な女性たちの明朗な姿が写されている。一方、出会って咄嗟にシャッターを切ったと思われる不使用の2カットでは、老人が睨み、女性は苦しげに視線をそらしている。編集者の望む写真を撮る中でも、大日本帝国統治下市民の苦悩を見逃さなかった森の感性が読み取れる。しかし、この2カットはネガ調査の過程で見出したもので、当時のグラフ誌には使われていない。猪熊の絵画作品に対して「画家が現地で肌で感じた疎外感を率直に表した、当時としては稀有な作例」と解説されているのを読み、本来画家である森が朝鮮を描いたならばどのような作品になったのだろうかと、思わずにはいられなかった。 さて、本展では絵画のみならず、グラフ誌やポスター、絵葉書ほか、戦時の視覚メディアも多数展示されている。頻出する『写真週報』は、第一室のキャプションに「戦時下の社会状況を示す資料として適宜挿入」「国策宣伝のメディアという性格を理解したうえで読み解く必要がある」と記されている。いかにも、画家の“彩管報国”同様に、写真家たちは“写真報国”を求められていた。 総力戦下の視覚表現者は、画家も写真家もデザイナーもスローガン執筆者も編集者も、あらまほしき世論を喚起するためのテーマを命じられて、持てる技術を駆使した。彼らが生きていた時代/社会を直視せよと、そして、今日観た者がどのように考え/行動するのかと、全ての展示物が迫ってくるように感じた。 総じて、戦争記録画を中心としながら様々な表現手段に目配りし、戦後については市民の回想画、そして、戦争画を担った画家の苦悩にまで目を向けた、濃厚で見応えのある展覧会だった。アメリカより無期限貸与という形で返還された戦争美術の作品収蔵館であることに向き合い、「国立」の美術館でこのような企画を実現した担当諸氏の気骨と覚悟に敬意を表したい。 チラシなし、図録なしが話題ではあるが、ご担当こそはこれを残念に思っているのではないだろうか。今日の見解を広く、後世にも問うために、いずれ書籍としてまとめられることを期待している。 註 1 『森堯之写真展 朝鮮・1939年』(JCIIフォトサロン、2018年)29頁および解説参照
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