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活動報告/研究紹介
活動報告 東京国立近代美術館の活動報告です。年次ごとの作品収集・修理、展覧会活動、各研究員の研究実績、教育普及活動・イベント・刊行物などの実績がご覧いただけます。 研究紀要 東京国立近代美術館は1987年より『研究紀要』を発行しています。11号(2007年)以降の号が、東京国立近代美術館リポジトリでオンラインにて閲覧できます。 現代の眼 東京国立近代美術館、国立工芸館(東京国立近代美術館工芸館)で開催される展覧会の特集記事や所蔵作品の解説、作家によるエッセイや、美術館の教育普及活動などを載せた美術館ニュース『現代の眼』は、1954年の創刊以来634号まで刊行してまいりました。当初はモノクロ8ページの月刊でスタートしましたが、1996年4月より部分カラー16ページの隔月刊へと移行。2013年の600号の節目を機に、オールカラー化しレイアウトを一新しました。その後2017年4月より季刊化。そして2020年より、より多くの方にご覧いただけるよう電子ジャーナルとして生まれ変わりました。ウェブサイト上で展開した1年度分の記事をまとめ、年1回のペースで発行していきます。当該年度の活動をまとめたアーカイブとして読んでいただけるよう、展覧会の会場風景なども豊富に交えて電子ジャーナル版『現代の眼』としてお届けします。600号(2013年6-7月号)より、記事のPDFを公開しています。 科学研究費助成事業 科学研究費助成事業とは、文部科学省及び日本学術振興会によって交付が行われている研究助成費です。その特色は、日本学術振興会の ホームページによれば、「人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる『学術研究』(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする『競争的研究資金』であり、ピア・レビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行う」点にあります。東京国立近代美術館の研究員が研究代表者となり採択された研究を、以下にご紹介します。なお、研究分担者となって行った研究については、ここでは省きました。 令和3-5年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))1920-50年代のデザイン/工芸の実践に関する基礎的研究研究代表者:中尾 優衣研究課題番号:21K00159 令和3-5年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))カラー映画フィルムのスペクトル分析に基づく忠実な色再現と褪色補正に関する基盤研究研究代表者:大傍 正規研究課題番号:21K00997 令和2-4年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))塚田嘉信コレクションを起点に初期映画史を読み直す研究代表者:入江 良郎研究課題番号:20K00164 令和1-4年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))日本における70ミリ劇映画文化の受容とそのイメージの復元研究代表者:冨田 美香研究課題番号:19K00146 令和1-4年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))写真・映像の「影響」から見た日本の前衛芸術――昭和戦前期を中心に研究代表者:谷口 英理研究課題番号:19K00167 令和1-4年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))日本を中心としたアジア諸国の現代美術と美術理論に関する総合研究研究代表者:米田 尚輝研究課題番号:19K00238 令和1-4年度年度学術研究助成基金助成金(若手研究)1990年代から2000年代のロンドンにおける具象絵画に関する研究研究代表者:桝田 倫広研究課題番号:19K13019 令和1-3年度年度学術研究助成基金助成金(挑戦的研究(萌芽))近現代日本のセメント美術に関する研究研究代表者:坂口 英伸研究課題番号:19K21623※令和3年廃止 平成30-令和3年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))戦後日本の前衛美術のクロス・レファレンス的研究 1945-1955研究代表者:大谷 省吾研究課題番号:18K00201 平成30-令和2年度年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))大正期から昭和期における「皇室映画」の研究活用に向けた基礎調査研究代表者:紙屋 牧子研究課題番号:18K01099 ※令和2年転出 平成29-32年度学術研究助成基金助成金(若手研究(B))フランス近代におけるデッサンの哲学とその近代絵画への影響1852-1914研究代表者:横山 由季子研究課題番号:17K18406 平成28-29年度学術研究助成基金助成金(挑戦的萌芽研究)近代日本のタイムカプセル研究:ハーバード大学アーカイブズの成立との関係性を中心に研究代表者:坂口 英伸研究課題番号:16K13176※平成28年転入 平成28-30年度科学研究費補助金(基盤研究(B))美術館の所蔵作品を活用した探求的な鑑賞教育プログラムの開発研究代表者:一條 彰子研究課題番号:16H03110 平成28-30年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))70ミリ映画のアーカイブにむけた基盤形成研究代表者:冨田 美香研究課題番号:16K02356 平成28-30年度学術研究助成基金助成金(若手研究(B))褐色したカラー映画の復元と長期保存に関する基礎的研究研究代表者:大傍 正規研究課題番号:16K16343 平成25-27年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))撮影監督宮川一夫アーカイブ・プロジェクト研究代表者:冨田 美香研究課題番号:25370193※平成27年転入 平成27-29年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))1960~70年代に見られる芸術表現の研究拠点形成と資料アーカイブの構築研究代表者:伊村靖子研究課題番号:15K02129※平成28年転出 平成26-28年度学術研究助成基金助成金(基盤研究(C))20世紀前半の日本と中国・台湾・韓国とのデザイン/工芸の交流研究代表者:木田拓也研究課題番号:26350033 平成24-27年度科学研究費補助金(基盤研究(B))美術館の所蔵作品を活用した鑑賞教育プログラムの開発研究代表者:一條彰子研究課題番号:24300315 平成24-26年度科学研究費補助金(基盤研究(B))1960~70年代の概念芸術:作品の所在調査とデータ・ベース構築研究代表者:中林和雄研究課題番号:24320033 平成24-26年度学術研究助成基金助成金(若手研究(B))1900-30年代フランスの美術と建築における軸測投影に関する総合研究研究代表者:米田尚輝研究課題番号:24720086 平成23-26年度学術研究助成基金助成金(若手研究(B))無声映画の音―帝政期ロシアにおける初期映画興行研究研究代表者:大傍正規研究課題番号:23720086※平成24年転入 平成23-25年度学術研究助成基金助成金(挑戦的萌芽研究)東アジア地域のデザインにみる交流に関する歴史的研究:中国、台湾、韓国、日本研究代表者:木田拓也研究課題番号:23652047 平成23-24年度学術研究助成基金助成金(若手研究(B))劣化した映画フィルムを安全に複製するプリンター機構の開発研究代表者:板倉史明研究課題番号:23701017※平成24年転出 平成22-24年度科学研究費補助金(基盤研究(B))明治期に海外流出した近代工芸作品の調査研究代表者:諸山正則研究課題番号:22401021 平成21-24年度科学研究費補助金(若手研究(B))二十世紀イタリア芸術における前衛と古典回帰とモダニズムに関する研究研究代表者:阿部真弓研究課題番号:21720064 平成21-22年度科学研究費補助金(若手研究(B))フランスにおける映画保存機関の国内外での連携・役割分担に関する研究研究代表者:赤﨑陽子研究課題番号:21720063 平成20-22年度科学研究費補助金(基盤研究(B))1960~70年代のビデオ・アート:作品の所在調査とデータ・ベース構築研究代表者:中林和雄研究課題番号:20320027 平成20-21年度科学研究費補助金(若手研究(B))可燃性フィルムの安全保存に関する基礎的研究研究代表者:板倉史明研究課題番号:20700666 平成18-19年度科学研究費補助金若手研究(スタートアップ)米国に残存する戦前・戦中の日本映画フィルムの調査および復元に関する保存学的研究研究代表者:板倉 史明研究課題番号:18820057 平成16-18年度科学研究費補助金(基盤研究(B))戦後の日本における芸術とテクノロジー研究代表者:松本透研究課題番号:16320025 平成14-16年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))日本文化の多重構造 : 近代日本美術に見る多文化的要素の系譜1900年~1980年研究代表者:尾崎正明研究課題番号:14310035 平成12-13年度科学研究費補助金基盤研究(基盤研究(B)(2))海外に残存する戦前の日本映画に関する調査研究研究代表者:大場正敏研究課題番号:12410021 平成11-13年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))明治・大正期における図案集の研究 : 世紀末デザインの移植とその意味研究代表者:樋田豊次郎研究課題番号: 11410018 平成11-13年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))海外における近代日本美術の研究成果・態勢並びに内外の共同研究の促進研究代表者:松本透研究課題番号:11691045
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施設貸出
東京国立近代美術館では、館内地下1階の講堂を会議等の用途でご利用いただけるよう貸出を行っております。詳細につきましては以下の「講堂利用案内」(pdf)をご覧ください。 ※展示室の貸出は行っておりません。
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藤川栄子
休館日は! オンライン対話鑑賞
休館日はオンラインでじっくり鑑賞 解説ボランティア「MOMATガイドスタッフ」とともに、展示中のコレクション1点を、45分程度の対話を通して鑑賞します。 プログラム日程・概要 9月25日(月)14時~14時45分 6名程度(申込多数の場合は抽選) 無料 Zoom(ウェブ会議ツール)を使用 東京国立近代美術館の所蔵作品1点 申込締切 9月18日(月)【9月25日(月)実施分】 申込方法 「オンライン対話鑑賞 お申込みフォーム」をクリックし、ご希望の日程を選択してお申込みください。 複数日に参加を希望する場合は、各回それぞれお申込みください。 同日程に同じメールアドレスから複数のお申込みがある場合、最新のお申込みを抽選の対象とします。 抽選後、前日までに、当選された方にのみお申込み時のメールアドレスにご連絡いたします。当選をお知らせするメールで、イベントのzoomミーティングIDを含むご案内をお送りいたします。 参加にあたってのご注意 毎回、ガイドスタッフや作品が変わります。複数回ご参加いただきますと鑑賞する作品が重複する場合があります。プログラムの特性上、ガイドスタッフや作品の事前告知はいたしませんので、ご了承のうえお申込みください。 PC、接続環境やzoomの操作につきましては、各自でご準備をお願いいたします。 作品画像を大きく見られるよう、スマートフォンではなくPCやタブレットのご使用をお勧めします。 本プログラムは話し合いによって進みますので、必ず【マイクON】、できるだけ【ビデオON】でのご参加をお願いいたします。 個人情報・作品著作権の保護のため、録画・スクリーンショット撮影は固くお断りいたします。 サービス改善のため、主催者が録画させていただく場合があります。あらかじめご了承ください。 当日の流れ 入室開始 音声確認・進め方の説明などの後、対話鑑賞※開始時間を過ぎると入室できなくなることがあります 対話鑑賞終了、閉室
休館日は! オンライン対話鑑賞
休館日はオンラインでじっくり鑑賞 解説ボランティア「MOMATガイドスタッフ」とともに、展示中のコレクション1点を、45分程度の対話を通して鑑賞します。 プログラム日程・概要 8月28日(月)14時~14時45分 6名程度(申込多数の場合は抽選) 無料 Zoom(ウェブ会議ツール)を使用 東京国立近代美術館の所蔵作品1点 申込締切 8月21日(月)【8月28日(月)実施分】 申込方法 「オンライン対話鑑賞 お申込みフォーム」をクリックし、ご希望の日程を選択してお申込みください。 複数日に参加を希望する場合は、各回それぞれお申込みください。 同日程に同じメールアドレスから複数のお申込みがある場合、最新のお申込みを抽選の対象とします。 抽選後、前日までに、当選された方にのみお申込み時のメールアドレスにご連絡いたします。当選をお知らせするメールで、イベントのzoomミーティングIDを含むご案内をお送りいたします。 参加にあたってのご注意 毎回、ガイドスタッフや作品が変わります。複数回ご参加いただきますと鑑賞する作品が重複する場合があります。プログラムの特性上、ガイドスタッフや作品の事前告知はいたしませんので、ご了承のうえお申込みください。 PC、接続環境やzoomの操作につきましては、各自でご準備をお願いいたします。 作品画像を大きく見られるよう、スマートフォンではなくPCやタブレットのご使用をお勧めします。 本プログラムは話し合いによって進みますので、必ず【マイクON】、できるだけ【ビデオON】でのご参加をお願いいたします。 個人情報・作品著作権の保護のため、録画・スクリーンショット撮影は固くお断りいたします。 サービス改善のため、主催者が録画させていただく場合があります。あらかじめご了承ください。 当日の流れ 入室開始 音声確認・進め方の説明などの後、対話鑑賞※開始時間を過ぎると入室できなくなることがあります 対話鑑賞終了、閉室
デイヴィッド・スミス 《サークル IV 》1962年
デイヴィッド・スミス(1906–1965)《サークル IV》/1962年鉄・彩色/高さ215.9、幅152.5、奥行107.0cm/平成29年度購入撮影:大谷一郎 彫刻家デイヴィッド・スミスが1962–63年に全部で5点制作した「サークル」シリーズのひとつを、昨年度収蔵いたしました。 スミスはアメリカ合衆国インディアナ州生まれ。いくつかの大学に通う傍ら自動車工場の生産ラインで短期労働をした経験を持ちます。1926年にはニューヨークに移り住みアート・スチューデンツ・リーグで学んでいます。鉄やステンレスを素材としつつ構築性や開放性を特徴とする彼の作品は、20世紀の彫刻を考える上で外すことのできないものとされています。 スミスはシリーズで制作することでも知られているアーティストです(一方で、いわゆる鋳造をしないこともあったりして、彼の作品にはいわゆるエディションという概念は存在しません)。その中でもっともよく知られているのは、磨かれたステンレスを素材とする「キュービ(Cubi)」(1961–65)でしょう。直方体や立方体や円柱を構成要素とするそのシリーズは、純粋性や抽象性を志向するモダニズムの擁護者たち=理論家たちから絶賛されました。 そうした観点からすれば「サークル」は特異点となりますが、実際はそう単純ではありません。60年代のスミスには塗装した鉄板で構成された「ジグ(Zig)」というシリーズもあります(色彩はフラットで、往々にして単色です)。つまりスミス本人にとって色彩や平面を彫刻に取り入れることは、継続して重要な課題であったはずなのです。 「サークル」のシリーズの特徴は、平面形の中でも完結的な形体である円を取り入れていること、そして複数の色彩をひとつの作品の中で用いていることにあるでしょう。中でも本作は、筆触が際立っている点、円形の内側に開口部がない点(I、II、III、Vには、大きさの違いはあれど円形の内側に円形の穴が開けられています)、多方向性が導入され動きをコントロールしようとしているのが明らかである点において、シリーズの中でも傑出しています。 実は本作は、シリーズの中で最初期に制作されたと考えられています。スミスはシリーズにおけるナンバーを実際に制作された順序とは関係なく割り当てることがあり、本シリーズもその例に漏れないというわけです。ちなみにI、II、IIIは現在ワシントン・ナショナル・ギャラリーが、VはJPMorgan Chase Art Collection が所蔵しています。本作はスミス本人の手元に置かれていた後、エステートの所蔵となっていましたが、アジアの美術館ではスミスの実作を見る機会がほとんどないという点などに鑑みて、今回、当館が購入できることになった次第です。 『現代の眼』629号
横山大観《白衣観音》1908年
横山大観(1868-1958)《百衣観音》1908年/献本彩色・軸装/140.3x113.0cm/平成30年度購入 昨年開催した「生誕150年 横山大観展」において新出作品として紹介した《白衣観音》がコレクションに加わりました。1912年に刊行された『大観画集』に掲載されて以降、所在不明だった作品です。一緒に伝わった軸箱の蓋裏にはいつ書かれたものか、「明治四十一年春日 大観自題」とあります。 1908年という制作年は作風に照らして妥当と考えられます。大観はこれより5年遡る1903年に、盟友の菱田春草とともにインドに渡りました。滞在は半年に満たなかったのですが、それからというもの、大観は数年にわたって仏教画題の作品に「インド風」を盛り込んでいます。サリーのような衣裳にきらびやかな宝飾品や、弓なりの長い眉に大きく切れ長で二重まぶたの眼、鼻筋がとおって小鼻が張った鼻といった相貌などです。異国風な顔かたちに対するこだわりは、1909年の《流燈》(茨城県近代美術館蔵)の時点ですでに薄れていますが、まだそれが色濃く残る《白衣観音》が《流燈》より一年半早いというのは辻褄が合います。 疑念があるとしたら、この年にこんな大作を、一体誰が注文したのかという点です。日本美術院の移転に従って茨城県の五いづ浦らに移住してから一年余り、この春に大観はまだ同地に住んでいました。五浦の大観のもとに絵を買いに来る画商はほとんどいなかった。そう回想していたのは大観その人だったはずですが……。 ここで注目したいのは、前述の『大観画集』に所有者として名前が載る森本六兵衛です。この人物は神戸で醸造業の傍ら倉庫業を営み、やがて仏教に帰依して家業を二代目に譲りました。別名は瑞明。大谷探検隊で知られる大谷光瑞こうずいから一字をもらったと言い、大正から昭和にかけて光瑞や大谷尊由そんゆの周辺でチラチラと名前が登場します。 大観がインドに渡った理由のひとつは、日本美術の源流としてのインドで何かを掴み、仏教をテーマとする作品に新風を吹き込もうという野心だったことでしょう。同じ時期に仏教の源流を求めてインドに渡った大谷光瑞その人に心酔した森本瑞明。この人物なら、サリーを着た観音を大観に直接依頼しそうな気もしますが、現時点では未だ確実とは言えません。 なお、記録に残る大観と瑞明の接点としては、1911年秋に京都市立絵画専門学校に進んだばかりの村上華岳を大観に紹介したこと、1925年から1957年までの大観への作画依頼を記録した「依頼画控」(横山大観記念館蔵)に、瑞明からの依頼が一件だけ記録されていることが挙げられます。興味は尽きません。 『現代の眼』632号
アンソニー・カロ《ラップ》1969年
アンソニー・カロ(1924–2013)《ラップ》1969年/スティール、彩色/高さ109.0、幅244.0、奥行108.0cm/平成30年度購入© Barford Sculptures Ltd.撮影:大谷一郎 まず作品の構成要素を挙げてみます。スティールのパーツが5つ、溶接によって組み合わされています。板状のスティールを湾曲させたものが3つ、まっすぐのL字鋼、弧状に曲げられた溝形鋼です。すべて黄味がかった茶色に塗装されています。このように日常的、非芸術的な素材を「組み合わせ」て制作されたものは構成彫刻と呼ばれ、キュビスムや構成主義など20世紀初頭に始まります。アンソニー・カロの作品において、鉄板や鉄骨といった要素の集合は、彫像や塑像のように閉じた量塊を作ることはありません。複数の要素を配置し、それらを関係づけることで、無限定な現実空間から区別される「空間のフォルム」を生み出します。この特徴は「関係性」や「分節化」という語で批評されてきたもので、批評家マイケル・フリードは「カロの芸術において見るべきものは、すべてそのシンタックス(構文)の中にある」と述べています(Michael Fried, “Art and Objecthood,”in Artforum (New York) 5, no.10 (Summer/June 1967), p. 20)。 では、ここで五つの要素をひとつの形として成立させているのは何でしょう。それは台座、カロの言葉で言えば「テーブル」です。カロは1966年に始まる、台の上に置かれた彫刻を「テーブル・ピース」と呼びました。彩色によってスティールの物質感は弱まり、さらに地面から物理的に離れることで、とても軽やかな印象が生まれています。また台に絡みつきながら縁をはみ出し、ぶら下がるような形態をとっています。「テーブルに腰掛ける彫刻」というカロの形容がぴたりと当てはまりますし、題名の「ラップ(lap)」に含まれる「ひざ(椅子に腰掛けた時の、腰から膝頭まで)」や「(衣服の)垂れ下がった部分」といった意味も呼び起こさせます。テーブル・ピースで重要なのは、テーブルの「水平面(の高さ)」と「縁」であるとカロは言います(『アンソニー・カロ展』カサハラ画廊、1979年、4頁)。この作品でも溝形鋼はテーブルの縁に引っかかり、天板の水平線とL字鋼の左下がりの直線とが呼応するなど、水平面と縁が重要な働きをしています。 通常、台は彫刻の完成を待って後から用意されることがほとんどでしょう。台の上に置くことで、彫刻は外界から分離され、自立します。対してカロの作品では、まずテーブル(台)が存在し、彫刻はその周囲に、遅れて姿を現します。このようにしてカロは、彫刻を外界から分かつ制度・慣習としての台座でなく、作品成立のために不可欠な構造としてあるテーブルという、新たな方法・表現を生み出しました。 『現代の眼』633号
丸木俊(赤松俊子)《解放され行く人間性》1947年
丸木俊(赤松俊子) (1912–2000)《解放され行く人間性》1947年/油彩・キャンバス/130.0 × 97.0 cm/平成30年度購入 独特なタイトルは画面左下に赤の絵の具で書き込んであります。以前の展覧会では《裸婦(解放されゆく人間性)》という表記で紹介されていましたが、前所蔵者に聞けば「裸婦」の語は管理のためにつけていたとの由。そこで当館への収蔵に際し、タイトルは書き込みに従う形で改めました。 タイトルの上には「1947. 5. 17. 俊.」という書き込みも見えます。本作の初出は、1947年5月23日から6月7日まで東京都美術館で開催された第一回前衛美術展でのこと。上野でこの絵を見た人にとって、サインだけでなくタイトルと詳細な日付を書き込んだ作家の気持ちを推測するのは容易だったでしょう。少し前に、まさに人間性が解放されたばかりだったからです。 そう、その年の5月3日、日本国憲法が施行されたのでした。国民主権、基本的人権の尊重、そして平和主義。明治憲法とは全く異なる理念に基づいて生きてゆけることに対する高揚感が、「解放され行く」という現在進行形の表現になったのではないでしょうか。そしてその感覚を見えるものにするために、俊は、人物像の視線を斜め上へと向けるだけでなく、その人物を裸とし、さらにはその身体を、花の中という、場所が限定できないという意味で抽象的な空間に置いたのでしょう。 この絵の特長は、同じ展覧会に出品された俊のもうひとつの作品、《人民広場》(所在不明)と比べると明らかです。「人民広場」とはおそらく皇居前広場のこと。戦後数年間、その空間はメーデーなど様々な集会に用いられました。俊も、1946年5月19日に行われたいわゆる食糧メーデーに参加したようですから、描かれているのがほとんど女性である《人民広場》は、その体験に基づいているのかもしれません。 これと対蹠的になるように《解放され行く人間性》は描かれたのだとすれば、ここに描かれているのを単なる女性だと思ってはいけないということになります。実際、現実の裸婦なら大抵あるはずの陰毛が描かれていません。また乳房はありますが乳首の表現は不明瞭です。そうしたディテールよりも、肉体を量塊として捉えることに意識が注がれています。そして絵の具のタッチも独特で、特に左半身におけるそれは、塑像における石膏や粘土のようです。 俊は、新しい憲法のもとに生きる人間の姿を描こうとして、理想的な身体を象(かたど)ることに長けた彫刻に範をとった。そしてそれを絵画ならではの抽象的な空間においた。表明したいことがあればこその表現です。 一方、当時の美術雑誌を紐解くと、男性画家の描く裸婦は、後ろ向きであったり腰や足に布をかけていたり身をよじったりと堂々としていないものばかり。俊の作品がいかに清新であったかがよくわかります。 『現代の眼』634号
浅見貴子《梅に楓図》2009年
浅見貴子(1964 –)《梅に楓図》/2009年/墨、顔料・紙/265.0×200.0cm/平成30年度購入 浅見貴子の《梅に楓図》は、平成30(2018)年度の新収蔵作品です。浅見は2018年「第7回東山魁夷記念 日経日本画大賞展」で大賞を受賞するなど、新しい日本画の可能性を切り拓いた画家として注目されてきました。 多摩美術大学在学中ににじみ止めのドーサ引きで失敗した1988年の経験を機に、様々な試行の末、1990年代末に紙の裏側から描き、点々が効いた画風にたどりついた浅見。墨は普通に表側から重ねると鈍い墨色になるのに対し、裏から描くと重なった部分からおもてに新鮮な墨色だけが出るので、活き活きとした印象になると作家はいいます。裏から描くと最初に描いたところが表面に真っ先ににじみ出てくるため、近距離の印象の強いものから先に描くことになります。筆をスライドしつつ止めて墨をおもてに染み出させて打たれた点描に、複雑に筆線が交差して折り重なり、空気や光や葉のざわめきなども含みながら、空間の拡がりや積層的な奥行きを感じさせるその画面は、直接的な樹木の再現をはるかに超えつつも、写生時の印象もはらみ続けています。描き直しも効かず、墨の濃淡やにじみを巧みにコントロールする力量も必要ですが、作家本人ですら、完全におもてにどう現れるかは予測できないといい、逆にそうした偶然性や意外性が生む大胆な表現の展開も作品の魅力になっています。 《梅に楓図》は1年間のアメリカ留学から帰国後、天井高と奥行きのあるアトリエに戻り、縦構図が描きたくなった浅見が、自宅の庭の梅の老木と新芽の出始めたばかりの低い楓の木を描いた作品。陽光を浴びながら、梅の木と手前の楓の枝が複雑に交差し合い、光が錯綜するさまが描かれ、横方向に筆をスライドさせながら打った白く丸い点々が特徴的な作品です。作家の光や白への意識も強く感じられるこの作品の技法面について、作家はこう説明しています。「白抜き部分は墨点や墨の黒い枝と同じく裏側から、樹脂膠で溶いた胡粉とアクリル系のドーサ液を混ぜたモノで描いています。ドーサ液だけでも良いのですが、ドーサだけだと乾くと透明になってしまうので、少し胡粉を入れています。作品を描き終えると(地の部分と白抜きの線の差が無くなるようにするためと、墨色がよりはっきりするように思うので)画面の裏側全体に胡粉を塗っています」。 点と筆線の絡み合いの粗密が生動感を生み、内に凝縮する力と外へと拡散する力をあわせもつ、《梅に楓図》のエネルギッシュな画面は、空気や光や枝のざわめきを活き活きと表現し、まさに水墨画の新しい可能性を感じさせるにふさわしい作品といえましょう。 『現代の眼』635号
