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現代の眼 教育普及 コロナ禍の教育普及活動(3)――ICTを活用したスクールプログラムの多様化と定着

浜岡聖 (企画課研究補佐員)

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図1 「鑑賞素材BOX」を用いたZoomでの対話鑑賞のイメージ

当館では2020 年12月より、オンラインでのスクールプログラムを実施している1。展示室での活動が休止される中、児童生徒と美術館職員とをウェブ会議ツールZoomでつなぐ授業を複数の学校と試みた。

2021年度は、ガイドスタッフ(解説ボランティア)の活動とも連動させながら、更に多様なニーズに対して展開した。本稿では2つの実践例を振り返る。

高校生への対話鑑賞+教員研修

以前より連携してきた東京都高等学校美術、工芸教育研究会とは、初めてオンラインで教員研修を開催した。森田真理子主任教諭らの運営チームとの打ち合わせでは、オンラインで可能な研修内容と役割分担を入念に検討した。

8月26日当日、午前中は高校生22名を対象に、ガイドスタッフの進行で「鑑賞素材BOX」2 を用いた対話鑑賞を実施した[図1]。Zoomのブレイクアウトルーム機能を使って4グループを同時進行し、教員はその様子を見学した。

午後は教員31名を対象に、運営チームの進行による午前中の振り返り、美術館からのレクチャーに続き、「鑑賞素材BOX」を使った授業実践・教科連携についてグループと全体でのディスカッションが行われた。国語・体育科等、美術科以外の教員も多く参加したことで活発に意見が交わされた。

終了後、アンケートに応じた生徒の半数から「視野が広がる」「考えが深まる」との回答があった。教員からは「アートから現代社会の課題を考える」社会科の授業等、アイデアが複数出され、「教科指導だけでなくあらゆる教育活動に、今日見たような対話を取り入れていきたい」との意欲的な声が上がった。

以上のように、場所を問わず様々な教員が参加できたこと、Zoomの機能を駆使して対面実施に代わる活動が行えたことで、充実した研修となった。

図画工作科での連携授業

11月9日~ 10日にかけて、足立区立西新井小学校6年生3クラス全88名を対象とした対話鑑賞を、三浦麻記主任教諭の指導のもとクラスごとに実施した。事前には教員との打ち合わせのほか、児童も参加する接続テストも行った。

当日、児童は1人1台ヘッドセット付の端末で同じ教室から接続し、4グループに分かれてガイドスタッフを進行役とする対話鑑賞に参加した。3年生の頃より国立美術館アートカード3 を使った学習に取り組んでいたことから、今回はそれ以外で展示中の2作品を取り上げた。ワシリー・カンディンスキー《全体》[図2]を鑑賞した際、児童は人によって注目箇所や連想するものが違うことを実感した様子だった。色や形の集合が、個性にあふれた自分たちのクラスのようだという声もあり、ガイドスタッフに促されながら作品を隅々まで観察して思いを伝え合っていた。

図2 ワシリー・カンディンスキー《全体》1940年、油彩・キャンバス、81.0 ×116.0cm、東京国立近代美術館蔵

教室内では、接続トラブルに備えて担当教員がサポートして回り、必要に応じて控えの端末に切り替える等の対応が取られた。児童全員が普段の教室にいながら同じ作品を集中して鑑賞でき、ICT教育としても発展的な取り組みとなったといえる。

これらの実践の背後には、当館の一般向けプログラム「オンライン対話鑑賞」4 の継続がある。美術館職員のICT経験の蓄積とガイドスタッフのファシリテーション技術の維持により、学校側の希望や子どもの実態を踏まえたガイドが可能となってきた。スクールプログラムの一形態として、オンラインが徐々に定着し始めたようだ。

今後は、より安定した接続環境での実施を課題としつつ、来館しづらい層への対応や、来館とオンラインの併用等によってプログラムの柔軟性を高めていけるだろう。チャット等の機能を最大限生かしたプログラム立案の可能性にも期待できる。

いつか子どもたちが美術館でリアルな体験を楽しんでくれることを願いつつ、その充実につながるオンラインプログラムをこれからも考えていきたい。

  1. 一條彰子「コロナ禍の教育普及活動(2)─ ICTを活用したスクールプログラムの新展開」『現代の眼』635号、2021年、46-47 頁。
  2. 小学校から高等学校までの授業での活用を想定したデジタル鑑賞教材。https://box.artmuseums.go.jp/
  3. 国立美術館の所蔵作品65点をカードにした鑑賞教材。
  4. 展示室で行う「所蔵品ガイド」の代わりに、2020年10月より美術館の一般利用者を対象に開始したオンラインプログラム。週1~ 2 回、不定期で実施。

 『現代の眼』636号

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