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現代の眼 オンライン版 新しいコレクション 和田的《白器 ダイ/台》

田中真希代 (工芸課研究補佐員)

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和田的(1978–)
《白器 ダイ/台》
2018年
磁器、カービング
高さ28.0、幅33.8、奥行33.8㎝
令和3年度購入
撮影:ニューカラー写真印刷

本作は、磁器における新しい姿を探求する作者の代表的な「白器」シリーズの一つです。作品名の白器は無釉を指し、ダイは英語のdie(死)を、台は台形を意味しています。どっしりとした重厚感ある白い器体。丸い口縁部に対し側面は台形、底面の向き合う二辺は直線、残りの二辺は緩くカーブを描いています。直線と曲線が絶妙なバランスで調和を生み出し、静かな造形の中に深い意味と強い意志が込められています。

作者の和田あきらは1978年千葉県に生まれ、「一生を通じてできるもの(仕事)」を模索する中で、陶芸家・上瀧勝治の白い大壺に出合います。そして、美しい白と器のもつ圧倒的な存在感に衝撃を受け、磁器の世界へ進むことを決意します。2001年に文化学院陶磁器科を卒業後は同氏に師事し、2005年に独立。同年、自身の窯で作った作品で日本工芸会正会員となりました。2007年には文化庁新進芸術家海外研修員として渡欧し、以降、日本陶芸展や東日本伝統工芸展などで数々の受賞を重ねています。新しい表現、技法に常に挑戦し続け、磁器のもつさらなる可能性の幅を広げています。

本作は、「白器」シリーズの中でも特に大きなもの。若くて力のある時にしかできないと取り組んだ作品です。九州で採れる天草陶石を主原料にした磁土を、筒状に轆轤でひいて成形し3~6カ月乾燥させた後に、カンナや彫刻刀で丹念に削り出します。口縁部・内側は丸形、側面は台形で安定感があります。削り出された面と面が合わさり、クロスした線が光によって浮かび上がっています。この削りにより生み出された陰影が作風の特徴であり、交差する線の歪みのない美しさが目を引きます。また、表面に釉薬を施さないことで、その優美なフォルムが際立ち、素材の魅力をより引き出しています。作者は釉薬のないものを「白器」、あるものを「白磁」と呼んでいます。

大地に根ざす姿と白一色により「生と死」、さらに「光と影」「明と暗」を表現しています。作品と深く向き合い、対極にあるものをギリギリまで融合させようとした世界といえるでしょう。数多くの試案の中から導き出す緻密な構想力と高い技巧がうかがえます。

当館には《白器 表裏》や本作と同タイトルで蓋を伴った水指なども収蔵されています。異なる素材とのコラボレーションや作品と空間全体を使って物語を表現するなど、枠にとらわれない作家の活動からは、常に探求し続ける真摯な姿勢がにじみ出ています。静かなたたずまいの中に凛とした一つの到達点を示し、新たな伝統の始まりを感じさせる作品です。

(『現代の眼』637号)

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