過去の展覧会
大竹伸朗展
Shinro Ohtake
土日祝・会期末の混雑時は整理券による展示室への入場制限を行っています。
整理券の配布状況は大竹伸朗展Twitterでご確認ください。

大竹伸朗(1955-)は、1980年代初めに華々しくデビューして以来、絵画、版画、素描、彫刻、映像、絵本、音、エッセイ、インスタレーション、巨大な建造物に至るまで、猛々しい創作意欲でおびただしい数の仕事を手掛け、トップランナーであり続けてきました。近年ではドクメンタ(2012)とヴェネチア・ビエンナーレ(2013)の二大国際展に参加するなど、現代日本を代表するアーティストとして海外でも評価を得ています。
今年で開館70周年を迎える東京国立近代美術館でついに開催される大竹伸朗の回顧展は、国際展に出品した作品を含むおよそ500点を7つのテーマに基づいて構成します。あらゆる素材、あらゆるイメージ、あらゆる方法。作者が「既にそこにあるもの」と呼ぶテーマのもとに半世紀近く持続してきた制作の軌跡を辿るとともに、時代順にこだわることなく作品世界に没入できる展示によって、走り続ける強烈な個性の脳内をめぐるような機会となるでしょう。
見どころ
16年ぶりの大回顧展
2006年に東京都現代美術館で開催された「全景 1955-2006」以来となる大規模な回顧展。半世紀近くにおよぶ創作活動を一挙にご紹介します。
およそ500点の圧倒的なボリュームと密度
最初期の作品から近年の海外発表作、そしてコロナ禍に制作された最新作まで、およそ500点の作品が一堂に会します。小さな手製本から巨大な小屋型のインスタレーション、作品が発する音など、ものと音が空間を埋め尽くします。
7つのテーマで体感する作品世界
7つのテーマ「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」に基づいて構成。時代順にこだわることなく大竹の作品世界に没入し、その創作のエネルギーを体感できる空間が出現します。

©︎Shinro Ohtake, photo by Shoko
大竹伸朗
1955年東京都生まれ。主な個展に熊本市現代美術館/水戸芸術館現代美術ギャラリー (2019)、パラソルユニット現代美術財団(2014)、高松市美術館 (2013)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 (2013)、アートソンジェセンター (2012)、広島市現代美術館/福岡市美術館 (2007)、東京都現代美術館 (2006)など。また国立国際美術館(2018)、ニュー・ミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート(2016)、バービカン・センター(2016)などの企画展に出展。ハワイ・トリエンナーレ(2022)、アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2018)、横浜トリエンナーレ(2014)、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013)、ドクメンタ(2012)、光州ビエンナーレ(2010)、瀬戸内国際芸術祭(2010、13、16、19、22) など多数の国際展に参加。また「アゲインスト・ネイチャー」(1989)、「キャビネット・オブ・サインズ」(1991)など歴史的に重要な展覧会にも多く参加している。
▶作家サイト https://www.ohtakeshinro.com
作品リスト
大竹伸朗展ではアプリで作品リスト、セクション解説、音作品を提供しています。ご来場前のインストールをお勧めしています。
●ご利用手順
1. アプリストアから「Catalog Pocket」をインストール
iOS (App Store)
Android(Google play)
2. アプリを起動して「大竹伸朗展」で検索
*本アプリは展示室の外でも利用できます。
*展示室内ではイヤホンをご利用ください。
*館内では無料Wi-Fi(momat-free-wifi)が使えます。
簡易作品リスト・会場マップはPDF版もございます。ぜひご利用ください。
▶PC版
▶スマホ版
イベント
大竹伸朗 トークイベント
作家本人によるトークイベントの開催が急遽決定しました!
40年以上にわたる大竹さんの制作や活動の歩みについて、たっぷりお話しいただきます。このチャンスをお見逃しなく。
出 演:大竹伸朗
聞き手:成相肇(東京国立近代美術館 主任研究員、本展企画者)
■開催日時
12月17日(土)16:00-17:30(開場は15:30)
■会場
東京国立近代美術館 地下1階講堂
■定員
130名
※事前申込制
※応募者多数の場合は、抽選で参加者を決定いたします。
■参加申込み
オンラインによるお申込みとなります。参加を希望される方は、下記フォームからご登録ください。
▶申込み登録フォーム
【申込締切 12月11日(日)23:59】
申込みを締め切りました。
※応募はおひとり様1回までとなります。2回目以降は応募が無効になりますのでご了承ください。
※参加の可否については、12月12日(月)ごろに東京国立近代美術館よりメールでお知らせいたします。
※通知の際、登録メールアドレスが無効な場合やドメインをブロックされている場合など、ご登録内容に不備がある場合、参加の権利を無効とさせていただく場合がございますのでご了承ください。
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■注意事項
※参加無料(観覧券不要)。
※講演の撮影、録画、録音はお断りしております。
※会場内ではマスクの着用にご協力ください。
※内容や日時は都合により変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。
※お申込みの際にご提供いただいた個人情報は、本イベントに関する連絡以外には使用しません。
アーカイブ動画はこちら
大竹伸朗展 トークショー
熱いリクエストにお応えして、大竹伸朗展イベント第2弾が急遽決定!
世田谷美術館にて個展を開催中の藤原新也さんと、大竹さん藤原さんとも親交の深い都築響一さんをお招きしての鼎談です。密度の濃いトークをお楽しみください。
出演:
大竹伸朗(画家)
藤原新也(写真家・随筆家)
都築響一(編集者・ジャーナリスト)
■開催日時
1月14日(土)14:00-15:30(開場は13:30)
■会場
東京国立近代美術館 地下1階講堂
■定員
130名 ※抽選制
■抽選申込み
オンラインによるお申込みとなります。参加を希望される方は、下記フォームからご登録ください。
▶申込み登録フォーム
【申込締切 1月3日(火)23:59】
申込みを締め切りました。
※応募はご本人のみ1回までとなります。2回目以降および複数名様でのメールアドレスの使いまわしは応募が無効になりますのでご了承ください。
※お使いの携帯アドレスによってはメールが届かない場合があります。ご注意ください。
※お申込みは「大竹伸朗展 トークショー」抽選申込み受付(東京国立近代美術館)」のメール受信をもって完了となります。
※受信完了メールが届かない場合、迷惑メールフォルダに振り分けられていないことをご確認の上、フォームで改めてお申込みください。その際、アドレスを正しく入力いただきますようお願いいたします。
■抽選結果
※抽選結果は、1月4日(水)に東京国立近代美術館よりメールでお知らせいたします。
※通知の際、登録メールアドレスが無効な場合やドメインをブロックされている場合ほか、ご登録内容に不備がある場合、当選の権利を無効とさせていただく場合がございますのでご了承ください。
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※参加無料(観覧券不要)
※会場内ではマスクの着用にご協力ください。
※内容や日時は都合により変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。
※お申込みの際にご提供いただいた個人情報は、本イベントに関する連絡以外には使用しません。
※個別のお問い合わせには対応いたしかねます。
※イベントの動画配信はありません。
大竹伸朗展 ファイナルトークイベント
ついに大竹伸朗展イベント第3弾が決定!
2時間のトークに加えて、1時間たっぷり参加者からの質問タイムを設けます。ふるってご参加ください!
出 演:大竹伸朗
■開催日時
1月21日(土)13:00-16:00(開場は12:30)
■会場
東京国立近代美術館 地下1階講堂
■定員
150名 ※要整理券 ※事前申込不要
■参加方法
当日10:00より1階インフォメーションカウンターで整理券を配布します。(定員に達し次第、配布終了)
※整理券について:
・配布枚数はお一人につき1枚まで。参加者ご本人が直接お受け取り下さい。
・整理券に番号はありません。会場内は全席自由席です。
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※参加無料(観覧券不要)
※会場内ではマスクの着用にご協力ください。
※内容や日時は都合により変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。
アーカイブ動画はこちら
大竹伸朗展 サイン会
大竹さんのサイン会を開催します。全4回、計200名限定の貴重な機会です。
■開催日時
1月25日(水)14:00-15:00
1月25日(水)15:00-16:00
1月26日(木)14:00-15:00
1月26日(木)15:00-16:00
■会場
東京国立近代美術館 地下1階講堂
■参加方法
1階インフォメーションカウンターにて、下記のスケジュールで整理券を配布します。各回先着50名です。
14:00-15:00の回は13:30から
15:00-16:00の回は14:30から
■注意事項
・サインをするものは大竹伸朗展特設ショップ、東京国立近代美術館ミュージアムショップで販売をしている大竹グッズ1点までに限ります。事前にご購入いただき会場までお持ちください。
・転売防止のためサインには宛名を併記させていただきます。ニックネーム、メッセージ等の記載はお断りさせていただきます。
・整理券1枚につき1名のご参加になります。(複数回のご参加はご遠慮ください)
・サインペンは主催者側で用意したものに限ります。
・記念撮影や握手は禁止です。
・差し入れ等はご遠慮ください。
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※参加無料(観覧券不要)
※会場内ではマスクの着用にご協力ください。
※内容や日時は都合により変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。
カタログ

「大竹伸朗展」カタログ
価格:2,700円(税込み)
言語:日本語、英語(一部)
仕様:新聞フォーマット3冊(各16ページ)、B全シート1枚(16面)、パノラマシート3冊(各8ページ)、冊子1冊(128ページ)
内容
1 「自/他」「記憶」「時間」
2 「時間」「移行」「夢/網膜」「層」
3 「層」「音」
4 「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」
5 「自/他」「記憶」
6 「スクラップブック #01-#71、1977-2022」
7 自作本
8 テキスト+資料
8 テキスト+資料 目次
テキスト
大竹伸朗、四角い倍音|成相 肇
大竹伸朗 音とモンタージュのキャリア|バーバラ・ロンドン
大竹伸朗の「ビル景」と香港|ドリュン・チョン
臨界量(クリティカルマス)|聞き手:マッシミリアーノ・ジオーニ
音 資料
ノートルダム・ホールにおける「クルバ・カポル」パフォーマンス 1980年6月19日(木)
live ones! 1985 オックスフォード近代美術館 1985年6月7日
JUKE/19. 活動の記録
十九の春|大竹伸朗
《ダブ平&ニューシャネル》活動の記録
大竹伸朗「音」作品の系譜
大竹伸朗 略歴
参考文献
コミッション・ワーク
本カタログ掲載作品に関する作家エッセイ自選リスト
作品リスト
レビュー
大竹伸朗展:スクラップブックから《モンシェリー》まで 河本真理[日本女子大学教授]
僕は全く0の地点、何もないところから何かをつくり出すことに昔から興味がなかった。[…]何に衝動的に興味を持つのか、あえて言葉に置きかえるなら、「既にそこにあるもの」との共同作業ということに近く、その結果が自分にとっての作品らしい。
大竹伸朗1
人間は、全能の神が行うように創造することはできない。人間は、無から有を生み出すことはできず、決まった既存の事物、決まった素材から、何ものかをつくり出すことができるだけだ。人間による創造とは、既存のものからの造形にすぎない。
クルト・シュヴィッタース2
大竹伸朗は、9歳の頃に初めてコラージュ《「黒い」「紫電改」》を制作して以来、「既にそこにあるもの」との共同作業を、多様な地域・領域にわたって展開してきた稀有なアーティストである。東京国立近代美術館で開催されている大竹伸朗展は、16年ぶりの大回顧展であり、初期から最新作までおよそ500点もの膨大な作品が、視覚的にも聴覚的にも美術館の空間を埋め尽くしている。
本展は、年代順ではなく、「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」という、7つのテーマに基づいて構成されているのが特徴である。各々のテーマは相互に関連しているため、展覧会場の構成も、一方向の順路が定められているのではなく、各テーマに対応するセクションは他のセクションにも開かれている。鑑賞者は自分自身で、大竹のイメージと音の奔流を泳いでいくのだ。
また、ノイズから《音痕》という素描に至るまで、大竹作品の「音響性」(成相肇)に重きが置かれているのも本展の特徴で、視覚と聴覚の総合を体感できる貴重な機会となっている。
今回の展覧会で明確に浮かび上がってきたのが、大竹が1977年のロンドン滞在時以降たゆまず制作している「スクラップブック」が大竹の芸術活動の基盤であり、大竹は究極「本の芸術家」であるということだ。本展でも、スクラップブックが71点出品されており[図1]、他の絵本等も合わせると、これほど本が展示されている現代美術家の展覧会も珍しい。イメージの収集癖自体は、コラージュ作家に共通して見られるものだが、大竹の場合、とりわけそれがスクラップブックという形を取っており、そこには古今東西のありとあらゆるイメージがびっしりと貼り込まれている。そのアーカイヴ/「地図」3としてのイメージの集積ゆえに、大竹のスクラップブックは、アビ・ヴァールブルクの図像アトラス《ムネモシュネ》(1927–29年)やハンナ・ヘーヒの《アルバム》(1933–34年)、ゲルハルト・リヒターの《アトラス》(1962–68年)といったアーカイヴ型のコラージュ/モンタージュの系譜に位置づけることができよう。それのみならず、大竹のスクラップブックは、作り込まれたページの「層」が、厚みとたわみを生み出している。こうした点において(意外かもしれないが)、冊子本の原点ともいえる中世の写本(手で制作した書物)さえ想起させるところがあり、聖母マリアのイメージが貼り付けられたスクラップブック(スクラップブック#64)[図2]もあるのだ。
本展のハイライトの一つ、2012年のドクメンタに出品された《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》[図3]も、スクラップブックの延長線上にある。このインスタレーションは、「大きな本」4を作ろうという大竹の考えから始まった。「モンシェリー」とは、大竹が暮らす宇和島の潰れたスナックの名前であり、その看板が作品に用いられている。内外にイメージやオブジェなどが貼り付けられたスクラップ小屋の中には、巨大なスクラップブックが設置され[図4]、その背に(自動演奏を行う)エレキギターが取り付けられている。怪しげな照明が照らすスクラップ小屋は、場末のスナックであり、《ダブ平&ニューシャネル》のようなライブハウスの雰囲気も醸し出している。重要なのは、このスクラップ小屋が「自画像としての家」――いわゆる自画像とは全く異なる、「内側外側の区別もない境界線を行ったり来たり出入りを繰り返す「意識体」を眺めているような、動的、空間的、立体的な印象」5――だということだ。
《モンシェリー》は建築的なアッサンブラージュであり、その点でクルト・シュヴィッタースの《メルツバウ》と比較するのも興味深いだろう。《メルツバウ》も、シュヴィッタースが集めた廃物を含むガラス張りの相当数の「洞窟」を含み、照明が備え付けられ、シュヴィッタース自身がその中で音声詩「原ソナタ」を朗読したという。しかしながら、《メルツバウ》が《モンシェリー》と大きく異なるのは、《メルツバウ》は建物の外部には手を触れておらず、「大きな本」が核になっているわけでもないことである。このように、《モンシェリー》は、スクラップブックが建築的な次元を獲得し、大竹にとっての内と外の境界線の出入りを繰り返す「記憶空間」6となった点で特異といえよう。
本展は、こうした「自分の外側であれ内側であれ「既にそこにあるもの」との共同作業」7を信じて、60年間疾走し続けてきた大竹の世界を体験する最良の機会である。展覧会カタログも、それ自体ある種のコラージュのような作品となっているので、ぜひ手に取ってもらいたい。
註
1 大竹伸朗『既にそこにあるもの』筑摩書房、2005年、429頁。
2 Kurt Schwitters, “Merzbuch 1 — Die Kunst der Gegenwart ist die Zukunft der Kunst” [1926], in Kurt Schwitters: Das literarische Werk, Hrsg. Friedhelm Lach, Band 5 Manifeste und kritische Prosa, Köln, DuMont, 1981, S. 248.
3 大竹伸朗「地図のにおい」『見えない音、聴こえない絵』筑摩書房、2022年、273–277頁。大竹は、スクラップブックのことを「日記」というよりずっと「地図」に近いと述べている。
4 大竹伸朗「小屋と自画像1」『ビ』新潮社、2013年、47頁。
5 同書、49頁。
6 「臨界量」(聞き手:マッシミリアーノ・ジオーニ)、成相肇ほか編『大竹伸朗展』展覧会カタログ(テキスト+資料)、東京国立近代美術館、2022年、42頁。
7 大竹伸朗『既にそこにあるもの』前掲書、431頁。
(『現代の眼』637号)
シンロのロンシ 毛利悠子[アーティスト]

図1 会場風景|撮影:木奥惠三 中央手前は《時憶/フィードバック》2015年
作品の表面を見ているつもりが、いつのまにか地層を追いかけて奥のほうにある過去の素材を凝視していた、そしてまた表面に戻ってくる……そんな繰り返しをしていたら、今この時から自分の記憶までが巻き込まれて、頭がラリってきた。
展示室の先からうっすらとノイズ音が聴こえてくる。音に導かれるように進むと、中央にたたずむ《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》が現れた。演歌や歌謡曲の音、タイ(?)の音楽の音、アナウンサーの声の音、ギターをかき鳴らす音、それらが静かにループしながら会場でミックスされ、モヤっと湿度を帯びた音像をつくっている。小屋の窓を覗くと、巨大なスクラップブックの背表紙にギターが貼り付けられていて、モーターで動くピックがたまにかき鳴らす音には渋いディストーションが効かせてある。小さな画面に映るのはどこか秘境のドキュメンタリー番組か、外にあるスピーカーからチャルメラのような音質の音が聴こえる。トレーラーハウスには、ゆらゆら誘惑するランプとぐねぐねとぐろを巻いた自転車のチューブ。ドイツで拾ったものだろうか。2012年、私はドイツ・カッセルで《モンシェリー》を観た。芸術祭「ドクメンタ」最終日。トレーラーハウスはある日、髪の長い大きな男がどこかで拾い、ひとり手で引きずりながら公園にもってきた、と大竹さんは言った。男はドクメンタの名物インストーラーらしい。また、最終日だから《モンシェリー》にはいつもより余計に煙を上げておいた、とも。ボートは小屋だけでなく、高い木々のあちこちにひっくり返って突き刺さっていた――
作品を目で追いつつ、意識はいつのまにか10年前に飛び、耳には展示室の音像のループがマントラのように響く。《モンシェリー》は合計6時間のループ再生らしい。
大竹作品の魅力を伝えるのは難しい。10年ほど前、先輩アーティストとの酒の席で、なぜ私が大竹伸朗を好きなのか説明したくても、出てくる言葉が「作品の量がハンパない」「音がかっこいい」「コラージュの層が厚い」と、てんで安っぽい感想になってしまい「それじゃわからない」とケンカになった。
本展にしても同じだ。このエッセイを書くために言葉を見つけようと目で何かを摑もうとすると、突然煙に巻かれたように消え、別の像が現れる。オブジェや痕跡が幾層にもなって目移りが終わらず、円環はいつまでも閉じられない。
そう、大竹作品では円環はいつまでも閉じられることがない。
例えば、今回は横一面に展示された《ゴミ男》。床に無造作に置かれたオープンリールとパネルの間を、短いテープが回って音を流しつづける。あるいは《時憶/フィードバック》[図1]。紙きれや糸が絡み合った雲のような部分から針金でできた人型がぶら下げられ、回転するターンテーブルの上で永遠に踊らされている。おみやげコーナーで再発されたばかりの「JUKE/19」のLPでは、始まりも終わりもない音群がギターやボイスと重なっていく。私にとって大竹伸朗との出会いは高校生の時分、絵画ではなく、山塚アイとのバンド「パズルパンクス」のCDだった。夢中になり、99年に「時代の体温」展(世田谷美術館)でライブを観たのが私のほぼ初めての現代アートだったので、美術館はライブハウスのようなものだと勘違いした。タイトルが回文となっているセカンドアルバム『BUDUB【最後のBは鏡文字】』のジャケットには、赤と黄色のサイケなスパイラルが描かれている[図2]。

図2 大竹伸朗《BUDUB【最後のBは鏡文字】 Ⅰ》1996年
円環はループだが、ループは閉じられた円環だけを意味するわけではない。永遠に終わらないスパイラル運動は、閉じられることのないループだ。あるいは、作品の表面がいつのまにか地層に裏返ったり、フィードバックしたり、一つの像を追っていくと別の像が現れるフラクタル図形のような縮小や拡大も、閉じられないループだと言える。ループとは無限のことだ。つまり、一所にとどまらず運動しつづける何かのことだ。
本展の最初期作《「黒い」「紫電改」》以降、大竹の活動を時系列に並べると、さまざまなメディウムを介して何重ものスパイラルを描いてきたように見えてくる。この運動はいつまでも閉じられることなく、大竹の活動とともに――レコード盤とは真逆の回転で――広がっていく。長い人生の円周軌道の中では、それぞれ別々だった作品がたまに近づき、似た相貌を帯びることもあるだろう。今回、7つのテーマに腑分けされたことで、このスパイラル運動は幾分見えづらかったかもしれない。
だが、大竹の活動の全体を俯瞰(することなど到底できないのは承知のうえで)したとすると、また別の像が浮かんでくる。大竹の膨大な作品群はそれぞれを一つの小さな歯車のようにして、自身の無窮な小宇宙を動かしている――われわれ鑑賞者の目にはほとんど止まっているように見えるほどにゆっくりと。それは、私がとある渓流で気づいた、どう見ても一所にとどまり静止している苔むした岩が、何百年もかけて今も目に見えないほどゆっくりと転がりつづけている状態であるのと似ているかもしれない。大竹の場合、その場を《宇和島駅》と冠した瞬間から、美術館は、その作品群を歯車として永久運動を始めるのだった。
(『現代の眼』637号)
開催概要
- 会場:
- 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー、2Fギャラリー4
- 会期:
- 2022年11月1日(火)~2023年2月5日(日)
- 休館日:
- 月曜日(ただし1月2日、9日は開館)、年末年始(12月28日~1月1日)、1月10日(火)
- 開館時間:
- 10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)
*入館は閉館30分前まで
- 観覧料:
- 一般 1,500円(1,300円)
大学生 1,000円(800円)
*( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。
*高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。
*キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。
*本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)もご覧いただけます。
- チケット:
- ●予約優先チケット(日時指定制)
・大竹伸朗展オンラインチケット
・日テレゼロチケ(コンビニ発券)
・ローソンチケット(コンビニ発券)
*障害者手帳をお持ちの方は係員にお声がけください(予約不要)
●当日券販売
美術館窓口で販売いたします。
*当日券は毎日販売いたしますが、ご来館時に予定枚数が完売している場合がございます。混雑時の販売状況は大竹伸朗展公式Twitterでお知らせします。
*混雑緩和のため、予約優先チケット(日時指定制)をお勧めしております。
●無料・割引対象の方へ
・キャンパスメンバーズ、ぐるっとパス等をお持ちの方は割引対象物をお持ちのうえご来場いただき、美術館窓口で該当のチケットをご購入ください。
・無料入場対象の方は、日時指定不要で開館中お好きな時間にご入場できますが、会場の混雑状況によっては、入場までお待ちいただく場合がございます。
*土・日曜日、祝日、会期末は混雑が予想されますので、予約優先チケットの取得をお勧めいたします。
- 主催:
- 東京国立近代美術館、日本テレビ放送網
- 協賛:
- 株式会社ベネッセホールディングス、公益財団法人 福武財団
株式会社オニオン新聞社、一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパン
- 特別協力:
- TAKE NINAGAWA
- 後援:
- J-WAVE
- 美術館へのアクセス:
- 東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
詳しくはアクセスマップをご参照ください。
- 巡回:
- 愛媛県美術館 2023年5月3日(水・祝)-7月2日(日) 富山県美術館 2023年8月5日(土)-9月18日(月・祝)[仮]