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展覧会に伴って発行される展覧会カタログ。豊富な図版や解説、最新の研究成果を踏まえた論文、文献一覧、年譜、意匠を凝らしたデザインなどなど、単なる展覧会の記録にとどまらない貴重な資料です。このコーナーでは展覧会カタログの制作に関わった方々にこだわりのポイントや制作秘話を伺いながら、その魅力を掘り下げていきます。
出席者:
小関学(デザイン)
成相肇(東京国立近代美術館主任研究員)
聞き手・構成:
長名大地(東京国立近代美術館主任研究員)
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2022年12月16日(金)
東京国立近代美術館ミーティングルーム
個性的なカタログ
長名:本日はお忙しいなか、お集まりいただきありがとうございます。展覧会担当の成相さん、カタログのデザインを担当された小関さん、どうぞよろしくお願いいたします。『現代の眼』の連載企画「カタログトーク」の第2回目としまして、「大竹伸朗展」のカタログについて制作秘話や、こだわりのポイントなどをお聞きできればと思っております。
成相:よろしくお願いします。ちなみに前回は何展のカタログを取り上げたのでしたっけ?
長名:「民藝の100年」展です。
成相:正反対のカタログですね(笑)。
長名:はい(笑)。今回、とても個性的な展覧会カタログになっていますので、ぜひ詳しく聞かせてください。まず、今回の展覧会ですが、「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」という7つのテーマ設定がなされています。これは、大竹さんが決めた枠組みになるのでしょうか?
成相:この7つのテーマ設定は、大竹さんの仕事を振り返った時に浮かび上がってきたキーワードを元にしていて、大竹さんを含めた展覧会チームで話し合って決めたので、誰かが主導して決めたというわけではないんです。ただ、テーマの中には「記憶」と「時間」のように、すっぱりと分けられないものもあり、それぞれ緩やかに重なっています。この7つのテーマが決まってから、テーマに合致する作品を選定していったのですが、それも展覧会チームでこの作品はこっちかな、この作品はあっちかなと話し合って決めていきました。
長名:今回の展覧会カタログは、折本7部(新聞フォーマット、B全シート、パノラマシート)、冊子1部の計8点と蛍光色の表紙1から成るという、過去にあまり前例のない形式になっていると思います。テーマが7つなので、折本7部がそれぞれ対応しているのかなと思っていたのですが、そうではないんですよね。全体を把握しやすくするために、それぞれの印刷物とテーマとの関連をまとめた表を作ってみました。今回、このような構成のカタログになることは、当初から想定されていたのでしょうか?
小関:いいえ、最初から練りに練ってこうなったというわけではなくて、最終的にたどり着いたのがこの形だったということです。
成相:計画的にはこうはならないです(苦笑)。カタログの販売価格として3000円程度を念頭にしたコストとの兼ね合いもあり、結果的にこうなったということですね。
長名:展覧会準備をされ始めた頃、成相さんから今回の展覧会カタログは、新聞紙のような形状になりそうというお話をお聞きしていました。それがまさかこんなに盛りだくさんになるとは(笑)。
小関:僕も思っていなかったです(笑)。なぜこのようなイレギュラーな形になったのかというのは、お話の肝になると思います。僕は2019年に開催された「大竹伸朗ビル景:1978-2019」(熊本市現代美術館:2019年4 月13 日~6 月16 日、水戸芸術館現代美術ギャラリー:7月13日~10月6日)のカタログ制作にも関わったのですが、その時はB4判の大型本にしました。今回の図録も、当初は大型本にしようと思っていたんです。ですが、たとえば《東京―京都スクラップ・イメージ》(1984年、203.4×1622cm、公益財団法人福武財団)のように、横幅のある作品を載せようとすると、どうしても巻き三つ折り両観音開きで綴じることになります。それ以外にも、いくつかの主要作品を同様に取り扱うとして、それで見積りを取ってみたのですが、とても実現は難しいことが早々にわかりました。
成相:観音開きは高いんですよ(苦笑)。
小関:その段階で本の形式でやることの限界が見えてしまったんです。けれど、大竹さんが「図録への挑戦」というテキストで書かれているとおり、今回の図録制作には2つの希望が掲げられていたんです。ちょっと引用しますと、1つ目に「「紙と印刷」による図録を作る以上、デジタルツールでは決して表現し得ない形でなければ意味がない」ということ、2つ目に「今回は、これまで解消されることのなかった「大きな作品図版の再現」に重きを置いた」ということ。この2つの希望を限られた予算の中で満たすには、どうすればよいのかという課題があったんです。そこで見出したのが、パノラマ形式の新聞印刷だったんです。
成相:大竹さんは作品を大きく載せて、ディテールを見せたい。でも、本のサイズだと大きさという面での限界もありました。大竹さんの希望を叶えるために知恵を絞りあっていくなか、小関さんから出てきたのが新聞印刷というアイデア。そうじゃないとこういう形式なんて、とても浮かびませんよ。
小関:パノラマ形式であれば、作品を大きく載せられると思ったんです。
長名:さらにコスト面も抑えられると、この個性的な形式はそういう背景があったのですね。最初、このカタログを手にした時、これはライブラリアンへの挑戦というのを感じました(笑)。少し話は逸れますが、実は今回のような刊行物ですと、大変なのがライブラリの登録作業なんです。昨今、書誌単位を出版物理単位とする流れもあり、それに従うと今回は8つの書誌を作成することも考えられるんです。ただ、そうなると、資料のまとまりがわかりづらくなってしまう。そこで、できるだけ1つの単位として登録したいと。テキストの奥付に「本冊子と折本7冊のセット」という記載があったこともあり、「8. テキスト+資料:Texts」を主として、残り7部の折り本を付属として登録しています。すごくマニアックかもしれませんが、東京都現代美術館の美術図書室では、出版物理単位で8つの書誌が立てられています。
小関:作る時には図書の登録のされ方まで考えもしませんでした(笑)。
作品を見せるために
長名:カタログ制作の過程で特に重視したことはどんな点だったのでしょうか?
小関:今回に限らず、大竹さんの図録を作る上で、一貫して意識していることは、デザインを頑張らないことです。大竹さんの作品はそれ自体が素晴らしいので、変にデザイナーが要素を足さず、ある意味そっけないくらいのデザインにして、作品をそのまま見せる方がいいと、そう考えて制作にあたっています。
成相:そのために、作品の図版はすべて小関さんが切り抜いているんですよ。
長名:とんでもない数の作品が掲載されていますが……。
小関:苦労話はしたくはないんですが、新聞フォーマットは本の見開きと違って図版を角版で扱いにくいんです。そして、作品をありのままに見せるには、作品を切り抜かないといけないんですよ。さらに自然に見せるために影もつけないといけない。
長名:たっ、たしかに。目を凝らすと、すべての図版が切り抜かれていて、影がついていますね。この作業の途方もなさが伝わってきますが……。
小関:2、3点だけだったら、大変ではないんですけれど、やはり数が多いですからね。それと大竹さんの作品は輪郭の部分も重要なので。ただ、大竹さんから《モンシェリー : スクラップ小屋としての自画像》(2012 年)の巨大なスクラップブックについて、「本の中身を伝えなきゃだめだろ」って言われてしまった時、これは大変なことになってしまったと感じました。
長名:「4. モンシェリー : スクラップ小屋としての自画像」ですね。スクラップブックの全ページが載っていますが、この膨大な数の画像を切り抜いて影をつけていたとは……。
小関:お金をかければできることもありますが、時間をかけないとできないこともあるんですよね。今回の図録制作で一番準備が大変だったのは、この画像の切り抜きでした。展覧会準備に取り掛かる際、出品作品がまだ決まっていない時期でもあったのですが、絶対に展示されるだろうという作品を見越して、とにかく時間があれば切り抜きをして準備を進めていました。また、今回の展覧会は、《残景0》(2022年)などの新作を除いて、すでに他のカタログなどに載っている作品が多い。なので、今回の図録での見せ方として、過去の印刷物との違いを出すために大きく見せる必要もあり、図版には特に気を使いました。
長名:切り抜きで強敵だった作品はどれでしょうか?
小関:泣かせてくれるものばかりでしたが(苦笑)。「3. 層 Layer/Stratum, 音 Sound」に掲載されている《レディオ・ヘッド・サーファー》(1994-95年)、これは大変でしたね。
一同絶句
小関:それと双璧をなすのが、「6. スクラップブック Scrapbooks #01-#71,1977-2022」の#68《宇和島》(2014.2.14-2016.5.25)で、ここメッシュでできているんですが、この部分の切り抜きは大変でしたね。最近になればなるほど、大竹さんはこういった布を使った作品が増えていて。
一同絶句
小関:たしかに大変な作業ではあるんですが、自分が大竹さんの作品に興味があるからこそできることですよね。とはいえ作業中、何度か狂いそうになった時もありましたが(苦笑)。
長名:ご無事でよかったです。これだけの作業がなされていることは、お聞きしないと見過ごしてしまうかもしれません。
小関:やればやるほど自然に見える作業でもあるので、作品が自然に見えていれば、それが一番なんです。
印刷への挑戦
小関:「5. 自/他 Self/Other, 記憶 Memory」は大きい作品を大きく見せるために、まとめたシートでした。このシート、折り目のところに色染みが付いているんですが。
長名:これはわざとなのかと思っていました。
小関:いえいえ、実はこれは商業輪転機で印刷をする際に、どうしても上を走るローラーにインクが残ってしまって、それが紙に転写してしまうことによって生じた色染みなんです。それを避けるために図版のサイズを落とすか、濃度を落とすか、印刷所の工場長も交えて検討したんです。でも、ちょうどそのタイミングで、冒頭でもお話した大竹さんの「図録への挑戦」というテキストがあがってきまして。これを読んだら、もう逃げの方向じゃなくて、挑戦しないといけないんだなと悟ったわけです。そこで大竹さんに、色染みの写真を送って、挑戦すると、どうしてもこうしたノイズや汚れが出てしまいますが、よいでしょうかと率直にお伝えしたところ、大竹さんから構わないとお返事があったんです。
成相:通常の図録とは全然違うので、私たちも、このタイミングで印刷された状態を初めて見たんですよ。それまで自分たちで印刷して繋ぎ合わせもしていましたが、最終的にこうなるというサイズ感は実際に印刷物として出てくるまでわからなかった。
小関:途中経過で打ち出そうとしたら、A3で128枚くらいを貼り合わさなければいけなかったので。
長名:とんでもない枚数ですね(笑)。
成相:印刷を請け負ってくださった光村印刷さんの頑張りは強調しておかないといけません。
小関:新聞から冊子まで全部同じ光村印刷さんに頼めたことも大きかったですね。大竹さんへの理解もありますし、色々と先回りして考えてくださって、信頼度が高いので大変助かりました。
長名:至る所に挑戦の跡があるのですね。
小関:何より、大竹さんのファンは印刷物に対しての期待が高いので、そういう方たちの満足度をどう満たせるか、どうやったら驚かせられるだろうかと。B全シートにスクラップブック#71の原寸をやってみようかとか、でもそうなると他のスクラップブックの扱いはどうしたものかとか、色々試行錯誤しましたね。
新聞フォーマットについて
長名:新聞フォーマットの「1. 自/他 Self/Other, 記憶 Memory, 時間 Time」、「2. 時間 Time, 移行 Transposition, 夢/網膜 Dream/Retina, 層 Layer/Stratum」、「3. 層 Layer/Stratum, 音 Sound」は、展覧会の7つのテーマをまとめたものになっていますね。
小関:7つのテーマが決まって、リストが固まった段階で、図録の中でどう並べるか、どう前後をつけていくかというのを決めていかないといけない状況になるわけですが、実際、展示室の展示構成も最後の最後に決まったこともあり、作品の並び順は流動的だったんです。そこで図録と展示の並び順は、完全にリンクしなくていいということになって、とりあえず、ラフレイアウトを作っていったんです。作業としては、「6. スクラップブック Scrapbooks #01-#71,1977-2022」のように、まとまりのあるものから作っていって、最後に新聞フォーマットを整理していくという順番でした。
長名:なるほど、1~3の新聞フォーマットは最後に作られたということなんですね。
小関:はい。ただ、「音」というテーマは、直前になってリストががらっと変わることもあって。こちらも胃が痛い思いがしていました(苦笑)。「音」をどうするかが整理できないまま、たとえばパフォーマンスの写真をカラーで組んでみたりもしたのですが、それよりも、もっと展示作品を大きく載せるべきではないかなど。試行錯誤して叩き台を作って、直接大竹さんとやりとりして整えていきました。
成相:展示作品の絞り込みは本当に大変でした。選定作業は行ったり来たり。絞ったのに増えたり、なかなか最終的な形が決まらなかった。
長名:そういう状況の中で、カタログをまとめていかないといけなかったのですね。1~3には、大竹さんの書かれた言葉が和英で載っていますね。
小関:これは『新潮』編集長の矢野優さんがテーマに即した文章を選択してくださって、大竹さんの了解を得て載せているんです。テーマが軸になっているので、それに従って配置するのですが、言及されている作品が別のテーマに置かれていることもあって、どこに置くべきか、作品の近くの方がいいのではないかとか、そういう整理にすごく頭を使いました。
長名:流動的な状況もある中での作業だったのですね。「2. 時間 Time, 移行 Transposition, 夢/網膜 Dream/Retina, 層 Layer/Stratum」は「時間」に関する引用の英訳から始まっていますが。
小関:本当はセクションの切れ目で整えていけたらよかったんですが。新聞フォーマットというのは、いくらでもページ数を増やせるんです。が、16ページを超えてしまうと、丁合の都合で手折になってしまうんです。そうなるとコストが上がってしまう。なので、このスタンダードなページ数を基準にせざるを得なかったんです。
長名:ということは新聞フォーマットの3部は繋がっていると考えてもいいのですね。
小関:似たような大竹さんの新聞フォーマットというお話でいうと、過去に作ったタブロイドのケースが少しあります。たとえば、「宇和島 / 森山大道×大竹伸朗×谷岡ヤスジ」『Coyote 創刊準備号』(2004年7月)がありますね。
成相:大竹さんが谷岡さんの漫画に色を付けているんですよね。
小関:谷岡さんも宇和島出身なんですよね。あと、ベイスギャラリーの「ON PAPER 大竹伸朗展」(2005年6月6日~8月8日)の印刷物も同種のものになるかと思います。
「これは小関の集大成だから」
成相:ここまでの話でもわかると思いますが、この仕事は、小関さんにしかできなかった。ちなみに、小関さん、大竹さんとのお付き合いはいつからですか?
小関:90年代半ばの雑誌『アイデア』で特集を組んだ時でしょうかね。その頃は、宇和島に初めて行って、もうここには来ないんだろうなって思っていたんですけれど。その後、ちょうど会社をやめた後に、大竹さんの「大竹伸朗 全景 1955-2006」展(2006年10月14日〜12月24日、東京都現代美術館)が決まって、そのお手伝いに声をかけてくださったんですね。その時、僕とカメラマン、大竹さんの3人で宇和島のアトリエで作品の整理・調査・撮影というのをやっていました。それが最終的に「全景」展のカタログという、ボリュームになってしまった。登った山がこんな山だったなんて、最初から知っていたらちょっと考えてしまっていたかもしれませんが(笑)。
長名:この大仕事にも携わっていらしたんですね。これほど大部のものになるとは、誰も想像できなかったと思います。このカタログの分厚さもまた、過去に例のない規模のものですよね。
小関:当時はポジで撮っていたので、用意したポジがなくなるまで撮影をして、東京に戻って整理して、また宇和島に行ってポジがなくなるまで撮ってというのを繰り返していました。そのおかげで、どのような作品があるのかをだいたい知っていたんですよね。大竹さんはアシスタントもなしに、ご自身で作品管理されていたんです。なので、作品の貸出依頼が入ると、その作品を探すところから始まるんですが、それがとても大変で。「全景」展後から画廊が入ってくださったので、今は大分楽になりましたが、それでも初期の作品は別でして。出品するとなるとその作品を探して、図版のためにポジも探してという作業が発生していくんです。つまり、大竹さんとお仕事するということは、7割8割がこうした準備に費やされるってことなんですよね。
長名:その上で、作品画像の切り抜きと影をつけられているんですもんね。
小関:デザイナーというと、クリエイティブなことに重点を置くべきで、そういった作業は外注するものという考え方をする方もいらっしゃると思いますが、大竹さんとお仕事する場合はそこからやらないといけないんですよ。普通、デザイナーが関わる場合、タイトル用のフォントなども考えるわけですが、そういう意味では全部大竹さんがタイトル文字を描いて用意してくださるので、そこがないというのは、また普通のデザイナーの仕事と違う部分かもしれません。
長名:大竹さんとお仕事をするということの意味がよくわかりました。
小関:「全景」展の時ですが、『アイデア』で特集を組んだんですが、そこでもいろんな折り込みとか、ポストカードのようなものを入れてみるとか、さまざまな仕掛けをしたんです。ここまでやらないと大竹さんは納得されないんです。
長名:これはすごいですね。特集雑誌の限界を超えていますね。
小関:紙物でできることを徹底的にやらないと、大竹さんだけでなく、ファンの方も納得されないんですよ。ただ、時代を振り返ると、ちょっと前まで使っていた印刷用紙が廃番になっていたり、こうした凝った製本ができる会社も減ってしまっていたりで、印刷を取り巻く環境も大分変わってきてしまいましたね。5年前であれば、今回のカタログも本という形式にできたかもしれません。
成相:大竹さんが仰っていましたけれど、今回のカタログについて、「これは小関の集大成だから」と。本当にそのとおりです。
「8. テキスト+資料:Texts」について
長名:「8. テキスト+資料:Texts」についてお聞かせください。
小関:僕も大竹さんも本を読みますし、文章やデータ類は読みやすく、使い勝手のいいものにしようという話をしていました。
成相:あと、テキスト類はコピーしやすい形状でと(笑)。
小関:なので「8. テキスト+資料:Texts」は、新聞フォーマットとは分けて、冊子にまとめようというのは早い段階で決まっていました。
長名:なるほど、ちなみにその他の折本が7部になるのは決まったのはいつ頃ですか?
成相:冊子と新聞フォーマットでいくというのは決まっていたものの、最終的な冊子のページ数や、新聞フォーマットの点数が固まったのは本当にギリギリのタイミングでしたね。
小関:図録の販売価格が3000円以内というラインがあったので、想定部数から逆算される範囲でギリギリの点数にして、これ以上増やすのは無理というところまで詰めて。
長名:この内容で2700円ですもんね。
成相:大竹さんとしても、これは安いと仰っていました。
小関:ただ、こういう挑戦をし続けていると、あと何ができるかという大竹イズムが出てきてしまうんですよね。冊子体の表紙と裏表紙は銀地になっているんですが、これは成相さんにも言わずにいたことだったんです。
成相:そうなんですよ!PDFで見た時はただのモノクロだった。
小関:この冊子は表紙も本文も同じ、共紙なんです。なので、色ベタを刷って表紙感を出そうと試行錯誤して、銀ベタでいこうと。
成相:出てきてびっくりしましたよ。
長名:122–123ページの《宇和島駅》(1997年)も設置してから撮影してとなると、ギリギリのタイミングだったのではないでしょうか?
成相:そうです。それ以上に驚きなのが、124ページの《宇和島駅》の設営の絵です。これも最後に入ってきましたから。
小関:写真が載っていればいいと思っていたんですが、大竹さんから《宇和島駅》が設置された状況を残しておかないといけないんじゃないかと言われてしまって。
成相:小関さんから《宇和島駅》の隙間何センチですか?と聞かれた時には、その情報必要?って思いましたよ。
小関:124ページの図面はそういう経緯で描いたんです。
長名:色々と今回のために加わっている情報があるのですね。
小関:あと、84ページには《モンシェリー》の前に立つ大竹さんのポートレートが入っているんですが。
成相:これも出てきてびっくりしました。
小関:冊子が校了した後で、何も入らないページになることがわかって、そこで振り返ってみると、冊子の中に大竹さんのポートレートがないことに気が付いて、急遽入れることにしたんです。
長名:本当に最後の最後まで挑戦続きのカタログだったのですね。
おまけ?
長名:最後に、こちらの「蛍光紙に活版で印刷したカバーシート」で作られている表紙ですが、これも凝っていますよね。
成相:それ、おまけっぽいんですけど、実は冊子と新聞フォーマットよりもコストがかかっているんです。
長名:えっ(笑)。
小関:この紙、実はめちゃくちゃ高いんです。お店に行くと、A4サイズ1枚で200~300円ほどかかるんです。すでに紙自体の在庫が少なくなってしまっていて、この色と黄色くらいしか残っていないんです。ここに活版印刷、裏面も特色印刷なので、相当コストがかかっているんです。
長名:初めてこのカタログのセットを見た時、印象的な厚紙と思っていましたが、まさか一番コストがかかっていたとは……。
小関:あと、結果的に新聞フォーマットという選択も、開いて畳むうちに生じる使用感やダメージは大竹さんの表現と重なるものと思っています。
成相:開けば開くほど傷むわけですが、それを劣化と捉えない。つまり、育てるカタログでもあるんです。
小関:東京国立近代美術館という威厳ある場所でやるのに、あえてこういうテイストのものをぶつけるという意図もありました(笑)。こういう挑戦をすることで、新しい世代の方々に響くところがあるのではと。今回は大竹さんのお仕事の集大成ということもあり、僕としても大竹さんが思いつくことは反映したいという思いでした。これに尽きると思っています。
長名:さまざまな挑戦が随所に見られるカタログでした。ぜひ多くの方々に手に取っていただきたいですね。小関さん、成相さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
註
- 蛍光紙の表紙には、東京国立近代美術館の名が入った限定版のネオングリーンと、普及版のネオンイエローの2種類がある。
『現代の眼』637号
カタログ
「大竹伸朗展」カタログ
価格:2,700円(税込み)
言語:日本語、英語(一部)
仕様:新聞フォーマット3冊(各16ページ)、B全シート1枚(16面)、パノラマシート3冊(各8ページ)、冊子1冊(128ページ)
内容
1 「自/他」「記憶」「時間」
2 「時間」「移行」「夢/網膜」「層」
3 「層」「音」
4 「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」
5 「自/他」「記憶」
6 「スクラップブック #01-#71、1977-2022」
7 自作本
8 テキスト+資料
8 テキスト+資料 目次
テキスト
大竹伸朗、四角い倍音|成相 肇
大竹伸朗 音とモンタージュのキャリア|バーバラ・ロンドン
大竹伸朗の「ビル景」と香港|ドリュン・チョン
臨界量(クリティカルマス)|聞き手:マッシミリアーノ・ジオーニ
音 資料
ノートルダム・ホールにおける「クルバ・カポル」パフォーマンス 1980年6月19日(木)
live ones! 1985 オックスフォード近代美術館 1985年6月7日
JUKE/19. 活動の記録
十九の春|大竹伸朗
《ダブ平&ニューシャネル》活動の記録
大竹伸朗「音」作品の系譜
大竹伸朗 略歴
参考文献
コミッション・ワーク
本カタログ掲載作品に関する作家エッセイ自選リスト
作品リスト
公開日: