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現代の眼 オンライン版 展覧会レビュー 「たんけん! こども工芸館 ジャングル⇔パラダイス」金沢移転後初の「こども工芸館」に寄せて 

冨田康子 (横須賀美術館学芸員)

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国立工芸館の所蔵品展「たんけん! こども工芸館 ジャングル⇔パラダイス」は、金沢移転後としては初、そして「東京国立近代美術館工芸館」の時代から数えれば20回目となる、工芸館恒例の夏の子ども向け企画である。

展示は、「ジャングルナイト」「アニマルハマル」「満開!」の3つの章と、ラウンジおよび「芽の部屋」に展開された二つのインスタレーションによって構成されている。「ジャングルナイト」は夜を、「アニマルハマル」は動物を、「満開!」は植物や虫をイメージさせる作品が、所蔵作品を中心に200点ほど集められている。

一般に、動物や植物は、子ども向け展示の定番ともいえるテーマで、同館のこれまでの子ども向け企画でも、動物(04、05年)や植物(12年)をテーマとした展示が行われてきた。もとより、工芸という領域において、動植物は重要な意匠モティーフであり、それらに関わる作品を集めた展示は、工芸の名品展として、ある意味、王道を行くものともいえる。

とはいえ、本展企画者の意図が、単なる動植物モティーフの紹介を超えたところにあるのは、「ジャングル⇔パラダイス」というタイトルからも明らか。自然性そのものの象徴として「ジャングル」という語を置き、その対極に、人間の理想郷としての「パラダイス」を置いて、その両者を行き来する「⇔」の中に、工芸という営みを位置づけてみようというのが、おそらくは、タイトルに込められた企画者の意図ではないかと推測する。

展示の導入部分となる「ジャングルナイト」の章は、文字どおり、闇あるいは夜を思わせる作品から成る。「闇」のイメージを通して、未知なるものとしての自然を感じ取ってもらおうという企てであろう。入ってすぐの展示空間では、中島直美《Nature’s Talk 2005–grenouille–》の発するカエルの声が途切れることなく響き、妖しい気配に満ちている。さらに、最初に目に入る古伏脇司、三浦景生、越智健三らの陰りを含んだ作品が、その先の未知の世界を予告するかのようである。この雰囲気は、展示室の手前に置かれた橋本真之の作品、および展示の中間地点に設けられた斎城(さいき)卓、谷口嘉(よしみ)による「芽の部屋」のインスタレーションにも共通する。それが繰り返し提示されているのは、本展が、そのタイトルに「たんけん!」の語を含むことからも察せられるように、知られざる世界への誘いを重要なテーマとしていることと無縁ではないだろう。

続く「アニマルハマル」と「満開!」の章は、トラならトラ、鳥なら鳥で、共通するモティーフの作品どうしを並べて見せていくスタイル。といっても、単純なモティーフ分けではない。魚の横に水を意匠化した作品が並ぶなど、イメージが次々と展開していくような構成を通じて、工芸が総体としてもっている造形的な多様性が、存分に伝わる展示となっている。同時に、それらの意匠がもつ洗練性は「荒ぶる自然」としての素材感を対比的に浮かび上がらせる。ここでも鑑賞者は、「ジャングル⇔パラダイス」の「⇔」の部分をおのずから体験することになるだろう。

では、このような工芸鑑賞の機会が、子ども、とりわけ、ここで主要な対象として想定されている4、5歳から小学校低学年くらいまでの子どもに対して、積極的に開かれていることの意義は、何だろうか。

一つ挙げておきたいのは、まず、子どもたちが、工芸の鑑賞者として、きわめて高いポテンシャルをもっているのではないか、ということ。これは、本展の企画者である工芸館主任研究員・今井陽子氏が、「みんなでつくる工芸図鑑」を例に引きながら述べておられることとも通じるものである[註]。触覚と視覚の連動にすぐれ、かつ植物や動物といった意匠との親和性が高く、さらには、一つのモティーフから次々と連想を展開していく面白さをよくよく知っているという意味で、工芸作品に対する子どもたちの感度の良さに驚かされることは少なくない。本展も、もし感染症の影響がなければ、きっと多くの子どもたちが、モティーフの親しみやすさに誘われて、そのすぐれた鑑賞力を発揮していたことだろう。

「鑑賞」とは、美的感性を高める機会であると同時に、いや、それ以上に、さまざまな知覚を連動させた探求と思索の場であり、他者との共感を育む場でもある。ここで仮に、これまでの「こども工芸館」での実例が示すとおり、工芸に対する子どもたちの感受性が、実は、一般に思われているよりも、はるかに鋭いものであるとしよう。仮にそうであるならば、工芸鑑賞は、子どもたちが「鑑賞」という名の有益な学びを実践するにあたっての、きわめて良質な端緒となりうるはずだ、と言っては言い過ぎだろうか。

(『現代の眼』636号)


教育普及レポート 今井陽子「たんけん! こども工芸観」

図1 会場風景(展示室1「ジャングルナイト」)
図2 会場風景(展示室2「アニマルハマル」)

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